前世がYAMA育ちな菜月昴の異世界生活   作:雨天

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第八話 魂と器の差異

 

 

 

「とぉりあえず、エミリア様はいつも通りのスケジュールでお願いします。ラムには彼、スバルに屋敷の案内を。レムは普段通りに……と、その前に」

 

 全員が朝食を終えたのを見計らい、ロズワールがキビキビと指示を出す。その姿は屋敷の主の貫禄に満ちていた。

 そしてロズワールはにんまり笑う。

 

「そぉの前に自己紹介しなきゃだぁね。幸運にも、屋敷の居住者は全員がこの場にいる訳だから」

「それは助かる……ってかこの屋敷の広さで住んでるのこれだけなのか。勿体ねえ」

 

 屋敷の広さに対して居住者の数が見合ってない。

 お貴族様だからもっと使用人を雇った方が良いと思うのだが、足りてると言われてしまえば口を挟むことは出来ない。

 

「俺を除くと四人と一モフとドリル一体しかいねぇぞ」

「……何度か耳にしたけど、そのドリルって何なのかしら?」

「ドリルは男の魂、浪漫だよ」

「聞いたベティーが馬鹿だったのよ。ロズワール、ベティーは戻って良いかしら?にーちゃとゆっくりしたいのよ」

「相性があんまぁり良くないのはわぁかるんだけどね。これから仲良く一緒にやっていこうって関係なんだから、もう少し歩み寄ってよ、お願い」

「ベティーに出来る譲歩はし尽くしたつもりなのよ。それ以上を求めるなら、メイザース家の当主といえど覚悟することかしら」

 

 ベアトリスが不機嫌そうに語気を静かにする。

 俺は悪くなった空気を敢えて読まずに割って入る。

 

「凄んでるとこ悪ぃんだけど、そもそもベア子って何なの?どういう立ち位置か今一分かんねえんだけど」

「先ずベティーの呼び方を改めるかしら」

「口が勝手に呼び易い渾名を付けちまうんだ。だから諦めてくれ」

 

 俺は親指を立ててサムズアップする。

 ベア子は疲れたように眉間を揉む。

 パックが徐に口を開いた。

 

「ベティーはロズワールのお屋敷にある禁書庫の司書さんだよー」

「にーちゃっ!?」

 

 パックは呑気にラスクを貪っており、食い過ぎだとエミリアたんに注意される。

 俺はパックをモフりながら質問する。

 

「そこんとこもっと詳しく聞きてえな」

「ロズワールはそれなりの魔術師だからね。メイザース家は歴史もあるし、色々と人目に触れるのが好ましくない本とかも置いてあるんだよ。ベティーはそういう本が人目に触れないように、契約によって禁書庫の番をしているってこと。そーだよね」

「うん。そうなのよ。にーちゃの言うことはいつだって正しいかしら」

「パックを介せばコミュニケーションが成立するモフな。やっぱりモフっ子の前に全ての人は平等ってことモフね」

「語尾がモフってるわよ」

「おっと。気を付けねえとモフモフの魔力に惑わされてしまう。恐ろしやモフっ子」

 

 俺は慌ててパックから離れる。

 モフモフの魅了は理性を溶かす。過剰摂取に注意である。

 

「禁書庫っつーのは俺が入ったあの部屋で合ってんだよな」

「その通りなのよ。心底腹立たしいことだけど」

 

 肉体の記憶を探って禁書庫の景色を思い起こす。

 あの蔵書全てが禁書だと仮定すると恐ろしい程の秘密を抱えた屋敷ということになる。

 禁書、という単語に若干ワクワクする。男の子は皆好きだよね。

 エロ本を禁書と言い張って剣道部の部室に保管していたのは記憶に新しい。

 まあ、部室の禁書庫は燃えてなくなったが。

 

「ちょっと待って、スバル。今さっき、禁書庫に入ったって言わなかった?」

「入ったよ。ループする廊下のゴールがそこだったからな。ま、ベア子にマナ徴収されてすぐに気絶したから、ぼんやりとした記憶しかないけど」

「ベアトリス……まさかスバルを書庫に招き入れたの?」

「それこそまさか、なのよ。ベティーがこんな卑しい奴を態々呼び込む理由がないかしら。勝手に扉渡りの正解を引きやがったのよ」

 

 ベア子の言葉にロズワールが「へぇ」と面白そうな顔をする。

 

「私でも手当たり次第でなぁかなか辿り着けない禁書庫に、ベアトリスの許可なく繋がるなんて……相性が良いんだろね、君ら」

「はーぁ!?」

 

 ベア子が思いっ切り顔を顰める。

 相性が良い判定はお気に召さないらしい。

 

