よくある男オリ主もの   作:SeA

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前回のザックリとしたあらすじ

光る電柱から出てきた赤ん坊をヤチヨとした約束を思い出して拾ったオリ主くん。
そんなオリ主くんを不安に思って協力を申し出た隣人の酒寄さん。
そして始まる3連休。


オリ主くん、育てる

 3連休の初日。朝。 

 部屋の中心で目を覚ます。 

 いつも通りの、なんの変哲もない部屋だ。

 

 体を起こし壁を見る。正確に言えば昨日名前を知ったばかりの隣人の部屋がある方向の壁だ。

 一拍だけ観察して視線を外す。

 動いている気配はない。まだ眠っているのだろう。

 このアパートは壁が薄いし、振動も伝わりやすいから気配が読みやすい。

 暮らし始めてから1年も経って今さらながら思う。便利だな。

 

 シャワーを浴びて、着替えて、食事を済ませた。

 隣を窺う。まだ起きてないな。

 スマホで『赤ちゃん 必要なもの』で検索をする。

 

 昨夜、赤ん坊を拾った。

 死ぬつもりだったがヤチヨとの約束を思い出してしまったせいだ。思い出してしまった以上は仕方がないので一応は約束を履行して、それから死ぬことにした。

 実に面倒くさい。

 ともかくそんな理由で赤ん坊を拾ったのだが、その赤ん坊がひたすら泣いた。うるさすぎて放り出してしまうかどうかを考えるくらいには泣いた。 

 

 そんな時に現れたのが隣人、酒寄彩葉だった。

 一切知らなかったが俺のクラスメイトだったらしく、俺の赤ん坊の扱い方に疑問を呈し、さらには一晩預かるといった旨の提案をしてきた。

 なんでそんなことを言い出したのかは知らない。興味がないので聞く気もない。どうでもいい。

 

 昨夜の出来事を通してわかったことが一つあった。

 俺には知識が足りず、この部屋には物が足りない、ということだ。

 

 赤ん坊という生き物は繊細なものらしい。

 故にその取り扱い、及び使用する道具にも注意を払う必要があるらしいのだ。

 なんとも面倒くさい。

 しかし約束を守るためだ。足りないのならば足さなければいけない。

 

「肌着、ベビー服、おくるみ? オムツにおしり拭き………」

 

 検索結果を幾つか読んでみたが、物が多い。なんだこの数は?

 服はわかる。おそらくは昨日電柱から出てきたときに着ていたような赤ん坊用の服だろう。

 おくるみ、なるものは一体なんだ? おく、るみ? お、くるみ? なんだろう、語感で判別が出来ない。個別で調べないといけないだろう。

 オムツ。まあいるだろう。それくらいは俺にも分かる。だがおしり拭き? トイレットペーパーじゃダメなのか? 尻を拭くなら同じものじゃないのか? わざわざこんな風に記載されるような物なのか?

 

「ベビーソープ、ベビー、バス……?」

 

 普通の風呂と石鹸でよくないか? わざわざ赤ん坊用の物まで準備するものなのかこれは? 

 すごいな。全くもって理解できない世界だ。実に面倒くさい。

 

 そうして足りない知識を埋めるためにスマホを駆使していると隣室の気配が動いた。

 起きたようだが、なにか慌ただしいな。動き回っているのを察知する。

 スマホをポケットにしまい、靴を履いてアパートの通路へ出る。

 数歩進んで隣室の扉の前に立ち、インターホンを押す。

 音が聞こえたのだろう。中の気配が急に動きを止め、足音を極力殺して玄関へと近寄ってくる。

 そうして音を出さないよう静かにドアスコープでこちらを覗いてきている酒寄に声をかける。

 

「浦野だ」

 

『うわっ』

 

 ガタッと扉越しに音がした。

 どうかしたのだろうか。一応こちらの姿を視認しただろうタイミングで声をかけたのだが。 

 小さな鎖が擦れたような音がした後に扉が少しだけ開かれる。

 

「お、おはよう」

 

「ああ」

 

 扉の隙間、架けられたドアチェーンより高い位置から顔だけ出して挨拶をしてくる酒寄。

 なぜ体を隠すような不自然な態勢をしているのだろうか。

 

「赤ん坊の回収に来た」

 

「あー、うん。そうだよね……」

 

 なぜか言い淀む酒寄。

 どうかしたのだろうか。

 

 酒寄はこちらの疑問を察したのか、慌てたように言葉を紡いでくる。

 

「いや、なんかあの子おねしょ、しちゃってて」

 

「……なるほど」

 

 起きたら寝具が汚されていたから、あんな風に慌てたような気配だったのか。

 ということは、今は片付けようとしていた最中だったか。

 

「処理はどうする? 預けたのは俺である以上、責任もまた俺にあるが」

 

「えっ!? いや、いやいやいや、預かるって言いだしたのはこっちなんだし大丈夫だから!」 

 

「そうか」

 

 ならいいか。

 それにしてもおねしょか。やはりオムツは必要なようだ。

  

「それであの、浦野くん。あの子のオムツとか服とかなんだけど……」

 

「ああ。これから買いに行く」

 

 俺の返事に驚いたような顔をする酒寄。

 どうした?

 

「買うって、え、あの」

 

「なんだ」

 

「いや、あのー、お金は……?」

 

「使うが?」

 

 俺の回答に疑問を表情に浮かべる酒寄。

 疑問はむしろ俺の方があるのだが。

 なんだその質問は? どういった意図で聞いてきてるんだ?

 

 溜息を飲み込み、思考を変える。

 まあ、そんなことはどうでもいいんだ。

 とりあえず今はやるべきことをやればいい。

 

「赤ん坊を。酒寄も片付け等やるべきがあるだろう」

 

 その間も赤ん坊が部屋にいては不便だろう。なにより赤ん坊の拾得者は俺だ。いつまでも押し付けているわけにはいかない。

 そう思い手を差し出すが、浮かない顔をする酒寄。

 

「……浦野くんの家って、体拭くものとかちゃんとある?」

 

「バスタオルはある」

 

「…………なんか、ウェットティッシュ的なのは?」

 

「ない。トイレットペーパーならあるが」

 

 苦虫を嚙み潰したような顔をする酒寄。先ほどからどうしたのだろうか。

 疑問を尋ねようとすると室内から響いてくる泣き声。どうやら赤ん坊が目覚めたらしい。

 慌てて扉から離れ赤ん坊の元へと戻っていく酒寄。朝から忙しないものだ。

 

 通路の柵に寄りかかりながら朝の空を見上げていると、ドアチェーンが外れる音がした。

 視線を向けると開かれた扉とタオルにくるまれた赤ん坊を抱えた酒寄がいた。

 無事に泣き止んだらしい。

 

「部屋の中ちょっと片付けたりとかするから、その間抱えててもらえる?」

 

「構わないが、いいのか?」

 

「……なにが?」

 

 不思議そうな顔をして聞いてくる酒寄。

 どちらかと言うと聞きたいのは俺なのだが。

 

「体を隠さなくて。先程までは隠していただろう」

 

「うっ」

 

 言葉に詰まり顔を朱に染め、どこかに隠れようと動こうとしたが腕の中の赤ん坊の存在を思い出したかのように動きを止めた。

 諦めたように肩を落として、こちらを睨むようにして見てくる寝間着姿だろう恰好の酒寄。

 なぜ睨む?

 

「いいの! とにかく少しの間抱えてて!」

 

 そう言って赤ん坊を突き出してくる酒寄。

 

「了承した」

 

「終わったらそっち行くから、それからちょっと相談しよう」

 

「……相談?」

 

「相談!」

 

 なぜそんなことをしようと言うのだろうかこの女は。

 よく理解できないが、こうして力強く言い放つ酒寄にわざわざ聞くのも面倒くさいので言い返すのはやめることにした。

 

「了承した」

 

 返事をし、赤ん坊を受け取る。

  

 ?

