夏凜の家に泊まるだけ   作:機玉

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一日目は東郷の番。


東郷が夏凜の家に泊まるだけの話

「夏凜ちゃんって可愛くなりましたよね」

 

いつもと同じ面子が集まり、いつもと同じように次の演劇の準備をしつつ行われていた勇者部の活動、しかし一つだけ違う点があった。

今日は夏凜がいないのだ。

といっても体調を崩したというわけではなく、行きつけのドラッグストアがセールをやっているので買い物に行きたいとの事だった。

今日は大事な活動日というわけでも無いので部長の風はこれを了承したのだ。

そして夏凜がいない事を見越した友奈が普段本人の前では恥ずかしがって止められる話題をここぞとばかりに始めたのだった。

 

「可愛くなった、ねえ」

「友奈ちゃんがそういう事を言い出すのは珍しいですね」

 

唐突な友奈の話題に作業を継続させつつ答える風と東郷。

二人は友奈の言葉にあまり同意する様子は無い。

 

「分かります!」

 

しかしただ一人の後輩、樹は珍しく主張をあらわにして友奈に強く同意した。

 

「夏凜さん凄く可愛くなりました!最初来た時は周りを威嚇するハリネズミみたいだったのに最近はもうお腹をこっちに向けて甘えてくる犬のようです!」

「だよね!流石樹ちゃん分かってる! この前なんかね、夏凜ちゃんが幼稚園でよく仲良くしてる女の子と私が一緒にうどん捏ねてたらすっと後ろから近づいて来てさりげなく隣で麺伸ばしながらこっちちらちら見てくるんだよ!!もうね、殺す気なの!?私ボウル放り出して抱きしめそうになったよ!」

「私はですね、最近夏凜さんタロット占いよくねだってくれるようになったんですよ!もう毎回夏凜さんが一喜一憂する姿が可愛くて可愛くてフェイントとか思わずかけちゃうんですよ!ちょっと深刻そうな顔すると夏凜さん私の前では強がるんですけどトイレ行くフリして扉からこっそり覗くと部室の中で凄く落ち込んでるんです!私思わずすぐに戻って抱きつきながらさっきの全部ウソですって言っちゃいましたよ!」

 

同意が得られた事で異様な熱気を放ちながら盛り上がる二人。

そんな二人を見て少し身を引きながら風と東郷は呆気に取られていた

 

「な、なんかあんな樹初めて見るわ」

「ええ…友奈ちゃんはいつも妙に元気ですけど樹ちゃんまであんなに目を輝かせるなんて」

「東郷さんそれ微妙に私貶してない?」

「そんなことないわよ、元気なのは良い事だと思うわ友奈ちゃん」

「そんな事より友奈さん、お姉ちゃんと東郷さんは夏凜さんの可愛さをまだ知らないんですよ!これは由々しき事態です!」

「おっとそうだ呑気に話してる場合じゃなかったよ。じゃあ東郷さんと風先輩が夏凜ちゃんの可愛さを理解出来るには…そうだ!」

「何か思い付きましたか?」

「お泊り会をしよう!」

 

友奈の提案はシンプルだった。

かつてテスト期間中の勉強をする為に夏凜とお泊り会をした事がある友奈はそれをきっかけとして仲がぐっと縮まったと考えている。ならばそれを他の部員と行えば彼女達とも仲良くなれるだろうというわけだ。

当初は何をさせられるのかと身構えた東郷と風だったが、割とまとも、というよりむしろ歓迎出来る提案だった為この合宿に賛同した。

東郷は勇者としての活動中、夏凜と仲が悪かったというわけではないが積極的に絡みに行く友奈と比べれば距離を感じていた。そして最終決戦時、東郷が壁を破った際に後遺症のリスクも恐れず獅子奮迅の戦いをして友奈や仲間を守ってくれた夏凜に、密かに負い目と感謝を覚えていた。これから先共に仲間として過ごす為にも1対1で仲良くなれる機会は大歓迎だった。

