呪術廻戦⇔   作:たゆたう 累

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戦場のマエストロ-弐-

 高等学校で学ぶ一般的な教育については、()と呼ばれる呪いを視認できて高専に協力している一般人が行う。というのも、教員免許を持った者が授業を行うのは公務員と見做されるので、呪術師との兼任──つまり副業はできないのだ。

 

 恵の授業態度は非常に勤勉で非の打ち所がない。野薔薇は頬杖を付きながらもちゃんと授業は受けている様子で、優太はチュッパチャップスの棒を咥えながら黙々と授業を受けている。普通の学校なら指摘されてもおかしくないのだが、ここは呪術高専。優太の緋色の瞳を見て何かを察したのか、特に指摘されない。悠仁は机に突っ伏して居眠りをしては、教師に叩き起こされるというのを繰り返していた。

 

「悠仁お前……。居眠りするにしてももうちょっとやり方あるでしょ」

 

「いやぁ、ついつい眠くなっちゃって」

 

 呆れた様子の優太と、気恥ずかしそうに後頭部を掻いている悠仁。

 

「それよりさ!これから伏黒と自主練するんだろ?俺も見に行っていい?」

 

「先生がわざわざ見に来るって、呪力絡みでしょ。私も行くわよ」

 

 優太と恵が疲れたような顔で目を合わせた。五条悟のせいで外野が増えた、と言う意識が通ったことを二人だけが認識して、同時にため息をついた。

 

「構わない、ただし邪魔はするな。宮城島の術式の確認だ」

 

「えっ、優太術式あったの!?」

 

「俺も今朝気付いたんだよね。ないものだと思い込んでたせいで気付くのが遅れた」

 

「思い込みがあると認識できないだけで、無意識に使ってた線は?」

 

 教室からグラウンドへ向かう一行の中、優太と横並びになった野薔薇が、隣から顔を覗き込むように優太を見る。必然的な上目遣いに優太は思わず野薔薇から半歩遠ざかり、進行方向に視線を固定する。

 

「わからん、全部呪力操作の延長だと思ってたから」

 

「でも昨日の人面蜘蛛呪霊、最後内側から爆発してたでしょ。あれ単純な呪力の動きじゃないわよ」

 

「……そう、なのかな。昨日が初めて呪霊祓った経験だったから、わかんねえわ」

 

 後ろで、悠仁が恵にコソコソと「釘崎が褒めてる」と話して恵が「やめとけ」と言う。案の定、鬼の形相の野薔薇に睨まれて悠仁が引っ込んだ。優太は不思議そうな顔をしていて、背後の会話に気が及んでいないようだった。

 

 

 

 グラウンドに着くと、悟がベンチに座ってハーゲンダッツを口にしていた。

 

「あ、ずりぃ!俺達には!?」

 

 悠仁がすかさず食いつくが、悟は悪びれた様子がない。

 

「ないよ?いつ来るかわからないのに買って、溶けたら嫌じゃん」

 

「うっ、確かに……」

 

「それよりも。うん、あるね。術式」

 

 悟は丸眼鏡のサングラスを額に押し上げて優太を見て、すぐさま看破した。透き通る蒼の瞳、六眼は相手の術式を見ることもできる。

 

「本質は呪力の調整、いや調律と言った方が正しいかな。術式を付与した対象の呪力の流れを、優太くんの術式が最適なテンションに調律してくれる。使ってみな、見てるから」

 

 普段の軽いトーンとは違い、教育者としての厚みのある声色になっている。その声を聞いてどことなく安心感を覚えたのか、恵は一つ頷いて手で狼の頭を模した掌印を組む。影が狼の牙まで再現しているのは術式の影響だ。

 

「玉犬」

 

 恵の影から白の狼と黒の狼が飛び出す。

 

「どっちにかける?」

 

「白の方が偵察に使うことが多い。白にかけてみてくれ」

 

「おっけー」

 

 優太が玉犬・白に歩み寄り、犬の頭を撫でるように手を置く。緋色の呪力がゲル状の膜を形成して、玉犬・白の輪郭を包んだ。どことなく心地よさそうに目を薄めている様は、狼と言うより犬に近い。

 

「反発も共振もなさそうだな。文字通りコーティングしている感覚だ。黒、軽く引っ掻いてみろ」

 

 恵の言葉を受けて、玉犬・黒が白に爪を立てて腕を振り下ろす。振り下ろした軌道が緋色の膜に沿って逸らされ、白は嬉しそうに尻尾を振っている以外これといった変化はない。

 

「へぇ。緩衝材の効果もあるんだ。優太くんの呪力特性の影響かな」

 