 なんか、重くないか? 昨日もこんな重量だったか?

 それに大きさもこんなサイズだったか? もう少し小さかったような気がしたのだが。腕輪もどことなく大きくなっているような……?

 ……覚えてないな。大きさなんて気にも留めてなかったしな。

 

 そうして、困惑と赤ん坊を抱えて自室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

「買い物の内容?」

 

「そう。浦野くんなに買えばいいか把握してる?」

 

 自室へと戻ってから数分の後、長袖長ズボンという露出度の極めて低いこの時期にしては暑いだろう恰好に着替えた酒寄がやって来た。既に薄っすらと汗をかいている。なぜそんな恰好に着替えたんだこいつは。

 

「調べはした」

 

 そうしてスマホを差し出す。

 表示されているのは酒寄が起きる前に調べていた子育て用品についての記述だ。 

 

「それらを買えば問題はないと判断した」 

 

「まあ、多分、そうだね」

 

 記載された内容を目に焼き付けるように読みながら答えてくる。随分と真剣な様子だ。

 画面から視線を上げ、俺を真っ直ぐに見てくる酒寄。

 

「……ごめん、ちょっと失礼なこと聞くけど――――浦野くん、お金あるの?」

 

「あるが」

 

「あるの!?」

 

「ああ」

 

 なぜ驚く。

 現代社会で生活するには金銭は不可欠だろう。それならば一人暮らしの俺がある程度の金銭を所有していても不思議なことはないだろうに。

 

「あるのに、()()なの!?」

 

 手を広げ、俺の住居環境を示す酒寄。

 

「ああ」

 

「せ、節約してるとか?」

 

「そのようなことはしていない」

 

「使ってた物が壊れちゃって、まだ新しいのを買ってないだけとか?」

 

「引っ越した時から大して変化はないが」

 

 変化というか、増えたのはスマコンぐらいだろう。

 ここに越してきて一番高かった買い物はおそらくアレだったな。

 

「そ、そう」

 

「ああ」

 

 沈黙。

 呆れたような表情で俺を見てくる酒寄。

 なにかおかしなことを俺は言ったのだろうか?

 

「……手伝う」

 

「なに?」

 

「手伝うって言ったの」

 

「なにをだ」

 

「その子のこと」

 

 そう言って俺の腕の中にいる赤ん坊を指さす酒寄。

 

「何故だ」

 

「浦野に赤ちゃんを任せるのが心配だから」

 

 心配?

 

「理解できない」

 

「……なにが?」

 

「酒寄がだ。これを拾ったのは俺だ。昨晩もそうだが何故酒寄はそうまで気にする?」

 

 そこが理解できない。

 俺にはヤチヨとの約束がある。だから拾った。そして拾得者としての責任が生まれた。

 だが酒寄は違う。ただの隣人だ。

 この赤ん坊を気にする理由など何処にもないはずだ。

 

「何故もなにも、赤ちゃんは大事にしなきゃいけないんだから、気にするでしょ普通」

 

「……()()か」

 

「うん普通。っていうか当たり前? この子抱えたときにさ『この生き物は守らなきゃいけない』みたいなのも思っちゃったし。浦野くんだってそんな風に思ったからこの子連れて帰ったんでしょ」

 

「……そうか」

 

 当たり前、か。

 全く分からない。理解ができない。

 それが人の常識、人が持ち得るべき当たり前の感情なのだとしたら、きっと(人でなし)には一生分からないものなんだろう。

 

 どうでもいい。

 

「浦野くん?」

 

「……手伝うとは? 具体的には何をする気だ?」

 

「あ、うん」

 

 スマホを俺に返却し、居住まいを正してから口を開く酒寄。

 

「浦野くん、子育て経験ないでしょ」

 

「ああ」

 

「子育て用品を揃えたとして、ちゃんとその子の世話出来る自信ある?」

 

「ちゃんと、の定義による」

 

「それってつまり自信無いってことでしょ」

 

「定義による」

 

 溜め息を一つ零す酒寄。 

 この回答では不満だったらしい。

 

「警察に連絡とかする気はないの?」

 

「なんと伝える? 光る電柱から出てきたと見たままを正直に言うのか」

 

「……まあ、そうだよね」

 

 俺でもわかる。それは悪手だろう。

 

「とりあえず今日からの3連休の間は手伝うよ。そのあとは任せるから、この期間中になんとか色々覚えて」

 

「了承した」

 

「とは言っても、私だって自慢出来るような知識を持ってるわけじゃないけど」

 

「そうか」

 

 だろうな。昨晩の会話から酒寄にその手の経験があるようには感じられなかった。

 

「まずは買い物だよね。どうしよっか」

 

「10時から開店する西竹屋という店に向かう気でいた。異論はあるか?」

 

「ああ、あそこ。そっか子供用品店だったもんね」

 

「らしい」

 

「その子はどうするの?」

 

「持っていくつもりだ。服を買うなら着る本人がいた方が確実だと判断した」 

 

「そうだね。そうしよっか」

 

 言いながら視線を、抱えている俺の腕を小さな手で叩いている赤ん坊へと移す酒寄。どことなく表情が和らいでいる。

 

「酒寄はその間どうする?」

 

「……私も行く。浦野に―――ってごめん浦野くんにだけ任せるのちょっと心配だし、1人より2人で買うもの確認した方が安全だろうし。あとで実は必要だったとか判明したら面倒だしね」 

 

「了承した。あと昨夜も言ったが呼び方は好きにしろ」

 

 呼称にこだわりなど無い。

 呼びたいように呼べばいい。

 

「うっ、ごめん……。じゃあこれからは浦野って呼ぶから」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 再度泣き出したり動き回ったりしようとする赤ん坊を2人で対処し、赤ん坊を酒寄の所持していたタオルで俺の胸元に巻き付け、開店時間に飛び込むように3人で入店した。

 

「無理無理無理無理! オムツ高ぁ~!」

 

「ふぁあ~、あっ」

 

「そうだな」

 

 見慣れぬ場所に興奮しているのか手を商品棚に伸ばそうとする赤ん坊を抑えつつ返事をする。

 異なる種類のオムツの袋を両手にそれぞれ持ち、記載された内容を比較しようと凝視する酒寄を横目に店内を見回す。

 広い。多い。そして思ったよりも値段が高い。

 手持ちで足りるだろうか。普段は学食やコインランドリーぐらいでしか金銭を使わないから財布の中身はそんなに多くはないのだが。来る途中で現金を下ろしてくるべきだったか。

 

「浦野、オムツこれどっちにする?」

 

「……違いはなんだ?」

 

「多分、質と値段かな?」

 

「そうか」

 

 さてどうするか。

 所持金を考慮するならば安いものにするべきだが。

 

「…………私、少し出そうか?」   

 

「なに?」

 

「ふじゅ~pay(ペイ)ならちょっとくらいは、まあ……」

 

 ふじゅ~pay? なんだそれは?