そして風の場合、夏凜とは後から来た勇者として先輩と後輩というよりはどちらかと言えば同僚のような対等な関係で接して来た。樹の後遺症を知って暴走した自分を必死に止めてくれたり、今まで後輩しか存在しなかった勇者部でまるで同級生のように話し相手になってくれた夏凜は、口にこそ出さない物の既にかけがえの無い存在となっているのは確かだった。しかし戦いが終わり、彼女との関係もまたこれから変わる事になるだろう。それをこの機会に見つめ直すのも良いかもしれないと思っていた。実は密かに友奈が夏凜とお泊りしたのを羨ましく思っていたのもあったのだが。

そんなわけで本人を抜きにしてあれよあれよと言う間に進んだこの計画は事後承諾の形で夏凜に伝えられ、翌週末から早速スタートする事になった。既に勇者部の一員としてすっかり馴染んでいた夏凜が快く合宿を了承してくれた事は友奈達にとっては幸いだった。

そして合宿当日、先陣を切る事になったのは同級生である東郷だった。

 

 

                    *

 

 

「東郷って背高かったのね」

「ふふ、友奈ちゃんにも言われたわ。今まで車椅子だったからね」

「ええ、変身中はてっきり追加ギミックで高く見えてるのかと思ったわ」

「小学生の頃は成長が早いなんて言われて友達から絡まれてたのよ」

「へえ、意外ね。今となっては勇者部のボケ担当筆頭なのに」

「あらそうかしら?風先輩には敵わないと思うけど」

「いやどう見てもあんたの方がキャラ濃いわよ!」

 

今日は夏凜ちゃんと一緒に帰り道を歩いている。先日友奈ちゃんが提案したお泊まり会は私と風先輩が夏凜ちゃんと仲良くなるのが目的なので、こうして帰りから二人きりになる事になった。

今まで送り迎えが必然的に友奈ちゃんと一緒になる事が多かった私としては、こうして誰かと自分の足で帰れるだけでも新鮮で嬉しい。

 

「そういえば東郷っていつもお菓子作ってるけど、料理も出来るの?」

「ええ、和食料理が得意よ。この前夏凜ちゃんがくれたにぼしは味噌汁の良い材料になったわ」

「それは良かったわ。でも良いなー私は料理出来ないからさ、いつも夕飯はコンビニ弁当だし、この前友奈が泊まった時もほとんど友奈にやってもらっちゃったし」

 

ふむ、夏凜ちゃんは料理が出来ない事を気にしているのね。

ならばやる事は一つ。

 

「料理が出来るようになりたいなら私が教えるわよ」

「え、良いの?」

「良いも何も当たり前よ。夏凜ちゃんは大切な友達なんだから教えるのは大歓迎よ」

「あ、ありがとう……私今までずっと勇者としての鍛錬以外はほとんどしてこなかったから、出来るようになったら嬉しいわ」

「可愛い」

「え?」

「いやごめんなんでもないわ」

 

照れたようにはにかむ夏凜ちゃんを見て思わず本音が漏れてしまったわ。

なるほど友奈ちゃんと樹ちゃんが夢中になるのも分かる、会った頃からは想像もつかないしおらしさ。

夏凜ちゃんもまた日本が誇る大和撫子の一人だったというわけね。

 

「では早速今晩夏凜ちゃんの家で夕飯を一緒に作りましょうか」

「私の家には殆ど食材が無いんだけど」

「じゃあ買って帰りましょう。スーパーに行けば大丈夫」

 

 

 

そんなわけでスーパーに到着したけれど、そういえば忘れていた事があった。

 

