よくある男オリ主もの   作:SeA

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なんか書きたいように書いてたら17000字超えてました。
なんでだろうね。


オリ主くん、ランクマをする

 放たれた矢を首を捻って躱す。驚愕と恐怖を浮かべながらも弓を構え2、3射目を射かけてくる。1射目と同じように躱し、弾き距離を詰めるように駆けだす。

 自分の想定よりも速い速度に眉をひそめながらも走り続け、弓を構える犬耳の男に接近する。

 今さら慌てたように構えを解き、後ろに逃げようとする犬男を見て溜息をつきたくなったが、それを飲み込みさらに近づいていく。

 間合いに入ると同時に胴体目掛けて横薙ぎ、そのまま続けて衝撃で動きを止めた男の首を斬る。まだ倒れ(HPが0で)ないのでもう一度斬る。首が落ちる。

 胴体と首から桜を舞わせる男を横目に見ながら血払い。そして納刀。

 これで2ラウンド終了。終わりだな。

 

 目の前のウィンドウに表示される『WIN』の文字を無視し、その次の画面を求め指をスライドさせる。

 『次のマッチングへ』

 タップ。10を数え終わる前にマッチング完了。転送。周囲を見まわす。今度は城内か。

 スリーカウントの後、試合開始。

 鯉口を切る。反応なし。抜刀。

 襖の並んでいる木造の廊下をゆっくりと歩く。16歩目、右後ろの襖の奥から床板の軋む音。振り向いて左逆袈裟斬り。襖から飛び出してきた相手の持つ剣ごと腕を切り上げる。浅い。壊れていく襖を蹴り破ってそのまま距離を詰める。

 部屋に入り相手を視認する。肩やら脇やらヘソやら太ももやらが丸出しの、なんだろう、忍者だろうか? なんかそんな雰囲気がある防御力皆無の露出系女忍者(くノ一)に突っ込んでいく。

 飛んでくるクナイを最小限の動きで躱し、上段から刀を振り下ろ―――さずに左後ろに2歩分、のつもりが3歩分飛び退く。やりづらい。

 

「えっ」

 

 頭のあった位置を通過する手裏剣。罠を張ってたか。見た目にそぐわず堅実だな。

 だが甘い。外れる想定はしていなかったようだ。動揺が口から漏れている。

 慌てた様子の女の直刀をすり抜け、心臓目掛けて突きを放つ。直撃。貫通。だがこれはゲーム(もどき)だ。まだ動こうとする相手を無視して刺さった刃をそのまま振り下ろす。心臓から股間にかけて一直線。

 花を散らしながら倒れる相手に背を向け血払い、納刀。

 

 瞬きのような一瞬の暗転。今度はこちらが室内スタートか。

 2ラウンド目開始の合図とともに抜刀。

 相手の技量は既に確認済み。時間をかけたところで火が付くような相手ではない。

 索敵して、斬って、終わった。

 1ラウンド目と大した違いもなく終了。

 なんともまあ、消化不良だ。

 WINの文字を見ながら一度、深呼吸をする。ウィンドウ端の時間を確認。『06:48』。7時前か。仕方ない。ここで終わろう。

 次のマッチングをキャンセルして、()()()()()

 

 目を開けばいつもの場所。家具と呼べるものがなにもない殺風景な部屋。俺の自室。

 スマートコンタクト(スマコン)を取り外しザっとシャワーを浴びて、冷蔵庫へ向かう。朝食だ。食パンを3枚。いつもと同じものを口にして学校へ行く準備をする。面倒くさい。

 制服に着替え、鞄を手に取り、家を出る。鍵をかけて階段へ、アパートの階段に足をかける直前に後ろからドアの開く音。隣人だ。出てくる気配を感じつつもそのまま敷地の外へ。顔を合わせてもいないのだから挨拶も不要だろう。

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 学校はいつも通りだった。誰とも会話をせず、成績が落ちないように授業自体は集中して受ける。後日通知表の内容を親に送った時、ちゃんと『日常生活を問題なく擬態出来ている』と認識してもらわないと困るからな。お互いに。

 今さら同居など出来ないのだから。

 

 帰宅。部屋着に着替えて早々にスマコンを装着。()()()()()

 さあ、ゲーム(殺し合い)を堪能しなくては。

 

 光の海を突き抜け柔らかな明かりを燈す灯篭の群れの中、湖に立つ。手足の感覚を確認し、正面の鳥居を見る。そこには一人の女がいた。

 

「―――太陽が沈んで、夜がやってきます」

 

 月見(るなみ)ヤチヨ。この仮想空間ツクヨミの管理人。白い髪と深海の色の瞳を持つ少女。

 初めてこのツクヨミに来た時の案内人。それ以降もツクヨミを訪れるたびに彼女はここにいる。最初は戸惑ったが、どうやら今目の前にいる彼女は本人ではないらしい。おそらく映像のようなものなのだろう。話しかけてみても笑顔を向けてくるだけで会話は成立しなかった。

 ヤチヨの横を通り過ぎ、鳥居を潜る。

 光を抜けると、橋の上。道の先では光輝く巨大な街。離れたこの場所まで喧騒が響くあそこは、きっと大勢の人が楽しめる素晴らしい場所なのだろう。

 ―――が、そんなものに興味はない。ウィンドウを展開。KASSENのメニューからSETSUNA(1対1)をタップ。マッチング方式はランクマッチ。マッチング完了、転送。

 さあ、戦おう(喰おう)

 

 初めてここに来てから3日。俺はひたすらゲーム(殺し合いもどき)をしている。

 以前ヤチヨに言ったように、ここでの戦闘は物足りない。その時例えた食欲で言うのであれば腹持ちがしない。すぐにお腹が空く。むしろ空腹感が際立ってくる。

 ならばどうするか。簡単だ。ただひたすらに遊ぶ(喰う)

 この3日間はそれだけしかしていない。朝起きて遊んで(戦って)。学校行って勉強して。家に帰って遊んで(斬り合って)。夕食を食べて遊ぶ(殺し合う)。そしてシャワーを浴びて寝る。

 そんな充実した日々を、あ、いや、違うか。ちょっと物足りない日々を送っている。とにかくそんな新しい日常を過ごしていた。

 

 帰宅してから16戦、そろそろ夕食にしようと思うが、直前の相手が銃使いで物足りなかったからもう一戦してから飯にしよう。

 マッチングを待ち、完了通知が出たので意識を戦闘用に切り替えようとすると、ウィンドウにとある表記。

 『マッチング相手が配信中です。配信を許可しますか? Yes/No』

 出た。またこれだ。

 こっちはただ戦いたいだけなんだから、どうでもいい選択を求めないでほしい。正直これを選択することでなにがどうなっているのか全然わからないが、特に興味も湧かないので調べたりもしない。とにかく早く戦わせてくれ。そんな風に面倒くさく思いながらYesをタップ。

