呪術廻戦⇔   作:たゆたう 累

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(しち)です。大字(改ざん防止用の複雑な数字表記)です。


レスポール-漆-

「──来る」

 

 野薔薇が悠仁の縮地を即座に見抜いた。優太の初戦、廃校舎で見せた縮地歩法と同じ構えだからだ。彼女はその時、優太の姿を一瞬見失った。だからこそ、悠仁の弓歩からの前傾姿勢に敏感に反応できたのだ。

 

 それでいて、悠仁の縮地歩法は神速の域に到達していた。素のフィジカルが優太以上、そしてフィジカルだけで戦っていた男が、今武術家の動きをトレースしている。

 

 恵の式神も、音すらも置き去りにした悠仁の横薙ぎの一閃は、首なし特攻服呪霊の胴を確実に両断した。しかし、両断した傍から再結合したのを見て、悠仁は飛び退いて震脚し虚歩の正眼に構える。

 

 鵺の体当たり、玉犬の爪をまるで意に介さない呪霊を見て、恵は冷静に二体の式神を影に戻した。

 

「釘崎、念のためそのバイク、共鳴りで破壊してくれ」

 

 野薔薇は顎を引くように一つ頷いて、悠仁が左右に一刀両断したバイクの片割れに藁人形を重ね、釘を打ち付ける。分断されたバイクが内側から壊されて、塵と化した。

 

 背中越しに音だけ拾いつつ、敵を見据えたまま悠仁が口を開く。

 

「壊す必要あった?」

 

「分からん、ただできることはやっておくべきだ」

 

「それもそっか」

 

 普段の悠仁なら振り向いて喋る。しかし今敵を見据えたままなのは、やはり鳴弦越しに共振した優太の影響だろう。悠仁は柄を握る右手に力を入れ直した。

 

──俺一人で戦ってるわけじゃない。

 

 だからこそ、虎杖悠仁は戦える。次の瞬間、悠仁の捉える景色が不意に変わった。

 

 

 

 骨を積み上げた上にそびえる小さな寺、足元は血の池。骨の山に腰掛けて、退屈そうに頬杖を突く着物を着流した四つ目の男──両面宿儺が、そこにいた。

 

「やはりお前はつまらんな」

 

「ちょっ、えっ、なにここ!?」

 

生得領域(しょうとくりょういき)、俺の潜在意識であり、お前の潜在意識でもある」

 

「しょーとく……?」

 

「馬鹿めが。結界の一つとして覚えておけ」

 

「……で、その結界に俺を入れて何する気だ」

 

「俺の術式が弱いと思われては面白くない。だから猿でも分かるように説明してやる」

 

 宿儺はにやりと笑い、両手を差し出した。片手には出刃包丁、もう片方の手には刺身包丁が握られている。

 

「俺の術式、御廚子(みずし)の斬撃は二つ。一つは(かい)、己の匙加減で切る斬撃。もう一つは(はち)、直接触れる縛りを設けて、相手に合わせて必ず切る斬撃だ」

 

「しばり?」

 

「……阿呆が。今話しているのは解と捌だ。縛りはどうでもいい」

 

 包丁を手放して、再び退屈そうに頬杖を突く宿儺。悠仁は鳴弦を正眼に構えたままだが、急に情報が増えて困惑している。

 

「その太刀、鳴弦が引き出したのは解だけだ。何故か分かるか」

 

「え……?刀だから?」

 

「お前が弱いからだ」

 

 あんぐりと口を開いて悠仁がショックを受けた。宿儺は構わず続ける。

 

「小僧、お前はつまらん。だが俺の術式を使う以上、無様は晒すな」

 

「宿儺お前……いい奴だな!」

 

 珍しく宿儺のこめかみに青筋が浮かんだ。

 

「俺の術式が弱く思われては面白くない、と言っただろう。うつけが」

 

 それだけ言って、生得領域と言われた景色は収束するように消え去る。

 

 

 

 特攻服呪霊の領域であるトンネルの中へと景色が戻ったのを見て、悠仁が察した。

 

「伏黒、これ生得領域?」

 

 正眼に構えて敵を見据えたままの悠仁、相手からすれば一太刀入れてきた相手だ、警戒して膠着状態が続く。

 

「そうだ。というかなんで今気付いた」

 

「宿儺が教えてくれた」

 

「「……は?」」

 

 恵、そしてたまらず野薔薇も疑問の声を投げかけた。

 

「ちょっと待て。「それもそっか」の次に出てくるのがなんで宿儺なんだ」

 

 どうやら、周囲の時間経過はほんの一瞬だったようだ。

 

「えぇ、いや。宿儺の生得領域で術式について教わってた……から……?」

 

「そんな親切じゃないだろ、何か裏がある」

 

「そうかなぁ、めっちゃ分かりやすかったけど」

 

 恵は少し考えこんだが、今は一旦無視することにした。

 

