特級回復術師スネイプ   作:物語の魔法使い

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最近の若い子は押しが強い

非常に流暢な日本語で『日本語を話せない』と話した男は、何かを諦めたようにため息をついた。

ぼさぼさの黒髪を手櫛ですいて視線をそらす仕草は、わかりづらいが失敗を恥じているのかもしれない。

七海から見て男は謎だらけだった。

彼の黒い服はとてもボタンが多くその辺では売っていなさそうな古風なデザインで、その上に薄く丈の長い黒い上着を重ねている。

足元は革靴だ。

とても山を歩く格好ではないし、そもそも帳を張ってあったのにどうやって突破したのだろう。

破られた様子もない。

元々中にいたとしたら尚更不自然だ。

こんな人里離れた山の奥に手荷物すらもなくいるのはおかしい。

そして男からは相変わらず呪力の気配がしなかった。

あの不思議な歌を歌っている時も、傷を一瞬で治した時も何も感じられなかった。

夜のように深い双眸は視線こそ鋭いが、敵意や悪意といったものも読み取れない。

「・・・聴取と言われても私に答えられることが思いつかんな。そもそも何を聞きたいのかね?」

不承不承といった様子でそう尋ねてくる。

古めかしい話し方だ。

古い日本語教科書で勉強したのだろうか。

彼の見た目は若いというより年齢不詳だ。

いくつと言われてもいまいち納得出来ない。

白い顔にはシミや皺の類が一切見られず、ハリもありきめ細かい肌だが、所作や声に貫禄がある。

「僕は灰原雄といいます!こっちは七海建人!お兄さんはお名前はなんていうんですか?」

七海の疑問をよそに同期はマイペースだ。

「・・・・・・セブルス・スネイプ」

灰原の力強い問いかけに、男=スネイプは押し切られたように名乗った。

「スネイプさん!どちらの国の方なんですか?日本語が凄く上手ですね!今は日本に住んでるんですか?それとも旅行?」

「灰原。その前に彼には聞かなければならないことがあります」

ハイテンションな雑談を広げようとする黒髪の少年にストップをかけ、七海はスネイプと名乗った男性を正面から見る。

極端に色白の彼は、表情こそ変わらないものの少しほっとしたように見えた。

灰原のペースに押されていたせいだろう。

「貴方にどうしてもお尋ねしたい。貴方は『あれ』が見えていましたね?」

「『あれ』とはあの化け物のことかね?」

視線の動きからそうだろうとは思っていたが、やはり彼にははっきり実体が見えていたらしい。

「呪霊のことです」

「ああ。やはり霊体か。日本にはああいうのがいるのかね?物騒だな」

そう言いながらもスネイプは特に気にした様子はない。

まるで遠いところで通り魔が出たと聞いたような反応だ。

少しも恐れていない。

違和感がある。

嚙み合っていない。

『やはり』とは?

彼は呪霊がわかっていない?

「・・・確認させてください。貴方は呪霊に対抗していましたが、呪術師ですか?」

「『呪術師』の定義を知らん。君達のように凶暴な霊体と戦う人間のことで良いかね?」

「はい」

「ならば違う」

「・・・反転術式を使っていたのに?」

歌によって呪霊の動きを止めることも出来ていた。

実際は違うことはわかっていた。

呪力を使わずに反転術式など使えるはずはない。

「すまんが、その単語の意味もわからない。だから言っただろう。私はろくに答えられないのだ」

薄い肩を竦めてみせる仕草は、特に揶揄などは含んでいない。

目の前の子供をどう納得させるか困っているようだった。

 彼には呪力がない。

彼の言葉を信じるならば呪術関連の知識もない。

いや、おそらく事実だろう。

白を切るにしては下手過ぎる。

だが、灰原の命に届いていただろう大怪我をあっという間に癒した。

一級の呪霊の動きを長時間止めてみせた。

彼は本当に人間なのだろうか。

少なくとも、このまま山に一人で放置していい存在ではない。

 呪霊が見えて、干渉できて、呪術を知らない。

今だって特に警戒した様子もなくただ立っている。

無知で危うく、善良で強力。

本人が知らないところで利用される可能性もある。

「では最後に。・・・何故我々を助けてくれたのですか?」

彼には無視して逃げるという選択肢もあったはずだ。

「子供が化け物に襲われていて、しかもひとりは酷い怪我だった。まともな大人なら助けに入るのが当たり前だろう」

 当然のことを聞かれて不快だとでも言うように、眉間に皺が寄り、低くなめらかな声が少し尖る。

七海は苦笑した。

灰原は残像が見えそうなくらい大きく何度も頷いている。

「ますます貴方を呪術高専=我々の本拠地に連れて行かないと駄目だと確信しました。貴方は少しお人好し過ぎます。貴方に自覚はないようですが、貴方の力は強力です。このままだとろくなめに遭わないでしょう。貴方の今後について是非協力させてください。呪術に関して詳しく説明したいですし、貴方を保護してくれるだろう頼りになる人もいるんです。灰原も食事をごちそうしたがってますし」

「うちの学校の食堂、凄く美味しいんです!」

「私の予定は無視かね」

最後のあがきなのか、スネイプはそのように不平を漏らす。

本当はきっと予定などないのだろう。

予定がある人間は軽装で山の中をうろうろして人助けをしない。

「行きましょう!スネイプさん!皆に恩人を紹介したいです!」

 結局スネイプは灰原のこの一言に押し負けた。

やはり彼は人が良い。

 

続く




きっとスネイプ先生は真面目な良い子に弱い。

あまり話が動かなかった。次回直哉他を登場予定です。
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