呪術廻戦⇔   作:たゆたう 累

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カノン-肆-

 ショッピングモールから出た二人は、そのまま歌舞伎町方面へ向かった。優太の呪力視がそこで妙な気配を捉えたという。

 

「で?具体的にはどんな気配なのよ」

 

 歩きながら野薔薇が問う。優太は鳴弦の柄に左手を添え、右手を顎に添えながら口を開いた。

 

「なんつうのかな、脈動?定期的に呪力が膨れ上がる感じ」

 

「何よそれ、普通なら三級以上の案件にならない?」

 

「なんか突発的だったんだよね。しかも呪霊っていうより、人間って感じ」

 

「呪詛師案件ってわけ?」

 

「呪詛師ならもうちょっと隠れない?」

 

「あぁ、確かに」

 

 二人は腕を組みながら歌舞伎町の堂々としたゲートを潜る。日の高い時間、このゲートはネオンを消灯していて、それでもなお存在感を放っている。

 

「……ん?」

 

「なに」

 

 急に立ち止まった優太を見て、野薔薇が不思議そうな顔で振り返った。

 

「止んだ。しかも発生源がわからなくなった」

 

「なにそれ、呪力隠すの上手いってわけ」

 

「意図的に隠してる感じじゃないなぁ。自然に収束したって感じ」

 

 優太はその緋色の瞳で周囲を見渡す。一般人から漏れ出る呪力、屋内で集まっている人の呪力。その中に、先の妙に力強い呪力は見当たらない。

 

「攻撃性がなかったのかな」

 

「感情の揺らぎが呪力に直結した、とかは?」

 

「あり得そう」

 

 二人はひとまずの結論を付けて、周囲をぐるりと巡回し始めた。

 

 

 

 一方、悠仁と恵のバディ。こちらは埼玉県の某所、さいたま市立浦見東中学校にいた。こちらには同行する補助監督として、新田がついているようだ。

 

「被害者のご両親にも聞いたんスけど、よく知らないって……。はぁ、唯一の手がかりがぁ!」

 

「ドンマイ!この中学にもなにかあるって」

 

 新田と並んで歩く悠仁、恵は一歩引いたところで、何故か顔を背けて歩いている。

 

「そうだといいんスけど。とりあえず、先生にアポ取ったんで、そこで聞いてみるッス」

 

「りょーかい。って、結構分かりやすいのいるな」

 

 悠仁が目を付けたのは、明らかに授業をサボっている男子生徒二人。片やリーゼント、片や染めた金髪、いかにも素行不良といった風体だ。

 

「なぁなぁ、ちょっといい?」

 

「あぁ?」

 

 そして悠仁の読み通り、彼らのガラは悪かった──と、思いきや。

 

「お、お疲れさまっす!」

 

 二人は一瞬青ざめ、次の瞬間には同時に直角お辞儀をした。しばし呆気に取られる悠仁。それから、不意に誇らしげに前髪を掻き上げた。

 

「オーラ、ってやつ?隠しても滲み出るもんだからなっ」

 

「卒業ぶりですね、伏黒さん!」

 

 再び悠仁が呆気に取られた。彼らが敬っているのは、どうやら恵の方らしい。その言葉を受けて、恵はただでさえ背けていた顔をさらに背けた。

 

「俺、中学、ココ」

 

 すかさず恵の顔を正面に向けようとする悠仁。

 

「何した?お前中学で何した?いやっ、あいつらに聞いた方が早いな」

 

 悠仁は頑なに前を向こうとしない恵の顔をそれでも前に向かせようとしつつ、二人に話しかけた。

 

「お前ら、伏黒に何された!?」

 

「俺ら、というか……。この辺の不良、半グレ、その他もろもろ。伏黒さんに、ボコられてますから」

 

リーゼント頭が苦笑交じりに打ち明けた。悠仁が驚いて手を離し、恵を見る。

 

「え?……えぇ?」

 

「……ボコッタ」

 

 また後ろを向こうとする恵の顔を、再び悠仁が掴んで無理やり前に向けようとする。

 

「何してんの!?お前なにしてんの!?」

 

「コラァ!なんだ君たちは!他校の生徒が入っちゃいかん!」

 

 緩みかけた空気を、老齢の男性の一喝が締めた。呆気に取られた悠仁と恵、眉間にややシワが寄る恵。

 

「入館許可はもらってるッス」

 

 新田が落ち着いて入館証を提示して、白髪の男性は眼鏡を正してそれを見た。

 

「あぁ、君たちか。皆若いなぁ、入館証は首にかけてくれないと」

 

 彼は得心がいったようで声を落ちつけて穏やかに話した。その視線が、恵に固定される。

 

「伏黒君か」

 

「……ども」

 

 恵は気恥ずかしそうにしつつも、男性からは目を背けない。

 

「覚えられてるぅ」

 

「この人はこの学校長いんスか?」

 

