呪術廻戦⇔   作:たゆたう 累

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カノン-参-

 高専から新宿までの電車での移動には、それなりに時間を要した。駅に到着して地上に向かう階段を登りながら、野薔薇が苦言を呈する。

 

「そもそも。なんで今日送迎ないわけ?」

 

「見回りみたいなもん、って五条先生言ってたよ」

 

「なにそれ、出るか出ないか分かんないって言ってるようなもんじゃない」

 

「最後に多分って言ってたよ」

 

「あー、出るのね」

 

 五条悟の多分はアテにならない、これは共通認識だった。しかし、優太の思考はもう一歩先に踏み込んでいた。

 

「いないものをいないって断言するのって、いることを証明するより難しいんだよね」

 

「は?なにそれ」

 

 思わず野薔薇が振り向く。半歩後ろを歩いていた優太も思わず立ち止まり、階段の影響で簡単に視線が交差した。

 

「いたら祓って報告すれば終わりじゃん?でもいない場合って、なんでいないって結論付けたかを報告せんといかんじゃん。それって難しくない?」

 

「あぁ、あんたらしいわ」

 

 呆れた様子で野薔薇はそう言って、前に向き直り歩を進める。

 

「らしいって、なにそれ」

 

「先の先のフローチャート作ってるとこ。虎杖に、あんたの爪の垢を煎じて飲ませたいわ」

 

「うーん、悠仁はあれはあれで成立してると思うけどなぁ」

 

 話を交えつつ、地上に出る。午前中の日差しは強く、夏の訪れを感じさせる。そこに来て、野薔薇の好きな世界的にチェーン展開をしているカフェの看板が目に付く。同時に、野薔薇の脳内会議が始まった。

 

──ちょっと待って。いるかいないか分からない任務、場所はショッピングセンター、采配は五条。あの目隠しのことだ、ロクなこと考えてない。つまりこれは──

 

 五条悟主導のデートイベント。野薔薇は決して恋愛脳ではない。ただし、恋をすると人は時に思考が飛躍する。そして、五条悟もまた“面白がって”この采配をしているに違いない、と野薔薇は気付いた。

 

「私喉乾いた。スタバ行きましょ」

 

「逆に喉乾くでしょ。水じゃダメなん、任務中なんだし」

 

「張り込みよ、張り込み。いるかいないか分からないなら、一回留まって周り見るのもアリでしょ?」

 

「あー、確かに」

 

 それっぽい理由を付けた野薔薇。そして納得してしまうのが、宮城島優太だった。野薔薇はついに、優太の鈍感を逆手に取る方法を習得したらしい。

 

 

 

 小さなテーブルを挟んで座る二人。優太はアイスの抹茶ラテ、野薔薇は期間限定のフラペチーノを注文したようだ。そんな二人は、傍目には任務中には見えない。

 

 しかし、優太の緋色の瞳は周囲の呪力を見ていた。遠くを眺めるようにしている優太の横顔を、野薔薇は黙って見ている。

 

「カラコン文化が流行った昨今、目の色にツッコミ入らないのは楽だよね」

 

 カップから口を離した優太が言う。野薔薇は一瞬不思議そうな顔をした後に、気付いたような表情になった。

 

「あぁ、見慣れてて忘れてたわ」

 

「いや、目が赤いって普通変でしょ」

 

 優太がケラケラと笑った。そんな優太を見て、野薔薇は言葉に詰まる。悠仁くらいにしか向けたことのない笑顔を、女性不信の優太が野薔薇に向けている。中々に大事件だ。

 

「なに?」

 

 野薔薇が言葉を失っていると、優太がふと野薔薇の反応に気付いた。彼女は不審にならないように、すっと窓の外へ視線をやった。

 

「別に。あんたがそうやって笑うの珍しいなって思っただけ」

 

 半分ホントで、半分嘘。しかし嘘と言うのは、往々にして真実を混ぜると信ぴょう性が高まる。なので、優太は特に疑うこともなくその言葉を額面通りに受け取った。

 

「感情死んでるわけじゃないからね。面白かったら笑うよ」

 

「ふぅん」

 

 束の間の沈黙。気分が悪くならないタイプ、むしろ心地よいものですらあるが、優太は相変わらず抹茶ラテで糖分補給しながら呪力視で索敵を行っている。

 

──ほんとバカ真面目。でもそういうとこ

 

「いた」

 

 不意に優太の表情に緊張が走った。すぐさま立ち上がる野薔薇、切り替えは早い。続けて優太が立ち上がり、カップの中身を一気に飲み干してゴミ箱に捨てた。

 

「がぶ飲みする必要あった?」

 

 対する野薔薇は、表情こそ引き締まっているがまだフラペチーノを楽しんでいる様子。そこに関して優太は特段指摘はしない。

 

「ポイ捨て嫌いなんだよね。すぐ飲める量だったから、飲んだ」

 

「判断早ぇ」

 

 野薔薇は感心したように声を漏らした。二人はそのままショッピングモールの中へ入っていく。

 

 

 

