呪術廻戦⇔   作:たゆたう 累

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レスポール-伍-

 優太が合流したことで、一行は行動を開始することにした。

 

「ひとまず()は下ろすッス。でも、絶対無茶だけはしたらダメッス」

 

 掌印を顔の前で作りながら、新田が念押しをする。

 

「分かってます。まずは今確認できてる三級以下を祓ってきます」

 

 恵の言葉を聞いて頷いた新田は、思考を切り替えて詠唱を始めた。

 

「──闇より出でて闇より黒く、その穢れを(みそ)(はら)え」

 

 巨大な半球の黒が頂点から展開されていく。伊地知と比較して展開速度が遅く見えるが、伊地知が卓越しているだけで、結界術を扱えるだけでも十分優秀である。

 

 展開途中の()に無遠慮に悠仁が歩いて入っていく姿を見て、流石に優太も含めて三人ともため息をついた。

 

「悠仁、少しは待とう?」

 

「え、なんで?」

 

「結界術は色々定義して空間を支配する術だ。今のお前は不純物なんだよ」

 

「言い方酷くない!?」

 

「大丈夫ッスよ~、そこまで配慮してくれる術師の方が珍しいッス」

 

「ほら!新田さん大丈夫って言ってる!」

 

「だからあんたはモテないのよ」

 

「酷くない!?合ってるけど!!」

 

 話している内に()が完成した。今度こそ、四人は足並みを揃えて()の中に入る。夜間にしては見通しが効く辺り、これがただの隠密結界ではないことを痛感させる。

 

「釘崎、流石に言いすぎでない?悠仁モテると思うけどな、コミュ力高いし」

 

「ほら!優太はこう言ってる!」

 

 どことなく誇らしげな表情で顔だけ振り返った悠仁に、野薔薇が露骨に怪訝な顔をした。

 

「あんた知らないの?モテそうは遠回しに『好きな人は好きなんじゃない、私は興味ないけど』って意味よ」

 

「そこまで言ってないが?」

 

 優太も思わず振り向く。野薔薇の意見はあくまでも女子サイド、男子である優太にそこまでの含みはなかったのだが、悠仁の思考は別方向に飛躍していた。

 

「うーん?そういえば釘崎、優太にはモテそうとかモテないとか言わないよな」

 

 野薔薇が金槌を悠仁にフルスイングで投げて、悠仁が持ち前の反射神経でキャッチした。

 

「あっぶねぇ!」

 

「前衛二人、ちゃんと前見ろ」

 

 恵に言われて、二人は前を向いた。金槌は悠仁から優太を介して、優太の真後ろにいる野薔薇へ背中越しに返される。ひったくるように野薔薇が受け取る姿を見たのは恵一人で、顔を背けて口元を隠した。

 

「お前も前見ろ」

 

「見てる」

 

「見てねぇだろ」

 

「見てる」

 

 野薔薇の指摘を恵は徹底的に否定した。肩が小刻みに上下している。雑談を交えながら歩を進める一行の雰囲気を、不意に優太が制した。

 

「来るよ。三級二体」

 

 一拍遅れて、首を落とされた人型呪霊が二体、徐に現れた。片方は腕が異様に長く地面に引きずらせていて、もう片方は肥満体形で腹に口がある。

 

 どちらも異形、ただし先ほどの呪圧の主ではなく、恵が鵺越しに偵察していた三級呪霊だと分かる。

 

「雑魚ね」

 

 金槌を構えて、獲物を前にした狩人のように目を光らせる野薔薇。しかし、上空から雷を纏った鵺が空気を裂いて文字通り電光石火の体当たりをして、一気に二体を祓ってしまった。

 

「マジか、伏黒めっちゃ強いじゃん」

 

 目を見開いたのは優太。実際、これまで恵の攻撃を優太は目の当たりにする機会がほとんどなかった。

 

「鵺を戻すついでだ。特に宮城島は温存しておきたい」

 

 恵はそう言いつつ、鵺に触れて影に戻した。鼻にかけた様子もなく、これが恵の実力だとわかる。

 

「なーんか、俺も式神使いたくなってきた。カッコイイ」

 

「……そうか」

 

 優太の素直な感想に、恵は顔を背けた。言われた通り前を向いている優太は、恵の耳の先が赤くなっているのを見逃して、代わりに野薔薇が目ざとく見つけて目を薄めた。

 

「分かるでしょ?」

 

「……分からん」

 

「分かってんじゃん」

 

「分からん」

 

 たまらず悠仁が吹き出す。

 

「優太って人たらしだよな!」

 

