呪術廻戦⇔   作:たゆたう 累

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レスポール-捌-

 優太の加勁と律勁を受け、悠仁は失った機動力を取り戻す。ただし、素のフィジカルが減衰した分を補うことしかできず、それ以上を繰り出すことはできない。──虎杖悠仁は、それで十分だった。

 

 硬質な高音域を響かせながら振り下ろした太刀、鳴弦の切っ先をそのまま左側の後ろに流し、横に大きく飛び退いた首なしの特攻服呪霊に、再び神速の縮地歩法で悠仁は肉薄する。腰溜めから放たれる、袈裟懸けに斬り上げる一閃。

 

 特攻服呪霊は体を逸らして回避した。直感としては、正しい。しかし悠仁もまた直感タイプ。読み合いに発展しない。悠仁の左腰に堂々と握られていた拳が、完全に逃げ場を失った呪霊の鳩尾を的確に捉え──黒い火花が散る。

 

「律勁の誘発か!?」

 

 恵が目を見開いて叫ぶ。トンネルの壁、地面、反対の壁へピンボールのように弾かれる特攻服呪霊を呪力視で捉えつつ、固唾を飲むように喉仏を上下させた優太が異を唱える。

 

「今の俺にそんな余裕ないよ」

 

 一方の悠仁は、完全に集中しきった鋭い眼光を放っている。確実に自力で引き当てた黒閃だ。跳ね飛ばされた首なし特攻服呪霊は、徐に立ち上がる。効いている、しかし決定打には遠い。

 

 優太は再び喉仏を上下させてから、口を開く。

 

水月(すいげつ) 鉄身(てっしん) (むくろ)(おり)──加勁(かけい)

 

 次は恵と野薔薇に、同時に遠隔で加勁が施される。

 

「やめて宮城島!あんたが持たない!」

 

 近くにいた野薔薇が優太の掌印を崩そうとして、恵が慌てて制した。

 

「無理に()()を引き剥がすな、罰則(ペナルティ)が出るかもしれない!」

 

「でも!」

 

 優太は三度喉仏を上下させ、詠唱を始める。

 

蛇這(じゃはい) 梵鐘(ぼんしょう) (かなで)の王──律勁(りっけい)

 

 悠仁に続き、恵と野薔薇の呪力の流れが調()()される。誰かが止めなければ、今の優太は止まらない。それを野薔薇が真っ先に直感していたのだ。律勁を受けた恵が、優太の覚悟を引き継いで口を開く。

 

「……十秒で終わらせる」

 

「五秒で終わらせろ」

 

 野薔薇の言葉に恵がため息を吐く。彼は不知井底(せいていしらず)を解いて式神を完全に消した後、狼の掌印を組む。

 

──律勁で早まったな。破壊された式神は、その能力を別の式神に受け継がせてる。

 

「──玉犬・(こん)

 

 恵の影から、黒い毛並みを全体に纏いつつ、手足と鼻先、尻尾の裏に白い毛並みがブレンドされた新たな玉犬が生み出される。以前までの玉犬より一回り大きく、より狂暴な狼の外見を有している。

 

 玉犬・渾が駆け出すのと同時に、野薔薇が五寸釘を三本浮かせて一回のスイングで打ち放ち、同等のスピードで特攻服呪霊に追いすがり、上段に構え直した悠仁を追い越す。

 

 釘が呪霊の足元に突き刺さり──

 

(かんざし)!」

 

 すかさず野薔薇が指を鳴らす。足場が崩れて呪霊が大きく傾いたところに、玉犬・渾が通り過ぎ様に呪霊の肩を爪で抉る。

 

 神速の縮地で悠仁が間合いを詰め、袈裟懸けに鳴弦を呪霊の抉れた肩に振り下ろし──

 

「──(はち)

 

 悠仁らしくない、静かな声で言い放つと同時に、硬質な高音域が歪みを伴って響いた。首なしの抉れた肩に当てられた鳴弦を起点に、特攻服呪霊がサイコロ状に切り刻まれた。

 

 ボロボロと音を立てて、呪霊が崩れていく。崩れた傍から塵となり、祓除されていくのが窺えた。生得領域であるトンネルの風景が縮んでいき、元の夜の公園の景色が帰ってくる。

 

 最後にボトリと、指が落ちた。鬱血(うっけつ)したような色味に黒い爪、特級呪物宿()()()()だ。

 

「……なるほど。宿儺の指を取り込んで、活性化していたのか」

 

 ()()を見た恵が、玉犬を影に収めながら分析した。鳴弦を右手に携え、手近にいた悠仁が拾い上げてから、恵たちの下へ歩んでいく。

 

「宿儺のやつ……。目の前に自分の指があるのに、何も言わなかったぞ」

 

「いや、虎杖に術式の説明をしていた時点で共振してたんだろ」

 

「えっ、そういうこと?」

 

 悠仁が首を傾げながら、左手に持ったはずの宿儺の指を差し出した。

 