「夏凜ちゃん、今晩の夕飯は何にしようかしら?」

「私は別に何でも良いわよ」

「夏凜ちゃん、そういう返答はダメ。何でも良いっていうのは一番困るんだから将来お嫁さんに嫌われちゃうわよ?」

「いや私女だから!…じゃあそうね、何か簡単に作れる物を教えて欲しいわ」

「ふむ、ならありきたりだけど今晩はカレーにしましょうか」

「あれ、東郷は和食料理が得意なんじゃなかったの?」

「確かに得意なのは和食だけど、カレーは料理が出来る人きっと誰でも出来るぐらい基本中の基本の料理なのよ。

 作り方は簡単だし肉、野菜、ご飯、必要な物が全部含まれているから他の食事みたいに何品も作らなくて良い、しかも冷凍しておけば保存も効く。

 カレーは正に万能の食事なのよ」

「へえ、カレーって凄かったのね!」

「ええ!そもそもカレーはかつて日本の海軍でも正式に採用されていた主要な食事でその起源は

 日露戦争当時の横須賀鎮守府が前線の兵士達に手軽に食べさせられる栄養バランスの取れた食事として

「あー東郷、悪いんだけどその辺りはまた今度にして取り敢えずカレーの材料買わない…?」

「あら、確かにもうこんな時間。教えながらだと時間がかかるから少し急ぎましょうか」

 

カレーの導入から旧日本海軍の構成から戦歴まで語るにはスーパーの片隅では時間が無さそうね。

とても残念だけど夏凜ちゃんにはまた別の機会に聞いてもらう事にしましょう。

 

「カレーの材料に必要な物は?」

「玉ねぎ、人参、じゃがいも、牛肉、カレールー、サラダ油、それからローリエね」

「ローリエ?」

「月桂樹の葉を乾燥させた香辛料よ。肉の臭みを消して良い香りにしてくれるの。

 家で育ててる人もいるけど、市販の物を買えば大丈夫」

「へえ、そんな物が」

 

二人分だからあまり多くなくても良いかしら?いや、でも明日は風先輩が泊まりに来るんだったわね。

うーん……まあ中途半端に残りそうだったらまた私が遊びに行って料理を教えれば良いかしら。

考え事をしている間に大体材料は集まった。

 

「こんな所かしら」

「意外と材料少ないのね」

「あんまり多いと私達二人だけじゃ食べきれないでしょう?」

「あ、そうだったわね」

「ふふ、夏凜ちゃんは辛口と甘口どっちが好き?」

「中辛ぐらいかしら」

「じゃあ中辛のルーにしましょうか。これで全部ね」

 

精算を済ませて袋に食材をまとめると、荷物は夏凜ちゃんが持ってくれた。

 

「あんた一応まだ病み上がりでしょ?

 今日は東郷がお客さんだし私が荷物持つわよ」

「じゃあお言葉に甘えさせてもらうわね」

 

夏凜ちゃんは気が利く。

入ったばかりの頃の態度がでかかったので意外だったが彼女は周りをよく見ている。

部室で誰かが助けを必要としていれば何も言わずに手を貸すし、私が椅子に座る時にさり気なく椅子を引いてくれる事も何度もあった。

一年生で勇者部の未来を担える人材は当然の樹ちゃんだが、夏凜ちゃんもこれから皆を引っ張ってくれる人材となるだろう。

残念ながら友奈ちゃんはとても良い子だが組織で上に立てる器では無いので私か夏凜ちゃんが部長になるのが良いかも知れない。

 

「東郷東郷、着いたわよ」

「あら、ごめんなさい少し考え事をしていたわ」

「いいえ、じゃあ悪いけどこの鍵で扉開けて貰える?」

「はい、分かりました」

 

夏凜ちゃんから受け取った鍵で玄関を開く。

 

「お邪魔します」

「いらっしゃい、じゃあ食材を冷蔵庫に入れてくるわね」

「ああ夏凜ちゃん、サラダ油とローリエは冷蔵庫に入れなくて大丈夫だから」

「分かったわ」

 

私達は荷物を一旦置いてから私服に着替え、少し休憩してから料理を始める事にした。

 