 

 転送。周囲を確認。砂利と土、小高い丘。大きな遮蔽物は特になし。

 敵を視認。約15m前方。男性。青髪に丸い耳。熊だろうか。武器は大きな両刃の剣。刀身だけで1m以上はあるように見える。

 視線を逸らさないまま、鯉口を切る。

 

「さあ、次の対戦相手はー、って、うわっ出た! 絶対あれでしょランクマで暴れまくってるって噂の桃太郎って! いやー、いきなり当たるなんてボクって運がいいですねー」

 

 抜刀し、虚空に向けて喋り続ける相手に全速力で駆け寄る。足に違和感。無視する。

 聞こえる言葉は全て受け流す。どうでもいい。互いに武器を握り、相対しているんだ。おしゃべりなんてどうでもいいもので、濁らせないでほしい。

 

「やっぱ開幕突進! 噂通りっ!」

 

 まだ距離があるのに剣の切っ先を向けてくる青熊男。視線は真っ直ぐに俺の左足首を見ている。

 ―――なら、ここだな。

 相手の呼吸に合わせて、右足を軸に1回転。その瞬間に左足首が通るはずだった場所を通る物体。あの形は銃弾か?

 

「うっそ!? タイミング読まれた!?」

 

 相手の武装を改めて確認。変わらず大きな剣を持っているだけ。ということはまたヘンテコ武器か。この感じなら仕込み銃の類だな。剣に銃。剣銃(けんじゅう)とでも言いたいのか? ダジャレ?

 仮想空間ってのは本当になんでもありだよな。今日まで結構な数の相手と戦ったけど変な武器持ってるやつばっかり。剣にロケットついてたり。槍の穂先が飛んだり。盾が銃に変形したり。弓が剣になる、なんてのもあったか。

 少しだけ過去を振り返りつつも間合いを詰める。

 射程範囲内。逆袈裟斬り。剣で防がれる。動きを止めずに上段からもう一撃。再度防がれ、鍔迫り合いの形に持ち込まれ互いに静止。

 

「あっぶな! でもボクだってそう簡単に―――」

 

 腕の力を緩める。それによってつんのめるように此方に向かってくる相手の足を払う。

 

「―――負けな」

 

 完全に態勢を崩した相手の襟首を掴み、地面に叩きつける。目を見開いて驚愕する顔に刀を突きたてる。そのままかき回すように切っ先を動かしてから頭頂部に向けて思いっきり振りぬく。

 

「……はぁ」

 

 勝利。

 顔面が桜で満開になっている青熊男を見下ろしながら、一つ溜息をついた。

 物足りない。

 まったくもって物足りない。

  

「なんだかな……」

 

 この3日、ずっとこの『KASSEN』での1対1の対戦モード『SETSUNA』で戦い続けているのだが、なんというか、ぬるい。

 殺意が足りない、なんて贅沢を言うつもりはないが、せめてもう少し敵意や害意を尖らせて立ち向かってきてほしい。

 もっとこう悪辣さを全力で叩きつけてくれないだろうか。ただでさえツクヨミ(ここ)は感触がリアルと違って変で、殺し合いをしてるって実感が感じにくいというのに。

 

「……最初に極上のものを味わった弊害だな」 

 

 月見ヤチヨ。

 あの、殺意が一片もない少女との殺し合い(もどき)がこの3日間で一番満足出来た。

 彼女の肩に乗ってた白い、あの、なんとかって言う生き物曰く、『ヤチヨがツクヨミを作った』みたいなことを言っていたはず。なら、この世界の、このゲームの創造者が強者であるというのはとても納得がいく理由だ。

 

「あれ以上は、もういないんだろうか」

 

 あれからずっとランクマッチなる形式で戦ってきた。俺はこれを強さの位階によって対戦相手を選定するシステムなのだと2日くらい前に判断した。斬って斬って斬るたびに徐々に敵の技量が上がっていったからだ。

 そして今の勝利で俺はマスターランクなる位階になったらしい。

 これ、語感的に判断すると随分と上の位階なんじゃなかろうか。

 さっきまでの相手より1段上ということになるのだろうが、期待はあまりしないほうがいいだろう。じゃないとヤチヨクラスの相手と戦えると胸を高鳴らして初めてランクマッチで戦ったときみたいになる。あの落胆はもう味わいたくはない。

 

 首を軽く振って、意識を切り替える。マッチングボタンをタップする。

 物足りないからもう一戦しよう。それから飯だ。マスターランクの確認も兼ねてということにすればいい。

 『マッチング相手が配信中です。配信を許可しますか? Yes/No』

 ……またか。

 この『マッチング相手が配信中です』の相手は微妙なのが多いから正直うんざりしている。さっきの熊男もそうだが目の前で戦っている俺だけではなく、どこか違う場所に意識が散っている場合が多い。ただでさえ物足りなくて困ってるんだから、せめて俺だけ見て戦ってほしい。本当に。

 Yesをタップ。転送。

 

 今度の場所は竹林。以前ヤチヨと戦った(遊んだ)場所だな。

 鯉口を切る。

 正面、約12m、男性、赤髪、2本の角、鬼か。武器は金の金棒が一本。実に鬼らしいな。それ以外の武器は特に所持しているように見えない。

 俺を視認し、ゆったり歩いてくる赤鬼。

 一瞬の間をおいてから、こちらも歩き出す。

 だらりと片腕で下げた金棒。大股歩き。重心は高め。戦闘姿勢ではない? いや、偽装か? 

 抜刀。間合いまであと3歩。

 刀を抜いたのを見て口笛を吹く赤鬼。歩幅は変えずに重心を下げてきた。来るか。

 赤鬼が右足を地面につけ、砕き割りながら高速でこちらに跳び込んでくる。それに合わせるように刃を相手の進路上に置くように構える。そのまま跳んでくるようなら胴を叩き切れたが、赤鬼はそばに生えていた竹に金棒を叩きつけるようにして急停止。いい判断だ。胸の奥で熱が湧き上がるのを自覚する。

 間合いまで半歩の位置。1歩踏み込、くそ、ズレた。2歩の距離を踏み込む。

 左一文字斬り。金棒で受け流される。交差。互いに背中を向け合う形。刃が擦れる音。膝から崩れるようにして地面に倒れこむ。頭上を横切る風切り音。前転をして距離を取り立ち上がる。刀を逆手に握り脇から後ろに突き出す。浅い。後ろに逃げたか。

 

「チッ!」

 

 聞こえた舌打ちを無視しながら振り向き、刀を正眼に構えなおす。胸の内に沸いてきた熱を身体全体に流すように深呼吸。思考に火が入ってきた感覚。殺意はないが、害意はある。敵意はたっぷり。いいな。すごくいい。これが欲しかったんだ。

 対する赤鬼は右手に刀、左手に鞘? 金棒の先端とそれ以外の部分というか。なんかすごい変な武器。またヘンテコ武器か。ちょっとだけ頭が冷えたが気を取り直す。相手の実力は確かだ。期待していい。

 

「勘違いしてたみたいだから謝らせてもらうぜ、悪かった」

 

 そう言って頭を下げる赤鬼。

 謝罪? なんの話をしているんだこの男は?

