夏凜の家に泊まるだけ   作:機玉

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今日は風が夏凜の家に泊まる番。


風が夏凜の家に泊まるだけの話

夏凜家合宿二日目、今日泊りに行くのは風である。

休日の活動は短いのでお昼の時間を過ぎた辺りで早々に解散となった。

そして現在風と夏凜は二人で帰途に就いている。

まだ夏凜の家に行くには早い時間である為、せっかくだから二人で遊びに行く事にしたのだ。

 

 

                    *

 

 

いつもよりちょっと早い帰り道、私は夏凜と二人で歩いていた。

ここ最近は五人で帰る事が多かったから、夏凜と二人で帰るのってなんだか新鮮ね。

 

「風とは結構二人で過ごす事も多かったから今更二人でお泊りっていうのもなんだか変な気分ね」

「まあ良いじゃない。二人で過ごす事は多くても、こうして二人で遊んだ事は無かったでしょ?」

「確かに」

 

そう言って笑う夏凜。

戦いが終わって素直に見せるようになった彼女の笑顔が今は心地良い。

 

「それで、どこ行く?」

「うーん私あんまり外遊びに出かけた事無いからこういうの分かんないのよねえ」

「へえ、ちょっと意外ね」

「まー今まで樹の事で頭いっぱいだったしね、大赦との連絡やらお役目やらでてんてこ舞いだったし。

勇者部のメンバーに引っ張られて遊びに行く事はあったけど」

「あ……よく考えたらそうよね、なんかごめん」

「別に気にしてないから良いわよ。というか夏凜も勇者の役目にどっぷりだったでしょ?遊びとか知らないんじゃないの~?」

「ぐっ、その言われ方はムカつくけど確かに知らないわ……」

「お互い若い身空で枯れた青春送ってるもんねえ……」

 

揃ってため息をつく。

 

「しょーがないわね、こんな時の勇者部五箇条よ」

「五箇条?」

「『悩んだら相談!』」

「なるほどね」

 

スマホを起動してSNSの勇者部グループを開いた。

 

Foo『皆いるー?』

ゆーな『いますよ』

ぼた餅NEO『デート中にスマホを開くのは感心しませんよFoo先輩』

夏凜『デート言うな!あんた達に質問があるのよ』

ITU☆KI『オススメのデートスポットを教えて欲しいんですね分かります』

Foo『違う!いや概要としてはそうなんだけど方向性を歪めないで!』

ぼた餅NEO『それなら戦没者慰霊堂で御国の為に没した英霊達に祈りを捧げるオススメのルートがありますよ!』

ゆーな『あはは、じゃあ私が友達とよく行く遊び場リストアップしますね』

夏凜『ゆーな、あんただけが頼りよ……』

ITU☆KI『カラオケはこの前行きましたもんね、ゆーなさんにお任せします』

ぼた餅NEO『無視、だと…!?』

 

友奈がリストアップしてくれたのは近場のゲームセンター、イネスのショップ、それから景色の楽しめる公園等だった。

これは正直期待以上のアドバイスね、流石友奈。

 

「友奈って凄いわね。なんか普段脳筋なイメージしか無かったんだけど、もしかして私達の中では一番女子中学生らしい生活してたりする?」

「うん、ほら私達の家も東郷も引っ越して讃州中に来たじゃない?友奈って勇者部だと唯一の地元民なのよ。だからここに住んで一番長いのは友奈だし友達も多いからこの手の事に関してはあの娘が一番詳しいと思うわよ」

「なるほど…まだ知らない事だらけね」

 

夏凜はうむむと唸りながら呟いてる。

そういえばこの娘こっちに来たばかりの頃は友奈によく噛み付いてたわよね。というより友奈がよく夏凜に絡みに行ってたから相対的に噛みつかれる回数が多かったのかも知れないのかけど。

それが今やこんなに気になるな友達になるとは……感慨深いものがあるわ。

私も負けてられないわね。

 

「よし!無事行くあても出来た事だしどこ行く?」

「あ、そうだったわね。えーと公園は少し遠いから行ったらそれだけで一日終わっちゃいそうだし、ゲームセンターとショッピングモールとかが良いんじゃないかしら?」

「じゃあ早速行きましょう!レッツゴー!」

「はいはい分かったわよ、そんな腕引っ張らなくても急ぐから」

 

せっかく遊ぶんだから時間は無駄に出来ない。

私は夏凜とゲームセンターに向かって駆け出した。

 