 悟はサングラス越しにその光景を見て、少し興味深そうに観察している。どうやらゲル状になっているのは術式効果ではないようだ。

 

「軽く走ってみろ」

 

 恵は続けて、白と黒を同時に動かしてみる。元々機動力に優れた狼型の式神だが、その走力は優太の術式を施されていない黒と比べて、白は圧倒的に素早く、そして体の使い方に一切の無駄がない。

 

「イメージ通りに体が動かせる、ってのはこういう事か。動作が最適化されてる」

 

 先にトラックを一周して戻って来た白は、誇らしげに恵の近くで座りつつ尻尾を振っている。遅れて合流した黒は物足りなさそうに地面を引っ掻いていたので、優太はほくそ笑みながら黒にも呪力の膜を施す。興奮した様子の黒が、恵の指示も待たずにトラックを追加で一周し始めた。

 

「……式神に感情移入するやつ、初めて見たな」

 

「「え、そう?」」

 

 優太の行動に不思議そうな顔をした恵に答えたのは、悠仁と野薔薇だった。どうやら似た者が集まったチームのようだ。恵は視線を逸らして頬を指先で掻いていた。

 

「よっし、じゃあ次俺!俺頑丈だから、ちょうどよくない?」

 

 人体へのテストを申し出たのは悠仁だった。優太は顎を引くように一つ頷くと、悠仁の肩に手を置いて呪力の膜を展開する。肩を起点にヌルっと膜が広がり全身を覆った。悠仁は目を輝かせてその場で軽くジャンプしている。

 

「お、これ。体の芯から温まる感じだな。今ならめちゃくちゃジャンプできそう」

 

「ただでさえ一階から二階にジャンプできるのに、もっと跳ぶん?」

 

 昨日の任務中の悠仁の大跳躍を優太は思い出して、それより跳べるとなれば、それはもう跳躍の次元を超えてしまいそうだと首を傾げた。

 

「へへっ、まぁ見てて」

 

 悠仁はそう言って数歩助走をつけてグッと深く屈んで踏み切り、真上に跳躍する。全員が顔を上げなければ悠仁の跳躍を確認できないほど、高く舞い上がっていた。

 

「うおー!すげぇ!」

 

 遥か高い最高到達点から、悠仁が興奮気味に叫ぶ。そこから重力に従って降りてきて、綺麗に着地した。

 

「着地の衝撃もほとんどないな、これマジですごいぞ!」

 

「どちらかと言えば悠仁のフィジカルがすげぇよ……」

 

 サムズアップを見せた悠仁に対して、額に手を当てる一同。悟だけがケラケラと笑っている。

 

「さっきの高さ、転がって着地しないといけない高さだよねー。それを普通に着地できちゃうってことは、被術者のフィジカルも呪力操作も底上げできちゃうってわけだ」

 

 悟の六眼がなくてもわかることではあったが、悟が言うことで悠仁が無理をしているわけでも痛みを我慢しているわけでもないことが証明される形になった。

 

「後は術式維持に使う呪力量だな。宮城島、どうだ?」

 

 恵が冷静に状況を分析した。今は玉犬二体と悠仁の三方向に術式を付与している状態、多少呪術的知識があればすぐに思い当たる問題だった。

 

「んー、他人に展開する時は自分にかけるよりちょっと消耗するかな。でも誤差って言っていい程度だし、継続する方はそんなに消耗してる感じしない」

 

「家電製品を起動する時が一番電気食うっていうのとおんなじだね。僕の目から見ても、優太くんの底が見えない蓄積呪力は相変わらずだよ。でもこれ、普通の術師だと扱えないね」

 

「宮城島の呪力を溜め込む体質ありき、って事ですか」

 

 恵は優太の体質を正しく理解しているので、本来ならどれだけ激しい呪力消費であるかすぐに分かったようだ。野薔薇はなんとなく分かったような顔をして、悠仁はシャドウボクシングをしていてまるで話を聞いていない。

 

「そういうこと。まぁ、ほんとは優太くんが呪力暴走起こした後にもう出来上がってた術式なんだけどね」

 

「え?」

 

「あれ?言ってなかったっけ?」

 

「聞いてないが?」

 

「じゃあ今言ったってことで。面白いよね、一度器が壊れかけたことで、体がその負荷に適応するために術式を無意識に体に刻み込んだ。人体の神秘ってやつかなぁ」

 

 悪びれた様子もなくアハハ~と笑う悟。目を輝かせて体を動かす悠仁。三人はどこからツッコミを入れればいいのかわからなくなり、同時にため息を吐くことしかできなかった。

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