「……それで、使えるのか」

 

「多分。少なくとも()は使えてるらしい」

 

 悠仁が語る背中を見て、恵はため息を吐く。なんとなく分かった気になりました、という表情なのは、顔を見なくても分かったからだ。

 

「何一つ分かってねぇだろ。使えてない方の技はなんだ」

 

()?必殺剣みたいな感じらしい」

 

「使えそうなら使え。今は()の感覚を優先しろ。」

 

 言ってから、恵は昼間の優太の言葉を思い出す。

 

──呪力流すと音鳴るんだよね。

 

 優太はその音を利用して律勁を使用していた。恵の中で点と点が線になる。

 

「宮城島の言ってることが確かなら、呪力を流すだけで勝手に()になる」

 

「おう!」

 

 再び悠仁が虚歩から弓歩へ、そして前傾姿勢になって神速の縮地歩法で間合いを詰める。上段の構え、踏み込んだ足が震脚を起こす。

 

 首なし特攻服呪霊は回避を選んだ。それは正解であり、同時に間違いでもある。悠仁は鳴弦を振り下ろさず、震脚した脚を軸に回転蹴りを繰り出す。

 

 同時に、恵は羽の掌印と蛙の掌印を連続して組む。

 

不知井底(せいていしらず)

 

 白い羽を生やした蛙型の式神が五匹、一斉に散開する。

 

 トンネルの壁に激しく叩きつけられる呪霊、間髪入れずに神速の縮地で悠仁が駆け出そうとして、躓いた。転ぶ前になんとか踏みとどまる。

 

「あれ、脚が重い……」

 

「オーバーワークか……!」

 

 恵はすぐに看破した。悠仁は動き方を共振で覚えただけで、今まで縮地歩法など一度もやったことがない。使ったことのない筋肉が使われたことで、動きが鈍ったのだ。

 

 不知井底(せいていしらず)が悠仁の隙を埋めるように方々から舌を射出、しかし呪霊は壁を蹴って素早く移動し、鎖を巻いた拳を振り上げて悠仁に襲い掛かる。

 

水月(すいげつ)──」

 

 低く、知的に聞こえる声が静かに響いた。片膝立ちで戦況を見守り、優太を庇うようにしていた野薔薇が振り向く。座禅を組み、開いた右手の人差し指を地に付け、左手は拳印を結んだ優太がそこにいた。

 

鉄身(てっしん) (むくろ)(おり)──化勁(かけい)

 

 遠隔で、悠仁を正しく捉えて展開される加勁。呪霊の拳は優太の呪力特性により、ヌルリと受け流され、地面を割った。

 

「ちょっと宮城島!?」

 

 野薔薇が焦る。優太の目は焦点が合っていない、それでも戦っているからだ。優太は同じ姿勢のまま続ける。

 

蛇這(じゃはい) 梵鐘(ぼんしょう) (かなで)の王──律勁(りっけい)

 

 悠仁が目を見開く。一歩引いて、震脚。上段に構えていた鳴弦が、硬質で歯切れの良い高音域を響かせる。袈裟懸けに振り下ろした鳴弦が特攻服呪霊に迫り、呪霊はそれを横に飛び退いて回避した。

 

「動ける……!」

 

「壊れた筋線維を律勁で補ってる、応急処置に過ぎんよ」

 

 優太は触地印(しょくちいん)と拳印の座禅姿勢を崩さないまま、緋色の瞳で状況を分析している。目の焦点が合わない分、呪力視で補っているのだ。

 

「釘崎悪い、俺の内ポケットに飴あるから、それ取って」

 

 野薔薇は察して、文句を言わずに優太の制服の内ポケットを探る。マックスコーヒー、小さい缶のファブリーズ、絆創膏、色々出てきて、ようやくチュッパチャップスに辿り着いた。

 

 封を剥がして優太の口に押し当てて、優太はそれを咥えた。

 

「あんたの制服四次元ポケットなわけ?」

 

「限界はあるよ」

 

「そういう意味じゃねぇ」

 

 野薔薇が青筋を浮かべてツッコミを入れた。逆に言えば、苛立てる程度には安心している。もっとも、優太にとっては今まで心配されていたことは気絶していて知らない、という全てを恵は察知して、ため息を吐いた。

 

「倒れてる宮城島の護衛を申し出たの、釘崎だぞ」

 

「悪い、手間取らせた」

 

「いいのよ。どうせ私遠距離だし」

 

「最適な判断だと思うけど、助かった。ありがと」

 

 恵がもう一度ため息を吐いた。そうじゃねぇ、そうなんだけど、そうじゃねぇ。恵はそう思って、言わないことにした。




「やめて宮城島!あんたが持たない!」
「……十秒で終わらせる」
「鞘に()当てんといて……」
「えっ、前回腹貫通してるんスか!?」
「俺らどうする?」
「足元でしゃがんでおくか」
次回:レスポール-捌-
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