 

「ちょっとした噂を聞いてな。無敗でランクマ駆け上がってるヤベーのがいる。知覚系のチートじゃないかってやつ」

 

 チート? なんだ? なにを言ってる?

 

「だがアンタはちげえな。単純に滅茶苦茶強いだけだろアンタ」 

 

 ごちゃごちゃとうるさい男だ。せっかくの熱が冷めていくのを感じる。

 

「日本刀は人気武器だから結構使ってるやついるがアンタは別格だ。抜刀するだけであんなにカッコいいの、きっとアンタくらいだ」

 

 面倒くさい。なんでこう配信中表記のやつは喋りたがるんだ。黙って殺し合えないんだろうか。

 溜息を飲み込んで口を開く。少しだけ付き合ってさっさと再開しよう。

 

「……もう、いいだろうか」

 

 そう尋ねると一瞬きょとんとした表情をしたあとで小さく吹き出す赤鬼。

 

「なるほど、確かに楽しく会話するような時間じゃねえな」

 

 んじゃ再開だな。なんて言って鞘? をこちらに向ける赤鬼。視線を感知し左に跳ぶ。瞬間、宙をかける小さな流星。仕込み銃か。連発される銃弾を周りの竹藪を遮蔽物として回避し、銃弾が途切れた隙間を狙い跳び出す。刀を横薙ぎに一閃。弾かれる。だが止まらない。上段からもう一撃。弾かれる。まだまだ。二撃、三撃と刃を繰り出す。距離は取らせない。銃なんておもちゃじゃなく、刃でもって斬り合おうぜ。最初からこれでいいんだよ。

 

「ハハハハッ!」

 

 声が漏れる。笑みがこぼれる。想いが湧いてくる。

 ヤチヨを堪能してから3日経った。たった3日だ。これまでの2年に比べたら大したことのない日数だというのに全然我慢がきかない。しっかりとした実力を持った相手だ。じっくり遊ば(戦わ)ないともったいないってのに。

 でも仕方ない。

 本当に仕方ない。

 ずっと物足りなかったんだ。やっとまともな食事を出来るとワクワクしてたところに、ひたすら薄味の料理を食べさせられていたんだ。そんな時にこれだ。

 

「アハハハハハッハハハッ!」

 

 刀を振るう。防がれる。

 刀を振るう。肩に掠める。

 刀を振るう。左手の仕込み銃を叩き落す。

 刀を振るう。相手の刃の上を滑らせて、そのまま二の腕を切り裂く。

 刀を振るう。赤鬼の全身を光が包み急加速して迫ってくる。左腕を差し出す。代わりに右足を落とす。

 刀を振るう。首を落とす。

 

 いつの間にか2ラウンド目が始まっていた。だがどうでもいい。斬るだけだ。

 刀を振るう。躱された。

 刀を振るう。金棒で流される。

 刀を振るう。脇から肩までは斬る。浅い。

 刀を振るう。至近距離で銃を撃ち込まれる。まだ動ける。

 刀を振るう。距離を詰めようとした足がズレた。一瞬の隙を掴まれ斬られる。敗北。

 

 3ラウンド目。火が全身へと回っていく。少しずつだが確かに心が満ちていく。

 刀を振るう。

 刀を振るう。

 刀を振るう。

 刀を振るう。

 刀を振るう。

 刀を振るう。首を飛ばす。

 

 花が散る。淡い桜の花弁が風に乗って去っていく。思考に灯った火が消えていく。心の熱が落ちていく。

 これが現実だったなら、こんなに速く冷めていかないんだけども。まあ仕方ない。ここは仮想空間(ツクヨミ)。ヤチヨ曰く、みんなの遊び場。俺みたいな人でなしが本来いるべきではない場所。ちょっとだけでも味わえるだけ贅沢なんだ。高望みをするべきじゃない。

 

 深呼吸。

 溜まった熱を吐き出してから、落ち着いて考える。

 さっきの赤鬼強かったな。これがマスターランク。いいな。とてもいい。

 あの赤鬼がこの位階での基準値なら最高だが、俺は学んだ。期待したら損をすると。きっとあれはこの位階でも上位の強者だ。だからそんなに期待してはいけない。だけど、赤鬼より少し弱いくらいのはきっとそこそこいるはずだ。それは多少期待してもいいだろう。きっと。

 さて夕食にしよう。そのあとでまたランクマッチだ。楽しみだな。

 

 

 

 

 

 

 夕食後のランクマッチは、まあ、良くはなかったが悪くもなかった。赤鬼級はやっぱりいなかったし、その1段下って強さのやつも多くはなかった。3段下くらいのが一番多かった。残念。

 

 今はちょっと確認したいことがあったので、少し小休憩をしている。

 

「……どこだ?」

 

 ウィンドウを展開し色々と探る。オプション、アクションメニュー、同期設定。それっぽいのを探すが求めるものは見つからない。やっぱり無さそうだ。慣れるしかないのだろうか。

 少しの落胆を感じていると正面に気配。突然現れた。この感じは。

 

「ヤオヨロー!」

 

「……ヤチヨか」

 

 手を振り声をかけてくるヤチヨ。

 ログイン時に見かける姿を別とすると初日以来となる邂逅だ。 

 

「タロー、今日もKASSENやってるみたいだねー。もうみんなから色々聞きましてよ。そうとう暴れまわってるって」

 

 口元に手を添えながら話しかけてくるヤチヨ。だが聞き捨てならないことを言う。

 

「暴れる? 暴行などを行った覚えはないが」

 

「え……? あー違う違う。そういう意味じゃなくてランクマの話だよ」

 

「……?」

 

 ランクマ? ランクマッチの略称だろうが、俺が暴れてる?