 いや、なんだかどこかで聞いたような気が―――

 

『噓でしょタロー!? 貯まったふじゅ~一切使ってないの!?』

 

 ―――あ、ヤチヨか。

 いつだったかそんな話をしたんだったか。

 

『え、じゃあふじゅ~payの設定は? してない!? 噓でしょっ!? 買い物どうする気なのタロー!? 結構高いんだよ!?』

 

 何故か知らないがあのとき妙に騒いでたなヤチヨ。

 いつにも増してうるさかったから、言われるがままに登録だか設定だかをやったような覚えがそういえばあるな。

 スマホを起動しアプリ一覧を表示させる。

 数少ないアプリの中にあった『ふじゅ~pay』と表記されたアプリ。

 タップし中身を確認。なるほど。

 さすがヤチヨと言うべきか。俺とは違って役に立つことを言う。

 

「酒寄、これで支払いが出来るのか」

 

「え? あ、うん!? 出来る、けど……」

 

「そうか、ならばいい。これで支払う」

 

 酒寄に確認してもらったが大丈夫なようだ。

 ならばいい。ふじゅ~なるものは今まで使ったことがないからな。随分と余っている。

 SETSUNAのシーズン報酬とかでよく手に入るからな。どうでもいいから表示されたウィンドウをすぐ消すようにしていたから存在を忘れていたが。

 斬ってただけで金になっていたんだな。不思議な話だ。

 

「では、そのオムツは高い方にしよう。よくわからないが高いのでいいだろう」

 

「…………まあ、浦野がいいならいいけど」

 

「そうか」

 

「ぁうあ~、あぃ」 

 

 


 

 

 

 買い物を済ませ帰路を2人、もとい3人で歩く。

 歩きながら隣にいる男、浦野を横目で窺う。相も変わらぬ無表情だった。

 赤ちゃんを私の持っていたタオルで縛って胸元で固定し、先程購入したベビー用品を詰め込んだビニール袋を片手に吊ってスタスタと涼しい顔をして歩いている。

 

 本当になんなんだろうかこの男は。

 買った商品が入ったもう1つの袋を持ちながら隣の男について考える。

 知り合ったのは引っ越してきた1年前だが―――いや違う、昨日だ。昨日でいい。こっちの顔も名前も憶えていやがらなかったんだ、知り合ったのは昨日ということでいい。

 この男について知ってることなんて碌に無い。昨日初めてちゃんと会話をしたような短い関係だ。わかる部分なんてほとんどない。が、ハッキリと理解できたことが一つある。

 

 ―――浦野真太郎という男は、変人である。

 

 これだけだ。

 あえて言うのであれば、見た目通りな怖い存在ではないらしいというのも追加してもいいかもしれないけど。部屋に木刀転がってたのは怖いけど。

 あと多分だけど私のことを女子として見てないと思う。

 この野郎。現役女子高生のパジャマ姿を見て無反応とはどういう了見なんだ。

 いや別になにか反応しろと言っているわけではない。ないのだが、一人の女子としてのプライドが文句を言いたがっているというか。とにかくムカつくのだ。 

 

 昨夜見た自室の状態から金銭的に困窮しているのかと思ったがそうではなく、どうやら自分の意思であんな不便な生活環境を維持しているらしかった。

 というかなんだあのふじゅ~payの残高は!?

 なんであんなに残ってるのにあの生活を続けてたんだこいつは!? 

 私も小遣い稼ぎ程度にはふじゅ~を稼げてはいるが、あんな量には到底及ばない。

 一体全体この男はどうやってあんなに稼いだのだろうか?

 ふじゅ~はツクヨミ内で取引される仮想通貨だ。それをあんなに貯め込んでいるということは、実は浦野は有名なクリエイターかなにかなのか? 

 いや、ふじゅ~はユーザーの脈拍や脳波を検知して感情がポジティブに動いたとシステムで判定されれば運営から支払われるものでもある。ならばもしかして、ライバー活動をしているという可能性、もあるのか? 

 

「あーぅあ、いーあ」

 

「……」

 

 胸元の赤ちゃんが伸ばした手をいつもの無表情のまま黙って見下ろしている浦野を見る。

 

 ないな。

 こいつがライバーなんてのは絶対ない。私なら見ない。

 だが、それならどうやってあんなに稼いだのだろうか。

 

 そんな疑問を持ちながらも隣を歩き続けていると道は坂へと差し掛かった。上り坂だ。

 

「浦野くん、それ私持つよ」

 

「……何故だ?」

 

 何故ってなんだ。

 目の前には坂道。私は片手に袋。浦野は袋と赤ちゃん。

 この状況でなにも言わないのは私の沽券に関わる。

 

「坂道だと大変でしょ。それに赤ちゃんも持ってるのに荷物も重い方持ってもらっちゃってたし。だからこっからは私がそっちも持つよ」

 

 もしも転んだりしてしまったら大変だ。気を付ける必要性があるだろう。

 

 私の言葉を聞いて、赤ちゃんと荷物の間で視線を往復させる浦野。

 納得したのか私の方に向き直って口を開いた。

 

「そうか。では頼む」

 

「うん」

 

 そうして伸ばされた手から荷物を受け取ろうとして1歩近付く。

 傍に寄った私になにを思ったのか、浦野の胸にくっついている赤ちゃんが私に手を伸ばして来た。

 かわいい。

 

「あやーぅ、ぁあー」

 

「家に着いたらミルク用意するから、待っててねー」

 

「だぁあ!」

 

 荷物を受け取ってから、赤ちゃんに顔を寄せ声をかけるととても嬉しそうに笑ってくれた。 

 めっちゃかわいい。

 生憎と両手がたった今塞がってしまったので、伸ばされた手に応えることが出来ないのはちょっと心苦しいが。

 いいな赤ちゃん。学業やらバイトやらで擦り減ったメンタルが癒される。

 

「じゃあ行こう、浦野」

 

「了承した」

 

 そうして改めて2人並んで坂道を歩き始める。

 手にした荷物は元々持っていた物と合わせたらそこそこ重いが、動き回ろうとする赤ちゃんを抱えるよりは多少マシだ。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、どこか冷徹な声が脳裏をよぎる。

 

 ―――なぜ、私はこんなことを?

 

 その声なき声を無視するように歩みを続ける。

 わかってるよ。でも、仕方ないじゃない。

 

 ―――この3連休は全部勉強に充てるはずだったのに。

 

 だからわかってるって。

 でも、私はこうすることに決めたんだから、あとからグチグチ言わない。ダサいよ。

 

 横目で浦野と赤ちゃんを見る。

 赤ちゃんと目が合う。にへらと笑った。花が咲いたような笑みとはこういうものなんだと思った。きっと将来は美人に育つのだろう。

 

 これは人助けだ。

 勉強も大事だし、私の将来も大事だ。

 でも、目の前で困ってる赤ちゃんと、それを抱えた生活が苦手そうな変人がいたなら手を貸すのが人情というものだろう。

 だから、仕方ない。

 

 赤ちゃんに笑みを返すと、声を上げて喜んでくれた。

 天使のようだと思った。

 

 


 

 

 

 夜。

 購入したベビー布団に既に寝息を立てている赤ん坊を横たえる。

 なんとも面倒くさい一日だった。

 

「じゃあ私、今日は帰るね」

 

「ああ」

 

「おやすみ、浦野。そしてキミも」

 

 俺と眠っている赤ん坊に小さく別れを告げてから立ち上がる酒寄。

 玄関へ向かって離れていく背中を見て思う。きっと彼女もヤチヨと同じでいい人、と称される存在なのだろうと。 

 酒寄は本人が朝に宣言した通りに、今日一日赤ん坊に付きっ切りだった。

 

 買い物を終え帰宅してからも色々あった。というか無かった。

 アパートへと辿り着き、昨夜から何も口にしていない赤ん坊に食事をさせようとして問題が発生したのだ。俺の部屋では熱湯が湧かせないという問題に。

 まあ当然だ。やかんもポットも無いのだ。もっと言えば調理器具なんてものは何一つない。引っ越してきてからは台所は使っていないので新品のままだ。

 酒寄はそれを知って安堵していた。『自分がいて良かった』らしい。

 調理器具は通販で注文して昼過ぎには届いた。初めて通販を使用したが速いんだな。

 

 結局、最初のミルクは酒寄の部屋で用意した。

 酒寄も自身で言っていたように大した知識は無いといういことだったので、2人でスマホを見ながら準備をした。

 哺乳瓶は一々消毒が必要なんて知らなかった。飲ませたあとはゲップをさせなくてはならないらしかったが、背中をさすったり軽く叩いたりしてもなかなかゲップをしないので酒寄は慌てていた。

 俺は初めてゲップを確認して安堵する人間を見た。

 

