ワイルドゾーン17ぐらし!! 美少女AIポリ子ちゃん   作:ナニトゾ

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7話 メゾン・ヘリオスの最期

 

ふと気がつくと、そこは自室の床の上だった。さっきまで、自分は屋上にいたはずだが。ジェイミーは自分の頭を軽く揺する。

 

何故ここにいるのか、記憶はないが。しかし多分、暫く眠っていたのだと思う。恐らくグロットが、彼をメゾン・ヘリオス内まで搬入してくれたのだろう。

ジェイミーがのそりと立ち上がれば、全身に鋭く痛みが走る。

 

 

「って……」

 

 

今朝方の、一連のトラブルを想起した。カエンジシ。エアームド。ランプラー。多分、同じトラブルは今夜も起こる。

 

その報告だけでも、しに行こう。

ジェイミーは軋む手足を動かして、廊下に出て、階段を下り。エントランスの共用スペースまで、よたよた、のそのそ歩み出る。

 

 

「おはようジェイミーくん。身体の調子はどうだい?」

 

「全身クソ痛いですが、痛いだけです。人間って丈夫なんですね」

 

「いや、多分……ジェイミーくんの才能だと思うよ。実はポケモンレンジャーとか向いてるんじゃないかい?」

 

「まさか。俺はもう30半ばですよ」

 

 

ジェイミーがそう言えば、まだまだ若い、とジンペイタは笑って、彼にリョクチャを差し出した。

椅子に掛けて、ぐい、と一気飲み。

 

 

「グロットさんは」

 

「もう帰ったよ。折角だから、お昼ご飯は食べていってもらったけどね」

 

「そうですか」

 

 

ふう、と息を吐き出した。

昨晩観測した事項について、整理して、説明する。

 

メゾン・ヘリオスの壁面を焦がしたのはカエンジシの炎であること。

しかしそれはカエンジシ同士の争いによるものではなく、上空から振り注ぐエアームドの鋭い抜け毛への対抗であること。

エアームドは毎夜アパルトマン屋上に現れるランプラーと縄張り争いをしており、現在は換毛期であるため争いで羽根が抜け落ちること。

 

 

「そうかいそうかい……エアームドか」

 

「暫くは煩い夜が続くかもしれませんが、エアームドの換毛期の間の辛抱です」

 

「それどれだけ続くんだい?」

 

「……どれだけでしょう」

 

 

ジェイミーはポケットに手を突っ込んで、モンスターボールからポリゴン2を出す。

 

 

「♫♪」

 

「ポリ子、エアームドの換毛期ってどれくらい続く?」

 

 

そう問いながら、浮かんできたポリゴン2の、その首元の機械を弄る。その直後にはいつものように、ホロの少女の姿が現れ。

 

 

『えーと……1ヶ月くらいみたい!!』

 

「結構長いな……」

 

 

その回答に、小さく唸る。

 

 

「窓とか補強しときますか? 俺がやりますよ」

 

「そうだねえ」

 

 

カエンジシの炎でアパルトマンの壁が焼き切れる、とまでは思わないが。しかし窓ガラスが溶けているのも事実。ここは1つ、ウーバーイーツに鋼材の板とか配達を頼めないだろうか、などと考える。

……頼んだとして、グロットは絶対に良い顔をしないだろうが。その際にはチップを弾むとしよう。

 

 

『ねー、ワタシお腹空いたー!!』

 

 

その声に顔を上げれば、ポリゴン2が冷蔵庫前に浮いていた。そういえば、ジェイミーは昼の間気絶していたのだから、必然昼食を摂れていないのだ。

時計を見れば、午後7時。夕飯時ではあるが、まだ用意はない。

 

 

「……とりあえずチョコでも食うか」

 

『やったー!!』

 

 

ジェイミーが冷蔵庫を開けて、板状のチョコレートを取り出す。包装を剥いて半分に割り、それをポリゴン2に投げ渡せば、ポリゴン2は嬉々として齧りだした。

ジェイミー自身も残りの半分を齧りながら、また冷蔵庫を漁りだす。

 

 

「晩ご飯かい?」

 

「今夜は俺が作りますよ」

 

「怪我してるんじゃ?」

 

「身体が痛いってだけですし。むしろ作業してたほうが紛れますよ」

 

「そうかい。楽しみだ」

 

 

冷蔵庫の中を掻き分ける。根菜、ミガルーサの切り身、若干萎びた葉物野菜。さてムニエルでも作ろうか──

 

 

 

ドォンッ!!

