呪術廻戦⇔   作:たゆたう 累

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アンサンブル-弐-

 真希がパンダを荷物持ちにしていると知って呆れ顔になった恵のもとへ、棘と悠仁がやってきた。どうやら休憩の合間に話の輪に加わりにきたようだ。

 

「俺、持とうか?」

 

「やむを得ず単独行動になった場合がマズイだろ。それに、相手が必要な時に呪具パスできるほど、お前器用じゃないだろ」

 

 悠仁の提案を恵は即座に却下して、悠仁は口をあんぐりと開いて露骨にショックを受けた表情になった。悠仁もパンダも確かに人に優しい、しかしパンダは人をよく見ているのに対して、悠仁は単純に根明というだけだ。

 

「すじこ」

 

 そんな悠仁を置いておいて、棘が恵の影を指さしてから両腕を広げた。

 

「あぁ、領域ですか。掌印抜きで式神は出せますけど、一回の消耗が大きいので、領域前提の戦い方はできないですね」

 

「……そうじゃなくて、領域展開した時の敵の動きを言ってるんじゃねえか?」

 

 いち早く察知した様子で、真希が補足した。

 

「敵の動き?」

 

「お前、この前領域使って特級祓った時、ハイになってて報告書の内容かなり抜けてただろ。けど普通に考えて、お前の新しくなった玉犬よりさらに速い呪霊が、恵の領域展開を受けてからはそのスピードを出さなかった。いや、()()()()()()んじゃないのか」

 

 どうやら真希は、他人の報告書にも目を通すようだ。術式を持たず、呪具と己の肉体のみで戦う彼女にとって、呪霊との交戦記録自体が情報という武器になるのかもしれない。

 

「確かに、蝦蟇(がま)で足止めはしてましたけど」

 

「本当にそれだけか?よく思い出してみろ」

 

「ツナツナ」

 

 棘はそう言って、片足が沈み込むように見えるジェスチャーをした。それを見て、恵が何か気付いたような顔をして、自身の影に手を添える。

 

「あの時は、影を空間に押し出すイメージが先行してたんです。でもそれって、押し出せるだけの影の奥行きが俺の影の中にある、ってことですよね」

 

「いや、そこまでは知らねえよ」

 

 真希は十種影法術の使い手ではない。当然、そこまでは知らない。しかし恵にとってはこれは思考を整理するための独り言だったようで、彼の手は自身の影に吸い込まれるように沈み込んだ。

 

「おお?」

 

 真っ先に目を見開いたのは悠仁。続けて棘と真希が興味深そうに覗き込んだ。

 

「呪具の持ち運び、なんとかなりそうです」

 

 恵の確信めいた声色に、悠仁が目を輝かせた。

 

「伏黒の影も四次元ポケットになる!?」

 

「……あのなぁ。宮城島の内ポケットは収納の技、俺の影はキャパも中身もよく分からん。そんな都合のいいものなわけあるか」

 

 恵が呆れ顔で悠仁を見ながらそう言ったので、悠仁は「ちぇ~」とつまらなさそうに呟いた。そんな悠仁を気にした様子もなく、恵は手探りで影の()()を確認して肘まで腕を突っ込んだところで腕を引き上げた。

 

「底はわからないですね。反発するような力もないんで、どこまで落ちてくかわからない感じです」

 

 恵の言葉を聞いて、棘がグラウンドの端まで走っていって、帰ってきた。差し出した手には小石がある。

 

「ツナ」

 

「確かに、小石なら検証に使いやすいですね」

 

 恵はそう言って、片膝立ちのまま棘から小石を受け取り、それを影の中に収納してみる。数秒の沈黙、焦れたように真希が口を開いた。

 

「で、どうなんだ?異物感とかあるのか」

 

「異物感、ってほどじゃないですけど。小石が入ってるなっていうのは分かります」

 

「底は?物があるって分かるなら底も分かる感じ?」

 

 悠仁はどうやら容量が気になるらしい。しかし、恵は首を小さく横に振った。

 

「底らしいのは感じない。ずっと()()()()()みたいな感じだな」

 

「底なし沼?」

 

 恵は、先ほどまで影の中に入れていた手を悠仁に見せた。そこには水の一滴もついていない。

 

「水とは違う。もっと単純な空間って感じだな」

 

 そう言いつつ、影の中から小石が浮き上がってきて、小さくカツンと音を立てて地面に戻ってきた。それを見て、真希が不思議そうな顔をする。

 

「今の、なんだ。反発する力はないんじゃないのか?」

 

「影の中だと、ほとんど使ってないのと同じくらいの呪力消費で式神が使えるみたいです。今のは影の中で蝦蟇(がま)を使って、小石を吐き出した感じです」

 