 

 

「着いたわね」

「ぜー…ぜー…ごめん、ちょっと、休ませて…」

「な、情けないわねえ……あんたもうちょっと体力あると思ってたんだけど」

「いや面目ない、私、体力は確かに自身あるけど、短距離は苦手なのよ……」

「なら無理するんじゃないわよ……飲み物買って来るわ」

 

夏凜がいつもの挑発するような感じではなく本気で呆れたように言うので余計にへこむ。

うう、情けない……

 

「ほら、スポーツドリンク」

「ありがとう……悪いわね」

「別に良いわよ。そ・れ・よ・りも!こんな息切れするぐらい楽しみだったんでしょ?とっとと遊ばないと走り損よ。少し休んだら早く遊ぶわよ!」

「うう、夏凜本当に良い子になったわね……お姉ちゃん嬉しいわ」

「アホな事言ってると一人で遊びに行くわよ…!」

「ごめんなさい調子乗りました」

「まったく、風はもう少し…「よし犬吠埼風復活!さーて遊ぶわよー!」本当に早っ!?」

「体力はあるから復活も早いのよ!さあ夏凜、好きなゲームを選びなさい!」

「え、ど、どれにしよう……」

「えーと確かさっきの友奈リストに二人で遊べるオススメのゲームリスト書いてあったわよ」

「あ、これね」

 

・ダーツ

・エアホッケー

・レースゲーム

・クレーンゲーム

・プリクラ

 

「夏凜これそれぞれがどんなゲームか知ってる?」

「流石に名前ぐらいは聞いた事あるわよ。そうね…じゃあ最初はあまり激しく動か無さそうなダーツとかで良いんじゃないかしら」

「じゃあダーツに決定ね。店員さんにダーツ貰ってくるわ」

 

二人分のダーツを受け取って的の前に移動した。

 

「で、ダーツってどんなルールなの?」

「代表的なのは、『カウントアップ』『ゼロワン』『クリケット』の三種類みたいね。

 オススメはこのゼロワンっていうのみたいよ」

「じゃあそれで行きましょう」

 

説明によればゼロワンというのは、的にダーツを当てていって規定の点数ピッタリに先に出来たプレイヤーが勝利するルールらしいわね。

ただ単に点数の大きさを競うわけではない所が面白い、との事。

 

「じゃあジャンケンで先攻後攻決めるわよ」

「「最初はグー!ジャンケンポン!」」

「くっ負けた…」「よし勝った!」

 

最初は私からになった。

このゲームは最初のプレイヤーの方が先に規定の点数に到達する可能性がある為基本的に先攻が有利なのだ。

 

「ふっふっふ、じゃあありがたく先に投げさせて貰うわよ」

「いーわよ、こういうのは観察して後から投げた方がデータを活かせるんだから!」

「なんとでも言いなさい、必殺!女子力投擲!」

 

当たったのは斜め右下、15のシングル。

これで15点ゴールに近づいたわけね。

ちなみに今回は合計701点減らせばゴールというルールになっている。

投げるのは一回の手番につき三本、この回で私は全てのダーツを命中させて27点を得た

 

「うん、良い滑り出しね」

「よーし次は私の番ね」

「ふふん、果たして私のスピードに付いて来れるかしら」

「言ってなさい、すぐに追いついてやるわよ!」

 

夏凜は立ち位置に立つとダーツを構えた。

立ち姿はなかなか様になってるわね。

 

「せいっ!」

 

しかしダーツは射線を逸れて的に当たらず、ハズレね。

 

「かりーん、もう少し力抜いた方が良いと思うわよ―」

「うっ、うっさい!!次は当てるわよ」

 

続いて第二射、宣言通り的には当たったものの、運悪くそこは7のシングル。

夏凜は今のところ二回投げて7点だけという状態なわけね。

 

「夏凜ファイトー!」

「ええい、いちいち声かけないで!集中するから……」

 

今度はしっかり深呼吸して体を軽くほぐしてから構える。

なんだかこんなに本気見せてくれると可愛いわね。

 

「当たれっ!」

 

そして投げたダーツ、当たったのはなんとトリプルの19。

つまり19×3の点数が一気に入り夏凜は合計64点もの点数をこの回だけて得た事になる。

 

「やったああああ!!」

「あちゃー、せっかく先手番もらったのにもう追い抜かれちゃったわね……」

「ふふふこれが完成型勇者の実力よ!」

「ぬぐぐ、だがまだ勝負は始まったばかり!ここからが本番よ!」

「上等、返り討ちにしてやるわ」

 

