旅人と英雄   作:かぼちゃ

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そろそろちゃんと物語やりましゅ。


パイモンさんとの出会い②

 僕が飛ばされてしまった世界は、テイワットと呼ばれている。

 全体図は見たことないけどかなり広い。

 主に七つの地域に分かれていて、それぞれ『七神』と呼ばれる神々の恩恵を受けている。ただし僕の故郷の世界とは違っていて、神様達は人々と一緒に暮らしていない。オラリオでは日常的に色んな神様と出会うことができたけど、テイワットではありえない事だ。

 また、オラリオとの大きな違いとして、テイワットでは自然を司る元素(げんそ)というものが息づいている。

 数は七つ。

 炎、水、風、雷、草、氷、岩。

 それらの力を使うことで戦闘を有利に進められる。

 オラリオでいうところの魔法のように火炎放射したり、鉄砲水を放ったり、暴風で敵を攻撃したりできるらしい。ただし、元素の力を操るためには七神由来の特種なアイテムが必要だ。

 その名は『神の目』。

 必ずしも目玉の形をしているわけじゃなくて、宝石タイプだったりネックレスだったり、色んな形状のものがあるのだとか。

 

 

「改めましてになるけど、私達が歩いてるこの地域はモンドね。かつては風神が収めてた場所なんだけど、今はどこかでお酒でも飲んでるんじゃないかな」

 

 僕は蛍さんの声を聞きながら、目の前に立っている大樹を見上げた。周りは広大な草原で、大樹を避けて直進すると大きな石像に辿り着く。

 パイモンさんはいない。多分まだ砂浜で固まっているのだろう。

 

「風神様とは顔見知りなんですよね……やっぱりループしてる人は違うなぁ」

「向こうは私のこと忘れてるけどね。神様のくせに毎回がはじめましてだから、イラッとする」

「えっ」

「えっ、どうしたのベル何か聞こえた? 私は悲しいなって言ったんだよ?」

 

 ……ループするって大変そうだなぁ。

 毎回みんなに忘れられてしまうなんて、僕だったら心が折れそう。想い出が全部消えて絆レベルもリセットされるなんて耐えられない。絆レベルってなんだよ。

 

「あー悲しいなぁ。でもウジウジしてても仕方ないしね。チュートリアルを進めるよ」

 

 蛍さんはくるりと体を反転させた。僕も同じ動きで後ろを見る。

 二十(メドル)ほど離れたところにある岩の上に、エメラルドグリーンの物体が浮いていた。大きさは人間の顔より少し小さいくらい。

 あれは『失われた風神の瞳』といって、神様の力が込められている結晶だ。元々は一箇所に集約されていたらしいんだけど、長い歴史の中で散り散りになってしまったらしい。

 

「風神の瞳を集めて奉納すれば、色んな特典が貰えるからね。特にスタミナゲージがアップすると便利だからね、これからは頑張って集めよう」

「出た、スタミナゲージ……僕にはそれ見えないんですけど……」

 

 蛍さんいわく『尽きると大変なことになる』。

 何かによじ登ってる時とか、泳いでる時とかにゼロになると命に関わるとのこと。取り扱いには注意が必要なんだって。何度も言うけど僕の目には見えないものだから、いくら説明されてもしっくり来ない。

 

「ベルにはないのかもね、スタミナゲージ。それならそれでいいんじゃないかな。不便なことも多いしね」

 

 わからない。そんな納得したよう顔で言われても、僕にはわからないですよ蛍さん。

 

「奉納する場所はアレね。あのでっかい像。七天神像(しちてんしんぞう)

 

 蛍さんは体を反転させて、再び大樹の方を向いた。 

 更に奥には大きな像があって、翼が生えた女神様の形をしている。あれが七天神像だ。大陸各地に点在している巨大な石像で、地域によって形が違う。

 旅の途中で神像を見かけたら、人々は祈りを捧げるようにしているそうだ。神像は静かに崇高な人を待っている……とか。

 

「前回触った時は何も起こらなかったですけど……」

「パイモンに出会っちゃったから、私たちの運命は回り出したんだよ。もう戻れないよ」

「怖いこと言わないでくださいよ……」

 

 僕はこれまでに何度か『七天神像』を目にしてきた。直に触れたこともあるけど、何も起こらなかった。

 蛍さんと一緒でもそれは変わらなかったんだけど、今回からは違うという。

 理由はパイモンさんだ。どういう原理かはわからないけど、パイモンさんと出会った後は状況が変わる。特典が貰えるようになったり、ワープできるようになったり。いやほんと、パイモンさんって何者なの? 