()()()()()って、どういう理屈だ?普通式神を使うには呪力食うだろ」

 

 真希は術式を持たず、呪力を武器に篭められるほどの呪力を持っているわけでもない。しかし、呪術師として戦う以上呪術の基礎は知っているようだ。

 

「それは式神を()()させる時ですね。俺の場合、影を媒介にして式神を出すんで、その影の中は嵌合暗翳庭(かんごうあんえいてい)に近い性質があるみたいです」

 

「それだと常に領域展開してるみたいなものか?それがリソースほぼ使わないって、どういうことだ……?」

 

「体の中って、一種の結界みたいなものなんですよ。だから対象の体内に直接術式を作用させる場合、釘崎の芻霊呪法(すうれいじゅほう)みたいに対象と繋がりのある触媒が必要になる。俺の場合は、この体の中の結界が影にも及んでる、って感じですかね」

 

「『感じですかね』ってお前……。理屈はわかったけど、そんなアバウトで大丈夫なのか」

 

 分かった真希に対して、悠仁は分からないようできょとんとした顔で恵と真希の会話を聞いている。棘に至っては、恵の影の中に手を入れて遊んでいた。

 

「大丈夫、というより術式自体がそもそもアバウトなんですよ。生まれつき術式を持ってる場合、大体小学校に上がる前後で術式を自覚するんですけど。俺の時は『あ、なんか玉犬呼び出せるな』ってなんとなく分かったんです。他の式神も同じですね」

 

 真希はその言葉を、顎に手を添えて考え込むようにしながら聞いて、小さく口を開いた。

 

「……なるほど、つまり術式ってのは指先を動かすようなもんで、術式の解釈を広げるってのは、箸持ったり刀の握り方覚えたりするのと似たような感じか」

 

「そんな感じですね。俺も今ダオを繰り返し使ってみて、どういう武器なのか分かってきてるのと一緒です」

 

「使い方が分かれば応用が利く、それが術式の解釈ってわけか。悠仁、倉庫からありったけの武器持ってこい」

 

「うーっす」

 

 悠仁は真希のあっさりとした命令口調に特に反感を抱く様子もなく、ニッと笑って小さく敬礼をした後、持ち前のフィジカルで素早く倉庫まで走って行き、一分とかからず大量の武具を抱えて走って帰ってきた。

 

「一個ずつ入れていく。恵の言ってるキャパってのがどれくらいか、今の内に理解しとけ」

 

 真希はそう言うと、悠仁が抱えるようにしている束の中から鞘に納まった日本刀を一振り取って恵の影の中に入れた。そうして、恵の顔色を窺うように彼の顔を見ている真希の横で、棘がとりわけ重たそうな巨大な戦斧(せんぷ)を影に入れ始めた。

 

「棘……」

 

 そして呆れたような声色で真希が指摘して、棘は悠仁の背後に隠れた。

 

「うっ、これ普通に重いですね。自分の体重が増えてる感覚です」

 

 戦斧(せんぷ)が入り切ったところで恵が眉間にシワを寄せた。

 

「まだいけるか」

 

「あと数本、って感じですね」

 

「分かった、出していいぞ」

 

 真希の指示を受けて、恵が影の中に手を入れて戦斧(せんぷ)を取り出して地面に置き、次いで日本刀を取り出して悠仁に差し出した。

 

「悠仁、片付けてこい」

 

 日本刀を受け取る悠仁に真希が無愛想に指図した。

 

「えっ!こんなに持ってきたのに!?」

 

 真希は気にした様子もなく、戦斧(せんぷ)を拾い上げて悠仁に押し付けるようにしながら渡した。

 

「キャパが分かったんだ、もう要らないだろ」

 

「はーい……」

 

 悠仁は取りに行くときとは打って変わって、どこかやるせない雰囲気を漂わせながらとぼとぼと倉庫の方へ歩いていった。それを見送りながら、真希が口を開く。

 

「影の中に入れれても、重さまで消えるわけじゃない。呪具の携帯は多くても二つ、それかお前自身が鍛えてキャパ上げろ」

 

「真希さん、俺を荷物持ちにさせる気ですか」

 

「いや?レパートリーは多い方がいいだろ」

 

 そう言う真希は言葉に反して、喉の奥で笑いを堪えつつ、その横顔はどう見ても企んでいるような笑みを浮かべていた。恵は再度、聞かなきゃよかったと呆れた顔になった。




「皮肉なもんだよなぁ」
「……太極拳、だったか。」
「俺は人間じゃないからよ、そういう考えはよく分からねえ。」
「相変わらず、巨体に似合わねえ動きするな!」
「……しゃけ」
次回:アンサンブル-参-
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