『新蘭』ガチ勢のベルモットがいるんだから、『コ哀』ガチ勢がいてもいいだろう! 作:菖蒲の花
アニメ第162話「空飛ぶ密室 工藤新一最初の事件」
漫画第21巻-File4「最初の挨拶」
第21巻-File5「大空の密室」
第21巻-File6「最後の切り札」
第21巻-File7「胸に秘めて…」
より
「それじゃあ、私行くね。1年間、超絶美少女刑事に会えなくなるからって佐藤先輩に浮気しないでね。」
「な、何を言い出すんですか!?」
高木渉は私の警察学校時代からの同期なのだが、なんかいつも頼りない。格闘技も強くないし、拳銃の腕も私の方が上、私の助言がなかったら何回も事件は迷宮入り仕掛けるし……でも憎めないそんな同僚だ。
顔を赤らめて狼狽えている高木くんを横目に、私は飛行機の搭乗ゲートをくぐった。
目的の座席を探す、目印は独特なソフト帽をかぶった小太りの大男だ。
「お待たせしました、目暮警部。」
上司である目暮警部を見つけた私は、その隣の席に小走りで向かって座った。
目暮警部の体格ではシート一つ分では少なく、私の席に半分侵食してきているのだが、この超絶美少女刑事である私はその完璧なプロポーションで問題なくおさまっている。
「高木くんとのお別れはできたのかね?」
「お別れって……1年間留学でニューヨークに行くだけですし、そんな大したことしてませんよ」
「ふん、そうは言うが、出発直前まで高木くんの顔が真っ赤だったのがここまで見えておったぞ? まったく、千代田くん、君はからかいが過ぎるな」
苦笑しながらソフト帽の位置を直す目暮警部に、私はわざとらしく首を傾げてみせた。
「あら、ただの事実を伝えただけですよ。捜査一課の花である私が1年間も消えるんですから、同僚たちのモチベーションが下がらないように、一種のファンサービスです」
「はいはい……」
「それに、高木くんに関しては、私のサポートなしで暴走して佐藤先輩に変なアプローチをしないかっていう、同期としての純粋な心配もあるんですけどね」
目暮警部は呆れたように息を吐くと、不意に声を少し潜め、手元の資料に目を落とした。その真面目な横顔に、私も少しだけ捜査一課の警部としての顔を戻す。
「分かっていますよ。まずは現地に到着後、ICPO(国際刑事警察機構)と合流して、例の国際指名手配犯の身柄受け取り、ですね?」
「うむ。日本国内の事件にも深く関与している凶悪犯だ。アメリカの捜査当局から無事に身柄を引き継ぎ、日本へ強制送還する一連の手続き……これが今回の、我々二人の最重要任務だ」
「ええ。警部にはそのまま犯人と一緒に日本へお帰りいただくことになりますが……私はその大仕事を片付けた後、そのまま現地に残って1年間の研修留学、と。……あーあ、せっかくの私のプロポーションが、アメリカのジャンクフードで崩れないように気をつけなくっちゃ」
ふぅ、とわざとらしくため息をつきながら、私はシートに深く背を預けた。
国際犯罪者の身柄受け取り、そして1年間のニューヨーク留学。若き敏腕警部である私への期待を込めた、エリートコースの派遣人事。窓の外に広がる滑走路を眺めながら、私はリップを塗り直すために手鏡を取り出した。
鏡に映る自分の瞳に、少しだけ不安の色が混ざっていることを感じて、小さく頭を振る。
その時、通路を挟んだ斜め前の席から、少し騒がしい十代の男女の声が聞こえてきた。
「……もう、新一ったら! 飛行機が動き出して早々に寝ちゃうなんて、どんだけ緊張感ないのよ。せっかくのニューヨークなんだから、もっと旅行の計画とか立てようって言ったのに……」
隣の席で早くも暢気に寝息を立てている幼馴染に向けて、少女がぷくっと頬を膨らませて文句を言っている。
「……ま、いっか。飛行機の中くらい、少しはゆっくり休んでよね」
そう言って、少女は呆れつつも優しく微笑み、彼の肩にそっと毛布をかけ直してあげていた。
そんな、どこか微笑ましくて気恥ずかしい幼馴染同士のやり取りを、私は手鏡からそっと目を離して眺めた。
ーーーーーーー
穏やかなニューヨークまでのフライトは、客室乗務員の短い悲鳴とともに、唐突に終わりを迎えた。
機内にこだました緊迫の悲鳴に、乗客たちが何事かと俄かに騒ぎ出す。
『お客様に御連絡致します……。只今、当機内に急病の方がおられます……。お客様の中にお医者様か、看護婦の方がいらっしゃいましたら、近くの客室乗務員にお知らせください……』
流れた機内アナウンスが、かえって乗客たちの緊張感を跳ね上げる。
だが、最初の悲鳴の質に明らかな違和感を覚えた私と目暮警部は、瞬時に目配せを交わした。お互いの脳裏で、一瞬にして仕事モードのスイッチが入る。
「警視庁の目暮だが、本当に急病人かね?」
目暮警部が近くの客室乗務員に力強い声で詰め寄るのを横目に、私はシートを蹴って立ち上がり、足早に悲鳴のした方へと向かった。
たどり着いたトイレの個室。開いた扉の奥には、不自然な角度で壁に寄りかかっている男の死体があった。
騒ぎ出そうとする周囲を鋭い一瞥で制し、私は努めて冷静に現場の状況を確認していく。衣服のポケットから覗く名刺――被害者はカメラマンの大鷹和洋。
