念能力?原作知識?いや、ここジャポンなんですけど?   作:ドラゴンスキー

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第一話

「本物の『怪異』よ! これを見てちょうだい!」

 

放課後の部室に飛び込んできたサツキ部長は、鼻息も荒く一冊の古びたノートを机に叩きつけた。

布張りの表紙はすっかり色褪せ、角の繊維がボロボロにほつれている。どこからどう見ても、ただの古い雑記帳だ。

 

窓際で読書をしていた俺──ハルト=アサクラは、やれやれと息を吐いて本を閉じた。

 

「部長、また変な骨董品屋に変なもの掴まされたんですか? 今日、リナは体調不良で先に帰っちゃったんですから、ツッコミ役不在で暴走するのは勘弁してくださいよ」

「失礼ね! これは私のひいおばあちゃんの遺品整理で見つかった、由緒正しき曰く付き物件よ」

「この前もそんなこと言ってパチモン持ってきたでしょ」

「持ってきてたね~」

「おばあちゃんが言うにはね──『ゴミ箱に捨てても、庭で燃やそうとしても、数日後には必ず引き出しの奥に戻ってきちゃう』んですって!」

「ナチュラルにスルーしましたね・・・」

 

まあこれはいつものことだ。

たった数ヶ月で結構な頻度で持ってきているから感覚が麻痺しているのかも知れない。

ミウは「ホラーのお人形さんみたいだね~」と、今にも寝そうな声で机に突っ伏そうとしている。

 

「ミウ、頼む今日は寝ないでくれ・・・。リナが帰った今、部長を俺とゴウダ先輩2人で相手するのは厳しい」

「え~?しょうがないな~。ふぅぁ・・・」

 

あくびをしているが眠るのは留まってくれたみたいだ。良かった。

 

「ほう・・・!ほうほうほうほう!」

「ゴウダ先輩・・・・?」

 

さっきからやけに静かだったゴウダ先輩はメタボな身体を揺らしながら、目を輝かせて身を乗り出した。

 

「捨てても戻ってくる呪いの本! オカルト研究部の活動にこれ以上なく相応しいディープな逸品ですねぇ! サツキさん、これを調べる我が部の予算として、僕と今夜あたり二人でディナーにでも──」

「一人で残飯でも食べてなさい(ドゴォッ)」

「ありがとうございまッ!」

 

サツキ先輩の綺麗なローキックがゴウダ先輩の脇腹に炸裂する。床に転がって親指を立てる先輩を完全に無視して、サツキ先輩はノートを開いた。

 

「これね、おばあちゃんが若い頃に友達とやってた『交換日記』らしいの。ほら、中を見て」

 

俺と、ハルトの後ろでトロンとした目をしていたミウがノートを覗き込む。

ページの大半は白紙だった。ただの古いノートだ。科学的な工作の跡もない。

 

「何も書いてないよ~?。ただの白紙のノートだよぉ〜」

 

ミウがのんびりとした調子で、机にお菓子を広げながら呟く。

ただの白紙のノート。そう言われればそうなのだが違和感だらけだ。

 

「ふむぅ。サツキ部長のひいお婆さまが使われていたにしては随分綺麗な状態ですな。どれだけ大事に使っていたとしてもかなりの年月が経っているから汚れどころか()()()()()()()もありませんぞ」

 

ゴウダ先輩の言うとおりだ。

たしかに今時風なノートではないから古くささは感じるが、ノートの状態から古くささは全く感じない。

それに――――。

 

「これ、見てください。何か()()()()()()()()()?」

 

ノートを手に取って他の人に見えるようにパラパラと捲っていく。

 

「え~?ただの白紙のノートってことくらいしか分かんないよぉ」

「うむ、私も同じ考えですぞ!」

「・・・・・・!そういうことね」

「わかりましたか」

「えぇ」

 

部長は気が付いたようだ。ミウは気が付けないのが悔しいのか「う~ん」と唸りながらノートを逆さまに持ってみたり縦に置いたりしておかしな点がないか探している。

「ハッ!2人は霊的なエネルギーを読み取って・・・!?」とゴウダ先輩がこちらを見ているがそんなわけないだろう。霊的なエネルギーを読み取ったことなんて人生で一度もないですよ。

 

「むぅう~!」

「降参か?」

「うぅ~!こうさ~ん!」

「拙者も同じですぞ!」

「そうですか」

 

ゴウダ先輩は一人称をコロコロ変えすぎだ。僕なのか私なのか拙者なのか統一してくれ。そしてできれば拙者は止めて欲しい。

 

「では、サツキ先輩。お願いします」

「そうね・・・これは交換日記よね?であるなら、当然日記が書かれていたはず。それが無いというのはどういうことだと思う?」

 

答えをお願いしたつもりだったのだが・・・。

まあ、ミステリーは自分で答えを探すのが面白い訳だしいいか。

 

「なるほど!わかったですぞ!」

「ほんと~?」

「うむ!拙者にお任せあれ!」

「拙者で統一するのか・・・」

 

最悪だ。

 

「ふむ。では副部長の答えを聞きましょうか?」

「ごほん!つまりその白紙のノートと本物の交換日記をお婆さまが間違えたでファイナルアンサー!」

「そんなわけないでしょ。はい次」

「う~ん。それがホントーに交換日記だとして、それに内容が書かれてあったとしたら()()()()()()()のかな~?」

「それで正解!」

「なんと!?」

 

サツキ先輩の言うとおり、何度も捨てて・・・ということから交換日記自体を間違えているわけではない。

だとすればあるはずの痕跡が、ない。

それがこのノートのおかしなところだ。

 