「可愛い可愛いベティーとこれが?笑えない冗談なのよ」

「俺は子供の面倒見るのは得意だからな。ロリっ子と相性良いって言葉には頷かざるを得ない」

「ベティーは四百年以上も生きてるのよ!外見で判断するのはやめるかしら!」

「成程、合法ロリか。最近のニーズに合わせて来たな」

 

 ベア子は俺の言葉に憤慨して席を立ち、つかつかと食堂の扉へ向かい、乱暴にそれを押し開ける。

 その先には廊下ではなく禁書庫が広がっていた。

 ベア子は勝ち誇るような顔で俺の方に向き直った。

 

「これが扉渡りなのよ。その高尚さを目に焼き付けて、精々震えるが良いかしら。暫く、お前の顔なんて見たくもないのよ」

 

 扉が閉められ、その向こうにベア子が消える。

 ラムが言われてもないのに再び食堂の扉を開く。

 するとその先には先程通って来た廊下があった。

 

「ほへぇー。屋敷の何処かの扉に繋がるって訳か。それはベア子次第で変更可能。引きこもり御用達だな」

「理解がはぁやいね。その引きこもりってのが良く分からないけど」

「飯とか風呂とか必要な時以外、部屋に篭って出て来ない寄生虫のことだ」

「なぁるほど。うん、じゃベアトリスは引きこもりだねぇ」

「聞こえてるのよ、お前ら」

 

 ラムが閉じた扉が少し開かれ、そこから顔だけを覗かせたベア子がこっちを見ている。

 俺の肉体が勝手に煽り文句を紡ごうとしたので慌ててお口チャック。

 これ以上不興を買うと何されるか分かったもんじゃない。

 

 俺が押し黙るとベア子は不満そうな顔で扉を閉めた。

 危ない危ない。俺の器は勝手に口を動かすから困ったものだ。

 普段は支障ないから身を任せているが、偶に暴走するのでちゃんと手綱を握らなければならないのだ。

 多分、魂の記憶と肉体の記憶に差異がある為に生まれたエラーだと思われる。

 寿命を全うした時に新たに転生する可能性を考慮すると、今の内に肉体の制御を完璧にしておかなければならない。

 

 俺が一人で考え込んでいるとロズワールが口を開いた。

 

「さて、改めて仕事の話をしようか。現状は屋敷についての知識も経験もないから、ラムとレムの二人の指示で屋敷周りの仕事を手伝って貰うのがベストだろうねぇ。傭兵としての仕事の方は外敵から屋敷と居住者を守ること、近くのアーラム村を守ることくらいかなぁ」

「おし!やる気出て来た!雑用も任せてくれ。家事スキルは一通り取得済みなんだ。料理も洗濯も掃除も裁縫も何でもござれだ」

 

 お母さんの手伝いで家事を覚えた俺に隙はない。

 料理は人並み以上に出来るし、掃除も完璧だ。

 

「頼もしい限りだぁね。さぁ、水の刻も半分が過ぎてしまう。時間は有限だよ、テキパキといこうじゃぁないか。ラムとレムはさっき言った通りに。エミリア様は私の部屋に一度でも寄って下さい。それじゃ、解散」

 

 ロズワールの言葉を最後に朝食後の団欒は終わりを告げる。

 レムが食卓に並ぶ食器類を手早く片付け始め、エミリアが今後のスケジュールを思ってか物憂げに吐息。ロズワールは俺の方に近寄って来た。

 

「それじゃぁ、君の仕事ぶりに期待させて貰うよ。勿論、雇ったからにはお給金も出すし、そこの心配はしなぁいようにね」

「雇用内容に関しては後で詳細に詰めるとして、取り敢えず便宜図って貰ってありがとう。旦那様とか呼んだ方が良いのか?」

「あはぁ、客人の前でなければロズっちで構わないよ。案外、人にそうした渾名で呼ばれることに新鮮味があってねぇ」

 

 ロズワールは黄色の方の目をウィンクさせて軽く手を振ると食堂を退室した。

 ラムが俺の方へ歩いて来た。

 

「それじゃ、バルス」

「俺の名前が目潰しの呪文になってる……分かってるよ。屋敷の案内だろ?頼むぜ、姉様」

「ラムはバルスの姉じゃないわ。早急に訂正なさい」

「んじゃ、先輩」

「宜しい。屋敷を案内するから、はぐれないでついて来て」

 

 俺はラムに言われた通りに後をついて行く。

 姉様呼びを封じられたことに肉体が不満の声を上げるが黙殺する。

 

 そうして俺は屋敷の傭兵兼雑用として仕事を始めるのだった。

 

 

 





・オリ主
偶に肉体が暴走する。
肉体よりも魂の方が上位の権限を持つ為、肉体の操作は魂が行う。しかし、肉体がそれまで刻まれた記憶を頼りに勝手に動くこともある。
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