 ミルクの後の時間も大変だった。

 とにかく泣いてた。

 漏らして泣く。腹が減って泣く。なんか泣く。ひたすら泣く。めちゃくちゃ泣く。

 酒寄は『やっぱ癒されない……』と頭を抱えていた。

 俺は拾ったことを後悔していた。予想以上に面倒くさい。

 

 そんなこんなで夜になった。

 赤ん坊も眠った。散々あれだけ騒ぎまくっていたのだ、エネルギーを消耗しきったのだろう。いいことだ。俺も眠れる。

 慣れないことをしすぎて疲れた。

 赤ん坊の隣の床に寝転がり目を瞑る。普段よりも早い時間だが、すぐそこまで睡魔が迫ってきているのを感じる。

 明日もこれが続くのか。面倒くさい。

 そんなことを考えながら、俺は眠りへと落ちてい――――

 

「うえええええええん!!」

 

 ―――目を開け、体を起こす。

 赤ん坊が泣いている。寝ていたはずだろうに、なんで起きたんだこいつは。

 スマホの画面を見る。午後11時を過ぎた頃。

 溜息を吐く。

 なぜだ。

 

「……昨日の夜はずっと寝ていただろう」

 

「ふええええええええええええええええ!!」

 

「………そうか」

 

 オムツに手で触れ確認する。濡れてる。致したのか。

 立ち上がり荷物の元へ行きオムツとおしり拭きを手に取る。それから赤ん坊の前へ。

 新しいオムツを広げ赤ん坊の下へ差し入れる。そして赤ん坊が履いているオムツを開き、尻を優しく持ち上げてから尻を拭く。小便だけだな。楽でいい。

 おしり拭きと使用済みのオムツをまとめ、引き抜く。そうしてから新しいオムツを履かせる。

 ゴミをまとめてゴミ袋に入れる。とりあえず終わり。

 さすがにこう何度もやったら慣れたな。

 

「びええええええええええええええええん!!」

 

「少し待て、手を洗う」

 

 意味は無いが赤ん坊に声をかけてから、洗面所へ。手を洗い消毒してから戻る。  

 まだ泣いてる。うるさい。

 

「持つぞ」

 

 両手でそっと抱き上げる。この重さにも慣れたな。

 部屋の中を回るようにゆっくりと歩きながら、赤ん坊を揺らすように腕を動かす。さっさと泣き止め。もう夜中だ。

 

「いあぁ、うーあぃ」

 

「わからん。いいから寝ろ」

 

「ぁうあ」

 

 そうして抱えながら歩き続けていると泣くのを止めた。やっとか。

 すると、隣室の気配が動きを止めたのを感じた。

 これは……今横になったな。ということは泣き声で起きて、もしかしたらこちらに来るか迷っていたが泣き声が止まったので寝ることにした、という感じだろうか。起きた気配を感じる余裕もなかったな。

 隠しているわけでも無い気配に気付かなかったとは、思ってたよりも俺は消耗していたらしい。

 

すぅ………すぅ………

 

「……寝るか」

 

 赤ん坊をベビー布団に置き、自身もその隣の床へ横たわる。

 溜息を吐いて、目を瞑る。

 疲れた、寝よう。

 

 そうして再度、俺は眠りについ―――

 

「うえええええええん!!」

 

 ―――起きる。

 スマホを見る。0時。

 

「…………まさかとは思うが、これが毎日ではないだろうな」

 

「えええええええええええええん!!」

 

「そうか……」

 

 隣室側の壁を向き、目を閉じる。動く気配を察知。

 起きたか。まあ、そうだろう。うるさいからな。

 

「耳栓でも買うように明日伝えるべきだろうな」

 

 一人呟き、俺は赤ん坊へと向き直った。

 

 

 

 

 

 

 3連休の2日目の朝。 

 窓の外からは鳥の鳴き声に新聞配達だろうバイクが通り過ぎる音。

 瞼を開く。眠い。

 スマホを見る。6時。

 隣のベビー布団に視線を向ける。ぐっすり眠っている。睡眠不足にはなってないんだろうな。

 溜息を吐く。これが理不尽というものなのだろうか。 

 

「今日の夜もこうなるのか……?」

 

 少なくとも一昨日に電柱から拾った夜は朝まで静かだったはずなんだが。

 なんで昨日はあんなに騒いだのやら。

 

 結局、昨夜は1、2時間ごとに大声で叩き起こされるはめになった。

 漏らしたと泣き、腹が減ったと泣き、理由は不明だが泣いた。おかげで眠い。

 酒寄は眠れただろうか? 3時くらいからは気配を探る気力もなかったので、向こうがどうしてたのかわからないからな。結局こちらに来ることは無かったのだから寝たのだとは思うが。 

 

 まあいい。とにかく朝だ。

 寝ている間にシャワーでも浴びて、飯を食べ―――て……? 

 

「……」 

 

すぅ………すぅ………」 

 

 この赤ん坊、こんなだったか? 

 どことなく丸みが増えたというか、肉体がしっかりしているような気が……?

 

「寝ぼけているのか……」

 

 仕方がない。徹夜ならともかく、こうも何度も睡眠と覚醒を繰り返すような生活はしたことが無かったのだ。疲れているんだろう。

 

 疲れも汗と共に流すつもりでシャワーを浴び、着替え、食事を取った。

 すぐそばに赤ん坊がいる以外はいつも通りの日常だ。

 

「あぁーう、だぁあ!」

 

 故にここからは非日常の幕が上がり―――

 

「……」   

 

「だあぅ、い?」

 

 目元に手を当てる。スマコンは装着していなかった。

 つまりは信じられないことだが、今俺の目に映る光景は現実らしかった。 

 

 ピンポーン。

 インターホンが押され、来客の存在を俺と赤ん坊に知らせる。

 視線を外さないまま後ろ向きに歩いて玄関まで行き、後ろ手に扉を開く。

 

「おはよう、浦野。昨日は大変だったねって……どうしたの?」

 

「酒寄、()()が見えるか」

 

「なに、()()って?」

 

 指を部屋の中央付近へ向け、酒寄に示す。

 酒寄はその指の先を視線で追っていき、()()を目にした途端呼吸を止めた。

 

「だああ、うぁあい!」

 

 そこには赤ん坊がいた。

 

 ―――両手を床につき、元気に這い回っている赤ん坊がいた。

 

 昨日までは手足を振り回したりはしていたが、自力での移動は一切出来なかったはずの赤ん坊が自らの力によって部屋を這い回っていた。

 

「いや、いやいやいやいや! 絶対におかしいでしょ! あり得ないって!!」

 

「ああ、そうだな」

 

 絶対におかしい。異常だ。

 昨日酒寄と手分けして調べたからこそ言える。絶対にこれは異常事態だ。

 確認した情報では赤ん坊が匍匐を覚えるのはある程度の時間がかかるはずで、こんな1、2日で可能となるものではないはずなのだ。

 

「だが、現実にあり得た」

 

「そ、そりゃそうだけど…………えぇ……?」

 

 困惑を大いに表情に浮かべる酒寄。そうだろうな。

 だが、それはあとだ。今はまず対処しなくてはならない。

 

「酒寄。対策を講じる必要がある」

 

「た、対策?」

 

「ああ。昨日俺達が調べたのは自力で移動が不可能な赤ん坊の世話についてだ。動く赤ん坊の対処方法は一切考慮していない」

 

「あ」

 

「あの状態の赤ん坊はなにを注意するべきなのか、そこからして不明だ」 

 

「確かに……」

 

 口元を引きつかせながら赤ん坊を見る酒寄。状況を共有することは出来たようでなにより。

 さて、まずは昨日同様にインターネットで検索を―――

 

「だああぅ、えあ?」

 

 ―――視認した瞬間に赤ん坊の元へ駆けだす。

 洗濯物を入れているビニール袋に顔を突っ込み持ち手部分に手を入れてしまい絡まりそうになっている赤ん坊を持ち上げて、ビニール袋から解放する。

 溜息を飲み込んでから、腕の中の赤ん坊を見下ろす。

 