それからしばらくは一進一退の攻防が続いた。

 

「必殺!女子力ファイア!」

「やあっ!」

「女子力ストライク!」

「せいっ!」

「女子力乱れ撃ち!」

「風!いちいち技の名前叫ぶの私まで恥ずかしいからやめて!!」

「えーせっかく考えたのに」

 

技名は夏凜の苦情により禁止になった。

まあ、そんなこんなで勝負も終盤。

現在夏凜の残り点数は45、私は31だ。

一見私の方がゴールの0点に近そうに見えるが、このゲームはそうも行かない。

31点はキリが悪い為、私はどこかに最低で二回は命中させて0にしなければならない。

対して夏凜は15のトリプルを出せばそのままゴールインなのだ。

油断ならない状況である。

 

「集中…集中…」

 

ここまで来ると流石にお互い口数も少なくなる。

静かに後ろで見る夏凜の視線を感じながら第一射。

当たったのは4のシングル、残りは27。一応これでゴールが9のトリプル圏内になった。

続いて第二射、狙うのは左上だ。

 

「はぁっ!」

 

投げたダーツは左上に当たったが、その瞬間電子ダーツの画面からガラスが割れたようなSEが響く。

当たったのは運悪く14のダブル、28点を獲得して701点を超えてしまったのだ。

 

「あちゃー……バーストしちゃった」

「なるほど、0を超えちゃうとこうしてその前の点数に戻るのね」

「そうみたいね、そして手番は交代と。さあ今度は夏凜の番よ」

「よーし気合い入れて行くわよ!」

 

頬をパンパン叩いて夏凜は的の前に立った。

 

「やあっ!」

 

夏凜が当てたのは右下、10のシングルだった。

 

「惜しい惜しい」

「ぬぐぐ、次こそ」

 

続いて第二射。

残りが35になったので夏凜が狙うべきは後二回で0に出来るような場所のはずだけど。

無言で放ったダーツが当たったのは17シングル。残り18。

 

「(18のシングルか9のダブル、6のトリプルに当てれば勝ち。なら狙うは右上ね)」

 

ふふふ考えてる考えてる。

いつかの砂浜で友奈との棒倒しに夢中になってる時もこんな感じだったっけ。

そんな事を考えている内に放たれた最後のダーツが投げられた。

当たったのは4のシングル。残り14で夏凜の手番は終わった。

 

「あーあと少しだったのに……」

「まだまだ勝負はこれからよ!」

「しょうがないわね」

 

そこから先は非常に地味な攻防しかなかったので割愛する。

お互いバーストを何度も繰り返した後に夏凜が勝利をもぎ取った。

 

「よっしゃあああ勝った!」

「負けた……」

「なかなか楽しめたわね、さあ次行きましょう!」

「よーしじゃあ次はエアホッケーよ!」

「望む所!」

 

 

「せいやぁっ!吹き飛べぇっ!!」

「夏凜力入り過ぎ!当たったら死んじゃうから!!」

「え、そう?」

「ホッケーはホッケーを相手にぶつける競技じゃないのよ!」

 

「お、バスケットゲームね。なつかし~」

「へえ、こんなのもあるのね」

「試しにやってみる?」

「そうね、せっかくだしやってみようかしら。よいしょ」

「夏凜ストップストップ!これ中に入らずに外から投げ入れるゲームだから!」

「え?」

 

「プリクラ、ってどうやるの?」

「この手順通りに進めれば大丈夫みたいよ」

「ふーん、二人一緒に入るようにカメラの前に立って、と」

「なんかこうして並ぶと夏凜ちっちゃいわね」

「余計な事するな!背比べなくて良いから!」

「きゃー夏凜ちゃんかーわーいーいー!」

「ちょっ、ぶれるぶれる!あーもー!!」

 

そんなこんなで私と夏凜はゲームセンターで遊び倒した。

ゲーセンってこんなに色々遊べる物があるとは思わなかったわ。

 

「いやー遊んだ遊んだ。楽しかったわね―」

「そうね、誰かとゲームセンター行くなんて初めてだったわ。

 こんなに楽しいならまた来ても良いかも知れないわね」

「良いわねそれ!また今度勇者部の皆で来るのも悪く無いわ」

「まだ遊んでないゲームもあるから今度はそれで遊びたいわね」

 

