ワイルドゾーン17ぐらし!! 美少女AIポリ子ちゃん 作:ナニトゾ
あの夜から、1週間が経った。
ピ、ピと。控えめな携帯端末のアラーム音で、ジェイミーは目を覚ます。そこは比較的被害が少なかったとあるレストランの一角で、今は避難所として開放されている区画であった。
「ふわ、わ」
あくびを1つ。
……時刻は9時を少し過ぎたところ。寝過ぎたか、と一瞬身構えて、すぐに緊張を解く。仕事のことなど、考える必要がない。
ここに居ても仕方ない。外に出よう。
ジェイミーはとりあえず、貴重品を鞄に突っ込む。財布、身分証、携帯端末。それから──ポリゴンZの入ったボール。それだけだ。
これ以外の彼の持ち物はせいぜい床に敷いたビニールシートくらいで、そのくらいであれば、うっかり盗まれても構わなかった。
屋外に出て、まず感じたのはホコリ臭さだ。横を見れば丁度、飛び散ったプリズムタワー由来の瓦礫を撤去しているところであった。
ジェイミーはそれを一瞥し、手伝おうかとも考え。しかし既に働いている工務店スタッフを見れば、そんな気も失せる。ジェイミーは非力だ。
「……」
歩きながら、思い返す。
あの夜。プリズムタワーが光った夜。メガカエンジシが襲ってきた夜。ミアレシティ全体で、暴走メガシンカなる凶暴化を起こしたポケモンが暴れていたらしい。プリズムタワー自体が化け物と化しただの、巨大ロボットがそれと戦うのを見ただの、流石にやり過ぎな都市伝説まで流布している。
……振り仰げば、緑色に錆び付いたプリズムタワーの残骸。実は、本当にプリズムタワーは怪物だったのかもしれない。
とにかく。プリズムタワーの崩落とメガシンカしたポケモンの凶暴化現象によって、ミアレシティはめちゃくちゃになった。
ジェイミーのように避難生活を余儀なくされた人間は沢山いるし、ミアレシティを逃げていった人間はより多い。復興に精を出す郷土愛の強い面々もいるが、残念ながら少数派だ。
怪我をした人間も多い。死者については──現在調査中とのことだが。しかしこの規模の災害では、ゼロだとも信じがたい。
喪われたもの──少なくとも、ポリゴン2はその1つだ。
そこに思い至ったタイミングで、ジェイミーは思考を中断する。
「……っと」
既に、目的地に到着していた。
目の前にはカフェ。……先の一件で被災したようで、カフェの外装は半壊しているが、店先にはいつものように店員が立っている。営業しているようだ。
まあ、既にそれを知っていたから、ここに来たのだが。
「いらっしゃいませ!! おもしろい客が集うカフェ、『ツイスター』にようこそ!! ……テラス席だけの営業ですが、よろしいですか?」
「もちろん。ツイスターブレンドを」
ジェイミーは言い切って、それから、少し考えて。
「……あと、そうですね。ツイスターチョコレートパフェデラックスを」
テラス席に掛けて、しばらく。
ブレンドコーヒーとチョコレートパフェが目の前に並んでから、ジェイミーはモンスターボールに手を掛けた。
ぽん、と軽い音。
ポリゴンZが、そこに現れる。
「%&''@」
「……パフェ、食べる?」
「$%&&'」
ポリゴンZは、ジェイミーの言葉には応えない。きょろきょろと、周囲を見回し──それからテーブルの上に何かがあると気がついて、首を傾げる。
「チョコレートパフェだ。頑張ったから、ご褒美な」
そう言ってやれば、ポリゴンZは迷いなく、口をパフェに突っ込んだ。食べ方が乱雑だ。今の身体に慣れていないのか、そもそもこれを食べた過去の記録を失ったのか。
ポリゴンZという存在は、あやしいパッチでバグを起こした影響なのか、内部データの解析が不可能になっている。
当然、『ポリ子』のような機能の増築は不可能。それどころか、かつての記録が残っているのか否か、それを確かめる術すらもジェイミーにはない。
それを知っていてジェイミーは、ポリゴンZに進化させたのだから。今彼が目を細めていることの、その責任も彼にある。