 

 

 

空気が、震えた。

 

ジェイミーは衝撃を感じるのと同時に即座にその場に身を屈め──数秒待つ。何も起こらない。

 

 

「……何ですか、今の」

 

「地震かな? カロスだと珍しいね」

 

 

ジンペイタはそう言うが、何かが違う気がする。

ジェイミーはチョコレートを齧り直しながら立ち上がって、携帯端末のアプリを開く。情報をスクロール。

 

そこには。

 

 

「何だこれ──」

 

 

1枚の画像。1枚だけではない、数多の人間によって、数多投稿された画像。それが写すものは、ミアレの住民にとっては見慣れたシンボル、プリズムタワー。

だが、しかし。

 

 

「プリズムタワーが、光ってる」

 

 

こんなタワーは、知らない。

 

ジェイミーは言葉もなく、端末の画面をジンペイタに見せる。

発光するプリズムタワー。その輝きは眩いほどの紫で、何やら瞬く粒子を吹き出している。

──禍々しい。そう感じた。

 

 

「長らく修理中だと思っていたが、修理完了ってことなのかな?」

 

「……それは絶対違います。だって、この写真とかそうですけど、外装が地面に散らばっている。修理が終わったってわけじゃない。きっと、いや──

 

 

考えて、言葉が詰まる。画面の中の、嫌に眩いタワーを見つめる。修理中の事故にしては、プリズムタワーが綺麗すぎる。

タワー内部の修理中ということか、あるいは──あの外装は最初から修理などではなく、タワーを隠すための試みだった?

 

そんな思考を、断ち切るように。

 

 

 

ガァンッ!!

 

 

 

また、轟音。

だが今度は、先程のものとはまるで違う。さっきの音は遠くからのもの。だが今の音はもっと、もっと近くから。

 

そう、すぐ真横からの、轟音で。

 

 

「あ────

 

 

言葉を失った。

 

壊れている。

 

壁が、壊れている。壁が、扉が、柱が。メゾン・ヘリオスの玄関が。

壊れている。壊されている。何かに壊されて、大きく崩れて、穴が空いて。壊した誰かが、入ってくる。

 

誰が壁を壊したか?

分かりきっている。が、分からなかった。何故今になってこうするのかも──何故、その姿が変じているのかも。

 

 

『カエンジシが──メガカエンジシが、玄関に!!』

 

 

悲鳴を聞く。

 

目に映る姿に、息を呑む。

 

カエンジシ。そのポケモンの姿は、ジェイミーはずっとずっと目にしてきた。だが、これは違う。

これまでのカエンジシとは段違いのタテガミ。その熱量。

メガカエンジシ、と呼ばれる姿。

 

 

【挿絵表示】

 

 

知識だけはあった。存在は知っていた。

カエンジシはメガシンカする。1万度以上の熱を持った炎を吐き、燃え盛るタテガミを振り回すらしい。だがおかしい。

 

 

「なんでメガシンカしてるんだ」

 

『トレーナーは──いない!! あのカエンジシ達、野生のままでメガシンカしてる!!』

 

「そんなことがあるのか!?」

 

 

信じられない。が、それは事実目の前にいる。

灼熱を抱えた、猛り狂うメガカエンジシ。オスもメスも揃った、6匹のメガカエンジシ。メガシンカした身体は、プリズムタワー同様に紫色の光の眩い粒子を身に纏い、力を骨身に滾らせて。

 

そうして、それらは今ここで。

メゾン・ヘリオスの壁面を突き破って。

ジェイミーを見ている。

 

 

「──ゥルロアアアアアア!!」

 

「っクソ!!」

 

 

身体を捻る。反射的な行動だった。

 

ジェイミーは自分の身体を投げ出し、横に居たジンペイタも巻き込んで、床を転げて廊下の方へ。さっきまで彼らが立っていた空間は、メガカエンジシの炎で埋められている。

 

 

「上に!!」

 

 

ジェイミーはジンペイタの身体を背負い、軋む身体で駆け出した。背後ではエネルギーが吹き上がり、床板が砕ける音。

カエンジシから、玄関から離れなければ。その一念で、ジェイミーは階段を駆け登る。全身に通電めいた痛みが走り、しかし脚を止められない。後方からはメガカエンジシの唸り声。遠くならない──追ってきている。

