呪術廻戦⇔   作:たゆたう 累

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つまり、そういうこと

「……淡泊ですね」

 

「そお?」

 

 悠仁へのメッセージを共に見ていた優子が素直な感想を述べる。緊張して縮こまっている優子と、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)な表情で頬杖を突く野薔薇は対照的だ。

 

 恵が文庫本を取り出して読み始めようとした時、既に悠仁が現れた。手には紙袋を抱え、中にはお菓子が詰まっている。

 

「あれ、伏黒もいるじゃん」

 

「はやっ」

 

 連絡してほぼすぐに現れた悠仁に野薔薇は驚く。虎杖悠仁とは、時折人目があっても最高速度で走ることがある。なぜならそれが彼にとっては当たり前だから。

 

 悠仁と恵がいつも通りに雑談を交える中で、野薔薇は予想外に短時間で登場した悠仁を目の前に一つの仮説が浮かんだ。

 

──しまった。虎杖に優子の事言ってない!これだけの変化、絶対誰だか分かんない……!

 

 野薔薇の頬に冷や汗が伝う。刹那、時が遅くなるのを野薔薇は感じた。恵との談笑から優子へ視線を移す悠仁。野薔薇は焦って口を開いた。

 

「ぃ虎杖!この子は──」

 

「あれ、小沢じゃん。何してんの?」

 

 それはあまりにも真っ直ぐで、あまりにも自然だった。まるで、昨日会った友人と偶然再会したかのような悠仁の言葉に、優子は溢れ出そうになる全てを飲み込んだ。

 

「奇遇ぅ。で、どういう組み合わせ?」

 

 悠仁はシレっと優子の隣に腰掛けた。というより、そこしか空いていなかったのだ。そしてすかさず本質を突く。虎杖悠仁とは、そういう男である。

 

「小沢が釘崎と話してるお前を見かけた。地元から離れたと思ったら出身校同じやつがいたんだ、釘崎経由で話しかけてもおかしくないだろ」

 

 文庫本を読みながら、恵が予め準備していたかのように話して、悠仁はすっかり信じ込んだ。概ね、間違いではない。

 

「そっかぁ!でもなんで釘崎経由?」

 

 悠仁は納得して、再び首を傾げる。次は野薔薇が口を開いた。

 

「優子、見た目随分変わってるでしょ?だから気付いてもらえるか分からなくて、初対面の私のとこに来たわけ」

 

「変わってる……、そうか?中学の時と一緒で、姿勢綺麗だから分かるぞ」

 

 優子が俯いて赤面を隠す。隣に座ったせいで、悠仁はそれを見逃した。そしてそんな優子を突くほど、野薔薇と恵は野暮ではない。

 

「いやいや、佐藤黒呼並みに大変身でしょ」

 

「えっ、釘崎も読んでんの!?霊丸撃ってみたいよな!」

 

 悠仁は手でピストルの形を作ってはしゃいでいる。どうやら優子の変貌については特に気にしていないようだ。そんな悠仁に呆れ顔の野薔薇が続ける。

 

「そうじゃなくて。姿勢だけで気付くかって聞いてんのよ」

 

「んー?」

 

 悠仁は改めて優子を見た。流石に顔から熱は引いたようで、手元のグラスと悠仁を見比べている優子の姿が目に映る。

 

「なんか、なんて言えばいいのかなぁ」

 

 悠仁が眉をひそめて顎に手を添え、うんうんと唸りながら考えこむ。

 

「まぁいいわ。初見で気付いた時点で満点あげる。あんた映画行くんでしょ?優子も連れていきなさいよ」

 

「え、小沢も行く!?ミミズ人間(フォー)!」

 

「えっと。前作観てないけど。大丈夫かな?」

 

「大丈夫!今回は──」

 

「愛がテーマなんでしょ、あんまり言うとネタバレよ」

 

 悠仁の言葉を遮って、野薔薇が結論だけ言った。ぽかんとした顔の悠仁を見て、優子は口を抑えて小さく笑った。

 

 

 

 優子を連れて、悠仁はファミレスを後にした。二人で映画を見に行くことにしたようだ。残された恵がホットコーヒーを取りにドリンクバーコーナーへ行き、戻ってきてから空いた対面席に座る。

 

「……伏黒って、女子の前でだけカッコつけてブラック飲むタイプ?やめな?」

 

 恵が青筋を立てて、隠す気のない怒気を含んだ低い声で抗議した。

 

「俺の話を聞きたくて呼んだんだよな?いつも飲んでんだよ」

 

 確かに、恵は目の前に誰がいようとブラックコーヒーを飲む。それを知っているのはせいぜい優太と悟くらいだろう。

 

「というか、いきなり二人きりにして良かったのか。虎杖、自分から連絡先聞くタイプじゃないだろ」

 

「私とは交換したし。まぁ大丈夫でしょ。それより伏黒、私ようやく自分の気持ちに気付いたわ」

 

 野薔薇が、どことなくスッキリした表情で言う。恵が首を傾げた。

 

「私が彼氏を作るより先に虎杖に彼女できるのがなんかムカつく」

 

「……宮城島は難しいだろ」

 

「なんで!アイツは!自分のことには鈍感なのよ!」

 

 野薔薇が目を吊り上げて、テーブルをバシバシ叩きながら苦言を呈した。

 

「というか、虎杖のこと聞くなら宮城島だろ。面会謝絶とは言え電話はできる、なんで繋がなかった」

 

「……恋バナしたら、アイツも流石に気付くでしょ。今のアイツが私の気持ちを察したとして。はいそうですかって言わないでしょ」

 

「……そうだな」

 

 

 

 一方。高専医務棟で入院中の優太。

 

「ぇっくしょ!っくしょ!あ゛ーっくしょん!!」

 

「大丈夫ですか、宮城島君」

 

「傷に響きます……」

 

 三連続くしゃみをした優太を心配したのは、監視に当たっている伊地知だった。

 

一誹り(いちそしり)二笑(にわら)い、三惚(さんほ)れ、四風邪(しかぜ)、と云うそうです。宮城島君には、少々荷が重い話かと思いますが。少なくとも、悪口ではないと思いますよ」

 

「伊地知さんそういうの信じる系っすか?ちょっと意外」

 

「これでも呪術側の人間ですからね、古来から続く言い伝えは時折意識します」

 

 伊地知が珍しく笑って見せて、優太は「ふぅん」と言って窓の外に目をやった。オレンジを齧ったように夕陽が山間に沈んでいく姿は、どことなく甘酸っぱい気持ちにさせるものがあった。




「なんけ、フラれたが?」
「ちょっと、退院にはまだ早いわよ」
「見回りに近い感じ。多分」
「見てないことにしとけ」
「意外と退院早かったな!」
「あんた元気そうだし、それ確認したかっただけだから」
「何を見たらそこに飛躍する」
次回:カノン

余話・なんで優太は佩刀なの?
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