 

「タローは別に悪くないんだけど、戦い方と戦績がちょっとアレだったからねぇ」

 

「アレ?」

 

「ハッキリ言うと、スキルもウルトも使わないプレイヤーがチート使ってランクマ荒らしてるって通報が結構届いてます」

 

「………そうか」

 

「うん」

 

「まず一つ聞いていいだろうか」

 

「どーぞ」

 

「チートとはなんだ?」

 

「うん。知ってた」

 

 知らないから問うたんだが。

 

「チートは簡単に説明すると、ずるっこすることだよ。攻撃力上げて相手を一撃粉砕。防御力を強化してノーダメージ、とか」

 

 射程無限遮蔽物貫通弓とかもそうだね。なんて説明をしてくれるヤチヨ。チートがどういったものかは凡そ理解した。

 わからないのはその後だ。

 

「何故それで俺が通報される? 俺は刀以外使っていないし、そもそもそのチートなるものの使い方も知らない。それで何故俺が容疑者になった?」

 

「ん-、まあタロー側からしたらそうなるよねー」

 

 どことなく気まずげに呟くヤチヨだったが、咳払いをしてから指を一本立て説明してくる。

 

「一つ目、戦績がヤバい。ツクヨミは各種ゲームでの対戦履歴が自動で記録されます。KASSENだとモード別で50戦分。そしてその履歴は誰でもプロフィール欄から確認が出来ます」

 

 設定でオフにも出来るけど、タローはやってないから関係ないけどね。なんて続けるヤチヨ。

 

「そしてタローと対戦した人はこう思います。『なんかノーダメでしかもスキルもウルトも使わずに完封された。こんな強いのに名前を全く知らない相手だ。どんなやつだろう?』そんでもって履歴を見ます。そこにはなんとぉー、KASSENのSETSUNAモードしかプレイしてない履歴。しかも記録に残ってる50戦全部に勝利している。さらにさらにっ! ツクヨミに数多くある他のゲームを一切プレイしていないときた!」

 

 なんか楽しそうだなヤチヨ。

 

「しかも履歴をちゃんと見ると、『これ最低ランクから全勝でここまで来てるな?』となる。こうなるともう確信するしかない。『こいつはチートでランクマ蹂躙してやがる』って」

 

「そういうものなのか」

 

「そういうものなのです」

 

「そうか」

 

 正直半分くらい意味がわからないし、どうでもいいと思っている。だって要はそれって―――

 

「―――勘違い、で終わる話じゃないのか」

 

 と、思うのだが。結局のところ俺はチートなるものは使っていないのだし。

 

「まあ、そうなんだけどねぇ。でもチートを使ってないこと、を納得させるのって大変なんだよね。『ヤチヨでも感知出来ないチートだったんだ!』っとか言う人絶対出てくるし」

 

 やれやれと呆れたように首を竦めるヤチヨ。

 管理人には管理人の苦労があるようだ。

 

「……問題なのは俺の勝率という認識でいいだろうか?」

 

「うん? まあ、そうなるね」

 

「そうか」

 

 なら、一つ聞いてみようか。

 

「ヤチヨ。この身体能力が上昇しているシステムを消す方法はあるか?」

 

「……うん?」

 

「これだ」

 

 言いながらその場で垂直跳びをする。およそ3mの高さまで跳び上がり着地する。

 

「これを無くしたい」

 

 先程まで一人で探していたものだ。

 

「……なんていうか、はじめて聞くクレームだねぇ」

 

「そうか」

 

 他にいないのか、これが嫌な人は。俺は結構キツいんだが。

 

「理由をお聞かせくださいな」

 

「自分の体が自分の思ったように動かない」

 

「え……?」

 

「走ると速すぎる。跳ぶと距離が離れすぎる。投げると吹っ飛ばしすぎる。刀を振る時に腕に変な力が作用して威力が上がりすぎる」

 

 自分の体が自分の想像した通りの結果を出さない。剣を手足のように扱うにしても、そもそもの手足が思ったように動かなければ剣の扱いもおかしくなる。

 

「俺の剣が、俺の剣でない動きをする。ので、なんとか出来ないだろうかという相談だ」

 

 なるほどと頷くも同時に疑問符を浮かべるヤチヨ。

 

「その話はわかったけど、勝率とどう関係するの?」

 

「単純だ。負けるようになる」

 

「???」

 

 なにか理解できないものを見るような目をするヤチヨ。

 

「え、だって、強くなるんだよね……?」

 

「いや、弱くなるが」

 

「……………なんで!?」

 

 なんでもなにも無いんだが。

 

「足が遅くなるから弓や銃を得手とする相手に対抗する術がなくなる。弾いたり躱したりは出来てもそれだけだ。勝てはしない」

 

 相手はひとっ飛びで逃げられるが、俺はそれに追い付けない。確か時間制限があると最初の説明にあったはず。どれだけ微弱な攻撃だろうと当たれば相手の勝利だ。俺には勝つ方法がない。

 

「刀が届く範囲ならば以前より強く、というよりも俺本来の技量に戻るがな」

 

「なーるほどー、なるほどねぇ……。縛りプレイというか舐めプというか。なんともはや」

 

「無理か?」

 

「うーん。まあ、チートとか使わないなら遊び方は自由だしね」

 

 少しの諦念を笑みに含み俺に語るヤチヨ。

 

「わかりました。その機能実装しましょう! バグとか出ないか検証しないといけないから今すぐは無理だけど、そうだねー、うん。4日後の定期メンテの時に実装するといたしましょう」

 

 ちょっと他にも修正しないといけないバグとかもあるしねー、なんて笑うヤチヨ。よくわからないが、要望が通ったようでなにより。

 

「あ、そうだタロー」

 

「どうした」

 

「―――ちょっと、コラボしてみない?」

 

 

 

 

 

 

人工知能(AI)? 君が?」

 

「うん。ヤッチョが」

 

 4日後。

 20時50分、小高い丘の上で夜空に輝く星を見上げながら俺は一人の少女と会話をしていた。

 年の頃は10歳前後、白の髪を結い、艶やかな着物に包まれた矮躯。

 

「………」

 

「ふふっ、タロー全然信じてない顔してるねー」

 

「……君は、人にしか見えないからな」

 

「ふふーん。それがこの超絶スーパーウルトラAIライバー、月見ヤチヨのすごいところだからねー!」

 

 自称、分体ちびヤチヨはそう胸を張って宣言した。

 

 月見ヤチヨはAIである。そしてこの目の前にいる小さなヤチヨは分体である、そうだ。なかなか信じ難いことを言うが、少なくともちびヤチヨは本気でそう言っているようだった。信じ難い。

 

「……そうか、すごいな」

 

「うわ、てっきとーだねタロー。信じてないでしょ」

 

「ああ」

 

 信じろというほうが難しい。確かに俺はAIというものに関しての知識はほとんど無いが、さすがに彼女のように笑ったり、困ったりする存在がAIとは思えない。

 