 ない。

 

 一同が目を見開く。よく見ると、悠仁の左の手のひらで口が開き、舌なめずりをした後だった。

 

 ほんの一瞬、凄まじい呪圧が広がりかけたが、悠仁が歯を食いしばりつつ縮こまって抑圧した。

 

「なんで食った」

 

「えっ、俺!?」

 

「とりあえず受肉しなかった、もうこれ以上はやめて」

 

 呆れと怒気を孕んだ声で野薔薇が言った。その横で優太が掌印を解くと同時に、三人に掛けられた律勁と加勁が消失する。

 

「宮城島、歩けるか」

 

 恵の確認に応えようとして優太が立ち上がり、むせ返る。胃酸交じりの赤が吐き出されて、全員の顔が強張る。悠仁が真っ先に優太を抱えようとして、手に持った鳴弦を見ておろおろしはじめた。

 

 その横で、野薔薇がすかさず吊るされた黒漆塗の鞘を優太のベルトから外し、恵が優太に肩を貸す。野薔薇が悠仁に鳴弦を渡すよう促して受け取り、慣れないなりに丁寧に納刀した。

 

「鞘に()当てんといて……」

 

「あんたは自分の心配しろ!」

 

 枯れた声で優太が言ったのを見て、野薔薇が優太を睨んだ。優太は力なく苦笑して見せて、もう一度咳き込んだ。やはり吐血している。ゆっくりと歩を進めながら、恵が重たい口を開いた。

 

「俺の見積もりが甘かった。無理させてすまない」

 

「伏黒が謝ることじゃないでしょ、ヒーローじゃないんだから」

 

「……お前」

 

「ヒーローは血ぃ吐かない、吹っ飛ばされて気絶しない」

 

 それから優太は何か言いかけて、咳き込んで吐血する。

 

「内臓いってるだろ、さっさと帰るぞ」

 

 

 

 ()から出てきた一行を見た新田は、すぐにスマホを取り出して電話をかけた。

 

「あっ家入さん、すんませんッスこんな時間に。宮城島君が血吐いてて。……腹に穴?ないッスけど……。えっ、前回腹貫通してるんスか!?」

 

 新田が目を白黒させているのをよそに、恵と悠仁で後部座席に優太を横にして寝かせる。鳴弦を抱えた野薔薇が助手席に乗り込んだ。

 

「俺らどうする?」

 

「足元でしゃがんでおくか」

 

 そう言って、悠仁と恵は後部座席のフロアに体育座りで乗り込んだ。細身な二人だからできる芸当だ。新田も特に指摘する様子はなく、黒塗りのセダンは法定速度を破って高専に向かった。

 

 

 

「で?黒閃で()()()()()を掴んだから、術式詠唱ができて、三人に同時展開したと?」

 

 手術台に乗せられて横になっている優太の開腹部を縫いながら、硝子が優太に尋ねた。部分麻酔を受けている優太が医療用のスクリーン越しに返答する。

 

「こ、黒閃の誘発はしてないですよ?」

 

 上擦った声だった。医療用マスク越しに、硝子の怒りに満ちた低血圧なため息が聞こえる。

 

「黒閃を誘発するなって言ったんじゃないの、無茶するなって言ったの。呪術を極めることは引き算を極めること、ここは五条に教わってる?」

 

「……うっす。呪詩(じゅし)掌印(しょういん)。術式構成したり、発生させるまでの手順をいかに省略して百パーセント出せるようになるか、です」

 

「そう。それでいて君がやったのは、その百パーセントを超えてるわけ。あばら折れて肺と胃に骨が刺さった状態で」

 

 硝子は慣れた手つきで縫合を終わらせ、縫合部を消毒しながら清潔にしていく。

 

「今回の開腹の傷は戒めだと思いなさい。内臓と骨は反転術式で治した、でも開腹の傷は治さない。いいわね」

 

「……ハイ」

 

 それからしばらく、優太は高専敷地内の医務棟で入院生活を送ることを余儀なくされた。ちなみに面会謝絶。監視に補助監督が二十四時間交代制で付きっきりになり、優太はこの間全ての自主練習行為を禁止された。

 

 鳴弦は野薔薇から硝子に渡されているのだが、現在硝子が保管している。理由は至ってシンプルで、「療養の邪魔だから」。それを告げられた優太が涙目になったのは、言うまでもない。




「俺、映画行くけど。どーする?」
「あっそ。じゃーねぇ」
「さっき、虎杖君と一緒にいませんでした?」
「つまりそういうことか!?」
次回:そういうこと(パラレル)


原作未読者向け
反転術式は、前回優太の腹に開いた穴を治した時のアレです。
簡単に言うと、やり方さえわかれば再生に使える技術なんですが、このやり方がかなり複雑です。
あと、他人に反転術式使えるのは自分に使うよりさらに高度な技術です。五条悟ですら、他人に反転術式は使えません。
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