さて、そろそろ時間だ。
「やあ、ジェイミーくん」
顔を上げれば、ジンペイタとアレクシィがそこにいた。ジェイミーは2人に促して、席に座らせる。それからブレンドコーヒーを2杯追加注文。ここで待ち合わせようと、そう話していたのだ。
「そっちの避難所はどうですか」
「私のところかい? ……取り立てて、特には。ジェイミーくんのところと変わらないんじゃないかな。アレクシィさんは?」
「そろそろ通常営業に戻るって言ってました……皆さん、もう避難所から帰っていっていて」
「まあインフラも直ってきたしね。仕事を再開する会社だって増えてきたみたいです」
ジェイミーはそう言いながら、ぐいとコーヒーカップを呷る。ちょうどブレンドコーヒー2杯を携えやって来たウェイターに空のカップを渡して、そのまま2杯目を注文した。
「それならジェイミーくんも、もう仕事に復帰したのかい?」
「まさか。仕事なんて気分じゃないですよ」
肩を竦めて首を振る。自然と彼の視線は泳いで、足元に転がるポリゴンZに落ちていた。既にパフェを食べ終えて暇をしているのか、椅子の脚をつついている。
「……そうか、ポリ子ちゃんはジェイミーくんの仕事も
「それもありますが、そうではなく。……気分の問題ですよ。単に。実際、もう休職届を出してまして」
そう言い切って──ふと、携帯端末が震えるのを感じる。
画面を一瞥すれば、丁度課長から休職届を受理する旨のメールが入ったところだった。とりあえず1ヶ月は、ジェイミーが働くことはない。
そして彼が居らずとも、問題なく職場は回ることだろう。
「……多分、このまま退職しますよ、俺。そんな気がします」
「君自身のことだろうに」
ジンペイタが静かに笑う。ジェイミーも苦笑を返して、2杯目のコーヒーを一口啜った。
もう、今の仕事を──Webデザイナーをやる気はしなかった。
それは
「それで。2人は、これからどうする?」
「どうしましょうねえ」
またコーヒーを啜って、少し瞑目する。ジェイミーがそうしている横で、アレクシィが口を開いて。
「……とりあえず、引っ越します」
そんなことを言った。
「そうかい。……大丈夫?」
「はい、多分、大丈夫……です」
そうせざるを得ない状況であるとはいえ、ジェイミーは彼女自身の口からそんな言葉を聞いたことに驚いていた。だって彼は、彼女があれだけ外を恐れていたことを知っている。しかしアレクシィは、続けて。
「やっと変われたって気がします。……私自身は、変わってないのかもしれないけれど。でも、やっと。久々に、外に出られたんです」
……思い返せば。彼女がメゾン・ヘリオスから出られなかったのは、外にいるカエンジシが怖かったからである。
なら既に外に出てしまった今、もうカエンジシを恐れる必要はない。なるほど、自由なのか。
「ハクダンシティに、親戚がいるんです。とりあえず、そっちに呼ばれているので」
「そうかいそうかい。ひとまず良かった。……ジェイミーくんは? これからどうする?」
「どうしましょうねえ」
別に、次の仕事のアテがある訳ではない。だが貯蓄はそれなりにしているし、しばらくは働かずとも生きていけるだろう。
とはいえ、雨風を凌ぐ場所は必要だ。避難所だっていずれ閉鎖するのだし。
「……ハクダンシティ、一緒に来ますか?」
……また、驚くようなことを言う。
「ミアレから引っ越してくる人が多いって、マンションとか作られてるらしいですよ」
「へえ、そうなんだ」
意外な需要。……意外でもないか。
ハクダンシティは、ミアレシティに隣接する都市だ。古式ゆかしい街だったが、言い換えれば開発の余地があるということ。ミアレから人が流入するなら、そういう流れにもなるだろう。
ジェイミーはまた瞑目して、少し思考して。
……この場で、勢いで決めていいことではないなと、躊躇した。どちらにせよ時間なら、いくらでもあるのだし。
