テンポが悪くて申し訳ないですがここからはいくつかこう言った話を入れさせていただきます。自分的にはこの辺りは大切にしたい部分なのでご理解の程よろしくお願いします。
思ったことがあれば口にする。
頼りにされたら応えるし、身内は大切にする。
それが、私にとっては当たり前だった。
でも、最初からそんな人間だったわけじゃない。
むしろ、小さい頃の私は、人付き合いが得意な方ではなかったと思う。
目つきが鋭い。
言葉遣いも少し強い。
思ったことをそのまま口にする。
そんな性格だったせいか、初めて会う子にはよく怖がられた。
「怒ってるの?」
そう聞かれたことなんて、一度や二度じゃない。
もちろん怒ってなんかいない。
普通にしているだけなのに、そう見えてしまうらしかった。
だから輪の中にはいても、どこか少しだけ浮いていた。
正直に言えば、自然と人が集まる子が少しだけ羨ましかった。
みんなの中心で笑っている子。
でも、自分がああなれるとも思っていなかった。
だから無理に変わろうとはしなかった。
そんな私が初めて誰かのトラブルに口を挟んだのは、小学生の頃だった。
別に正義感なんて立派なものじゃない。
誰かを助けようと、最初から考えていたわけでもない。
ただ、見ていて腹が立った。
何人かで一人を囲んで笑う。
嫌がっている相手を見て面白がる。
周りも気付いているのに、誰も止めない。
寄ってたかって一人をいじめる。
そんな姿が、どうしようもなく格好悪く見えた。
だから口を挟んだ。
「ねえ、人のもの隠して楽しいわけ?」
その時、いじめられていたのが柚原菜月だった。
最初、菜月は私にも怯えていた。
助けてもらったはずなのに、目が合うだけで少し緊張したように笑う。
それがおかしくて、
「大丈夫。怖くないから」
そう声を掛けた。
そこから少しずつ話すようになって。
休み時間。
帰り道。
気付けば毎日のように一緒にいた。
ある日、菜月が言った。
「志保ちゃんって、本当は優しいよね」
意味が分からなかった。
私は優しくなんてない。
菜月のことだって、気に入らないから止めただけ。
それだけだった。
でも菜月は何度もそう言った。
その言葉が少しずつ周りにも広がっていったのだろうか。
菜月が普通に笑って話している。
それを見た子たちが、私のことを
「怖い人じゃないんだ」
そう思うようになったのだろう。
話しかけられることが増え、頼れると思われたのか相談をされることも増えた。
最初は戸惑った。
私なんかに何を相談するんだろうと思っていた。
でも、相談に乗ってあげるとお礼を言われる。
「ありがとう」
そう言われるたび、不思議と悪い気はしなかった。
誰かの役に立てる。
頼られる。
そんな自分も、案外嫌いじゃないと思えるようになっていた。
小学校を卒業すると、菜月とは別々の中学校になった。
正直一番の友達だったので離れることは悲しかった。
卒業式の日、菜月はずっと泣いていた。
「家は近いんだし、すぐに会えるでしょ」
そう言っても首を横に振るばかりで、最後まで涙は止まらなかった。
困った私は、髪につけていたヘアピンを外して菜月に渡した。
「これあげる」
「え……?」
「これがあれば、少しは寂しくないでしょ」
そんなことを言った気がする。
菜月は涙でぐしゃぐしゃの顔のまま笑って、「うん」と頷いた。
あの日の菜月の笑顔は、今でも覚えている。
中学校へ進学しても、最初は小学校と大きく変わらないと思っていた。
ただ、一つだけ大きく変化していったことがある。
それは男子が急に大人になったことだった。
体が大きくなり、力も強くなる。
小学生なら女子だけでも止められた場面で、「怖い」と感じる子が増えていった。
廊下でふざける男子。
教室で騒ぐ男子。
先生が来るまで止まらないことも珍しくなかった。
そんな時、私が男子を相手に注意することが増えた。
私は昔から、相手が誰でも言うことは言う性格だった。
もちろん怖くないわけじゃない。
睨まれたこともある。
怒鳴られたこともある。
それでも、公衆の面前で女子を殴る男子はいなかった。
だから引かずにいれば相手が引くことが多かった。
私はそう言った場面で頼られることが増えていった。
頼られることは嫌じゃなかった。
むしろ嬉しかった。
自分にも役割がある。
そう思えるのは、少し誇らしかったから。
けれど、その頃の私はまだ知らなかった。
頼られることの大変さを。
それは中学二年のクラス替え。
そこで私は、相沢彩華と同じクラスになった。
第一印象は、「すごい子だな」だった。
可愛い。
勉強もできる。
運動もできる。
誰とでも話せる。
男子も女子も自然と周りに集まってくる。
相沢は人を惹きつけるタイプだった。
正直、少し羨ましかった。
でも、同時に少し苦手でもあった。
輪の中心にいる人特有の、自信。
悪く言えば、自分たちが基準だと思っているような雰囲気。
そんなものを何となく感じていた。
もちろん、その時はまだ対立なんて考えてもいなかった。
適当に距離を取りながら過ごせばいい。
そう思っていた。
でも、その考えは長くは続かなかった。
ある日、一人の女子が私に相談してきた。
相沢のグループの子と好きな男子が重なった。