 重い。

 これは昨日より絶対に重い。体重が明らかにあり得ない増加を果たしている。異常だ。

 

「お前は、なんなんだ?」

 

「だうぁう?」

 

 答えはない。当然のことだが。

 

 よじ登ろうとしているのか肩を何度も手で叩く赤ん坊を抱え、酒寄の元へと戻る。

 酒寄は深呼吸をし、頬を軽く叩いてから俺に向き直る。どこか覚悟を決めたような表情をしている。

 

「よし。――――頑張ろう、浦野」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 そうして俺と酒寄は移動手段を手に入れた赤ん坊に立ち向かった。

 

「あーうおぉー!」

 

「ちょ、それ木刀! 危ないから触らないの! 浦野! ちゃっちゃと片付けて!」

 

「了承した」

 

「だあ!」

 

「ああダメダメ! そこ玄関だから行っちゃダメだって! 落ちちゃうから!」

 

「……これはバリケードが必要なのか?」

 

 追いかけ。

 

「だぁ、う?」 

 

「それは窓ガラスだ。外と内を隔てている。だから叩くな。手を痛め―――」

 

「びえええええええええ!!」

 

「……そうか」

 

「そうか、じゃなくて抱っこしてあやすの!」

 

「……そうか」

 

 あやし。

 

「ふええええええええええん!!」

 

「ミルク」

 

「私はトイレ」

 

「……濡れてるな。酒寄が正しいようだ」

 

「よっし。なんか分かってきた」

 

「では準備しよう。少し待て」

 

 聞き分け。

 

「なんかさ」

 

「なんだ」

 

すぅ………すぅ………

 

「ついさっきまで暴れまわってたのに、眠ったら別人になったみたい」

 

「……そうかもな」

 

「あ、そういえば昨日ネットで調べた時に見たんだけど、こうやってこの子の手に指を置くと」

 

「………握るのか」

 

「うん。………なんかすごいよ、これ。浦野もやってみる?」

 

「……では、試してみよう。」

 

「………どう?」

 

「……小さいが、温かく柔らかい」

 

「うん。ちゃんと守らなきゃいけない脆さ、だよね」

 

「―――……そうか」

 

 見守った。

 そんな1日だった。

 

 夜。

 俺の部屋で、俺と酒寄は無言でいた。俺は壁にもたれて片膝を立て座り、酒寄は赤ん坊の隣で見守るようにして座っている。

 赤ん坊は酒寄が昼頃に持参してきたタブレットで知育アプリなるものを甲高い声を上げながら遊んでいる。気楽なものだ。

 

 疲れた。

 疲労の具合は昨日の比ではなかった。

 

 赤ん坊が自立行動を可能になったことにより、いわゆる『目の離せない状態』にすべての時間が変化した。

 食事、トイレ、シャワーその他もろもろ。あらゆる行動に制限がかけられたようだった。

 昨日までなら布団に寝かせておけばよかった。

 なにせ自分で動けないのだから。その間に済ませてしまえばそれでよかったのだ。

 

 だが今日からは違う。

 小さく、脆い生き物であることに変わりはないくせに異様に動き回る。俺や酒寄にとっては危険ではないようなものが赤ん坊にとっては致命的な事態を起こしえないというのにだ。

 そのうえで、泣く。

 腹が減ったら、漏らしたら、眠くなったら、様々な理由で泣く。昨日までと同様に。

 どうせ成長するのならば、その部分も成長してほしかった。これでは苦労が増えただけだ。俺には無理ではあるが、成長を喜ぶ、などという感情を理解できる気は欠片もしなかった。世の親はこれのどこに喜びなる感情を抱けるのか不思議で仕方がない。

 

 スマホを見る。午後11時過ぎ。

 酒寄を見る。ベビー布団の横に座りタブレットで遊ぶ赤ん坊を見ている。ああいや、頭が前後に揺れている。眠りに落ちる寸前だろう。

 限界だな。

 

「酒寄」

 

「………なに?」

 

「もう深夜だ。戻って眠れ」

 

「………うん」

 

 返事はするものの動かない酒寄。

 どうしたものか。

 考えていると唐突にポテッと赤ん坊が横に倒れる。 

 急いで立ち上がろうとするが赤ん坊の顔を見て止まる。半目で目を瞬いている。やっと眠気が訪れたらしい。今日は遅かったな。

 俺が動こうとする前に酒寄がベビー布団に赤ん坊を寝かせる。赤ん坊が倒れたことで意識が覚醒したのだろう。

 

「酒寄」

 

「うん。寝かしつけたら帰るね」

 

「そうか」

 

 そう言って赤ん坊の隣に横になり、小さな体を優しくトントンとリズムよく叩きながら子守唄を口ずさむ酒寄。

 

大切なメロディは流れてるよ―――あなたのハートに―――

 

 聞こえてくる呼吸のリズムが静まった。無事に赤ん坊は眠ったようだ。

 あとの問題は今夜も昨夜のように叩き起こされるのかどうか、という点だが。

 まあ、とりあえず今はいい。その時に考えればいいことだ。

 もう遅い。まず酒寄を帰そう。

 

「酒寄」

 

「………」

 

「酒寄」

 

「………」

 

 耳を澄まして音を聴く。呼吸音は静まっている。

 自分()()の呼吸音はとても穏やかだ。

 

「酒寄」

 

「すぅ………すぅ………」

 

 溜息を吐く。

 さて、どうしたものか。

 起こすべきか? 

 今は床に直接横になっている状態だ。それよりは寝具で眠ったほうがいいのは確かだろう。

 だが、酒寄は朝早くからこちらの部屋に来て協力してくれている。昨夜は騒音であまり眠れていなかっただろう状態でだ。

 それを考えるのならば、少しは眠らせるべきだろうか。

 

「………仮眠程度の時間はここに置くとするか」

 

 立ち上がって静かに歩き、この部屋に唯一の毛布を手に取る。

 エアコンの温度を確認し、そっと気配を消して酒寄に近づき毛布をかける。

 目覚める気配がないのを確かめ、元の位置に戻り腰を下ろした。

 

 眠る2人を眺めながら思う。

 疲れた。面倒くさい。ヤチヨとあんな約束を軽率にしなければよかった。

 

 胸の奥底で声がしている。

 『殺し合おう』『手当たり次第に斬りかかれば反撃してくれる相手もきっといるだろう』『ひたすらに血と殺気をぶつけ合おう』と。

 深呼吸をして他人を視界に入れないように天井を見上げる。

 

 ―――わかってる。限界だ。

 これ以上我慢なんて碌に出来やしない。すぐにでも決壊するのは目に見えている。もう諦めるべき段階に俺は足を踏み入れている。

 ―――わかっている。でも我慢だ。  

 

『だからタローも子供は大事にするんだよ』

 

『―――了承した。機会があれば考慮しよう』

 

 ヤチヨと、たった1人の、人生で唯一の友達と約束をしたんだ。

 それが如何に手間で面倒で疲労が溜まる内容であったとしても、俺は彼女と約束をした。 

 なら、我慢だ。

 それが、人でなしである俺を友と呼んでくれたヤチヨに対して行える数少ない恩返しだ。

 それすらも不可能だというのであれば、俺は―――

 

「―――………寝てたか」

 

 頭を上げる。いつの間にか眠ってしまったらしい。

 スマホを見る。午前1時。あれから2時間弱か。

 酒寄を見る。態勢も変わらず静かに眠っているままだ。

 

 起こして帰そう。

 

「酒寄」

 

「すぅ………すぅ………」

 

 声をかける程度ではダメか。赤ん坊を気にして声量を抑えたので仕方がないのかもしれないが。

 立ち上がり近づく。こうなっては直接起こすしかないか。

 

 赤ん坊の方を向いて眠っている酒寄の背中側から肩に手をかけ、揺り動かす。

 

「酒寄」 

 

「ううーん、眠いんだってぇ………」

 

「起きろ酒寄」

 

