旅人と英雄 作:かぼちゃ
「待たせて悪かったって……何言ってんだよベル。よくわかんないけど、早く行こうぜ! わかんないことがあったら遠慮せず聞けよな! ガイド役はやったことないけど、オイラは頑張るからさ!」
ベルは下手くそな愛想笑いを浮かべた。
パイモンがまた様子がおかしい。放置し続けていると『大変なことになるから……』との
その時点でパイモンは無言で宙に浮いており、二人が近付くと移動を始めた。ひゅーっと丘の方まで飛んでいき、クルッと回転してベル達を見る。追いついた二人を誘導するべく、パイモンは先に先に進んでいく。二人はなんとも言えない顔で追いかける。そんなことを何度か繰り返しているうち、赤く発光する七天神像が近づいてきた。
場所は先程とは別だ。周りには小さな湖があって、前方には森が見えている。
「ベル、なんで黙ってるんだよ。まさか腹ぺこなのか? 仕方ねえ奴だなぁ! オイラは食べ物なんて持ってないから、その辺の果物でも食べたらどうだ?」
「いや、大丈夫……お腹は空いてないから」
「どうしたんだよ! 顔が辛気臭いぞ! もっと元気出せよな!」
「……」
七天神像に触れたベルは、不思議な体験をした。
頭の中に地図が浮かんできたのだ。大部分が青く塗りつぶされていて、明らかになっているのは今いる場所の近くだけ。主にモンド城の周辺だ。
各地の七天神像に触れるたび、見える範囲はどんどん広がっていくのだという。しかも一度触れた七天神像の場所にはワープできる。凄い。
地図の上にはワープポイントなる目印が記されており、今はほとんど灰色。こちらも触れることで解放可能で、ワープできる。超便利。
よく分からない力に頼るのは怖さもあったものの、ベルは冒険者である。それに夢見る心も残っているので、ワクワクする気持ちが勝った。
「んー、ベルは元素の力は使えないのかー。でもボルトファイアだっけ? 不思議な魔法を使えるから、戦うには困らないよな!」
「うん……そうだね」
ベルはパイモンへの敬語をやめた。蛍にやめてと頼まれたからだ。
また、ベルは元素を扱えるようにはならなかった。
蛍は風を出せるようになったが、ベルはどれだけ真似してみても無理だった。
「元素が使えてないわけじゃなくて……ベルのファイアボルトって、炎と雷を同時に出してるんじゃないかな。使用する元素って普通は変えられないものだし、二つも使えれば十分だと思うよ」
とは蛍の談。
ベルはフムフムと納得した。たしかに【ファイアボルト】は
この世界の法則のひとつに、元素反応というものがある。二つ以上の元素が結びつくことで発生する効果のことで、組み合わせは様々ある。
炎×雷だと『過負荷』という現象が発生して、威力範囲が半径5
「でもよー、オイラは聞いたことないぜ。二つの元素を混ぜ合わせてぶっぱなすとか、そんなことができるのか?」
「できてるからいいんだよ。じゃあ先に進もう」
「蛍も元気ないなー! お前らもっと気合を入れていこうぜ! 旅は始まったばかりなんだからよ!」
「「……」」
パイモンは元気いっぱいだ。
そして、普通に会話できている。
ずっとこの状態でいてくれれば良いのだが、ふとした拍子に様子がおかしくなるのが悩ましい。
ベルはとてもやりづらかったが、パイモンに悪気は無いだろうしパイモンが悪いわけではない。これはきっと世界がおかしくなっているせいで、彼女もまた被害者といえよう。
ベルはそのように考えることにした。
できるだけ
「あれ……?