遺体の状態を観察し、思考を巡らせる。死因は恐らく頸髄損傷による窒息死。凶器は先の尖った有尖無刃器、アイスピックのような物だろうか。
「ここを刺されると人間は、延髄の呼吸中枢からの呼吸ニューロンが障害され、息をすることができなくなり声も立てずに死に至る。もっとも、被害者は刺される前に何か薬品を嗅がされて、昏睡状態に陥っていた可能性もありますが……」
「誰!?」
背後から、予想だにしない年齢の、だが妙に落ち着いた声が降ってきた。
考えるよりも先に、警察官として鍛え上げられた身体が反射する。振り向きざま、私は声の主の胸ぐらを掴んで一気に反転させた。そのまま容赦なく通路の壁へと叩きつけ、逃げ道を塞ぐように片膝で相手の下半身をロックし、片手を首元へ滑らせて完全に制圧する。ガツン、と壁が鈍い音を立てた。
「動かないで。警察官の捜査を邪魔する不届き者は、誰であれ容赦しない。」
冷徹極まる声で威嚇しながら、私は押し付けた相手の顔を正面から見据えた。
目を丸くして驚いているのは、先ほどまで私の斜め前方で暢気に寝息を立てていた、あの黒髪の少年だった。
「ギブ、ギブアップするから、離してくれ……」
「どうした、千代田くん!」
「新一、大丈夫!?」
鈍い音を聞きつけて、目暮警部と、先ほどの私に匹敵する美少女が慌てて走ってきた。そして、私に組み伏せられている少年の姿を見て、目暮警部が大きな目をさらに見開く。
「工藤新一です、助けて下さい目暮警部!」
「工藤ってまさか、優作君トコの息子の新一君か! 若い頃の彼にそっくりだ。最後に会ったのは、君が小学六年生の時だったなぁ。しかしまー大きくなって……で、なんで千代田くんに首を絞められておるんだ?」
ーーーーーーーー
「あ、あら……本当に申し訳ないわっ!」
目暮警部から工藤新一の素性を聞いた私は慌ててホールドを解き、パッと両手を挙げて一歩下がった。
「職業柄、後ろから急に話しかけられるとつい反射で手が出ちゃって……。でも、こんな美人お姉さんと密着できて光栄だったでしょ? 学校でお友達に自慢してくれてもいいわよ」
「美人お姉さんって……ゴリラみたいなパワーしてたぞ、おい……」
少年は喉を押さえながらゲホゲホと咳き込み、引き攣った笑顔で何やらブツブツと文句を言っているが、ここは華麗に聞き流そう。
「でも凄いなぁ、あの新一を一瞬で倒しちゃうなんて! 私もそれくらい強くなりたいです!」
新一くんの後ろから覗き込んできた少女が、目をキラキラと輝かせて私を見上げた。
「そういえば、あなたは工藤くんのお知り合い?」
「はい、そうです! 新一の幼馴染の毛利蘭です。新一がご迷惑をおかけして本当にすみませんでした」
「ううん、気にしないで。私は千代田凛。一応、これでも警視庁捜査一課の刑事をやっているの。よろしくね、蘭ちゃん」
私が微笑みながら名刺を差し出すと、蘭ちゃんは「えっ、刑事さん!? かっこいい……!」と、いっそう感心したようにその端整な顔をほころばせた。可憐な笑顔で謝罪する彼女は、やはり私に匹敵するくらいに魅力的だ。
「それにしても蘭ちゃん、空手をやっているの? 私の動きを見てそんな風に言ってくれるなんて、いい筋をしてそうね」
「はい! 都大会での優勝を目指して、毎日部活で練習を頑張っているんです」
「あら、都大会! 頼もしいわねぇ。私のこの完璧なプロポーションを維持する秘訣も、実は護身術を兼ねた格闘技にあるのよ。今度日本に帰ったら、一緒に道場へでも行きましょうか?」
「本当ですか!? ぜひ連れて行ってほしいです!」
素直に声を弾ませる蘭ちゃん。その一点の曇りもない眩しい笑顔は殺人現場の殺伐とした空気を和らげる清涼剤のようだ。
千代田 凛(ちよだ りん) / 偽名(警察籍):千代田 凛
所属:警視庁刑事部捜査第一課 強行犯捜査三係(刑事)
年齢:20代後半(自称・永遠の二十五歳、神に愛された美貌の持ち主)
特技:格闘術全般、プロファイリング、手鏡での容姿チェック、国際電話での恋愛相談(?)
周囲からの評価:
目暮警部「ニューヨーク留学から帰ってきた、我が捜査一課の頼もしいエースじゃ!」
高木刑事「相変わらずの自称・美少女っぷりですけど……頼りになる同期です」
コナン(工藤新一)「あいつ……1年前のあのフライトの時の、美人の皮を被ったゴリラ刑事かよ……っ!」
【キャラクター解説】
本作の主人公。ニューヨークでの1年間の留学を終え、羽田空港からその足で警視庁に帰任したばかりの超実力派の女性刑事。
自他共に認める圧倒的な美貌とスタイルを誇り、事あるごとに手鏡を取り出してはウインクを決める超ナルシスト。しかし、その華やかな見た目とは裏腹に、警察学校時代から同期の誰よりも秀でていたという「 規格外の格闘センスと、鋭いプロファイリング能力を併せ持つ。
「捜査一課の花」を自称して同期の高木刑事をからかって遊んでいる。
事件現場では一瞬にして『鋭い刑事の眼光』へと切り替わるギャップが彼女の最大の魅力。