「はい、Santaよ」

「ありがとう、夏凜ちゃんの家ジュース置くようになったのね」

「ええ、ちょくちょく友奈が遊びに来るようになったからね。

 置いとかないと結構不便だからジュースは置くようにしたの。自分では飲まないんだけど」

「お泊り会を気軽に出来る仲というのも羨ましいわね」

「何言ってるのよ友奈と東郷は家隣同士じゃない。友奈あんたの家に毎日入り浸ってるでしょうが」

「毎日一緒だから新鮮味に欠けるのよね……こう改まってお泊り会とかをする気にもなれなくて」

「ああ言ってる事はなんとなく分かるけど…贅沢な悩みでしょそれ

 まあ勇者の御役目も終わっていくらでも遊べるんだから二人でどっかに泊まりに行くとかでもすればいいんじゃないの」

「ふむ、その発想は無かったわ。確かにそれは良いわね。

 じゃあこんど友奈ちゃんと二人で夏凜ちゃんの家に遊びに来させてもらおうかしら」

「いやなんで私の家になるのよ!」

「…嫌?」

「い、嫌じゃないけど」

「じゃあ今度二人で遊びに来るからよろしくね?」

「しょ、しょうがないわね、何も出ないわよ?全くこんな何も無い家に遊びに来て何が楽しいんだか…」

 

あああああ可愛い!!

っといけないいけない、夏凜ちゃんの可愛さで一瞬意識が飛びかけたわ。

 

「じゃあ夏凜ちゃん、そろそろ夕飯作ろうかしら?」

「あ、それもそうね。教わりながらだと少し時間かかるし。よろしく頼むわよ、東郷先生」

「任せなさい!」

 

 

 

「じゃあまずは手を洗ってから野菜を洗って皮むきから始めましょうか」

「分かったわ」

「あ、そういえば皮むき器が無いかしら」

「大丈夫よ、私は刃物の扱いが得意なの。包丁も例外ではないわ!」

「そう?じゃあ任せるわね」

 

うーん、少しだけ心配だから後ろか見てよう……と思ったけどどうやら不要だったみたい。

 

「よっ……と、よいしょ……」

「おお、夏凜ちゃん本当に上手ね。じゃがいもの皮むきなんて初心者だと凄く難しいはずなのに」

「ふふん、これぐらい朝飯前よ!」

「包丁の扱いが出来るなら料理はすぐ出来るようになるはずよ。基本的に一番難しいのが包丁だから」

「なるほど、それは良かったわ」

 

「皮を剥き終わったら次はじゃがいもの芽をしっかり取ってちょうだい」

「芽って?」

「このへこんでいる部分よ。じゃがいもの芽には主にソラニンという物質が含まれていて、これが人間にとっては非常に危険な毒なの」

「毒!?毒がじゃがいもに入っていたの!?」

「ええ、でも多く含まれているのは芽だけだからしっかり取れば大丈夫よ。あと今回は大丈夫だけど時間が経って緑色になったじゃがいもとかは食べられないから注意してね?」

「わ、分かったわ」

 

夏凜ちゃんはびくびくしながらじゃがいもの芽をしっかり抉り取っていく。

最初は少し怖がるぐらいがちょうど良いわね、芽は本当に危険だから。

決して怖がる夏凜ちゃんを見たかったわけでは無いわよ?