「ま、いーよべつに。このあと本体のヤチヨが来るから。その時にきっとわかるよ」

 

「そうなのか」

 

「うん。そうなのです」

 

 なんとも奇妙な会話だ。自分でしていてそう思う。

 隣に腰掛けている分体ちびヤチヨを見て思う。本当に奇妙だ。

 

「不思議だな」

 

「なにが?」

 

「君が」

 

 指を自身に向けて問うてくるちびヤチヨに頷いて返す。

 

「見知った知人が縮んでいるのは変な気分だ」

 

「ふふーん。かわいいでしょ」

 

「それはよくわからないが」

 

「ええーっ!」

 

 俺に美醜の判断を求められても困る。そんなもの殺し合う際に考えたりしないだろう。

 ふくれている少女を見下ろしてさらに思う。不思議だ。

 

「君は先ほど自身を分体と説明した。本体とはどう違うんだ」

 

「ん-、だいたいはおんなじだよ。記憶も別れる前までの分は全部共有してるし」

 

「そうなのか」

 

「うん。合体したら記憶も統合されるから抜けはないしね」

 

「便利だな」

 

「ですです。だから大きな違いは管理者権限の差かな。わたしたち分体はツクヨミの保守点検とかもたまにやるしね」

 

 仮想空間というのは本当に不思議だ。なにをどうしたら意識を複数に分けられるんだ?

 いや、AIというのが本当なら可能なのか? 信じ難い。

 

「本体と分体の違いをその幼い姿で表しているわけじゃないのか?」

 

「んー? ふふっ、違うよ。これは今日のヤッチョがちびヤチヨの気分だっただけだよ」

 

「気分、つまり好みか……」

 

「うん!」

 

「好み……、子供が好きなのか?」  

 

「好き! ちっちゃいし、可愛いし、なにより子供は夢だから」

 

「夢?」

 

 子供が、夢。

 

「そうだよ。子供っていうのは夢で出来てるからね。あれになりたい、これになりたい、そんな夢で出来てるの。そういう子を見るとね、いつも思うの。この子は将来どんな子になるのかなーとか、夢を叶えることが出来たらいいなーとか。そういうたっくさんの夢を想うの。その子の未来の可能性を想像するだけで楽しくなっちゃう」

 

「未来、か」

 

「うん。恋をして、大人になって、誰かと愛し合って、子供が出来て、親になって、いつかおじいちゃんおばあちゃんになる。そんなみんなを見るのが、本当に好きなの」

 

「……」

 

「みんながみんな幸せになれるなんて言わないけど、でも、そうなってくれたらいいなって、ずっと思ってる」

 

 夜空を見上げながら呟くように言う幼い少女。

 これがAI。本当に信じ難い。

 

「だからタローも子供は大事にするんだよ」

 

「ん?」

 

「子供は尊い存在なんだから、驚かしたり、怖がらせちゃダメって話。大切にだーいじにしなくてはいけないのだっ。なんて、タローには言わなくても大丈夫だったか」

 

 てへへ、と笑うちびヤチヨ。

 確かに俺に言うことではないな。そもそも子供と関わり合うことなどないのだから。そんなことをする意味が俺にはない。

 だがまあ、

 

「―――了承した。機会があれば考慮しよう」

 

 そんな機会は無いのだから、そう答えることに異存はない。

 

「そう? ふふっ、ありがとっ」

 

 今まで共に過ごす中で一番自然に笑っている彼女を見ながら、時が経つのを待つ。

 

 二人並んで夜空を眺めていると、背後に気配が現れた。まさか本当だったとは。

 振り返るとそこには大人の、いや通常と言うべきか? ともかくいつもの大きさのヤチヨが宙にウィンドウを展開させながらそこにいた。隣を見る。ちびヤチヨが得意気に笑っている。

 

「実は君はヤチヨの妹という可能性はないだろうか」

 

「ないでーす。ヤッチョはずっと本当のこと言ってまーす」

 

 そう笑いこちらに手を振ってヤチヨに向かって駆けて行くちびヤチヨ。

 飛び込んでいったちびヤチヨをヤチヨが抱きしめその場で一回転すると、もうちびヤチヨはどこにもいなかった。

 

「……彼女はどこへ?」

 

「ここだよ」

 

 そう自分の胸に手を当てるヤチヨ。

 その様子を見て少し考えてから口に出す。

 

「子供は」

 

「―――とーっても大事!」

 

 先ほど見かけたような得意気な顔で俺の言葉を遮ってくるヤチヨ。

 なるほど。

 

「参った」

 

「うむうむ。よきにはからえー」

 

 俺が手を上げて降参を表明すると、満足げに胸を張るヤチヨ。

 これがAIか。すごいな。俺が全然知ろうとしなかっただけで世界はこんなにも進歩していたのか。今の俺はツクヨミに初めて来た時よりも驚いているかもしれない。

 ヤチヨの隣のウィンドウに視線をやり、問う。

 

「それがそうか」

 

「うん。今は画面切り替えてCM流してるとこ。今度新しいアルバム出すんだー。買ってくれてもいいんですのよー?」

 

「興味がない」

 

 そんな俺の言葉に対して、よよよ~と泣きマネをするヤチヨ。

 それを半ば無視しウィンドウの画面を覗く。なんかいっぱい文字が流れてるな。

 

「これは?」

 

「見てくれてる神々のみんなのコメント。いっぱいですごいでしょ」

 

「神々?」

 

「神々っ!」

 

「………そうか、すごいな」

 

 まあ、なんでもいいか。

 

「俺は君と戦えるなら、それでいい」

 

 ヤチヨはその言葉に少しだけ困った顔をしたが、すぐにいつもの笑みに戻った。

 

「じゃ、やろっか」

 

 ヤチヨと俺が集まり、なにをしようとしているのか。

 答えは『コラボ配信』だそうだ。

 先ほどまで俺はちびヤチヨに教わりながらモーションアシスト機能をオフにする設定を教わっていた。これによって以前ヤチヨと話したように今後の俺の勝率は確実に低下するだろう。

 だがそれが俺を通報してきた相手達に伝わるには、自然と時間がかかる。

 なので今からやるのは、その時間を短縮するためのコラボ配信、だそうだ。

 俺としては正直どうでもいいんだが、この世界の管理人の気を削いで最終的にここを追い出されるような結果はごめんだ。

 

「神々のみんな、どうだったどうだったー? アルバム楽しみ? 絶対買う? うんうん、みんなありがとう。楽しみにしててねー」

 