 茶化しにいく悠仁、茶化し半分情報欲しさ半分に尋ねる新田に恵が答えた。

 

「多分。武田さんは正規の方なんで」

 

「じゃあ、後任せたッス!」

 

 適材適所と言えば聞こえはいいだろう、新田は恵に聞き込みを投げた。実質職務放棄である。それでも事情を説明する辺り、伏黒恵とは真面目な人物である。

 

「亡くなった事についても驚きだが、彼らが卒業して二十年も経つのか。昨日のことのように覚えているよ。伏黒君ほどではないが、問題児だったからね。何が聞きたい?」

 

 恵は先生に質問するように小さく手を挙げて口を開いた。

 

「変な噂、黒い噂、悪い大人との付き合い」

 

「やーい問題児ー」

 

 茶化さずにはいられない悠仁。恵は表情を変えないまま上げた手で拳を作って悠仁の頭を殴った。

 

「あと、バチ当たりな話とかあれば」

 

 恵の最後の発言を受けて、武田は顎に手を添えて当時を思い返すように語りだした。

 

「バチ当たり……?深夜、八十八橋でバンジージャンプをするのが不良少年の間で流行ったんだ。いわゆる度胸試しだねぇ」

 

「八十八橋って?」

 

 地元ではない悠仁がすかさず聞いた。恵が答える。

 

「自殺の名所。この辺で有名な心霊スポットだ」

 

「今回の怪死に遭った彼らが中学時代の頃にね、ある日、無断欠席をしたんだ」

 

 武田の語り方は、まるでオカルト話をするような、しかしどことなく真剣な表情になった。

 

「そう珍しいことではなかったんだが、家に連絡してみると、前日から帰ってないと言うじゃないか。結構な騒ぎになってねぇ、そしたら、橋の下で倒れているのが見つかってねぇ。大説教になったが、『本人達は何も覚えていない』の一点張りだったよ」

 

 

 

 武田の証言を受けて一行は場所を変え、会議を始めた。ここからは呪術師の話になる。

 

「当たりッスかねぇ」

 

「八十八橋なら、俺も行ったことがあります」

 

「バンジーしに?」

 

 無言で殴られる悠仁。本日二回目にして、涙目になっている。

 

「心霊スポットは学校とかと同じ、呪いが溜まりやすい。だから高専関係者が定期的に巡回するんだ。その時はなんともなかったですね」

 

「伏黒君」

 

 穏やかな老齢の声、武田の声が恵の背中に投げかけられた。振り返る恵に武田は続けて語り掛ける。

 

「すまない、気になることがあってね。学校にいた時は色々世話になってたんでなぁ。津美紀くんは、元気か」

 

 恵が表情を変えないまま、少しだけ押し黙る。一拍置いて口を開いた。

 

「……はい」

 

「津美紀って誰?」

 

「……姉貴」

 

「えっ、伏黒って姉ちゃんいたの!?」

 

 恵はそれ以上を語らなかった。武田は恵の言葉を信じたようで、満足そうに引き返していった。

 

 

 

 その夜。悠仁と恵は八十八橋の上にいた。新田の運転していた車から降りて、二人は待機する。

 

「ここッス。鯉ノ口峡谷、八十八橋。呪霊が確認でき次第、()を下ろすッス」

 

「りょーかい」

 

 自信に満ちた表情で言う悠仁の手には、何故かPロープ。以前のゴーストライダー戦で優太が調達してきたものが携えられている。

 

 新田は路上駐車になることを避けるため車に乗ってその場を離れた。背の高い柵にもたれるようにして二人は待機し、悠仁に関しては大きなあくびを溢した。

 

「ぜんっぜん気配ないんだけど?」

 

「俺に聞くな」

 

 飽きた様子の悠仁。こめかみに青筋を立てた恵。

 

「そろそろ、アレ試してみますかね」

 

 悠仁が立ち上がって、手元のPロープを伸ばし始めた。

 

「強度足りるのか」

 

「優太が調達したんだろ?ヘーキヘーキ」

 

 ちなみに、これは優太が適当にコンビニで買ったものである。平気なわけがない。それを正しく察した恵が、紐を鎖状に結んで強度を上げる結び方──鎖結びをし始めた。

 

「おぉ、伏黒なにやってんの?」

 

「ロープの強度を上げる結び方だ」

 

「なんでそんなの知ってんの?」

 

「……宮城島がやってた」

 

「……なんで優太そんなの知ってんの?」

 

「……知るか。宮城島に聞いてくれ」

 

 二人はそう言いつつ、「あの宮城島優太だもんなぁ」となんとなく納得してしまった。




「……この人たまに自分で言うんだよ」
「最後ミチミチって言ってたな、結構ビビった」
「中二の時、夜の八十八橋に」
「手順、ッスね」
次回:カノン-伍-

余話・歌うま優太の秘訣
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