魂取扱所、転生・召喚事業部、地球部、日本課。 作:転生いいよね
この職場に転生して一番嬉しかったのは、ガチガチの話ができる同僚がいる事かもしれない。
ガチガチ、正式名称「ガチればガチで」は週刊漫画雑誌に連載している少年漫画で、作者のデビュー作だ。
普段は弱い主人公の少年が、本気……ガチになったらものすごく強いという設定で、最初の頃はイジメをしている不良とか暴漢をぼっこぼこに叩きのめして改心させるという勧善懲悪な話がメインだった。
恐らく、いやファン視点からすると間違いなく編集側のテコ入れがあり、バトルものになってから一気に話は盛り上がった。
元から絵が上手い作者だったが、戦闘シーンの迫力といったらそれはもう感動もので、最初の頃の話が面白く読めたのも作者の画力があったからといっても過言ではないだろう。いや、勧善懲悪が本来作者が書きたかった話かもしれないから、今の言い方は失礼なんだけど。
でもバトル漫画になって驚いたのはキャラの一新で…(省略)…こんなに漫画が溢れてる世界で「まさか」って思える展開が…(省略)…それでも名前のあるキャラが一人ひとり活きていて…(省略)…
「だから今週も泣いちゃったんですよぉ……!!」
「泣くまではいかないけど、毎週ぐっとくるのは分かる。」
「ですよね!? 一話から追ってたファンとしてはもう……すごいとしか言えなくて……!」
両手を振り回して興奮する私を、ガチ友の先輩はスルーしてくれる。その距離感がとても嬉しかった。
生前の職場では漫画が好きなんて言えなかったし、もし今みたいな事をしていたら間違いなく浮いていただろう。
「個人的にはそろそろ主人公再登場かな、なんて思うけど」
「待ち遠しいですよね!! 修行でどれだけ強くなったか、すごく楽しみで……でももうちょっと今のままで他のメンバーの深掘りもしてほしい気もしてて」
「分かる。もう駄目だ!って時に登場してくれるからこそ愛情、じゃなかった感動が一層増すんだよね。」
ガチ友先輩は腐女子だ。
私自身は別にBLもGLも二次創作でも自由にすればいいと思っていたけれど、ガチガチだけはちょっと複雑な気分になる。というのを私の表情とかから察してくれたらしく、先輩がガチガチのBLを表に出すのは避けてくれている。良い先輩だ。
少し話は変わるが(もっとガチガチの話をしたいけど)。
私たちに名前は無い。名前を名乗る・つける事も許されていない。
でも、あだ名をつける事は許されている。
ガチ友先輩はよく「腐女さん」「腐女セン」なんて呼ばれている。隣の席の先輩は人によって変わるレベルで色々なあだ名をつけられていて、よく自分の事だと分かるなぁといつも驚嘆する。
そして私につけられる事が多いあだ名は「ガチの人」「ガチガチの人」だ。
とても光栄である。
「ガチガチが膠着状態になってるけど、今週だと私はアレがいいなと思って」
「ああ! 分かります、でも最近の展開ちょっと急じゃないですか……?」
「うん……打ち切りなのかな……今の展開めちゃくちゃ面白いから学校編終わっても次行ってほしいんだけどなー」
「打ち切り決まってからが面白い漫画もあるって聞いた事ありますけど、なんていうか諸行無常ですね……」
うんうん、と二人で頷き合う。
応援ハガキを送る事もできない身としては、どうか現世の人が頑張ってくれやしないかと願うばかりである。
その後も漫画の話で盛り上がっていると、
カーン……カーーーーン……
「ああ、時間だね。」
「はい。今日も楽しかったです、ありがとうございました!」
「こっちこそ楽しかったよ。またね。」
鐘塔が鳴っているような綺麗な音がお昼休み終わりの合図だ。
今の職場も、現世と同じようにお昼休みがある。
私たちに食事の必要は無いが、可能ではあるため美味しいご飯を食べる人も多い。もちろん私たちも堪能してから心置きなくガチガチの話をしていた。
自分の席に戻っていく先輩を見送りながら、私も席に座る。
……そういや、摂った食事ってどうなっているんだろう。排泄の気配はないし、この体だと栄養素になるって事も無いだろうし……。
「まぁ、太らないならいいか」
突き詰めて考えると嫌な予感がしたので、私は思考を止めた。
太らない、痩せない、病気にもならない。
考えるのを放棄するのは良くないかもしれないが、こんな素晴らしい環境を自ら捨てるような事はしない。
……ガチガチの最終回を見るまでは絶対にここを辞めないと決めているのだから……!!