「・・・どうやら()()()本物かもしれませんね」

「今回も、でしょ」

「どこがですか」

 

パチモン掴まされて「絶対に訴えてやるんだから!」って泣いてたのは誰ですかね・・・。

 

「で、どうするんです?そのノート。捨てるんですか?」

「え~?捨てちゃうの~?」

「捨てるのはどうて」

「黙りなさい、メタボ」

「酷い!全部言ってないのに!ありがとうございますッ!」

 

床にたたき付けられてそれでもにこやかな笑顔でお礼言うの怖いよ。

 

「ま、変態にはこの後アイスでも奢らせるとして」

「ちょ」

「わ~い。アイス~」

「ありがとうございます、副部長」

「はい・・・。リナさんの分も買うので持って行ってあげてください・・・」

 

こういうところはしっかりしてるんだよな。

 

「話しを戻すけど」

 

こほんと一つ咳払い。

 

「捨てないわよ。勝手に持ってきちゃったからおばあちゃんの方に戻ったら最悪でしょ?」

「勝手に持ってきちゃったんですか!?」

「きちゃったのよ」

 

なんで少し誇らしげなんですか。

普通に窃盗ですよ。

 

「なら、ぶちょーはどうするの~?」

「そうね・・・」

 

部長は少し考え、それから自分の鞄に入った文房具入れの中からボールペンを取りだし、カチリと芯を出す。

 

「こうしてみる、とか」

 

言いながら『ペガサス高校オカルト部参上!部長が一番霊感ある!』と最初の真っ白なページにスラスラと勢い良く書き込んだ。

どんな自慢なんですか、それ。

 

「・・・・・ふむぅ。特になにも起きませんな。結局いつものパチモンなんですぞ」

「うーん、お婆ちゃんのだし、そんなことないと思うんだけど」

「ただのノートではなさそうだよ~?」

「ミウ?なんでそう思うんだ?」

「えーっと・・・なんとなく~?」

 

上手く言語化できないのか必死に言葉を探しているようだが出てこないらしい。

 

「部長、それ貸して貰ってもいいですか?」

「もちろん、いいわよ」

 

はい、とノートを閉じて渡してくれる。お礼を言って他の違和感がないかを探そうとノートを開いた。

 

「・・・・・・!」

 

あまりの衝撃にノートが手から滑り落ち、音を立てて床に転がった。

そんな、ありえない。

だってさっき、たしかに。

 

「ちょっと、大切に扱ってよね」

 

もう、と言いながらサツキ先輩がノートを拾い上げる。

 

「・・・・・・です」

「・・・え?なに、ハルト。聞こえないわよ」

「ないんです・・・・!」

「ない?なにが?」

「言葉が・・・!文字が・・・!」

 

サツキ先輩は拾い上げたノートの最初のページを開く。

『ペガサス高校オカルト部参上!部長が一番霊感ある!』と書かれているはずのそのページ。

そこには。

 

()()()()()()()()()()()()()()んです・・・・!消えています・・・!」

 

そこには、白があった。

なんの文字も書かれていない、真っ白なページが、あった。

 

「嘘・・・・・」

「たしかに・・・書いたハズですぞ・・・!」

「・・・・・・」

 

 

サツキ先輩は固まり、ゴウダ先輩は驚き、ミウは黙ってノートをジッと見つめている。

俺も、今起っていることが理解できない。頭では分かっているはずなのに、それを、その事実を脳が拒絶していた。

 

「・・・・・。ねー、ぶちょー。私も書いてみていい~?」

「え、えぇ。いいわよ。ほら」

「ありがと~」

 

いつもの様な口調で受け取り、部長が出していたボールペンを手に取る。

何を書くか少し考え、何も思いつかなかったのか『ミウ参上~!ミウが一番冬眠する~』と書いた。

 

いや。

別に部長が書いたように書かなくて良いから。

冬眠するとか熊ですかあなた?

 

ミウは書き終わるとボールペンの芯を引っ込め丁寧に机に置いた。

そしてノートをパタンと閉じた。

 

「ごくっ」

 

思わず喉がなる。

先ほどと同じ状況だ。

部長はノートに書き込んだ後、ノートを閉じて渡した。

つまり誰の視界からもノートの内容が見えなくなった。ミウはその状況を再現したのだ。

同じ状況なら文字は消えて無くなるという異常が起る。

ミウが閉じたノートをゆっくりと開く。

 

「「「・・・・・・・!!」」」

 

やはり、()()()()()()

ただ、ミウが書いた文字は消えていなかった。

 

 

 

『ミウ?あなたの新しいお友達なの、ハルカ?』

 

書かれていないハズの文字が、増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







―――――――――――――――――――――――

サツキパチモングッズ
①絶対に曲がらないスプーン
 雰囲気あるマジシャン(本人は魔法使いを自称していたらしい)から3000円で買い取ったスプーン。マジシャンに試してご覧と言われたときには全く曲がらなかった。買い取ったものを自慢しようとゴウダに試してみるよう言ったところあっけなく根元から折れた。

②前世の記憶が呼び覚ます古代の賢者の石
 怪しい骨董品屋の店主から「数千年前のジャポンの呪術師が儀式に使っていた、触れると前世のビジョンが見える石」と言われて購入した、妙にテカテカした黒い小石。サツキが「みんなでこれを握って寝ましょう!」と提案し、部室で一斉に昼寝を試みた。結果、ミウはいつも通り爆睡し、ハルトとリンはただの寝違えで首を痛め、ゴウダ先輩は「サツキさんとお付き合いする夢」を見て蹴られただけで、前世の記憶など誰も見なかった。現在は部室の干からびた観葉植物の植木鉢に、ただの飾り石として敷き詰められている。
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