呪術廻戦⇔   作:たゆたう 累

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(ろく)って読みます。六も陸もリクなんですけど、ロクです


レスポール-陸-

 ゴーストライダーと呼ばれた呪霊は、バイクに跨りエンジンを吹かしながらこちらの様子を伺っている。首なしだというのに、まるで品定めするような目で見られたような気になる。

 

「要するに、暴走族少年の復讐をずっとやってるってわけ」

 

 優太が苦笑を浮かべつつ、敵を観察しながら呟いた。

 

「どういうことだ」

 

 すかさず恵が確認する。

 

「ゴーストライダーって復讐の化身でしょ。マーベルは必修科目じゃない?」

 

「お前アメコミ好きなのか、意外だな」

 

「え、マーベルは男のロマンでしょ」

 

「わかる!」

 

 特級相手に談笑をしているように見えて、優太と恵は敵の分析をしている。悠仁だけは、純粋に映画談義だと思い込んでいて、野薔薇に頭を叩かれた。

 

「そういう話じゃねぇ、文脈見ろ」

 

「叩かなくてもよくない?」

 

 そんな彼らをよそに、ゴーストライダーはタイヤでアスファルトを切りつけて猛進、狙いはPロープを持った優太だ。わかりやすい直線軌道──のはずだった。速すぎる。

 

「白!」

 

 すかさず恵が玉犬・白に檄を飛ばし、突進の進路に割って入り──いとも容易く破壊される。恵の顔に動揺が走る。

 

──マズった!

 

 刹那、優太の目には時間が止まったように見えた。死を直感した時に訪れる長考状態で、悠仁に視線が行く。

 

──タダで死ぬな!流れを止めるな!

 

 思考の加速に対して、体は鈍重。取れる行動が限られた中で、優太は鳴弦の柄を悠仁に向けて一直線に投げ、同時に体を浮かせる。

 

 衝突の瞬間、呪力を足に目いっぱい篭めてドロップキックの要領で突進の勢いを殺そうとして──黒い火花が散る。

 

 黒閃。しかし跳ね飛ばされた優太はトンネルの壁に激しく打ち付けられてズルリと地に倒れ、ピクリとも動かない。

 

 一方黒閃を受けたゴーストライダーは、直前に玉犬・白のワンクッションが働いたせいで完全に動きを停止した。そこを見逃す悠仁ではない。

 

 加勁と律勁の乗った超爆発的加速により一瞬でゴーストライダーに追いすがり、バットを振りかぶるようにして太刀をスイング。金属同士がぶつかる硬質な音、呪霊が雑に構えた鎖を巻いた腕には刃が通らない。

 

「クソがっ!」

 

 それでもなお、悠仁は太刀を押し付ける。瞬間、わずかにゴーストライダーの腕が斬りつけられる。

 

「えっ……?」

 

 切られた傍から腕と鎖が再生するが、悠仁が驚いたのはそこではない。地を蹴って後退する。三人を覆っていた加勁が消失していた。

 

「優太!?」

 

「──大蛇(おろち)!」

 

 優太に駆け寄る悠仁とゴーストライダーを分断するように、大蛇が割って入る。呪霊はタイヤを滑らせて反転して、一度距離を取る。

 

 倒れた優太の傍らには既に野薔薇が到着して、片膝立ちで優太の脈を取っていた。

 

「死んでない、気絶してる」

 

「マジかよ、加勁抜きで特級──」

 

「小僧」

 

 誰の物でもない、禍々しい声がたった一言で場を支配した。口を開いたのは、悠仁の頬。

 

「お前はやはりつまらんな」

 

「宿儺!?」

 

「その刀、鳴弦と言ったか。お前がアレの腕を切ったのではない。その刀が、俺の術式を引きずり出した」

 

「は?何言って──」

 

「俺を愉しませること、(ゆめ)忘れるな」

 

 それだけ言って、悠仁の頬の口──両面宿儺は気配を消した。固唾を飲んだ野薔薇が口を開く。

 

「少なくても、宮城島の太刀があればあんたは特級を切れるって事でしょ。宮城島が繋いだんだ、絶対切れ」

 

「……おう!」

 

 悠仁は鳴弦の柄を両手で握る。その時、背後から温かい気配を感じた。

 

──刀の柄を握るのは右手だけ。左手は添えて、小指で柄頭を支えんの。

 

「えっ、えっ?」

 

 悠仁は困惑しつつ、脳裏に過った聞きなじみのある声の通りに左手の位置をずらす。両手で握ると取り回しがわからなかった太刀が、助言の通りにするとよく馴染むことが体感でわかった。

 

 一方呪霊の方は、十分に距離を取って反転、再びエンジンを吹かし、瞬間的にトップスピードをマークする。

 

「食らいつけ!」

 

 対する恵が大蛇を正面衝突させる。口を開いた人を丸呑みにできる大きな蛇と、現代の怪異。ゴーストライダーは躊躇うことなく大蛇の口の中に突っ込み、内側から呪力を爆ぜさせて突破、玉犬・白に続き大蛇すらも破壊した。

 