後方から、悠仁の背中を恵と野薔薇が同時に前蹴りした。そして二人分の前蹴りを受けても踏みとどまれる程度には、虎杖悠仁のフィジカルは強かった。

 

「……なにやってんのお前ら」

 

「「なんでもない」」

 

 呆れた顔の優太に、恵と野薔薇が間髪入れず否定した。優太の目には結果的に蹴られた悠仁しか映っていないので、首を傾げつつ前に向き直った。

 

 ()の中をぐるっと一周するようにして、一行は三級以下の呪霊を祓っていく。恵の鵺による先行情報を元に優太が呪力視で索敵、恵が玉犬で攪乱、悠仁か野薔薇が決定打を入れる、いつもの構図。

 

 途中、昼間にバイクのスリップ痕のような残穢(ざんえ)を確認した現場を通りかかったが、やはり現れる様子はなかった。

 

「時間かしら」

 

 野薔薇はスマホで時間を確認した。23:31と表記された画面を共有するように差し出して、四人が囲むように覗き込む。悠仁が楽観的に口を開いた。

 

「今日はお休みって可能性は?」

 

「宮城島の推理通りなら、気まぐれで現れるんじゃなくてトリガーが揃って出てくるタイプだろ。時間プラスなにか、宮城島の読み通りなら“首を括れる程度の紐”って事になる」

 

「あと、財布車に置いてきた」

 

 優太の言葉に一同が首を傾げる。彼の意図が不明だったからだ。優太は気付いたような顔をして、補足した。

 

「釘崎言ってたじゃん、全員身元不明って。だから、身分証の類いは全部置いてきた」

 

 それだけ聞いて恵はすぐに気付いた顔になり、顎を引くように一つ頷いた。

 

「それなら切り分けができる。俺は呪術師のライセンスを携帯してるから身分証がある。先に俺が紐を持って現場に行く、何もなければ宮城島が持って行く。それでいいか」

 

 恵が即座にフローチャートを用意して、優太が頷く。悠仁と野薔薇はインテリ組がなにやら作戦を固めたらしい、ということだけ汲み取って腕を組んで物知り顔で聞いていた。

 

 優太は鳴弦の柄にぶら下げておいたPロープを恵に差し出し、一同は再び残穢の残る現場に向かった。

 

「まずは釘崎と虎杖、特に変化のないお前らが現場で構えておけ。時間になったら俺から近づく」

 

「時間だけがトリガーだったら?」

 

「それが一番手っ取り早い。──玉犬」

 

 恵が狼の掌印を組んで、影から玉犬・白と玉犬・黒を召喚する。先行する悠仁と野薔薇にそれぞれ付き従う形で歩を進め、タイヤのスリップ痕の残穢が見える場所で待機を始めた。

 

 優太がスマホを取り出し、時刻を確認する。二十三時三十九分、四十分。時刻が切り替わるが、変化はない。

 

「俺が行く」

 

 待機していた恵が悠仁と野薔薇の下へ、Pロープを携えて合流。しかし、何も起こらない。恵がロープの束を放り投げて優太が受け取り、歩を進める。一歩近づくごとに、重圧(プレッシャー)が増すのを感じた。

 

「……来る」

 

 優太が合流した途端、口を開く。続けざまに、バイクのエンジンが派手に唸る音がして、()()()()()()()()()

 

「領域!?」

 

 恵が一歩後ずさって身構えるが、もう遅い。唐突に広いトンネルのような景色に切り替わった空間に、一同が隔離された。遠方から爆速で接近する単眼のライト、唸るエンジン音。現れたのは、特攻服姿の首なしライダーだ。止まる気配は微塵もない。

 

「散開!」

 

 恵の言葉に合わせてそれぞれがトンネル脇に退避、時速百キロを優に超える速度で首なしライダーが通過、アスファルトをタイヤで切りつけながら、後輪を滑らせて方向転換、進路を見定めている。

 

 その隙に優太が纏っていた加勁を増幅させ、三人それぞれに素早く触れて加勁を施していた。次いで、鳴弦の鯉口を切って左手で鍔を弾き飛ばして柄上げし、刀身を抜ききってから頭上で柄を握り、振り下ろす。

 

 余韻の残る尖った中音域が鳴り響き、全員のテンションが張られていく。

 

「来た来た!」

 

「一気に決めるわよ!」

 

「焦るな!ゴーストライダー、特級だ!」

 

 恵の言葉に戦慄が走る。形を持ち、名を持つ、登録済みの特級仮想怨霊(かそうおんりょう)──現代の怪異、ゴーストライダー。彼らが目の前にしているのは、これまでのどんな敵よりも遥かに強力だった。




作者コメント
余話集、こちらも割と頻繁に更新していきます。
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