 

「出来たわ」

「じゃあ今度はじゃがいもと人参を角切りにして、じゃがいもは器に水を入れてつけておきましょう」

「じゃがいもだけ水につけるのは何で?」

「二つほど理由があって、一つは空気中に晒しておくとじゃがいもは酸化してどんどん悪くなってしまうの。もう一つはそのままにしておくとデンプンが表明に出て来て煮崩れしやすくなるんだけど、水につけておくと表面を綺麗に保てるのよ」

「なるほど、つまりつけておけば綺麗なままに出来るって事ね」

「そういう事、料理には色々な手順があるけどそれぞれにはちゃんとした理由があるから疑問に思ったらすぐに調べるのが大事よ」

「分かったわ、東郷先生!」

 

皮むきが出来る夏凜ちゃんにとって角切りは造作も無い事だった。

じゃがいもだけ水につけて次の食材に手をつける。

 

「次は玉ねぎね。まずは皮を剥きましょう」

「包丁で?」

「いいえ、玉ねぎは簡単に剥けるから手で引っ張れば大丈夫」

「あ、本当だ」

「中身が見えるまで剥いてね。上と下の部分はあとで包丁で切り落とすから気にしなくて大丈夫」

「了解」

 

皮を剥いたあとは上と下を切り落として角切りにしていく。

切るのは簡単だけど、初心者だと目がしみるでしょうね。

 

「目が、目が滅茶苦茶しょぼしょぼするわ……」

「これは慣れるしかないわね」

「話では聞いてたけど本当に玉ねぎ切ると涙が止まらないのね」

「一応個人差はあるんだけど、夏凜ちゃんはよくしみる体質みたいね。才能があるわ」

「こんな才能いらないわよ!」

 

これで無事野菜の準備は完了ね。

 

「さて、じゃあ次は肉を焼くわよ。夏凜ちゃん、鍋を火にかけて油をしいてちょうだい」

「こうかしら?」

「ちょっと多いけどまあ大丈夫」

 

しっかり鍋が温まったら肉を入れて炒め始める。

 

「焼き色がつくまでしっかり炒めてちょうだい」

「分かったわ、だんだん料理らしくなってきたわね!」

「ふふ、炒めるのは確かに分かりやすくて楽しい工程よね」

 

肉が焼けたらまず玉ねぎ、次いでじゃがいもと人参も入れて炒める。

 

「こんなものかしら?」

「そうね、上出来よ。そしたら今度は鍋に水とローリエの葉を入れて煮て頂戴。水をはねさせないように気をつけてね」

「はい」

 

水が入った事で鍋が静かになり、しばらくするとだんだん煮えてアクが浮いてくる。

 

「アクは不味くなる原因になるからしっかり掬い取ってね」

「うーんこれ意外と具をよけて掬い取るのが難しいわね……」

「確かに最初は難しいけど、そのうち慣れると思うわ」

 

アク抜きは確かに難しい。しかも作業が地味な上に終わりが見えにくい。子供に教える時は大人がやってあげる事も多い部分なのよね。

 

「夏凜ちゃん、それぐらいで大丈夫よ」

「そう?じゃあ次はどうすれば良いのかしら」

「次はいよいよルーを入れます」

「おお!とうとうここまで来たのね!」

「ええ、ここまで来れば敵艦はもう沈没寸前。あと一回の急降下爆撃で轟沈といった所よ!」

「ごめん東郷その例えは分からない」

「むう、それは残念ね。取り敢えず一旦火を止めてルーを割って入れてからかき混ぜて頂戴」

「了解」

「ある程度溶けてきたら火を弱火にしてじっくり20分ほど煮込むの。程よく煮えたら完成よ」

「あと少しね」

 

最後の工程も滞りなく終わり、カレーは無事完成した。

 

「よし、完成!」

「やったわね夏凜ちゃん、見事なカレーよ」

「ええ、東郷のおかげよ。ありがとう!」

「どういたしまして。さあカレーをご飯によそって……あ」

「ところで東郷、カレーは出来たけど、ご飯はどうすれば良いのかしら?」

「わ、忘れてたああああああ!!?」

「えええええ!?」

 

すっかりカレーの事に夢中で忘れちゃってたわ!ど、どうしよう!?