「まあ、ゆっくり考えるよ。こっちの避難所は、まだ暫く開いてるみたいだしね」
「そうですか……ジンペイタさんは?」
話が転げて、ジンペイタの方へ。これまで聞き役に徹していた彼も、少し黙ってから。
「私は、ジョウトに帰ることにするよ」
苦笑して、そう切り出す。
「ああ。元々、地元そっちでしたっけ」
「まあね。私自身は、メゾン・ヘリオスに骨を埋める気でいたけれどね……いや、これもある種、何かの縁なんだろう」
「じゃあ、メゾン・ヘリオスはどうしますか?」
「ああ、クエーサー社に声をかけたら、あそこの土地を買い上げてくれるって話になってね。元々ワイルドゾーンに指定された時点で、話自体はあったんだ」
そう語るジンペイタ。クエーサー社の方針なのか、被害者への補償金はしっかりと払っているらしく、彼が帰国して暮らすには十分なだけの額が既に振り込まれたらしい。
あと数日で帰国する、と彼は言った。……歳も歳だ、あるいはもう、彼がミアレに来ることはないかもしれない。ジェイミーはふとそんなことを思ってしまって、雑念を追い出すべく首を振る。ジンペイタは彼のそんな姿を見て、微笑んで。
「アパルトマンは燃えたけどね。でも、全部終わった、とは思わないよ。私がここで生きたことは無駄ではなかったし、これからも無駄にはしない」
「これからも、ですか?」
「ああ。ミアレシティにアパルトマンを構えた過去があった1人のジョウト人として、これからも生きる。そうして日々を積み上げれば、土台にある過去にも意味があったことになる」
意味が分かるような、分からないような。多分含蓄のある言葉な気がするが、ジェイミーには今ひとつ噛み砕けなかった。
「……そういうものですか」
「そういうものだよ。今日からの君が、昨日までの君に意味を持たせてくれる。……いずれわかるさ。2人ともね」
その言葉を聞きながら、惜しい、と思う。
既に失われた、ワイルドゾーン17での暮らしを惜しむ。
ジンペイタとの暮らし。アレクシィとの暮らし。そして──『ポリ子』との暮らし。カエンジシと壁1枚を隔てて生きた、綱渡りの暮らし。綱渡りで、当然のように綱から落ちて、二度とは戻ることのない、ワイルドゾーン17暮らし。
燃え落ちたあの日々に、新しい意味は見いだせるだろうか。それは、ジェイミーにはまだ分からないが。
「そうだったら、いいですね」
少なくとも──善い日々だったと、思えている。そう思いながら、生き続けられる。そこに価値を見出そう、そういう話だと、解釈した。
「……というわけで、ね」
不意に、ジンペイタはそう切り出した。そうしながらのそりと立ち上がって、コーヒー代の小銭を卓上に転がす。
「今から市役所にいかなくちゃいけないんだ。引っ越しの手続きも予約制になっていてね」
「出国する時には教えてください。見送りに行きますよ」
その言葉には応えずに、ジンペイタは踵を返す。数歩、歩き出して──何かを思い出したように、振り向いて。
「そうだ、ジェイミーくん。メゾン・ヘリオスの土地の権利がクエーサー社に移るのは来月頭からだよ」
まあ来月まで、あと1週間もないけれどね、と。そう言い残して、今度こそ彼は歩き出した。ジンペイタのその背中が、建物の角の向こうに見えなくなって。それを見送って、ジェイミーはぐいとコーヒーを呷った。
視線を落とす。ポリゴンZが、そこにいる。
「行こうか」
「$%#''&''&&@?」
「……もう一度、メゾン・ヘリオスに」
───
ワイルドゾーン17。
あの夜を経てなお、その様相は大して変わらなかった──少なくとも、外から眺める分には。
ジェイミーとポリゴンZは今、ワイルドゾーン17のゲートのすぐ前にいる。ホロの壁越しにカエンジシの群れがいて、その向こうにはアパルトマン──メゾン・ヘリオスが、その形を遺している。
一歩、踏み入る。
「──グルル」