それ以来、無視をされるようになり、陰口を言われるようになったという。
教室にいても居場所がない。
そんな話だった。
私は、昔のことを思い出していた。
小学校で菜月が囲まれていた日のことを。
結局、やっていることは同じだった。
人数で一人を追い詰める。
味方が多い方が正しいみたいな空気。
それが、どうしても気に入らなかった。
それでも最初は、穏便に終わらせるつもりだった。
その子が一人にならないよう、小学校からの友達にも声をかけ、一緒にいてもらうようにした。
それでひとまずは落ち着くと思っていた。
しかし、今度は、その友達まで嫌がらせを受け始めた。
その時、私は初めて気付いた。
相手は、周りの人間まで標的にする。
だから私は昼休みに相沢のところへ行った。
「少しいい?」
相沢は友達と話していた手を止めて、こちらを見た。
「何?」
「あの子たちへの嫌がらせ、もうやめなよ」
「嫌がらせ?」
「無視したり、陰口言ったり、周り巻き込んだり。散々やったしもう気は済んだでしょ」
少しだけ首を傾げる。
「私は普通に話してるんだけど。何か証拠でもあるの?」
周りの女子も口を開く。
「嫌がらせとかって大げさだよね。」
「私もそんなの見たことない。」
そこで私は思ってしまった。
これは話し合いでは解決はできない。
彼女たちに対抗するにはこちらもグループを作るしかないと。
相沢のグループは強かった。
人数が多いからじゃない。
可愛い子が集まっているからでもない。
「あの子たちには逆らわない方がいい」
そんな空気が、クラスの中に出来上がっていたからだ。
嫌われたくない。
目をつけられたくない。
だから理不尽なことをされても、誰も口を開かない。
本当は納得していなくても、関わらない方がいいと自分に言い聞かせる。
そんな子がほとんどだった。
でも、全員がそう思っていたわけじゃない。
休み時間。
部活帰り。
誰もいない廊下。
人目につかない場所で、少しずつ相談を受けるようになった。
「あの子たち、本当は苦手。」
「前から嫌だった。」
「でも、怖くて何も言えない。」
そんな言葉を何度も聞いた。
そのたびに思った。
だったら、一人で我慢する必要なんてない。
私は一人ずつ話を聞いた。
「また何かあったら私のところへ来なよ。」
そう伝えるようになった。
最初は数人だけだった。
昼休みに一緒にご飯を食べるようになって。
帰り道を一緒に歩くようになって。
誰かが困れば、みんなで話を聞く。
そんな毎日を繰り返しているうちに、気づけば私がグループの中心になっていた。
この一年は、本当に長かった。
仲間外れ。
恋愛絡みの揉め事。
陰口。
噂話。
マウントの取り合い。
時には暴力事件に発展しそうにもなった。
次から次へと問題が起きる
その度に私は首を突っ込んでいった。
忙しい日々が私から日常を奪っていく。
しかし、沢山の出来事と向き合う中で私は気付けたことがあった。
女子同士の争いで必要なのは、影響力だと。
誰の言葉に人が耳を傾けるか。
誰のそばなら安心できると思われるか。
誰を敵に回すと面倒だと思わせられるか。
そのためには、簡単に引いてはいけない。
一度でも「押せば折れる」と思われたら終わる。
だから私は変わった。
言葉で主導権を握ること。
その場の空気を味方につけること。
相手の矛盾を突くこと。
必要なら挑発して相手の感情を乱すこと。
そうやって、女子同士での戦い方を覚えていった。
そうしないと、守れないものがあったからだ。
やがて、私たちのグループは大きくなり、相沢たちのグループに対抗できるまでになった。
グループの力が拮抗するとお互いに真正面からぶつかることは少なくなった。
そうして均衡が保たれたまま学年が一つ上がる。
三年生になると、クラス替えで相沢とは別のクラスになった。
それだけで、あいつとの関わりはなくなっていった。
私たちの争いはひとまずの終着をみせた。
でも、それで全てが元に戻ったわけではない。
私が一年間かけて築き上げてきたものはそのまま残った。
昼休みになれば人が集まる。
誰かが困れば相談が来る。
何かあれば、私が前に出る。
私は、相変わらずみんなの中心に立っている。
それが当たり前になってしまった。
そんな日々が、この先も続いていくのだと思っていた。
けれど、その当たり前が変わるきっかけは、思いがけない形で訪れる
進路指導の先生から高度育成高等学校を受験しないかと声をかけられたのだ。
卒業すれば進学も就職も希望通り。
学費もほとんどかからない。
生活に必要なものまで学校が支援してくれる。
そんな夢みたいな学校に私が?
「試験だけでも受けてみないか?」
先生はそう言った。
もし受かったらラッキー。
そのくらいの気持ちだった。
でも、試験を受けて。
合格通知が届いて。
家族も先生も喜んでくれた時、少しだけ実感が湧いた。
「本当に受かったんだ」
私は嬉しかった。
もちろん、新しい学校への不安はあった。
知らない土地。
知らない人たち。
寮生活。
今までとは何もかも違う環境。
でも、不思議と楽しみだった。
中学校でやってこられた。
なら、新しい学校でもきっと何とかなる。
そう思っていた。