 

「ご飯ってすぐ出来るの!?」

「いいえ、炊くのに時間がかかるから今からだと……あ!でもインスタントの物ならすぐに出来るはずよ!」

「すぐ買って来るわ!」

「わ、私も」

「東郷は待ってて!私なら自転車でひとっ走りよ!」

「……分かったわ、お願い!」

 

結局夏凜ちゃんに自転車でコンビニに急いで行ってもらい、すぐに出来るインスタントのご飯を買ってきて貰った。

本当は私が行きたい所だったが、私は長い車椅子生活のせいで自転車に乗れなかったのだ。

 

「ぜえ、ぜえ……最後に、思わぬ落とし穴が、待っていたわね……」

「本当にごめんなさい夏凜ちゃん、ご飯を炊き忘れるなんて先生、いや日本人失格だわ……」

 

日本料理の一番基本となる心、ご飯を忘れてしまうなんて、私もまだまだ未熟も良い所だわ……

 

「なーに訳の分からない事で悩んでるのよ。ほら、早く食べましょう。せっかく作ったカレーが冷めちゃうわ」

「で、でも」

「デモもクーデターも無いわよ!食べ物を大事にするのが日本人でしょ東郷先生!」

「……そうね、夏凜ちゃんの言う通りだわ。ありがとう」

「まったく、教えてくれたのは東郷なのになんで私がお礼言われてるのかしら」

「ふふふ」

 

夏凜ちゃんの作ったカレーはとても美味しかった。

 

「何これ美味しい!?これ本当に私が作ったカレーなのかしら」

「夏凜ちゃんの努力の賜物よ。作り方はちゃんと覚えられたかしら?」

「ばっちりよ!これなら毎日でもカレーを作れるわ!」

「毎日カレーは流石に飽きると思うから他の料理も覚えるのが良いわね」

「ほう、例えばどんな料理が良いかしら」

「ずばり日の丸弁当よ!まず日の丸は日本人の心を象徴するものであり、しかも日の丸弁当はとても安価で作りやすい。さらに栄養面でも一見不足しているように見えるけれどすぐにエネルギーに変わるという観点から非常に労働に適した食事であり

「あー東郷東郷、流石に私も日の丸弁当ぐらいなら簡単に作れるからもう少し難しい料理の方が良いかなーって思うのよ」

「ふむ、確かにそれもそうね。じゃあ次はカレーとはまた別の方向性の基本的な料理が良いかしら。

 ハンバーグ、チャーハン、餃子辺りが良いかも知れないわね」

「良いわね、それ!どれも美味しそうだから覚えられたら嬉しいわ。ところで東郷が得意な和風料理とかは?」

「和風料理は私自身が未だ自分が他人に教える事が許されるような領域に到達していると認める事が出来ていないので多分先になるかも知れないわ……」

「あっ、そういうのがあるのね」

「和風料理に関しては風先輩も作れると思うから先輩に聞いてみると良いんじゃないかしら」

「分かった、そうしてみるわ」

 

こうして楽しい夕飯の時はあっという間に過ぎていった。

 

「あーお腹いっぱい」

「美味しかったわねー」

「あ、カレーは冷めるのをまってから袋に入れて冷凍しましょう」

「分かったわ、じゃあ私風呂沸かしてくるから」

「お願いします」

 

「ふふふ、じゃあその間に皆に自慢してようかしら」

 

私達は勇者の御役目が無くなってNARUKOが使えなくなったのでまた別のSNSを使い始めた。

 

ぼた餅NEO『夏凜ちゃんの家でお泊り中』

ゆーな『裏山けしからんですね』

ITU☆KI『今まで何してたんですか?』

ぼた餅NEO『料理の仕方を手取り足取り教えてました』

ゆーな『手とり足取りですと!?』

ITU☆KI『くっ、料理を教えられるのは私達には存在しないアドバンテージ…!』

ゆーな『東郷さんやりますな』

Foo『ふっふっふ、料理なら私も負けてないわよ』

ゆーな『Foo先輩!(゚∀゚)』

ITU☆KI『お姉ちゃんキタ━(゚∀゚)━!』

Foo『いや私は別にあんた達の味方じゃないわよ?』

ゆーな『何故!?』

ITU☆KI『神は死んだ』

 