カエンジシの唸り声。
6匹のカエンジシが、侵入者であるジェイミーを見据えている。唸り声を上げて、それが次第に大きくなって。一撃入れようと、口元に炎を溢れさせて。
だが、しかし。
「ポリゴンZ」
「&&#」
「はかいこうせん」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」
「「「「「「グギャオグワアアアアアアアア!?」」」」」」
全く呆気ない話である。
はかいこうせんの一撃をかましてやれば、カエンジシ達は散り散りに逃亡した。逃亡した、といってもワイルドゾーン17から出られるわけでもないので、恐らくどこかの茂みにでも隠れたのだろう。
ジェイミーは久々に、正面玄関からアパルトマンに入る。正面玄関とは言っても、あの夜メガカエンジシに破壊された壁を潜った、それだけなのだが。
「……」
壁1枚を抜けてしまえば。あの夜のままの、メゾン・ヘリオスだった。
そうだった。あの時メガカエンジシが侵入してきて、咄嗟に階段を駆け上って、自室に立て籠もった。その道程をなぞるように、ジェイミーは自室へと向かう。
床も壁も焦げ跡だらけの、痛ましい家屋。黒く焼けた手摺を指でなぞれば、ぼろりと炭の塊が落ちた。
この土地を次に使う誰かがいるとして、このアパルトマンは取り壊すのだろうか。あるいは大規模なリノベーション? ……ワイルドゾーン指定が解かれない限りは、このまま放棄されるような気もする。
「@"%%$」
「ああ、着いたね」
廊下のただ中に、一際真っ黒に焦げた空間があった。──はかいこうせんの焼け跡だった。焼け跡はとある室内から伸びていて、つまり、この部屋がかつてジェイミーの自室だった場所である。あの日のポリゴンZの一撃が、黒黒とアパルトマンには刻まれている。
部屋に入る。
「……」
ただいま、と言う気にはなれなかった。
荒れ果てた部屋、焦げ付いた部屋、もう住むことは出来ない部屋。無意識に唇を結ぶ。
ジェイミーに、持ち出すような荷物は然程はなかった。煤を被った数点の貴重品を掻き集めて、それから。……ジェイミーの視線は部屋の奥、リモートワークに使ってきたPCに向かう。
そう、主目的はこれだ。これまで仕事に使ってきたデータが、このPCに残っている。念のため回収しておきたい。歩み寄って、電源を入れて。
「……おお、動くんだ」
意外にも、PCは容易く起動した。てっきり停電しているものと思っていて、ジェイミーは簡易的な電源も持参していたのだが。どうやらまだ、このアパルトマンには電気が通っているらしい。──それはそれで、どうかとは思う。
ジェイミーは鞄からHDDを取り出して、PCに接続。必要なデータをPCからこのHDDに移してしまえば、もう、この部屋にいる意味はない。
カチリ、カチリ。データを漁る。
あの日までの仕事の内容のデータ。それを引っ張り出しては、HDDに移送する。
あの日までの納品物。
ポリゴン2に生成させた納品物。
ポリゴン2に生成させた納品物。
自力で制作した納品物。
自力で制作した納品物。
……どれも、懐かしい。
ふと、PCの横に目が向かう。
PCの筐体からはコードが伸びていて、それはある台座に繋がっている。──かつて、ポリゴン2が接続していた、あの台座に。
今は何を思ったのか、ポリゴンZがそこにいた。
台座に座ろうとしたのだろうか、もぞもぞと身体を動かしているが、ポリゴンZの形では台座には繋がらない。
「……なあ」
「&#@""%%」
ずり、ずりと。数度台座を掻いて、ふらりとポリゴンZは壁際に浮いていってしまった。座ろうとしているように見えたのも、ただの勘違いかもしれない。
ジェイミーは何か声を掛けたものかと思案して、思案して、思案を止めた。何を言っても、多分、自分の発言に納得できないだろうと。自分自身で察していた。
既に、仕事用のデータは回収し終えた。ジェイミーはそのまま私用のデータの回収に入る。