 カメラウィンドウなる画面を見ながらコメントを読み、会話をするヤチヨを少し離れたところから眺める。

 文字と会話とは、配信っていうのは変なことをするものなんだな。

 そうして1、2分ほど配信風景をなんとなしに眺めているとヤチヨに呼び掛けられる。出番か。

 

「―――ここからは久しぶりにKASSENのSETSUNA配信! って言っても一戦だけだけどね。そんなわけで、今日の対戦者はこちらっ!」

 

 どこからともなく鳴った銅鑼のような音と共に両手を俺に向けるヤチヨ。

 カメラウィンドウが俺を見たのを認識し、軽く会釈する。ちびヤチヨとの打ち合わせ通りだ。

 

「今SETSUNAのランクマ界隈で話題沸騰中のタローくんでーす。はい拍手!」

 

 ヤチヨがやった方がいいと言ったのと、あと戦うと聞いたからこの話を受けたが、思ったより面倒くさいやつだなこれ。はやく戦えないものだろうか。

 

「そう今話題の桃太郎だよ。話題過ぎてヤッチョが困っちゃうくらいに話題の桃太郎。知らない人に説明すると、チーター疑惑でヤチヨのとこにいっぱい通報が届いてるって意味ね」

 

 迷惑な話だ。ルールに則って勝負をし、勝っただけだというのに通報されるとは。

 

「チートの発見・妨害・修正システムは正常作動中。そのうえでツクヨミ管理人たるヤチヨが直々に調査した結果…………。ここにいるタローくんはチート使用を一切行ってませーん! ヤッチョが全面的に保障します! 単純に本人がなんかめっちゃ強いだけです!」 

 

 まあ今後は負けるんだが。

 

「そんなチートとすら疑われる驚異の実力を神々のみんなとご拝見しよう! ということで彼にはお越し頂きました! KASSEN、SETSUNA(1対1)、1本勝負ってルールでね」

 

 そう言って虚空から()を取り出すヤチヨ。

 前回使っていた傘じゃない?

 

「なぜ刀を?」

 

「配信用! 美少女と日本刀の組み合わせは鉄板だからね。これでもちゃんと配信でも映えるように練習してきたんだから、みんな楽しみに見ててね。本邦初公開だよ」

 

 正眼の構えを取り、真っ直ぐに視線をよこすヤチヨ。

 

「ふっふっふー。さあさあ遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よってね。剣豪将軍ヤッチョさんがお相手致そうではないかー」

 

「そうか、では」

 

 鏡写しのように同じ構えを取り、応える。

 

「―――タロー、推して参る」

 

 ヤチヨの上段からの振り下ろし、俺の下段からの斬り上げ、2本の刀が交錯する。

 ヤチヨの刀に弾かれる。力負けしたか。アシスト機能を切った結果だな。だが問題はない。昨日までとは状況が違う。

 刀を振り下ろす。思ったように望んだ通りに。銀閃が宙を奔る。刀を握る感触以外に文句のない確かな俺の剣。とてもいい。だが、

 ―――受け流される。至極あっさりと。当たり前のように。極々自然な動きで。

 ……なんだ、今のは?

 今度は刀の切先を狙い、横に払う。

 ヤチヨは半歩下がって回避し、そのまま突き込んでくる。

 弾き、切り返す。一歩横にズレて躱される。どこか見覚えのある動き。ヤチヨが刀を上段に構える。

 ……いや、違う。まさか、これは

 

 刀が振り下ろされる。

 

 ―――これは、俺だ。俺の剣だ。

 細部は異なるが、根幹にあるのは確かに俺の剣。

 考える。何故ヤチヨが俺の剣を振るえる? 何故それを自身に合うように最適化が出来ている?

 ツクヨミに来て1週間。彼女と共にいたのなんてその内のほんの一時でしかない。剣に至ってはたった一度の戦闘でしか見せていない。それだけの時間で解析したとで、も……?

 ―――()()()()()のか。

 ヤチヨは、AIだ。それも俺の想像の範疇を軽く超えた、呆れるほどに信じ難いスペックの。俺とは別種の、文字通りの意味での()()()()だ。ならばこんなことが可能でも不思議ではない。

 横薙ぎに振るわれる刀を弾き、脇下を斬りつけながらヤチヨの背後に周る。

 だがそれでも、技量は特出したものではない。

 ヤチヨに合わせて改造されている俺の剣のアレンジコピー。改造された剣術。改()ではない。

 現時点においては剣の技量は俺のほうが確実に上回っている。ただ、

 

「セイッ!」

 

 正面からの真っ向斬り。これだけは別だ。

 重心の移動、力の転換。この振り下ろしだけは完全に別格だ。この技のキレだけが異様に冴え渡り過ぎている。

 真正面の上段からの振り下ろし。確かにそれは剣術の基礎であり必殺たる技だ。故にそれの熟練具合が他と比較して突出していても不思議ではない。不思議ではないが、

 

「とりゃっ!」

 

 全力での真っ向斬りを刀で受け流し互いの位置を入れ替えるように交差する。

 いくらなんでも上手過ぎる。

 攻撃、防御、足捌き、この振り下ろしと比べるとそのどれもが2段、いや3段は落ちる技量だ。それでもランクマッチで当たる他のプレイヤーと比べても上位に位置するだろうが。

 それにしても随分と変わったことを試みるものだ。基礎を磨くのは分かるが、それだけが特化しすぎても全体の技量そのものを向上させないと斬り合いでは向かないだろうに。俺の剣を真似たのには驚いたがそれも最初だけ。そのタイミングで切り伏せられないなら意味はない。AIの考えることはよく分からないな。

 

 まあいい。

 大事なのは斬って斬られること。それだけだ。

 胸の奥から火が灯り、背骨を通って頭の中心へと熱が伝っていくような感覚を覚える。自然と口角が上がっていくのを自覚する。

 戦力分析は終わった。ヤチヨがこれからどう動くかは大体予想がついた。あとはひたすらこの時間を堪能するだけ―――

 

 ヤチヨの繰り出した刀が俺の脇を掠める瞬間、―――刀が()()()

 

 ……なんだ、今の?

 なんで、そこでブレた? なにがあった? 手元が狂ったのか?

 困惑を抱きながらヤチヨを見る。変わらぬ笑顔で俺を見ている。配信を再開した時からの柔らかな笑み。なにもおかしなところはない。気のせい、か? 

 ヤチヨの刀が俺の太ももを掠っていった。そして、

 

 ―――ヤチヨの視線が()()()

 

 は?

 待て、今何を見た? 何が見えてる? 何故俺から目が逸れる?