「あらあら、私の自慢をしようと思ったのに話が逸れちゃったわね」

「東郷ー風呂沸いたわよー」

「はーい」

 

カレーの保存はスマホで遊んでいる間に終えてあるから大丈夫だ。

 

「じゃあ東郷が先に入ってね」

「え、夏凜ちゃんも一緒に入るでしょ?」

「え?」

「夏凜ちゃんも一緒に入るでしょ?」

「いや友奈ですら一緒に入ろうとか言い出さなかったわよ!?」

「友奈ちゃんああ見えてこういう所は結構理性的だから…」

「じゃああんたも理性的にして欲しいんだけど!?」

「夏凜ちゃん、今日私が泊まりに来たのは夏凜ちゃんと仲良くなる為なの。それは分かるわよね?」

「そ、それはまあ」

「でも私と風先輩は現時点で友奈ちゃんと樹ちゃんに遅れを取っているの」

「何の遅れ!?」

「だからここで二人のアドバンテージを覆す為には私は夏凜ちゃんと風呂に入るぐらいのイベントは必要なの」

「全く意味が分からないわよ……」

「それで良いの夏凜ちゃん、一緒にお風呂に入ろう?」

「ちょっと服に手をかけないで!分かった!分かった一緒に入るから脱がせないで!!」

 

ふ、ちょろい。

 

 

 

夏凜ちゃんの家の風呂は二人が入るともうパンパンになるぐらいの広さだった。

今度友奈ちゃんと泊まりに来た時は近所の銭湯に行った方が良いかも知れないわね。

 

「ふう、良いお湯ね、夏凜ちゃん」

「別に普通でしょうがただの家の風呂なんだし」

「夏凜ちゃんと一緒だからよ」

「……あんたも友奈もよくもまあそういう言葉を恥ずかしげもなく言えるわね」

「人との別れはいつやって来るか分からないわ。私の人生はいつもそうだった。

 だから私はいつでも友達と全力で付き合う事にしたの」

「…この前までの友奈の事?」

「それもあるわ。かつて私が鷲尾須美という名前だった時、バーテックスとの戦いは精霊も満開も無いとても過酷な物だったの。

 私がまだ小学生の頃、まだ引っ込み思案で固くて、そんな私をぐいぐい引っ張って遊びに出かけてくれるとても大事な友だちがいた。

 その子は私の仲間の勇者で、とても元気で良い娘『だった』わ」

「東郷……」

「満開の後遺症が治るまではその事すら思い出せなかったんだけどね。今となっては大事な思い出よ」

 

そこで一旦話を切って後ろから夏凜ちゃんを抱きしめた。

 

「夏凜ちゃん、貴方は今まで勇者の役割に縛られ普通の女の子としての人生を多分全く歩めていなかった。

 まだ勇者が適性のある名家の子供しか出来なかった頃の子ども達と同じように。

 この国を守る大切な役目である以上それが悪い事であると言うつもりは無いわ。

 でも貴方にはかつての私と同じような後悔をして欲しくない。

 だから、私は夏凜ちゃんともっともっと仲良くなりたいし夏凜ちゃんにも皆と仲良くなって欲しいわ」

「……分かったわ、でも東郷、私と一緒に幸せにならないとダメよ?」

「あら、それは口説かれてるのかしら」

「ばっ違うわよ!!あんたが周りの事ばかり気にして自分を置き去りにしちゃうんじゃないかって心配してるの!!」

「ふふ、大丈夫よ、ありがとう。私は勇者部の皆のお陰で今とっても幸せだし、これからもきっとそう」

「そう、なら、良いけどね」

 

―― 銀、この優しくて不器用な貴方の後輩を、どうか見守ってあげてくれないかしら?