「蛍さん、それってモンドに災害を引き起こしてるっていう……」
「うん。呪いで正気を失ってるから、何とかしてあげなきゃいけないんだけど……」
「蛍は
パイモンの指摘を
毎度同じようなことを言われてバカにされるので、そのたびに殺意を抱いてしまうとのこと。そういうことになるので、彼女はあまり喋りたくないのである。
「
「その前回を僕は知らないわけなんですけど、この森の途中で出会うはずなんですよね?」
蛍は「うん」と足を止めた。現在地は『囁きの森』と呼ばれる小さな森の途中で、モンド城からはそう離れていない場所にある。
前回まで変わらなかったパターン。
まずは、森に入る前に上空を飛んでいく龍──モンドに厄災をもたらしている『風魔龍』を目撃。
その後、龍はこの辺りに着陸する。そこには緑色の服の吟遊詩人がいて、龍に話しかけているところに蛍とパイモンが登場。龍は殺気を放って飛び去り、吟遊詩人も姿をくらませる。一連のシーンに立ち会ってから先に進むはずなのだが、龍も吟遊詩人も見当たらない。
「どうしたんだよ蛍! お前なんか変だぞ!」
「パイモン……蛍さんは考え事してるから」
ベルはパイモンの頭に手を置いた。ポンポンすると柔らかい感触。幼児をあやしていると思えば恥ずかしいことはなかったが、なんだか
このパイモン、神々と似たような香りがするのだ。
体臭ではなくそういう雰囲気ということである。まあ、ベルの知る『神威』とは少し違っている感じもするし、
「ベル、気をつけて進もう。こんなふうにパターンが変わった時って、大体よくないことが起きるから」
従来の流れだと、この後は
蛍は気の遠くなるような数のループを乗り越えてきだが、こんなことは今まで一度もなかったそうだ。
「わかりました。でも、どうします? このままモンド城に向かいますか?」
「うん。そうしよう。先にジン団長やリサさん達に会うことにする」
ジン団長というのは、モンドを守る西風騎士団の団長代理の女性だ。最初の物語では風魔龍の呪いを解くことが目的になるのだが、その際に一緒に戦ってくれる。
リサさんというのはえっちな魔法使いのお姉さんとのこと。一緒に崖を登ると集中力が削がれるらしい。
(仲間になればわかるって蛍さんは言ってたけど、スカートの中が見えるとかそういうことかな……)
何かをよじ登る際は自分が下になってはいけない。
うっかり先を行かれないよう気をつけようとベルは思った。
太陽が西の方へと沈んでいく。
三人分の影が長く伸びていた。
草原を横断して大きな石橋に突入する。
どこか迷宮都市のような雰囲気の城下町が見えてきて、奥に大きな城が見えた。
「ついちゃいましたね……」
「中に入ろう。アンバーがいないから『風の翼』はおあずけだから、風魔龍が襲ってきたら吹き飛ばされないようにしてね」
風の翼というのは空中を飛行できるアイテムだ。この世界の人間はわりと誰でも使うことができて、蛍はいつもアンバーという少女に貰っている。
だが、そのアンバーとまだ出会えていないので、どうしたものか。蛍はうんうんと悩んでいた。
「風魔龍、襲ってくるんですかね……」
「いつもは来るよ。風の翼をもらった後に街を襲撃してくる。私はどこに隠れても吹き飛ばされちゃう運命で、前回は叩き落とされて死んじゃった」
「…………不安だなぁ」
直近
今回はベルに会えたので少し気持ちが軽いと言っているが、ベルはとても心配である。もしもの時は盾になろうと決めている。
(物語序盤で死亡ループって、かわいそうすぎる……それに、これでお別れとか絶対嫌だし)
蛍はループするとしても、ベルはどうなるのかわからない。蛍の遺体を抱きしめて心に傷を負ったまま先に進む……なんていう展開だって普通に有り得る。
そんなことになったらヘスティアの捜索どころじゃなくなるし、何がなんでも守らなければいけない。
「そういえば……蛍さん、風魔龍の事件の後のことは思い出せました?」
「断片的な記憶しかないよ。というかほとんど記憶ない。変わってない」
「なあなあ、さっきからなんの話しをしてるんだ? 二人ともおかしいぞ」
三人はモンドの城下町に入った。
同じ頃、