 思考を回す。理由を探す。そうして考え続けていると自覚する。頭から()()()()()()()。焦るように刀を打ちつけるが、その気持ちと反比例するように頭の中の火が小さくなっていく。

 ヤチヨを見る。先ほどから変わらない笑顔。

 試してみるか。

 ヤチヨの斬撃を避けようと半身になって躱そうとして左腕が切り裂かれる、ように調整する。狙い通りにヤチヨの刀は俺の腕を断ち切―――らず、腕の半ばまでを斬っていっただけだった。

 

 火が消える。口から洩れそうになった溜め息をなんとか飲み込む。完全に冷めきった頭と脳で考える。仕方ない。終わろう。折角ヤチヨが俺のアレンジコピーなんてものを披露してくれたというのに、堪能しきる前にまさか冷めてしまうとは。

 悪いなヤチヨ。

 そう思いながら距離を詰めての袈裟斬り。防いだヤチヨの刀とそのまま鍔迫り合う。

 間合いを取ろうと突き飛ばそうとするヤチヨの力を完全に受け流し、鍔迫り合いの態勢を継続させる。距離を離させない。

 この超至近距離では刀を振るうことは出来ない。ならどうするか? 決まってる。相手を押し退けられないなら、自分が引くしかない。

 後方に飛び退こうとして足に籠めた力を解放しようとするヤチヨ―――その足の甲を全力で踏みつける。

 

「あっ」

 

 不意を突かれ、勢いを殺すことも出来ずに背中から地面に倒れこむヤチヨ。

 仰向けになったヤチヨの膝を踏み抜き、腹をこちらの膝で押さえつけ、首を片手で掴み固定。そのまま右手の刀を首に突き立て、すぐさま横に掻っ切る。

 驚愕を写した瞳が頭ごと横に滑り落ちた。

 

 決着。

 なんともまあ、不完全燃焼な戦いだった。残念。

 

 刀を払い、納刀。

 宙に溶けていく桜の花びらを眺めていると横から声がする。

 

「どうだった?」

 

「少し驚いた。君はこんな芸当まで出来るんだな」

 

「へっへーん。すごいでしょ」

 

「ああ、随分な完成度だった。だが気になったのはあの振り下ろしだ。なぜあれだけに特化させた?」

 

「あれは………その方がカッコいいかなって思ったから、いっぱい練習したのですよ~」

 

「そうか」

 

「そこそこ悪くない結果は出せると思ったんだけどなー。最後は綺麗にやられちゃったね」

 

「そうか」

 

 そうそう、と雑な相槌を打ってからカメラウィンドウに向かうヤチヨ。

 

「こんな感じで、見てもらった通りこの人はチートとかどうとかじゃなく、めっちゃ単純に強いだけってことですので、神々のみんなはチート使用疑惑での通報はもうしないようにね。実際に使ってたらちゃーんとヤチヨがすぐさま対処してメッ! しちゃうから」

 

 そうやってカメラウィンドウに語り続けるヤチヨの背中を見ながら思う。どうしようか。

 今のヤチヨを見る限りさっきのことを引きずっている様子はない。なら問題はないか? 普段は隠しているがそれが漏れ出してしまっただけ? だが自分自身で知覚していないという可能性もなくはない。

 さて、どうするか。

 

「タロー、なにか最後に感想とかある?」

 

 考え込んでいるとヤチヨに話しかけられた。

 事前にしたちびヤチヨとの打ち合わせで言っていた俺の出番の終了の合図か。

 一呼吸分の時間だけ考え、口を開く。

 

「ヤチヨ、後で時間をくれ。話がある」

 

「え」

 

 俺の言葉を聞いた途端にヤチヨは笑顔を硬化させカメラウィンドウとコメント欄をチラリと見やる。なぜか速度を増し高速で流れていくコメントを眺めながら小さな苦笑を零し、口を開くヤチヨ。

 

「配信とか見ないし、興味もないならそんな言い方もしてくるかぁ。これは事前想定が甘かったのです。ヤッチョ反省」

 

「どうした……?」

 

 なぜか肩を落とすヤチヨ。本当にどうした。

 なんでもないと首を振り、今話すように俺を促してくるヤチヨ。そちらがいいなら構わないが。

 

「聞きたいことが二つと、言いたいことが一つある」

 

「ふむ。それはなーに?」

 

「まず一つ。君は刀を振る理由は配信だと言った。それ以外の理由はあるか?」

 

「いや、特には無いけど………あえて言うならキミに合わせて刀で対決って形のほうが映えるからってことになるのかな?」

 

「なるほど。では聞きたいことの二つ目だ」

 

「うん」

 

「君の心と配信、それの比重はどちらの方が大きい」

 

「……うん? え、うん? 心?」 

 

 ヤチヨは困惑を顔に浮かべるも、明確な言葉を返しては来ない。

 返答がないのならそのまま続けよう。

 

「最後に言いたいことだ。比重が心に傾くのならば、君はもう刀を握るな。それは眼前の敵以上に君の心を裂くものだ。いずれ限界が来る。やめておけ」

 

 ポカンと口を開けこちらを見るヤチヨ。

 この反応は自覚していなかったな。

 

「ヤチヨ。君は俺を、他人を斬ることを忌避していた。君の太刀筋は斬ること、傷つけることを厭うもののそれだ」

 

 だから斬る直前にブレた。刃を振りきれず浅くしか切れなかった。

 敵意も害意も殺意もない。それはいい。ヤチヨとはそういう人物なんだろう。だが刀を振るうことを忌避するのなら別だ。そんな相手と戦うことに価値などない。

 

「なにより目だ。君が斬った直後目線が俺から逸れたぞ。あれは何を見ていた? まるで何かを追うような視線で…………追う? 斬ったあとに見た、見えるもの? ―――ああ、血か」

 

 思考をそのまま口に出すと、表情を強張らせるヤチヨ。正解か。

 

「だがそうなると何故自身の傷には反応しない? 血を厭っているのならそこにも拒絶が混ざると思うが……?」

 

 空を見上げつつ口元に手を当て考える。

 首を落とされる瞬間にもヤチヨの目には恐怖も拒絶も無かった。何故それには反応しなかった?

 

「自身の傷には興味がなく、他人の流血にのみ忌避感がある? それは何故? ―――自分自身が傷付き血を流す姿が想像出来ないから、か?」

 

 理論上はそれで説明がつく。つくが、なんでそんなわけのわからない考えが根幹にある?