が、これは大して多くない。ある程度の写真、お気に入りの作業用BGM、それから──
──ポリゴン2のカスタマイズに用いた、各種のデータ。
ポリゴン2というシルフカンパニー製AIを、『ポリ子』というAIにカスタマイズするために、ジェイミーが組み上げたデータ群。それがあった。
ふと、考えた。
嘘だ。あの日あやしいパッチを使ってから、ずっと頭の中にあった考えだ。
『ポリ子』をもう一度作らないか、と。
だってそれは可能なことだ。新しいポリゴン2にこのデータをインストールすれば、もう一度『ポリ子』は作り出せる。自動バックアップの履歴だって残っている、あの少女の姿を、あの声との生活を、作り直すことは出来るのだ。
「…………それは、違うよな」
HDDを、パソコンから取り外した。
『ポリ子』のデータ群は、置き去りのままで。
ジェイミーは、座っていた席を立つ。数秒瞑目し、瞼を開き。それからゆっくりと屈んで──PCの筐体に手をかけた。
筐体のカバーを外す。マザーボードを露出させる。そこから繋がる各パーツを、取り外して、積み上げる。
「@&$#?」
「機密保持のためにも、廃棄するPCは壊さなきゃいけないんだ。知ってるだろ、ポリゴンZ」
ポリゴンZはチリチリと鳴いた。驚くような、焦るような、そんな響きだ。
──そんな風に聞こえただけだ。本当のところ、ポリゴンZが何を思っているのか、ジェイミーには分からない。そもそもポリゴン2だった頃だって、正確なポリゴン2の内心が分かっていたわけではないのだ。あくまでポリ子という、勝手にポリゴン2の心情を推し量るプログラムを噛ませていただけ。
ジェイミーは自覚している。
AIの挙動は計算の結果である。言動も感情も計算から生まれたもの。
AIの向こうに人格を見いだすのは、感傷を覚えてしまうのは、人間の感覚のバグである。
その上で。
「これは、壊していいんだ」
「$&@""#&」
「だって、今の俺にはお前がいるんだ。だから、もうこれはいらないんだ」
そんなことを、ポリゴンZに話せてしまうのだから。
ジェイミーは結局、非合理を愛する旧時代のロマンチストなのであった。
「…………はかいこうせん」
「──■■■■■■■■■■!!」
閃光、轟音。
解体されたPCは、ポリゴンZの一撃で溶融した。構成部品は壁に焼け付き、はんだが焦げた臭いが燻る。もうどのパーツも、元の形を留めていない。
「行こうか」
ジェイミーは、HDDを鞄に押し込む。1つ、大きく息を吸って、吐いた。当然ながら金属臭がして、少しばかり顔をしかめた。
部屋を出る。部屋を出て、振り返る。かつての自室は既に亡く、もう、ここに帰ることもない。
「……じゃあね」
その言葉は、誰に向けてのものなのか。ジェイミー自身にも解らなかった。
彼は廊下を歩き出す。その横には寄り添うようにポリゴンZが浮いていて、進む歩調は揃っていた。
黒ずんだフローリングが、小さく軋む音を立てる。それは急かすようでもあり、同時に惜しむようでもあり。
ジェイミーは、このアパルトマンを去る。
ジェイミーは、もうWebデザイナーを辞める。
ジェイミーがかつて作ったものは失われ、もう必要とされることもない。
全て、仕方がないことだ。だから。
「考えなくちゃな」
言葉が漏れた。あえて漏らした。
ジェイミーが横に目を向ければ、相変わらずポリゴンZは浮いている。
「俺とお前の、これからを」
全部が燃え落ちたせいだろうか。少しばかり清々しい気分でもあった。仕事、実績、執着、愛着。全てが燃え落ちて、彼は自由だ。
世界の全ては移り変わる。
移り変わる世界に合わせて、人は生き方を変えていく。
今から、これから。
新しく始める暮らしが、彼らにはある。
「なあポリゴンZ」
「&&"%?」
「次は、どこに住みたい?」
ワイルドゾーン17ぐらし!! 美少女AIポリ子ちゃん 完