 恵のこめかみに冷や汗が伝う。続けざまに二体の式神を喪った。しかし、大蛇は十分に役目を果たしていた。ゴーストライダーの勢いを殺しつつ、視界を完全に塞いでいたのだ。

 

 大蛇を破壊したゴーストライダーには、上段に構えた悠仁が唐突に表れたように見えただろう。跳躍からの、唐竹割。

 

 振り下ろされる鳴弦を、ゴーストライダーは腕に巻いていた鎖を張って受け止め──それを鳴弦が容易く両断、切っ先が呪霊本体に縦一筋の傷を入れる。

 

 流石に焦ったか、呪霊はエンジンの唸りを上げて直進、悠仁は持ち前の反射神経で身を逸らして回避し、トンネルの奥に向かうバイクを取り逃がしてしまう。

 

「──(かんざし)!!」

 

 野薔薇が指を弾く音。トンネルの天面が崩れて瓦礫がゴーストライダーの真上から降り注いだ。エンジンと崩落の音が止み、静寂が訪れる。

 

「祓えてないわね」

 

「いつ仕込んだ」

 

「宮城島の脈取った後」

 

「……そっちが先なんだな」

 

「文句ある?」

 

「ない」

 

「トンネルの天井に釘打ち込んでたってこと?釘崎器用だなぁ」

 

「で、なんで切れた。お前刀の心得なんかないだろ」

 

「宿儺の術式を優太の太刀が引きずり出してる?らしい。使い方は優太が教えてくれた……?」

 

「何一つ理解してねえだろ。鳴弦がお前の中の宿儺と共鳴して、切断系の術式を引き出した。宮城島が刀の扱いを教えたのは、いつだ」

 

「さっき」

 

「気絶してるだろ」

 

「いや、なんか頭に直接響く感じ?」

 

「共振か」

 

「きょーしん?」

 

「今はいい。とりあえずお前の攻撃が通ることが分かった。俺と虎杖で脱出の糸口を探す」

 

「宮城島は私が見てる」

 

「……言う必要あったか」

 

「──っ!!殺すっ!!」

 

「後にしろ、特級の目の前だぞ」

 

 瓦礫の山の中から、エキゾーストが三回鳴り響く。山を割って、ゴーストライダーが高く舞い上がった。トンネルの天井付近から、半身とも言えるバイクを力任せに真っ直ぐ投げ飛ばす。

 

 気絶した優太に集まる形だった一同。回避すれば、今度こそ優太が死ぬ。一歩前に出たのは、虚歩に下段で構えた悠仁。

 

「その立ち方……」

 

 ──まるで宮城島。野薔薇は言葉と共に息を呑んだ。悠仁がすり足で前足を踏み込み、弓歩へと重心を送る。バイクとの正面衝突に対し、下段から袈裟懸けに斬り上げる。

 

──弾き飛ばす!

 

 悠仁の目論見に反して、鳴弦はバイクを左右に一刀両断した。後ろに控える三人を避けるようにして、切断されたバイクがトンネルの壁に衝突する。

 

「ん?」

 

 口を閉じて間抜けな顔になってしまう悠仁。

 

「──(ぬえ)!」

 

 対照的に、恵が即座に両手で羽の掌印を組んで影から鵺を羽ばたかせる。雷を纏った鵺は、高高度にいる首なし特攻服呪霊の本体に迫る。

 

 しかし、相手は特級。脚に集約した呪力を爆発させて空中で軌道を変えて、鵺の突進を回避する。同じ要領で急転直下、残った鎖を拳に巻き付けて殴りかかるのを、悠仁が鳴弦で止める。金切り音が響く、火花を散らす鍔迫り合い。

 

 側面から、玉犬・黒が迫る。戦闘開始前からずっといたのだ。すかさず飛び退く首なし特攻服呪霊。バイク頼みの戦力ではないようだ。

 

「読み合いが通用しない、虎杖みたいなタイプか」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で恵が言い捨てた。呪霊を見据えたまま、正眼に構えた悠仁が口を開く。

 

「それ褒めてる?」

 

「反射神経が異様に高いってことだ」

 

「褒められてる気ぃしねえのなんでかなぁ」

 

「褒めてないからだ」

 

「伏黒!?」

 

 軽口を言いつつも敵を見据えて虚歩に正眼で構える姿は、やはり悠仁らしくない。恵の言った共振という言葉の本質が透けて見える。

 

 恵はそんな悠仁の姿を見て、無言で手を振り下ろす。鵺への指示、雷を纏った鵺が、高高度から呪霊に迫り、同時に玉犬・黒が右側面を潰すように走る。

 

 悠仁は虚歩から弓歩へ、正眼から下段へ、そして切っ先を後ろに向けて腰溜めに構える。そのまま前傾姿勢になり、力強く地を蹴る──縮地歩法で、一気に呪霊との間合いを潰した。




──俺一人で戦ってるわけじゃない。
「水月 鉄身 骸の檻」
「あんたの制服四次元ポケットなわけ?」
「倒れてる宮城島の護衛を申し出たの、釘崎だぞ」
次回:レスポール-漆-
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