 生きている以上は誰だって怪我の一つや二つ負うことなんて珍しくは―――

 あ、

 

「―――AI。そうか君は血を流さない。流れる血液がそもそもない。外傷を負うなんて事態に陥ったことがない。だから想像すらしない」

 

 視界の端でビクリと肩を震わすヤチヨが見える。

 

「君は自身を8000歳とも称していたな。なら君はこの8000年の人類の進化という名の血と殺戮の歴史を眺め続けてきたということ。君にとって刀は、剣とは他人に痛苦を与える忌むべき存在。この仮定が正しいのならここまでの筋道が立つ」

 

 だがそうなると疑問が一つ新たに湧いてくる。

 ヤチヨと初めて出会った一週間前のことだ。

 

「以前君は俺と戦った時は今回のような反応はしなかった。それは何故だ? 確かにあの時は刀ではなく傘を振るっていたが………」

 

 つい一週間前のことを思い出しながら考える。あの時のヤチヨに不自然さは無かった。敵意も害意も殺意もなく、俺に向かって問題なく戦えて―――

 

 ―――違う。()()()()()んだ。

 

()()か。戦いじゃない、遊びだ。君はKASSEN(これ)()()()と称していた。殺し合いを模した遊びだと。だからこその傘か。だから武器としては認識しずらい得物を選んだ。遊びだから。遊びで使うおもちゃとして選択したのがあの傘。誰かを傷付けるための武器でなく、誰かと遊ぶためのおもちゃ」

 

 彼女は言っていた。『ツクヨミ(ここ)はみんなの居場所、みんなの遊び場』と。

 

ツクヨミ(ここ)では血が流れない。痛みを感じない。だってここは遊び場だ。誰かが嘆き苦しむ場所でなく、誰かと笑い楽しむ場所。それこそが君が創ったこの世界の在り方か」

 

 ヤチヨを見て思う。理解できない、と。

 他人の傷を厭う。苦しみを拒絶する。流血を否定する。

 なに一つ、俺には理解できない。

 

「ヤチヨ、君は俺とは違う」

 

 違い過ぎるあまりにも。

 

「以前君には言ったな、俺が刀を握る理由を。俺の目的の為に他者の存在は不可欠ではあるが、俺が刀を振るうのは俺の為でしかない。自己の為にだけ刀を振るう。俺はそういう人でなしだ」

 

 『殺し合い』という頭のおかしい栄養素を摂取しなければ生きていけないろくでなし。

 常道を進むことが生まれた時から出来ない外道。

 人足り得ないもの。

 

「君はAIだ。そういう意味では君も人でない存在ではある。だが違う。君は人だ。ただの優しい人だ。君は他者を慈しみ、尊び、笑い合う存在として認識している。重要なのは生まれじゃない。どうあるかだ。君は在り方が俺なんかよりもよっぽど人だ」

 

 どこか怯えるように俺を見るヤチヨに視線を戻し、その目を見つめる。

 

「だから刀を置け、ヤチヨ。それはなによりも君の心を切り裂くものだ。優しい君が握るには、あまりにも似合わない」

 

 そう告げ、口を閉じる。

 言いたいことは全て話した。刀を置けとは言ったが選択するのは無論ヤチヨだ。自身の心を斬るよりも配信での『映え』なるものを優先するというのなら、それもいいだろう。

 俺は思ったことを言っただけにすぎない。どうするかはヤチヨの判断だ。

 

 俯き、肩を震わすヤチヨをじっと眺めていると声が聞こえた。

 

「……………こ」

 

「……?」

 

 こ?

 なんだろうと一歩近づき、耳を澄ませようとした。

 

「これで」

 

 これで? 

 なにが言いたいのかと疑問を浮かべていると唐突に飛んでくる飛翔物体。顔を傾げてヤチヨがぶん投げてきた刀を躱す。

 

「―――これで勝ったと思うなよーーーーーっ!!!!!」

 

 真っ赤に染まった顔で大きく叫びながら宙に浮かび、空を凄まじい速度で駆けて行くヤチヨ。

 空に消えていくヤチヨを半ば呆然と眺めてから、横に浮かぶウィンドウを見る。

 

「いや、勝ったと思うんだが……?」

 

 ウィンドウには『WIN』の文字が燦然と輝いていた。

 

 

 

 




オリ主くん/タロー
他人の考えとか感情とかは基本的にどうでもいいけど、ヤチヨはツクヨミの管理人で機嫌を損ねて出禁とかされたら困るし、精神的に参ってそれに伴いツクヨミが無くなっても困るのでヤチヨの言うことは基本的に聞くし、自分に出来る範囲で気遣う。でも配信を見たり楽曲を購入したりはしない。興味ないんだもん。
SETSUNAランクマで無双してたが、アプデ後はそれも終了。本人が言うように遠距離型のビルド相手に何もできずにタイムアップ負け。わかりずらかったかもしれないけど、簡単に言うと乃依くんに完封負けするようになります。
ヤチヨの倒し方と、赤面顔を引き出したことでヤチヨガチ恋勢から蛇蝎のごとく嫌われるようになった。たまにお気持ちメッセージが来るけどガン無視。どうでもいい。

ヤチヨ/月見ヤチヨ
最初のチュートリアルこそ干渉したが今後はいろP同様にかぐやが来るまで距離を取ろうと思ってたとこに飛んでくるチート疑惑の通報の嵐。まあ、これだけやって今度こそ距離とろうと思って対処してたら最後にぶっこまれた。
殺し合いに関しての忌避感は自覚あったが、刀にすらそんな風に思ってたなんて自分では思ってなかったし、傘はそんな理由じゃなくて単純にかっこかわいいから選んだだけだし、でも深層心理でそう考えてなかったかと問われると否定できないし、そもそも刀同士で一回戦っただけでなんでそんな見てきた風に言えるんだコイツは普段はそんなに人の気持ちわからないくせにとか思ったり、それ以外にも色んな感情がオーバーフローした結果の赤面逃亡。
ヤチヨの激レア赤面シーンとして切り抜き動画が上がり、バズッた。ヤチヨは自室でちょっと暴れた。

一般通過プロゲーマー鬼いちゃん/帝アキラ
プロゲーマーチーム「Black onyX(ブラックオニキス)」のリーダー。個人配信で久しぶりにSETSUNAのランクマ配信してたら噂のチーター桃太郎と遭遇。立ち居振る舞いからチートじゃないなと判断し警戒を一段落としてしまったのが運の尽き。笑い暴れるオリ主くん相手に一方的に流れを奪われHP残り1割まで削って敗北。変な噂を聞いて先入観を持ってなかったら恐らくギリッギリ勝ってた。あのあとめっちゃ悔しがってた。

ヤチヨ推しの女子苦学生/iro
今話でも出番らしい出番の無かった隣人さん。押し倒されて首を掻っ切られるヤチヨを視て叫びそうになるのを近所迷惑を考えて一生懸命に我慢し、赤面するヤチヨという初めて見る表情に大声上げて悶えそうになるのを必死に耐えたりしてた。
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