 よほど眠いのかこちらに背を向け手足を引き寄せ丸まろうとする酒寄。

 そんな酒寄を掴み仰向けにして両肩を抑えて揺する。抵抗するな。はやく起きろ。

 

「酒寄」

 

「………はぇ」

 

 そこまでしてやっと瞼を開いた。

 目覚めはいいのか、みるみるうちに瞳に力強い意思が宿っていく。

 これなら説明すればすぐに理解して、自室に帰るだろう。

 

「酒寄、今の時刻は―――」

 

きゃあああああああああっ!!!!」

 

 突然大声を上げ、腕を振り回して暴れる酒寄。

 一瞬呆気にとられたが、顔に向かって振られた右手を抑え、腹を突き飛ばそうと伸ばされた左腕を掴む。そうしたら今度は蹴ろうとしたのか足をバタつかせたので膝で両足を押し込め動きを止めさせる。いきなりどうしたんだこの女は。

 突然の凶行の理由を聞こうと口を開こうとすると酒寄の頭が勢いよく振られる。頭突きだ。予備動作が見えたので頭を引いて躱す。

 なんだこいつ。

 理解が一切出来ずに困惑していると、何故か涙目の酒寄が睨んでくる。

 だからさっきからなんなんだ。

 

 溜息を飲み込む。

 面倒くさい。もうどうでもいいから早く帰ってもらおう。

 

「酒寄、もう遅いから帰れ」

 

「―――……………………は?」

 

 何故か困惑を浮かべる酒寄。

 理由を尋ねるか一瞬考えたが、面倒くさい。別に聞かなくてもいいだろう、きっと。

 

「現在時刻は1時を過ぎたところだ。この時間ならもうここに残る理由は―――」

 

「おぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 先程の酒寄を上回る叫び声に目を向ける。

 赤ん坊がめっちゃ泣いている。今日一番の大声だな。

 

 溜息を吐く。

 酒寄の上からどいて、赤ん坊を抱え揺さぶる。

 オムツに異常はなし。おそらくは俺と酒寄の声で起きてしまったのだろう。 

 だが前回ミルクを飲ませてから時間もそこそこ経過している。腹を空かせているかもしれないのでミルクの用意もするべきか。

 

 考えをまとめ、台所に向かおうとすると酒寄が音を上げて飛び上がるように立ち上がる。

 今度はなんだ?

 そう疑問に思った俺に対して目もくれずに早足で玄関へと向かう酒寄。帰るのか。

 無言のまま靴を履き扉に手を伸ばした背中に向け声をかける。

 

「ではな。ゆっくり休め」

 

「あうあーい」

 

 俺と赤ん坊の声に反応したように一度肩を震わせてから扉を開き外へと出ていく酒寄。

 扉を閉める直前で止め、俯きながら口を開いた。 

 

「………その、ごめん。――――――おやすみなさい」

 

 こちらの言葉を聞く前に扉を閉め、帰っていく酒寄。 

 直前までの様子とはまるで違う殊勝な態度を不思議に思ったが、気にしないことにした。

 考えたところでどうせ俺にはわからない。時間の無駄だ。

 

 腕の中の赤ん坊を見下ろす。

 酒寄の態度に何かを感じたのか、いつの間にか泣くのを止めていた。 

 

「ミルクはいるか?」

 

「だーぁあい」

 

「そうか」

 

 わからないので、一応準備をすることにしよう。

 今日は、はたして満足に眠れるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 3連休の3日目。酒寄の協力予定最終日。

 

「だーあうだ」

 

「そうか」

 

 胡坐をかいていると膝に赤ん坊が乗ってきて胸元をバシバシと叩いてくる。なんだこいつ。

 面倒くさく思いながら小さな手を右手で防いでいると、今度は手のひら目掛けて両手を振りかぶって叩きつけてくる。相手に痛みを与えたいのならもう少し腰を入れろ。

 幾らかの暴力を振るって満足したのか赤ん坊は俺から降りて、今度は酒寄の方へと這い進んでいった。

 

 視線を酒寄へと向ける。

 酒寄は近寄ってきた赤ん坊の頭を撫で、感触を確かめるように頬をつついた。

 

「キミのほっぺはプニプニだね」

 

「だぁ!」

 

 戯れている酒寄と赤ん坊を見て思う。なにか変な気がする。

 なにがと言われるとハッキリとは答えられないが、あえて言うのなら元気がないような気がする、かもしれない。よくわからないが。

 今日は朝から少し様子が変わっていた。

 俺の部屋に来るときも何故か5分ほど玄関の前でインターホンも押さずに立ち止まっていた。

 気配はあるのに全く動かないから何事だろうかと思ったが、その後は普通に入室してきたので疑問は投げかけなかった。

 中に入ってからも静かで俯きがちでいるし、何故か妙に俺に視線を向けてくる。

 これはどういうことなのかと思いながら酒寄を見ていると、酒寄と視線が交差した。そしてすぐに逸らされた。なに?

 一瞬見えた酒寄の瞳に疑問が湧いてくる。

 瞳孔が普段よりも開いていた。あれは恐怖や怯えなどといった感情による反応だ。だが、何故?

 何故今、酒寄は怯えを瞳に宿している?

 

 少しだけ理由を考えたが、なにも思いつかなかった。

 まあいい。俺にはどうでもいいことだ。酒寄が言ってこないのならそれでいいだろう。

 

 そうして俺は自分の中での結論を出し、水を飲むために台所へ行こうと立ち上がると―――酒寄が一瞬肩を震わせた。なぜ?

 不思議に思い酒寄を見つめているが視線は合わず、酒寄は赤ん坊へと目を向け続けた。

 これは本当になんだ? なんで俺の動きに反応した? 

 昨日まではなにも問題は――――あ、

 

 ふと思い当たることがあったので酒寄へと近づく。

 酒寄の肩が跳ねる。

 目の前に座る。

 酒寄は赤ん坊を抱き、顔を隠すように持ち上げた。

 両手を天井へと伸ばし、軽く前傾姿勢になる。覆いかぶさる直前のようなポーズだ。

 

「ひっ」

 

「………なるほど」

 

 腕を降ろし、3歩程の距離を開け座りなおす。

 原因はわかった。なら解消は簡単だろう。

 

「酒寄、謝罪をする」

 

「………な、なに?」

 

「すまなかった。昨夜俺は酒寄に対して性的暴行に及ぼうとしたわけではない」

 

「………」

 

 持ち上げていた赤ん坊を下げ、目を丸くして視線を俺に向けてくる酒寄。

 なぜ今日になって突然元気をなくしたのか、理由は簡単だ。昨夜の俺の行動を勘違いしたのだろう。

 昨日俺は眠っている女性の肩を掴み、起こし、手足の動きを封じ、体をねじ伏せた。

 確かに。よく考えてみたらこれは暴行だ。それは酒寄も警戒する。だから今日はこちらの部屋に来ることを躊躇っていたのだろう。

 だが俺はそんな考えには一切たどり着けなかった。

 なぜか。

 決まっている。

 

「俺は酒寄に対して性的興味、興奮を覚えていないし、覚えない。これまでも、これからもだ」

 

 当然である。

 そもそも俺は性欲を自覚したことすらない。仮に裸体の女性が目の前に現れてもどうとも思わないのは目に見えている。不可能だろう。

 ただ肉体の生理的反応は正常のようなので機能自体はするとは思うが、試す気もない。

 

「俺の言葉を信用、信頼するかは酒寄次第ではあるが、無駄なことに思考を割くべきではないとは思う」

 

「………」

 

「以上だ」

 

「………い」

 

「………」

 

「―――今!? 今それ言うの!? しかもそこまで言うのっ!?」

 

「……そこまで、とは?」

 

「わ・た・し・のことっ! これでも結構かわいいって自負してるんですけどぉ! 告白も頻繁にされたりするんですけどぉ!!」

 

