魂取扱所、転生・召喚事業部、地球部、日本課。 作:転生いいよね
「はい、大丈夫です。それではよろしくお願いいたします。」
電話を切り、背筋を伸ばした。
この肉体は一定の状態を保つようになっているので肩こりとかとは無縁だが、気分を切り替えたい時なんかに軽いストレッチをする人は居る。
「お、そっち終わった感じ?」
「ですね。いやー、運が良かったです。」
「いいなぁ、俺、次で四カ所目だよ……」
「うわっ」
声をかけてきたのは、隣の席に座っている先輩だ。神様(人型存在はやっぱり神様だった)が選んだだけあって、この職場にヤバい意味で変な性格の人はいない。そういう意味では「笑顔の絶えない職場」はそこまで嘘ではなかったのかもしれない。
先輩が画面を見ながら溜め息を吐いているので、横から覗いてみる。
「勇者になる」、うんうん。
「ハーレム希望」、あるあるだね。
「王子に転生」、勇者で王子、無い訳じゃないね。
「世界で最強」、うーん……
「超絶イケメン」、ううーん……
「やばいですね」
「やばいんだよ。次が駄目だったら、神様には悪いけど交渉してもらうしかないなぁ」
やだなぁ、と先輩は頭をかいた。
この「やだなぁ」は神様にお願い事をするのがいや、という発言ではない。
神様に面倒をかけてしまうのがいやだ、という意味だ。
私たちの神様は、転生者との対面・会話を全て引き受けている。
余所には全てを任せてくる神様も居るらしいし、忙しい時だけ分担している神様も居るらしい。
神様は私たちを信用していないのか、と最初の頃なら思っただろうけど、私がこの事実を知ったのは神様からの愛情を疑わなくなった頃だった。
転生者が全員大人しい訳じゃない。
声を荒げ、暴力を振るい、自分の思う通りに物事を通そうとする者も居る。
そんな時、私たちはろくに対抗する手段を持たない。
転生者の技能、チートにはルールがあるらしい。
そこから逸脱した優遇は禁止されているが、不可能ではない。
担当者が脅しに屈して特別扱いをした転生者が転生先で問題を起こし、全てがバレて…って事もあったと聞く。バレた後にどうなったかが伝わっていない辺り、本当にあったっぽくてとても怖い話だ。
話を戻して。
危険な事もある転生者とのやり取りを全て引き受けてくれている神様は、時に分身までして激務をこなしている。
私たちに任されているのは「その後」の話。
転生者の希望を受けて、行き先などの調整をするのが仕事だ。
日本人の全員が死後に転生する訳ではないとはいえ、「異世界転生」というジャンルが大衆向けに広がって認知度が上がった結果、神様を含めてみんなの仕事が倍増した。
異世界自体は昔からあるジャンルだが、まさか昔の人もここまで現代で広がるとは思っていなかっただろう。
私たち、いわば事務方はまだいい。私のように人員も増やせる。でも私たちの神様は一人だ。代わりになれる人はいない。どこかの世界では複数人神様がいるらしいし、元日本人としては「八百万くらい居てくれてもいいじゃない!」と思わなくもないが、それはここでは通用しない。
長々と説明してきたが、つまり。
神様の仕事を増やしたくないのだ。
「いやしかし、その人はどんな徳を積んだんですかね……」
「だいぶ若いよ。だからかな、ほら」
「なるほど、ここまで幼いとレアですね。しかも欲望に忠実で欲張りな理由もなんとなく分かりました。でもこの年齢でハーレムの意味分かって言ってるんですかね……?」
「なんとなく女の子がちやほやしてくれる! くらいの認識じゃないかな。がっつり理解してたら嫌だよ、俺……」
先輩は一層深い溜め息を吐いて、それからまたどこかへ電話をかける。私は自分の机に向き直りながら、先輩の電話が次で終わりますように、神様の心遣いが報われますように、それから夢いっぱいの子どもが無事に第二の人生を歩めるようにと願った。