私は夏凜ちゃんの頭を撫でながら親友だった娘に密かに願った。

 

 

 

「まあもう何も言わないわよ」

「ふふふ、流石完成型勇者夏凜ちゃん、適応力が高いのね」

「勇者は多分関係無いわよ……」

 

私と夏凜ちゃんは一緒のベッドで寝る事にした。

 

「夏凜ちゃんもう少しこっち寄って良いわよ?あんまり離れると落ちちゃうでしょ?」

「東郷の身体大きいから近いとあまり落ち着かないのよ」

 

そう言いながらも夏凜ちゃんは私の方に少し身を寄せてくれた。

 

「夏凜ちゃん髪綺麗よね、ちょっと羨ましいわ」

「何言ってるのよ、あんたの方こそ綺麗な黒髪じゃない。

 いかにも大和撫子って感じでこっちこそ羨ましいわ」

「ありがとう。でも友達の物って少し憧れない?」

「あー気持ちは分かるわね、普段は口に出さないけどあんたのメガロポリスな体型とか私も正直少し憧れるわ」

「あはは、まだ中学生だし夏凜ちゃんこれからきっと育つわよ…というか海でビキニ姿見た時結構夏凜ちゃんも良いカラダしてたと思うけど?」

「え、ちょっと東郷の言い方なんか怖いわ」

「ふふふ嬢ちゃんええカラダしとるな~」

「きゃははははは!!ちょっくすぐったいくすぐったいから!!」

「ここね!ここがイイのね!」

「いい加減にしなさい!!!」

 

ベッドから突き落とされました。

 

「ぜえ…ぜえ…あんたこんな調子でよく友奈に嫌われないわね……」

「いいえ、こんな絡み方するのは夏凜ちゃんが初めてよ」

「何で!?」

「友奈ちゃんって素直だからふざけて絡んでもツッコんでくれないのよね…夏凜ちゃんなら私のボケにも全力でツッコんでくれるから全力でボケられるのよ」

「全く嬉しくないわよ!」

「夏凜ちゃん、私とこれから勇者部のボケとツッコミを先導していきましょう」

「絶対イヤ!」

 

しばらくするとツッコミ疲れたのか夏凜ちゃんはすぐに寝付いてしまった。

会ったばかりの張り詰めた顔からは想像のつかない穏やかな寝顔ね。

 

「おやすみ、夏凜ちゃん」

 

私は夏凜ちゃんを抱きしめて寝付いた。

翌日、夏凜ちゃんが私の胸元で悲鳴を上げて目を覚ましたけど私はいつもより気持ちよく眠れたわ。

 

 

                    *

 

 

翌日、部室にて。

 

「東郷さん、夏凜ちゃんどうだった?」

「最高だったわ」

「羨ましいです!」

 

東郷は部室で周囲に夏凜との合宿について楽しそうに言って聞かせていた。

夏凜はその横で恥ずかしそうに机に頭を突っ伏していたのだが。

 

「あんた達ねえ……」

「むむむ、よーし夏凜今日は私の番よ!覚悟しときなさい!」

「お願い風少し休ませて、本当お願い」

「わ、分かったわ」

「あら夏凜ちゃん疲れたの?じゃあ私のぼた餅でも食べて元気を出して」

「あ、東郷さん私も!」

「私にも下さい!」

「はいはい、順番に一個ずつね」

「やれやれ」

 

夏凜はため息を付きながら一つ東郷のぼた餅を頬張った。

 

「美味しいわよ、流石東郷先生」

「ふふふ、ありがとう夏凜ちゃん」

 

満面の笑みを見せる東郷に夏凜は少し苦笑した。




皆さん初めまして。
本編で絡みの少ない東郷と夏凜を絡ませる話を見てみたいと思い、この話を書いてみました。
ご意見感想等ありましたら書き込んでいただけましたら幸いです。
これから結城友奈は勇者であるの二次創作がもっと増える事を願っています。
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