男は守られるのが常識の貞操逆転世界で、唯一魔法を使えるようになったので、全力で女の子達を守っていたら激しく執着されるようになってしまった   作:タンポポ西田

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第10話 公爵令嬢の意地sideティターニア

 計画通り。

 

 簡潔に述べれば私、ヴィルヘルム・ティターニアは何者かに(さら)われた。

 

 何者かに(さら)われる前、私は騎士くん——ユークリッド・ヴァレミアとデートしていた。

 

 もちろん私がデートしたいと誘ったのも本音だけど、真の目的は私に――しいてはヴィルヘルム公爵家に手を出した愚か者を引きずりだすこと。

 

 覚えているのは、意図的に人通りの少ない裏路地に入って計画通りに私は何者かに襲われたところまで。

 

「ここは……」

 

 そして目が覚めたら見知らぬ建物の中。よほど使われていないのか室内は全体的に埃っぽい。

 

 おそらく私は昏睡(こんすい)系のマジックアイテムを使われたのだろう。

 

 ガンガンと鳴り響くようなひどい頭痛の中、私は周囲を見渡した。

 

「ヒッヒッヒッヒ……目覚めたかい。どうだい? ここは素敵な場所だろ?」

 

 醜く太った老婆が私をニヤついた顔で見てくる。

 ただ老婆の割には小綺麗な恰好(かっこう)をしている。

 紫色の生地は一目で高いと理解(わか)る。

 

「……あら、貴方がデート相手かしら? お名前を聞いても?」

 

 私は嫌悪感を抱きながらも、目の前の老婆に尋ねる。

 

「アタシかい? アタシはゴーテル。赤血革命軍でボスをやっているもんさ」

 

「あらあら、ご丁寧にどうもありがとう。でも貴女は誘拐犯よ? そんな簡単に私に名前を言っていいのかしら?」

 

 答えなんて返ってくるなんて思わなかったから、思わず言ってしまった。

 

「別にいいさね。これからアタシラはお嬢ちゃんを使って、王国にクーデターを起こしてやるんだ。なんならお嬢ちゃんはその生贄になってもらうさね。ヒッヒッヒ」

 

 だけど、目のまえにいるゴーテルはさも当たりのように返した。

 

「どういう意味か分かって言っているのよね」

 

 つまり、国家転覆を狙っているということ。

 

「もちろんさね。折角、男潰しの狂犬達(ケルベロス)隣国の公爵令嬢(アンタ)を攫ってもらう依頼をしたのにしくじりやがって、おかげで殺さなきゃいけなくなって……まったく上手くいかないったらありゃしないよ」

 

 なるほど、やはり男潰しの狂犬達(ケルベロス)を口封じに殺したのはこいつらだったか。

 

 やはり野蛮な方。身も心もゴブリンのように醜くて溜まったものじゃない。

 

「そういえば、王立魔法学院に可愛い男の子が来たみたいだね。折角だし、アタシの家畜にしてやろうかしらね。もちろん、シモの方の。ヒッヒッヒ!」

 

 ゴーテルは汚い笑い声をあげる。

 

 きっと私の騎士くんはゴーテル如きに何を言われても気にはしないだろう。

 

 しかし、私としては気分は良くない。

 

 せめて、水でもぶっかけてやりたい。私の騎士くんを侮辱したのだ。

 

 これくらいは騎士くんだって許してくれるだろう。

 

 だけど魔法が出ることはなかった。

 

「アンタ。私に魔法を使おうとしただろ。そういう目をしているからねぇ」

 

「っ……! まさか」

 

 私は一つの仮説にたどり着く。

 

「魔法を使おうにも使えないだろ? そりゃそうさ。アンタには『魔封じの枷』を付けているんだから」

 

「なっ!? どうしてそんなものを!?」

 

 魔封じの枷とは、その名の通り付けている魔法を使えなくするアイテムである。

 

 魔封じの枷を付けた対象は魔法使うために必要なマナの動きが止まり魔法の使用ができなくなる。

 

 故に王国が厳重に管理しているアイテムである。本来であれば囚人に対して使われる代物であり、こんなところにあっていい代物ではない。

 

「そんなまさか……本当に王国内に内通者がいるなんてね」

 

「さぁ、どうかしらねぇ? お嬢ちゃんの想像にお任せするわ」

 

 ゴーテルは『ヒッヒッヒッ』と汚い笑い声をあげる。 

 

「貴女、本当にどうしようもないクソババアね。身も心もやってることも……考えていることも全部醜くて仕方ないわ」

 

 思わず汚い言葉が出てしまった。

 普段なら絶対に言わないのに。

 

「は? 今なんて言った?」

 

 ゴーテルは怒りで目をピクピクと引き()らせている。

 

「聞こえなかったのかしら? クソババアって言ったのよ」

 

「こっ、このクソアマが!!」

 

「きゃっ!」

 

 私は杖で頭をぶたれた。

 とても痛い。強がっても痛いものは痛い。

 

 それは、昏睡系のマジックアイテムのせいなのか、

 魔封じの枷でマナが阻害されたなのかは分からない。

 ただ、マナが阻害されているということは強化魔法が使えない。

 つまり防御なんてない。

 何故なら強化魔法が使えないということは、魔法使いにとっても裸同然だから。

 

「このこのこの! 公爵令嬢だかなんだか知らないけどね! 小娘が! 調子に乗るんじゃないわぁ!!」

 

「くっ……!」

 

 杖で頭をぶたれる度に、

 痛くて痛くて……今すぐにでも泣き叫びたかった。

 

 泣きたくなかった。

 泣いたら負けだと感じたから。

 

 でもこれはただの意地。

 私が、誇り高きヴィルヘルム公爵家の令嬢だから。

 

「アンタには分からないだろうねぇ!! 私は男を金で買うしかないどころか、私を見る度に嫌な顔をする男共の目を!!」

 

「ぐっ……!」

 

「男は!! 下のはずなのよ!! それなのに!! それなのに!! 馬鹿にしやがって!!」

 

 ゴーテルは大きく肩を上下させ『ゼェ……ハァ……』と息を切らす。

 

 だけど私は声も出ない。

 

 痛みをこらえるだけで精一杯だったから。

 

「だから私が天下を取るのよ! 誰も馬鹿にする男を失くすために」

 

「そんなんだから、貴方はモテないのよ」

 

「あぁ……なるほど。まさか、アンタ助けがくるなんて思っていないだろうね?」

 

「そのまさかよ。私は人を見る目には自信があるの。私は()が来ると信じてる」

 

「あっそ。それなら、アンタの目は節穴さ。もう、さっさとくたばりな」

 

 ゴーテルは杖を大きく振り上げた。 

 

 私は痛みを恐れて目をつぶる。

 

 ドガッという鈍い音が一つ響いた。

 

「遅かったじゃない」

 

 だけど、私にその痛みがくることはなかった。

 

「申し訳ございません。大変お待たせしました」

 

 目を開けると、私が待ちわびていた片眼鏡(モノクル)を掛けた人が申し訳なさそうな顔をしていた。

 

 

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