「そうか。俺に美醜はわからん。他を当たれ」

 

「なっ――――」

 

 口を大きく開け動きを止める酒寄。落ち着いたようだ。

 

「なんなのマジで………色々考えてた私がバカみたいじゃん………」

 

 頭を両手で抱え座った態勢のまま床に突っ伏す酒寄。そして下がって目の前に来た頭をペシぺシと叩く赤ん坊。邪魔そうだな。

 俺は近付いて赤ん坊を持ち上げる。

 不意に持ち上げられ不思議そうな顔で見上げてくる赤ん坊を見下ろして口を開く。

 

「過剰な暴力行為は自重しろ。警察沙汰になると面倒くさくなる。覚えろ」

 

「ぁい」

 

「………私、こんなやつ相手に一晩悩まされたの………?」

 

 一晩悩んでいたらしい。大変だな。 

 

「―――1回」

 

「なんだ」

 

「1回叩かせて! それで許すからっ!!」

 

「……そうか。了承した」

 

 赤ん坊を床へと降ろし、酒寄と正対する。

 口を引き締め右手を振り上げる酒寄。平手打ちか。別に殴られても構わなかったのだが。

 2度ほど深呼吸をしてから目を瞑って手を振る酒寄。

 このままだと手首が顎に当たる軌道だったので頭を少し後ろに引き、しっかりと頬を張らせる。

 パシンッ。

 頬を叩いた音が狭い部屋に響いた。

 軽いな。典型的な腕だけでの振りだ。やはり威力を求めるなら腰を入れないと駄目だろう。

 

 目を開き、なぜか慌てた顔をする酒寄。

 おそらくは人を攻撃することに慣れていないのだろう。

 

「い、痛かった?」

 

「問題ない」

 

「そ、そう? ―――私、謝らないから……」

 

「謝罪は不要だ。これは俺の謝罪なのだから」

 

「うん…………」

 

 どことなく気落ちしたような酒寄。

 これ以上は俺にはどうにもできないのだが。

 

 少しの沈黙の後、酒寄が口を開く。

 

「昨日のあれ」

 

「ああ」

 

「めっちゃ怖かった」

 

「そうか」

 

「本当に、マジで、ものすごく、めっっっちゃくちゃに怖かった」

 

「そうか。すまなかった」

 

「私に限らず誰に対しても、ああいうことしたら本当にダメだからね」

 

「了承した。今後は行わない」

 

「なら、いいけど………」

 

「そうか」 

 

 許されたらしい。

 表情は沈んだままではあるが先程までとは違い、目線が少し上がった。

 多少は持ち直したようだ。

 

「……そういえば、あの、一つ聞いてもいい?」

 

「なんだ」

 

「もしかして浦野って、あの、もしかしてなんだけど、答えたくなかったら全然いいんだけど」

 

「答える。なんだ」

 

「…………………浦野って、女子に興味ないタイプの人?」

 

「ああ、無い」

 

「え」

 

 驚いた顔をする酒寄。なにをそんなに驚く。

 俺は女に興味などない。無論男にもない。他人なんて存在そのものがどうでもいい。斬った張ったが出来ない相手に対して興味の持ちようがない。

 

「そ、そうなんだー。へー………」

 

「ああ」

 

 妙な表情になりながら言葉を返してくる酒寄。なにか変な回答をしたか?

 そして大きな息を吐き、自身の頬を勢いよく張る酒寄。俺に対してより力を込めてないか?

 

「ごめんちょっと、帰って顔洗ってくる」

 

「そうか。―――そのまま寝てこい。昨夜は悩んでいたのだろう」

 

「え」

 

「この2日でおおよそ慣れた。大きな問題はないだろう。なにか急を要する事態になれば呼ぶ」

 

「―――わかった、そうする。ちょっとの間任せるね」

 

「ああ」

 

「だあ!」

 

 タイミング良くまるで返事のように声を上げる赤ん坊。

 酒寄と顔を見合わせ赤ん坊を見る。いつもの笑顔だ。たまたま返事のようになったのだろう。

 クスリと笑い、立ち上がって玄関へと歩く酒寄。

 

「おやすみ。またあとで来るね」

 

「ああ」

 

 そうして出ていく酒寄を俺は赤ん坊と2人で見送った。

 

 

 

 

 

 

 夜。

 俺は久しぶりに自室で1人でいた。

 

 静かだ。

 たった3日。それだけの時間でしかなかったのに久しぶりなどと感じるとは。自分で思っていたよりも疲れているのかもしれない。

 普段1人でいることに慣れていたからだろう。学校のように他人と同じ空間にいるくらいならまだしも、話し、協力して事に当たるなんてことは初めての経験で、随分と面倒くさい時間だった。

 

 何故こうして俺が1人でいるのか。その理由は単純だ。

 酒寄が赤ん坊を自室へ連れ帰ったから、である。

 それは何故かと言うと、酒寄からの提案であった。

 

『私が手伝いの約束したの今日までなのに昼まで寝ちゃったし。だから今晩は私が預かるよ。浦野も久しぶりにゆっくり寝たいでしょ』 

 

 とのこと。正直助かった。

 結局この3連休の期間中まともな睡眠を取れていなかったからな。

 とはいえ赤ん坊は隣だ。夜泣きで起こされはするだろう。だがその対処を俺がしなくてもいいというのだから、それだけでも十分に満足だ。睡眠時間が増える。

 

 赤ん坊のことを考える。今後どうするのか。

 ヤチヨとの約束は『子供を大切に大事にする』だ。

 ではあの赤ん坊を今後ずっと手元で育てるか?

 

 ―――否。

 

 そんなことは出来ない。なにより俺が持たない。

 以前爺さんと殺し合ってから3年経った。ツクヨミで殺し合いモドキをして自分を誤魔化そうとして1年経った。だがもうその我慢も限界だ。それを考えると長くはあの赤ん坊を手元には置けない。

 酒寄の協力は今日まで。では、どうする?

 

 ―――手放すしかない。だがヤチヨとの約束もある。

 

「1ヶ月だな」

 

 そこがリミットだろう。俺の限界もそれくらいは持つはずだ。

 それまでは手元で育てる。それ以降は、どこかの施設にでも無理やり預ける。

 そうしよう。それが俺の出来るヤチヨへの恩返しだ。

 

 それが叶えば、死のう。

 この意味のない人生に幕を下ろそう。

 それでいい。

 

 考えをまとめ終わり、床に横になり目を閉じる。

 途端に睡魔が襲ってくる。俺はそれに逆らわずに意識を手放した。

 

 


 

 

 

 風が吹いていた。

 

 気付くと俺は夕方の畦道に立っていた。 

 周囲を見回す。見覚えのある景色だった。爺さんと暮らしていた町の風景だ。

 何故ここにいるのかと考えていると、すぐそばに気配があった。 

 隣を見る。ヤチヨがいた。

 AIであるヤチヨが現実にいる。明らかにおかしな光景だったが何故か不思議には思わなかった。

 

 ヤチヨと2人で夕焼けの畦道を歩く。

 ヤチヨの口が開いた。だがなにも聞こえなかった。俺も口を開き声を出した。だが声を発することは出来なかった。

 それでも会話が成立していたらしい。ヤチヨは音もなく何かを語り、笑っていた。

 俺は手を自身の口の端へと持ち上げ、触れた。いつもと変わらぬ無表情だった。

 

 歩いていると、道の先で大勢の人で賑わっていた。

 男、女、子供、老人。それだけでなく国や人種も違うだろう人々がそこで集まって笑い合っていた。相も変わらず声は聞こえなかった。

 ヤチヨが笑いながら向こうへと歩いていく。きっと合流するのだろう。

 俺も一緒に行こうとして足を踏み出した。でも進めなかった。確かに足は前へと踏み出ている。でもその位置を移動することが出来ない。座標が固定されたかのようだった。

 