 優太が案内したのは、三階の一角にあるトイレ。呪力視をしなくても、その方向から呪力が漏れ出ているのがよくわかる。ただし、微弱。

 

「よく見つけたわねこんなの、壁何枚貫通して見てんの?」

 

「一瞬呪力の揺らぎがあったんだよ。そこがたまたま視界に入った」

 

 言って、優太は掌印を顔の前で組んだ。

 

「闇より出でて闇より黒く、その穢れを(みそ)(はら)え」

 

 一角を覆う程度の小規模な()はすぐに完成する。人払い、認識阻害の効果を持っているので、たちまち一般人が離れていく。

 

「サクッと片付けて買い物するわよ」

 

「緊張感……」

 

 二人は()の中に侵入した。結界の呪力を感じ取ったのか、女子トイレの方から人型に成りそこなった四足歩行の呪霊が現れる。首はだらしなく垂れ下がり、それでいて不気味に曲がってこちらを見ている。

 

 反射的に優太が虚歩に構えたところを、野薔薇が一歩前に出て制した。

 

「加勁ちょうだい」

 

「あっ、そうだった」

 

 優太は今日直接戦闘を禁止されていることを思い出して、野薔薇の肩に触れて加勁を展開する。それから鳴弦の鯉口を切り、左手で鍔を支えながら柄上げして抜刀する。

 

 右手で柄を握り、振り下ろす。余韻の残る温かい中音域が響き、野薔薇の呪力が調()()される、律勁。それを受けて野薔薇は金槌をベルトから引き抜き、腰のポーチから釘を三本指に挟んで取り出す。

 

 野薔薇が釘を放ると、不思議なことが起こった。野薔薇に施された加勁がワイヤーのように伸びて、釘を空中で固定している。

 

「ん?」

 

「んんん?」

 

 目の前に呪霊がいるというのに、二人は浮いた釘を観察し始めた。

 

「ナニコレ」

 

「私が聞きたいんだけど。なにこれ」

 

「うーん。呪力特性?」

 

「呪力特性ってそんな便利な言葉じゃないわよ」

 

「えぇ、じゃあなに」

 

「知らないわよ、あんたの術式でしょ?」

 

 話している間に、のそりのそりと呪霊は近づいてくる。野薔薇は浮いた一本を指で弾いてみると、与えられた指向性の通りに釘が飛来、呪霊の肩口に突き刺さる。

 

「金槌で飛ばすよりは精度は悪い、でも色々応用効きそうね」

 

 痛みと言うものがないのか、呪霊は構わず飛び掛かる。分析中の野薔薇に代わり、思わず優太が前に出て、呪霊の前足を掴んで、流して、逸らす。壁を壊さない程度に打ち付けた。

 

「あ、悪い。ちょっと夢中になってた」

 

「いいけど。それ帰ってからやらん?」

 

「そうね」

 

 野薔薇が、残りの浮いた釘の内一本を金槌で打ち付ける。呪霊の頭部に正しく突き刺さり、釘に篭められた呪力が呪霊の中を走る。二本目の着弾を受けて、呪霊は黒い塵と化していった。

 

「へぇ、釘だけでこの威力なんだ」

 

 優太は律勁と加勁を解き、鞘を引いて切っ先を納め、刀身の自重で落ちるのを左手で鍔を支えてゆっくり下ろしていく。小さな鍔鳴りと同時に、()も解除された。

 

 余った一本を回収しながら野薔薇が口を開く。

 

「勁を加えるから、加勁でしょ?ってことは、勁が加わってないニュートラルは重力を無視するってこと?」

 

「重力を無視って言うより。釘崎の手癖が重力と相殺する形だったんじゃね?それを加勁が保持したとか」

 

「つまり、あんたの術式は被術者によって解釈が大きく変わるってこと?」

 

「うーん、要検証って感じ」

 

「どっちにしても、あんたの呪力特性込みで術式が成り立ってるのはよく分かったわ」

 

「え……えぇ……?」

 

「なによ」

 

「……なんでもない」

 

 優太は思った。釘崎が珍しくストレートに褒めてる、俺でもわかる、と。ただ、それを直接伝えていい相手ではないことも同時に理解していたので、口にすることはやめた。

 

「……褒める時は褒めますけど?」

 

「う゛っ」

 

図星を突かれて優太は縮こまった。野薔薇は呆れたように歩を進めて優太を追い越す。

 

「あんた分かりやすいのよ。他は?」

 

「ここはもういないかな。ただ、外にちょっと気になる呪力はあった」

 

 二人はそのまま外へ向かった。途中首を傾げた優太に、「そういうのが分かりやすいって言ってんの」と野薔薇がツッコミを入れたのは言うまでもない。




「脈動?定期的に呪力が膨れ上がる感じ」
「感情の揺らぎが呪力に直結した、とかは?」
「俺、中学、ココ」
「何してんの!?お前なにしてんの!?」
「じゃあ、後任せたッス!」
次回:カノン-肆-

余話・一年ズ⇔でバンド組んでみた
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