 

 

「くっそ!!」

 

『ジェイミー!! ワタシが!!』

 

「頼む!!」

 

 

横に浮いてきたポリゴン2に、背負ったジンペイタの身体を預ける。ジェイミーは廊下を駆け上がり、必死の思いで自室まで。

その直前で、部屋を出てきたアレクシィと遭遇する。彼女は彼女で不安げで、何も理解は出来ていないようで。

 

 

「あの、いったい何が──

 

「カエンジシが入ってきた!!」

 

 

勢いそのまま、ジェイミーはそう言ってしまって、それから、しまったと思う。カエンジシ。その単語だけで、彼女の膝が震えだし。

 

──メガカエンジシの唸り声が、耳に届く。

猶予はない。

 

 

「こっちに!!」

 

 

咄嗟に、彼女の手を取った。自室に飛び込み、それからポリゴン2と、ジンペイタも引きずり込む。

ドアを閉める。鍵をかける。傘を使ってカンヌキ替わりに。棚を押しつけバリケードに。出来ることは全て行い──しかし、まるで足りる気がしない。

 

 

『外に逃げないと危ないよ!!』

 

「でも今はこれしかない!!」

 

 

後方からの声に叫び返す。ジンペイタも、アレクシィも、メガカエンジシと相対して、逃げ切れるような状態じゃない。身を隠してやり過ごして、それで済むことを祈るしかない。

 

ARグラスを、装着する。

 

 

「ポリ子。管理人室のPC、繋げるか」

 

『……やってみる』

 

 

視界にウィンドウを立ち上げる。メゾン・ヘリオス各所の監視カメラに接続する。既に幾つかは破壊されたのか、ノイズが走って何も見えない。が、まだ機能しているカメラを確認するだけでも。

 

 

「ああ、マジか」

 

 

汗が首筋を伝う。

 

 

「ジェイミーくん? 今、何が見えているんだい?」

 

 

ジェイミーは。メガカエンジシが、自然と出ていってくれることを願っていた。一通り暴れ散らして、それで満足して、外に出ることを願っていた。そうなることに懸けて、ジェイミーは部屋に立て籠もった。

だがしかし。

 

メガカエンジシ達は。アパルトマンの中を探索している。空室を1つ1つ。破壊して、確かめている。廊下を彷徨い、鼻を鳴らしている。

ジェイミー(獲物)達を、探している。

 

 

「……事実上、この部屋は包囲されています。この下のフロアにはカエンジシがいて、多分……じきにこっちまで上がってくる。俺達を探してる」

 

「……そんな……」

 

「カエンジシにとって、よっぽど邪魔だったんでしょうね、俺達は。俺達がカエンジシを、邪魔だと思うのと同じくらいに」

 

 

こうなってしまったことの切っ掛けが何だったのか、ジェイミーにはわからない。多分プリズムタワーの発光と関連はあるのだろうが、因果関係は今の彼には掴めない。

とにかくカエンジシ達をメガシンカさせてしまう何かが起きて、その高揚に乗じて、メガカエンジシ達は邪魔者の排除に踏み切った。多分、そういう流れなのだろう。

 

これは悲劇ではない。事故でもない。

先送りにしてきた、目を逸らしていた『いつか』が、今、やってきてしまったというだけのこと。

 

 

「に、逃げないと……」

 

「ジェイミーくん、どうする?」

 

「隠れながら逃げ出すのは、多分無理だ」

 

 

それぞれのウィンドウを確認して、ジェイミーは思考する。

監視カメラ映像を使えば、メガカエンジシを避けての脱出は出来そうに思えるが、しかし。それは恐らく不可能だ。

カエンジシは、聴力にも優れたポケモンだ。メガカエンジシがどうであるかまでは分からないが、強化されこそすれ、耳が悪くなるとは考えられない。

 

 

「部屋を出る、その音だけで。カエンジシに居場所は筒抜けです」

 

「それなら、窓から飛び降りるとかはどうだい」

 

 

ジンペイタの発案。ジェイミーはまた考える。

飛び降り。

──飛び降りる衝撃をポリゴン2のはかいこうせんで軽減するのは、昨晩も一度実践している。だがこの手法で降りられるのは1人だけ。3人の脱出を考えるなら、別の方法が必要だ。

 