そんな事を語りながら出てきたゲームセンターを出た時間はおおよそ三時頃。

まだ外で遊ぶ時間は残ってるわね。

 

「じゃあ次はショッピングモール行きましょう」

「そうね、まだ時間あるし。イネスだっけ?」

「そう、ここから近いのはイネスね。じゃあレッツゴー!」

 

 

 

「さて、着いたわねイネス。私は自分だけでショッピングモールとかあまり来た事無いから分からないんだけど、何するの?」

「何するのってそりゃあ勿論買い物するのよ。ショッピングモールなんだし。

 そして私は前から夏凜と来たら絶対行こうと思ってた場所が実はあるのよ」

「え、な、なにそれ?どこに連れてく気よ?」

「ふふふそんな怯えなくても大丈夫よ。夏凜、まずは服を見に行くわよ!」

 

私は夏凜の手を引くと真っ先に服売り場へと向かった。

 

 

「というわけで服売り場に来たわけだけど」

「風新しい服が欲しかったの?」

 

そう言って首をかしげる夏凜。

あ、なるほど確かにこういうのは最初の頃は見せてくれなかった仕草かも。

友奈と樹が言っていたのは可愛くなったっていうのはこういう事なのかも知れないわね。

 

「確かに服は欲しかったけど今日欲しいのは夏凜、あんたの服よ」

「ふぇっ!?わ、私?なんでよ!」

「あんた私服着てる時いつも似たような服着てるじゃない、酷い時は制服着たままだし。

 前から気になってたんだけど服屋に連れて行く暇無かったからね。

 年頃の女の子がそんなんじゃダメ!ほら選ぶわよ!」

「ちょ、ちょっと待って!服とか買った事ないから!」

「私が選んだげるから!」

 

いくつかの服を見繕って夏凜を試着室に押し込む。

 

「ほらほらこれ着てみて。どこに出しても恥ずかしくない服装出来るようになるわよ」

「う、うーん」

 

・白のワンピース+黒のジャケット+黒リボン

 

「シンプルだけど悪くないんじゃない?」

「ワンピースとかは恥ずかしいんだけど……」

「だからジャケットと合わせたんじゃない。夏凜は真っ白だとちょっとキラキラしすぎだと思ったし。

 似合ってると思うわよ、買うから畳んでそっちのカゴに入れといて」

「わ、分かったわ」

「ちょっ、脱ぐのは閉めてから!!」

「わっわあああああゴメン!!」

「どんだけ緊張してんのよ……」

 

・ショートパンツ+グレーのインナー+赤のジャケット

 

「これは活発そうな夏凜にぴったりの服だと思うわよ」

「うん確かにこれは動きやすくて落ち着く」

「ズボンだしね、今日みたいにゲーセン行ったり公園行ったりする時良いんじゃないかしら。

 これも買うわよ」

「分かったわ」

 

・ブラウス+紺色ロングスカート

「うーん好みが分かれる所ね」

「そうなの?」

「おとなしそうな女の子が普段着るには良いと思うんだけど。

 夏凜ならたまに着る分には普段のギャップと良いとかそんな感じ?」

「まあせっかく選んでもらったし買うわよ。どうせ普段は制服だし」

「それもそうね」

 

・フリフリフリフリ&フリフリ

 

「これはイヤ!!」

「何言ってんの勿体無いわよ凄く可愛いじゃない!」

「動きづらいし似合わないって!」

「いや似合ってるから!そうだ今から写真撮って勇者部の皆に聞くのが良いわよ!」

「やめて!!」

 

こんな調子で夏凜をひたすら着せ替えること約1時間、たくさん服を買った。

 

「つ、疲れた」

「いやー買った買った!これで夏凜はしばらく服に困らないわね」

「なんか半分も出してもらっちゃって悪いわね……」

「いーのよ、たまには先輩らしい事させなさい。

 夏凜には結構お世話になったしこれは普段のお礼よ」

「そんなに何かした記憶は無いけど……」

「気にしない気にしない、また何かあった時に夏凜からも贈り物してくれれば良いから」

「……分かったわ、ありがとう」

「どういたしまして!」

 

そう言って笑いかけると夏凜は赤くなって目を逸らした、可愛い。

ふふふ、買ってくれた私服を見るのが楽しみね―、今度の勇者部の活動で着てもらおう。

 