 

「それじゃ、瞳を取りに行くよ……私の恐怖が少しは伝わればいいな」

 

 蛍さんは『風神の瞳』がある方に体を向けると、ゆっくりと歩き始めた。 

 近づくと恐ろしいことが起こると言っていたけど、その内容は教えてはくれなかった。命に関わることじゃないとは聞いてるけど、それでもちょっと怖い。

 

「もしかして……門番みたいな奴がいて、戦闘になるとかですか?」

「もしそうだったとしたら、その方がマシかな」

 

 ザッ、ザッ、と音を立てて草原を踏みしめ、僕達は風神の瞳に近づいていく。

 僕たちの前を野生のイノシシが横切っていく。

 水溜まりに群がっていた白い鳥達が、バサバサッキエーッ、と。一斉に空に羽ばたく。

 蛍さんの息遣いが早くなっていく中、間もなくその時はやってきた。

 

 

『──ああ、それは風のかたまりみたいなもんだ! 風立ちの地にある七天神像に行こうぜ! それを神に捧げるんだ!』

 

 突如として()()()()()()()()()()()()()()()

 高い幼女ヴォイスで元気よく……間違いなくパイモンさんだ。蛍さんが「やめてよパイモン!」って頭を抱えてるし間違いない。

 今のは、パイモンさんが『風の瞳』について教えてくれた。そういうことなのだろう。

 でも、おかしいのだ。パイモンさんの姿はどこにもない。それなのに()()()()()()()()()ように、彼女の声は僕に届いた。

 

「ま……まさか……砂浜から叫んでるのか?」

「そんなわけないよね! これは世界のバグみたいなものだよ! 長いループの中で、私は確信したの! この運命からは逃れられないんだって。助けてベル」

 

 蛍さんが背中をグイグイと押してきた。瞳を取ってこいということらしい。

 僕は困惑しながらもエメラルドグリーンの物体に近付き、抱え込むように両手を回した。瞬間、シュパッと音が鳴って、()()()()

 

「えっ」

 

 思わず、喉から素っ頓狂な声が出た。

 風の瞳、消えちゃったんだけど。

 助けを求めるように蛍さんの顔を見る。すると彼女はしばし首をかしげた後、はっと目を見開いた。

 

「あれっ……あ! もしかして! ちょっと待ってね確認するから……おおっ! やったよベル! なんでも入る魔法の収納スペースが復活してる!」

 

 そして、ばんざーい! と両手を挙げた。

 例の超便利な収納スペースが使用可能になっていたらしい。消えてしまったように見えた風の瞳は、ちゃんと保管されているとのこと。

 いやでも、そのスペースってどこにあるの? 僕、なーんも見えないんですけど。

 

「ほら、ちゃんとあるでしょ?」

 

 蛍さんは両手を前に差し出すと、僕の胸の前に移動させた。シュパッと音が鳴って、エメラルドグリーンの光が生まれる。その緑光は丸い形を描いて、消えたはずの風の瞳が出現した。

 なんだこれ、どういう原理?

 

「所持品はこうやってすぐ出せるんだ。これからはどんどん収納していこう。料理も保存できるから凄く便利だよ」

 

 それは……めちゃくちゃ便利だな。仕組みは全くもって不明だけど、深く考えちゃいけない。蛍さん自身もよくわからないまま使ってるみたいだし、僕が悩んだところで答えなんて出るわけがない。

 

「それじゃ奉納に行こう。ひとつだけだとあんまり報酬はもらえないけど、これはチュートリアルだから」

「は、はあ……わかりました?」

「ワープ機能も使えるようになるからね。どんどん旅がしやすくなるよ」

「うーん……神秘だなぁ」

 

 その後、七天神像に近づいたところ、またしても声が聞こえた。

 パイモンさんの元気な声が。

 

『七天神像だ! さて、供物を捧げて、神がどう応えるか見てみようぜ!』

「もう黙っててよパイモン! 私に恨みでもあるのっ!‍? 毎回毎回こんなの、頭がおかしくなるよ!」

 

 蛍さんは僕の後ろに隠れた。僕はバッ、バッ、と周囲を警戒して剣を抜いた。

 やはり、彼女の姿はどこにもない。

 凄く怖かった。人智を超越した恐怖を感じた。 

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