室内にあるもの。ベッドのマットレスや毛布。それらを窓から投げ捨ててクッションに。……いや、足りない。だってここは3階だ。それだけでは、きっと足りない。

 

 

「……ジンペイタさん。俺はともかく、貴方には無理がある」

 

「なら、私は置いていけばいい」

 

「それは駄目です」

 

 

ジンペイタの発言を却下する。却下して、また監視カメラの映像を確認。

まだメガカエンジシは、2階を彷徨っている。数は6匹。……改めて、その多さを実感する。例え凄腕のトレーナーであろうと、6匹のメガカエンジシを相手取るのは厳しいだろう、そう思えるほどに。

当然今のジェイミー達に、この群れに立ち向かう力はない。

 

 

「ジェイミーくん。私を置いていきなさい」

 

「それはしません」

 

「それ以外に、どうやって突破するって言うんだい?」

 

 

その提案への反駁を、ジェイミーは持ち合わせていなかった。それでも頷き難くて、ジェイミーは下唇を噛み。

ARグラスを、外す。

 

 

「いいんだよ、私は。そもそもこのメゾン・ヘリオスは、私の終の棲家として構えたものだ。老後の道楽だったんだよ」

 

 

真正面から、ジンペイタを見る。彼の言葉を聞く。

 

 

「ジェイミーくんも、アレクシィさんも。君達にはまだまだ人生がある。老人の道楽に最期まで付き合ってもらったが、私には、君達を送り出す責任があるはずだ」

 

「それは違う」

 

 

聞いて、それでも。

それでも、頷くわけにはいかない。だってそれは間違いだ──責任の所在が、間違っている。

 

 

「責任があるとしたら、それは俺ですよ」

 

「ジェイミーくん」

 

「だって、ジンペイタさん、貴方がここを畳むのを、俺が止めたんだ。止めようとしてた、ずっとここに在ってほしかった、ワガママ言ってたのは俺なんだ、だから──

 

 

だから。

ジンペイタを見捨てる選択肢はない。

当然アレクシィも同様だ。

2人を何とかして逃さなければならず、しかしカエンジシを回避する方策ではジンペイタを救えない。

 

カエンジシを突破する、それしか脱出手段はない。

でも、そのようなことは──

 

 

『できるよ、ジェイミー』

 

 

不意に。

ポリゴン2が。その上方に浮かぶ少女の姿が。そんな風に、言葉を発した。発して、部屋の一角を見上げる。

 

 

『そこの、クローゼットの上の方』

 

 

──ああ、そういえば。

 

 

「……気づいてたのか」

 

『まーね』

 

 

ポリゴン2は、ふわり、クローゼットの片隅まで浮遊して、小さな箱を取って戻った。

開く。

先日持ち帰ってきた通りに、そこに、1つの機械がある。奇しくも今のプリズムタワーの発光めいた紫色、その物体の名称は。

 

 

「──ここに、あやしいパッチがある」

 

 

『あやしいパッチ』。

 

 

「……それって」

 

「アレクシィちゃんは知ってるか。これは、ポリゴン2を進化させる道具です──ポリゴンZに」

 

 

息を呑む、音がした。アレクシィも、ジンペイタも、目を細める。

ポリゴンZがどのようなものかは、2人とも知っていた。

 

 

「ポリゴンZのパワーがあれば、カエンジシの包囲を突破できる。……それ以外の方法は、考えつかない」

 

「……でも、そうしたら」

 

 

そうしたら。

ポリゴン2は、ポリゴンZに進化する。進化してしまう。

 

ポリゴンZ。

ポリゴン2の進化系と、認定されてしまった、バグの産物。その挙動は不安定化し、ポリゴン2時代の記録は失われる。指示を受け付けない事例もあり、トレーナーを攻撃した事故もあった。

しかし引き換えに攻撃的なステータスを獲得し、はかいこうせんの威力はポケモン界屈指のものとなる。メガカエンジシにも立ち向かえる、最強の矛。

 

 

「……」

 

 

選択肢は、2つに1つ。

 

進化をさせるか、させないか。

 





『人命優先だよジェイミー』

「そうしたら、ポリ子ちゃんは」

「静かにしてくれ」

「火の手が上がった!!」

『お願いジェイミー、ワタシは──』

「俺はAIが嫌いだった。今も嫌いだ」

8話 責任を取る覚悟

「だから、この判断だけは、俺がしなくちゃいけないんだ」


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