 ヤチヨが進んでいく。俺は足を動かす。進めない。

 ヤチヨが離れていく。駆けだした。変わらない。

 ヤチヨが届かなくなる。手を伸ばした。もう届く距離じゃない。

 ヤチヨが集団に辿り着いた。多くの人に笑いかけられていた。俺はそれを見ていることしか出来なかった。

 ヤチヨは笑顔を浮かべていた。たくさんの人々と同じように楽しそうに笑っていた。

 

 俺は自身の顔に手で触れた。

 笑顔なんて、どこにも無かった。 

 

 振り向き、来た道を戻る。景色が後方へと流れていく。離れることは出来るらしい。

 歩いて、歩いて、歩いて、歩いた。

 ふと足を止めて振り向いた。視界の中にはもう誰もいなかった。

 なにかを言おうと口を開いたが、すぐに閉じる。

 やめた。

 ここには俺以外に誰もいない。聞く人はいない。言葉にする意味が無い。時間の無駄でしかない。

 つまりは、どうでもいいことだ。

 どうでもいいことは、やらなくていい。考えなくていい。忘れていい。

 

 ―――だって、どうでもいいのだから。

 

 歩みを再開する。

 目的地なんてない。行けるところまで歩く。それでいい。それがいい。

 どうせ俺には、それしか出来ない。

 

  


 

 

 

 ―――ガタリ、と音がした。

 目を覚まし、体を起こす。

 音のした方向へと視線を向ける。酒寄の部屋と隣接する壁があった。赤ん坊の声はしないが向こうでなにかあったのだろうか。

 原因は不明だが音の発生源はわかったので警戒を解こうとし、気付く。

 

 ―――酒寄の部屋に気配が2()()ある。 

 

 頭を完全に覚醒させ、改めて気配を探る。大きい。赤ん坊の気配じゃない。

 

「てかこわっ! 何ですぐデカくなってんの? こわっ!」*1

 

 声が微かに聞こえる。酒寄のものだ。彼女の意識があるのを確認。

 2つの気配が動き近付いた。足音と振動で込めた力が薄っすらと伝わってくる。これは組み合っているな。

 ―――強盗か。

 素早く押し入れから木刀を取り出し、思考する。

 玄関か、窓か。どちらから行くべきか。

   

「ちょっと、動いてよ!」*2

 

「い~や~だ!」*3

 

 ゴスッ!

 思考の逡巡の間に片方の気配がベランダ側へと移動しぶつかったような音が響いた。

 音を聴き判断する。窓だ。

 玄関ドアを蹴破るより窓を割って突入するほうが早い。それになにより気配のどちらが酒寄なのかの判断がまだ出来ていない。

 ベランダ側の気配が酒寄ならそのまま保護。強盗なら即座に叩きのめす。

 

 木刀を片手に窓を開いてベランダへと飛び出し柵に足をかけ、酒寄の部屋のベランダへと跳び移る。着地。問題なし。

 視線を窓へ。カーテンは閉じられていない。部屋の様子を確認する。

 酒寄を視認。部屋の中央付近。困惑の表情。寝間着姿。服装に乱れは無し。外傷は見受けられず。

 手前を見る。窓にもたれるように座る長髪の小柄な人物。丈の合っていないシャツ。手に凶器は無し。だが右手首に煌めく物体。

 月の光を反射しているそれがなにかを確かめようと注視し、その正体を認識した瞬間、窓を割ろうとしていた俺の動きが止まる。

 

「―――なんだと?」

 

 俺の呟きが聞こえたのか、頭を手で押さえながら振り向いてくる。

 そしてその()()の顔を見た瞬間、俺は息を吞んだ。

 

 髪、眉、瞳、鼻、唇。そのどれもに見覚えがあった。

 いいや違う。見覚えなんてものではない。俺はその持ち主を知っていた。

 思考が止まる。状況を理解できない。

 そうして俺が固まっているうちに少女が窓を開き、よく知っている唇を開き言った。

 

「たすけて~?」

 

 この3日間世話をしていた赤ん坊と同じ特徴を持つ少女は、瞳を潤ませそう言った。

*1
「てかこわっ! 何ですぐデカくなってんの? こわっ!」

*2
「ちょっと、動いてよ!」

*3
「い~や~だ!」




オリ主くん/浦野真太郎
性犯罪者予備軍。本人にその気はない? そういう問題ではない。心を込めて謝れ。心がよくわからない? たしかにそうだね。
同性愛者だと彩葉には勘違いされた。今後オリ主くんがその勘違いに気付くのかどうか。気付いたとしてその誤解を解くのか? 多分どうでもいいと放置するタイプの男。
赤ん坊がそのまま大きくなったような女の子を見て大混乱。多分ぶっ飛ばしたらダメなのはなんとなくわかる。

かわいそうな隣人/酒寄彩葉
学業やらバイトやらで心身ともに疲弊しているのに赤ちゃんと変人の面倒を見てくれる善人。めっちゃいい人。学校でもバイト先でもモテモテ。
人生で初めて男の人に押し倒された。トラウマになるかと思った。恐怖で夜全然眠れなかったし、朝インターホン押すのに大きな勇気が必要だった。でも赤ちゃんの面倒みないといけないし、で押した。いい人。
一瞬警察沙汰にするか脳をよぎったが、母親に連絡が行く可能性を考えやめた。
赤ちゃんがいきなり成長してビビってるし、隣人がいきなりベランダに跳び込んできてビビってる。

いきなりでっかくなった少女/赤ん坊
やっと、やっと大きくなった。やっとちゃんとしたセリフが出てきた。なんで超かぐや姫の二次創作で最初の3日の描写で2万字いくのか意味わからん。作者の脳内で赤ちゃんをあやす2人が動き回るせい。つまりは赤ちゃんがかわいいのが悪い。
次回、やっと、ちゃんとした出番。

今回も出番なし/月見ヤチヨ
地味に縁の下の力持ち。めっちゃオリ主くんに影響与えてる。自覚はしてない。だってオリ主くん自分のこと全然喋らないんだもん。
現在仕事を押し付けた分体達とケンカ中。FUSHIは呆れて見ている。
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かぐや姫に会いに月に行く(作者:蛍もがな)(原作:超かぐや姫!)

かぐや姫にもう一度会いたい。▼ただそのために生きてきた男の物語。


総合評価:326/評価:9/短編:2話/更新日時:2026年07月05日(日) 00:00 小説情報

超かぐや姫! ヤチヨのかくれんぼ(作者:夜叉竜)(原作:超かぐや姫!)

 月見ヤチヨ、八千歳。得意な事はかくれんぼ。今日も彼女はかくれんぼをしている。大切な友達と。▼ 


総合評価:689/評価:7.94/連載:8話/更新日時:2026年06月22日(月) 21:00 小説情報

君の神様になりたい(作者:香椎)(原作:超かぐや姫!)

▼ 孤独だった。ずっと、ひとりだった。▼ 終わりたかった。誰かに見つけてほしかった。▼ 声が届くなら、歌でもよかった。▼ 温もりがあるなら、嘘でもよかった。▼ だから。▼ 永遠を生きる君を、救いたかった。▼ ──君の神様になりたかった。▼


総合評価:715/評価:8.27/連載:13話/更新日時:2026年06月21日(日) 22:30 小説情報

ちょっ、ッッま...自分まで巻き込まれる必要なくないかぁ!!??(作者:大塩tune八郎)(原作:超かぐや姫!)

ツクヨミ。それはVR技術によって産まれた仮想世界。▼そこは、あまるほど楽しくて、あまりにも美しい、誰も争わないくていい皆んなが笑顔になれる素晴らしい非現実。▼これから話す物語は、そんな世界にのめり込むどころか、埋まってしまうほど好きになってしまった男がとんでもねぇ理不尽に見舞われる話。▼ログインしてない方も感想・評価もらえるともの凄く励みになりますのでお時間…


総合評価:233/評価:7.67/連載:4話/更新日時:2026年07月03日(金) 23:16 小説情報


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