魂取扱所、転生・召喚事業部、地球部、日本課。 作:転生いいよね
異世界転生。
トラックにはねられたり、暴漢に襲われたり。
転生に限らなければ、勇者として召喚されたり、はたまた本当の勇者は別にいるという巻き込まれ召喚なんかもある。
ライトノベルやネットの小説が好きな人は一度は見たジャンルではないだろうか。仮にジャンルとして嫌いだったとしても、嫌でも目に入ってくるぐらいの知名度と人気のある、いわば覇権ジャンルだ。
そんな覇権ジャンルではあるが、実際に体験したいと思う人は少ないのではないだろうか。
モンスターと戦うのが怖いとか。
異世界の諸々水準が現代日本と比べてどうなるかとか。
チートを貰えないただの村人Aで終わるんじゃないか、とか。
その不安はもっともだ。
街中が普通にスラムだったり、ご飯が美味しくなかったり、モンスターが強すぎたり、そもそも敵が人間だったりする異世界はたくさんある。
そういう世界に飛んだ人は、まともに活躍する事もできずに二度目の人生を終えてしまったりする。
そして、そういう人は三度目の生を望む事はほとんどない。
中にはチートで強制的に蘇生されて地獄を味わい続けるなんて場合もあるから、当たり外れの差が大きすぎるのが異世界転生というものだ。
なぜここまで分かりきった事を説明するのか。
なぜここまで詳しいのか。
答えは簡単だ。
私はとある労働者である。
働いている場所は、
「はい! はい、そうです! 二十代男性、自己申告によると特技などはありませんがFPSゲームが得意だったそうです! ……いやそこをなんとかお願いします、こっちもできる限りの技能をつけますんで……!」
「無茶を言ってるとは分かってるんです、でももう■■■さんしか頼るところが無いんです! お願いします! ……ああ、ありがとうございます! それじゃあ十代の男女を25人……え? 多過ぎって……いやいやいや! そこをなんとか……ちょっ、切らな、切らないでくださいお願いします!!」
「おい誰だこの書類持ってきたやつ! これ日本人じゃねーぞ、さっさと返してこい!」
「■■■さん! いつもお世話になっております、本日はどんなご用件で……あっ、そういう……えー、大変申し訳ないのですがうちは返品とかはちょっと……ちなみにそいつは何をしでかして……チートを悪用して大量虐殺ですかー……現地民が八割死亡……うーん、ちょっと上の方と相談させていただきますね……記憶の巻き戻しも必要かもしれないので、そちらも時間逆行の準備を……」
魂取扱所、転生・召喚事業部、地球部、日本課。
異世界転生を、「させる」側である。
さて。
私の事を説明しておこう。
まず、私も元々は日本人だった。
そして病気で死んだ。
平均寿命を考えれば早い年齢で病気になり、発見が遅くあっという間に余命宣告され、しかし私はあまり嘆かなかった。
両親は少し前に死んでいて、葬式をして見送った。親戚は居たが親密ではない。伴侶も恋人もいない。友人は……まぁ、多少いたが。
つまり、心残りがそんなに無かったのだ。
死ぬと分かった翌日に会社に退職届を出し、まぁまぁあった貯金でゲームや漫画を買いあさって、思うまま満喫した。
体調が特に悪く、体を動かす事が億劫だった日はアニメを流し見した。
私はジャパニーズサブカルチャーが大好きだった。
数少ない心残りが「この漫画の結末どうなるんだろう……」とか「エタったウェブ小説、作者戻ってくるのかな……」といったもので、まぁでも死ぬんだから仕方ない、くらいに思っていた。
そして医師の宣告よりちょっとだけ長生きして、このまま目を閉じたらもう開かないだろうな、という不思議な確信を抱きながら私の人生は終わった。
ところが死後の世界とやらがあった訳だ。
あれ? 死んでない? 絶対死んだと思ったのに? なんて思いながら目を開けたら真っ白な空間だった。
頭も真っ白になりながら呆然としていると、目の前に人型の存在が降りてきた。
人型、と曖昧に言うのは、その存在の頭らへんが見事に輝いており、直視どころか胴から上に目を向けようなら「目が、目がー!」ってなるやつだったからだ。
その存在は、耳というより頭に響くような言葉を私に届けた。
--あなたは選ばれました
--万事を望み通りにはできませんが
--可能である限りの奇跡を
--あなたに授けましょう
--そして
--次の生を迎えるのです
神様らしき人型の存在にそう言われた私は、反射的に言ってしまった。
「え……困る……」
人型存在は一拍置いたあとに、困ったように体を傾げた。
私もつられて体を傾げた。
だって。だって、私は、転生なんてしたくなかったから!
赤ちゃん転生して一からやり直すのなんていやだったし!
いい感じの年齢に育った後に記憶を思い出すとか、その年齢までの自分を消しちゃうみたいでいやだったし!
許されるのであれば現代日本、っていうか私の死後すぐくらいにやや富裕層に生まれたい……待てよそれならいいか……?
「あの、現代日本の、私が死んだあとくらいに生まれ直すというのは…」
--私が関与できるのは
--あなたの魂を連れていくこと
--現世に連れ戻すことは、叶いません
だめだったー。
頭を抱える私に人型存在は落ち着かないような仕草をしていた。
喜んでもらえると思っていたのだろうか。まぁ、確かにサブカルチャー大好きだったもんね、私。こういうの好きだろ? ほらほら? ってしてみたらこのリアクションだもん。猫カフェ行っておやつあげようとしたら塩対応だったみたいなもんか。私は猫みたいに可愛くはないが。
でも異世界転生は嫌すぎた。
気を遣って空気を読むにもほどがある選択肢だった。
なんとか人型存在を説得し、記憶も何もいらないから輪廻転生の輪に戻らせてもらうしかない……!!
固い決意に拳を握る私に、人型存在はおろおろしていたが、ふっと気を取り直したように姿勢を正した。
--強い心を感じました
--あなたにとって、よい道かは分かりませんが
--ここに存在し続けるのはどうでしょうか
人型存在が手で空中をなぞるようにすると、私の前の空間にモニターのような映像が現れた。
一瞬びっくりして反応が遅れたが、よく見てみると日本語で書かれているそのモニターには、色々なものが書かれていた。
笑顔でこちらを見ている、白い装束の男女。
大勢でバーベキューのような事をして笑っている人たち。
週休二日。場合によって休日出勤あり。場合によって残業あり。
法定休日なし。有給制度あり。
『笑顔の絶えない、明るい職場です!』
ブラックの気配しかしねぇ…………!!!!!
法定休日はあの世だし無いかもしれないからそこだけは見逃そう。
でも私の目は真実を見ていた。笑顔の人たち何人かが、目が死んでいる事に気付いてしまったのだ……!!
これは第三の道を探すしかない。私は決意を更に強くし
--日本の部署にいっていただくので
--時間のあるときに、現世のものを見ることができます
--あなたの大好きな「ガチればガチで」の新刊も
「働きます」
考える前に言葉が出ていた。
だってガチガチ(正式名称「ガチればガチで」)は私のバイブルなのだ。ファンは原作に勝てない、全世界共通の理である。
そうして、私の楽しい死後生活が始まった。
勤務条件についてはふわっとしています