「じゃあそろそろ帰る?」

「え、まだ早くない?」

「でも夕飯作るならこれぐらいが多分ちょうどいいわよ」

「あ、そうね、夕飯ね」

「東郷から聞いたわよ~料理の仕方覚えたいんだって?可愛い事いうじゃな~い」

「わ、悪い!?私だって料理ぐらい出来るようになりたいし……」

「夏凜それ反則」

「え?」

「よしきた!私が教えてあげるから今日は材料買って早めに帰るわよ!何教えて欲しい」

「え、えーと……今日は疲れたし簡単な物で」

「うーん、じゃあ鍋とチャーハンどっちが良い?」

「じゃあ鍋にしてもらおうかしら」

「オーケーじゃあ今晩は鍋に決定!早速材料買って帰るわよ」

「あとうち土鍋が無いわ」

「土鍋ね、分かったわ。多分安く買えると思うしついでにそれも買って帰りましょう」

「大丈夫?服もあるし結構な荷物になると思うけど」

「大丈夫よ、夏凜の4つ小麦粉の袋まとめて持てるような怪力があれば余裕よ余裕!」

「って私頼みなんかい!」

「まあまあ私も持つし大丈夫よ」

「本当かしら……」

 

さあちゃっちゃと買って帰ろう!

 

 

 

無事買い物を終えた私達は夏凜の家に到着した。

 

「流石に重かったわね……」

「だから言ったのに……」

「でもこうして無事帰宅出来たんだし言う事無しよ。

 さて手洗いうがいしたら早速料理始めるわよ」

「分かったわ、風先生」

「せ、先生!?」

「?どうしたの」

「先生って…?」

「東郷も料理教わる時先生って呼んでみたんだけど、嫌だったかしら?」

「い、いや構わないわよ。遠慮無く呼ぶが良い!」

「じゃあ準備しましょう、風先生」

「ぬおおおよっしゃああ先生頑張るわよおおおおお!!」

「!?」

 

今回作るのはキムチ鍋。

材料は豚肉、白菜、ニラ、人参、えのき、豆腐、長ネギ、そしてキムチ鍋のもとだ。

 

「鍋は材料きって全部放り込んで茹でておしまい!本当に簡単な料理よ」

「なら覚えといて損は無さそうね。あ、ご飯はどうする?」

「二人だけだしご飯は少なめが良いわね。締めのうどんもあるし」

「あ、だからうどん買ってたのね」

「当然!しめのうどんは鍋に欠かせない要素よ!じゃあ作り始めましょうか」

「了解!」

その頃の犬吠埼家。

 

「はーい今晩のご飯は鍋焼きうどん勇者盛りだよ!」

「わ~美味しそうです!」

「ありがとう友奈ちゃん」

「ふふふ、じゃあ皆で食べよう!」

「「「いただきます」」」

 

犬吠埼家では少し早めの夕飯を樹、友奈、東郷の三人が食べていた。

樹は家事が出来ない、特に夕飯を作れないのは一日だけでも致命的である。

その事を見越した風があらかじめ友奈と東郷にお願いをして泊まりがけでの樹の世話を頼んだのだ。

可愛い後輩のお世話を出来るという事で友奈と東郷は喜んでこれを了承した。

風としては妹が家事を出来なくてはまずいという事を痛感したのでこれから先の妹の教育計画を立てる事になったわけだが……ともかく今日三人は楽しいお泊りに興じていた。

 

「友奈さんの鍋焼きうどん美味しいです!」

「そう?それは良かったよ!」

「友奈ちゃんも大分料理が上手くなったわね、私も負けていられないわ」

「あはは、東郷さんにはまだまだ敵わないよー」

「お二人共凄いですね、私なんてからっきしですから…」

「樹ちゃんも覚えれば直ぐ出来るようになるわよ、私が教えてあげるわ。夏凜ちゃんも今修行中なのよ」

「ええ夏凜さんもですか!?じゃ、じゃあ私も置いていかれないようにしないと!」

「おお!樹ちゃんが燃えてる!じゃあ私達と一緒に料理勉強しよう!

 目指せ歌って踊れて料理も出来るアイドル!」

「はい!頑張ります!」

 

ひと通り夕飯を楽しんだ後、軽く食器を片付けて三人は食休みをしていた。

 

「あ、風先輩と夏凜ちゃん帰ってきたみたいね。今晩は鍋にするみたい」

「え、東郷さんスマホに何かメッセージでも入ったの?」

「いいえ、夏凜ちゃんの家に仕掛けたカメラと盗聴器から」

「ぶっふぉ!!?」

「わー東郷先輩凄いです」

「樹ちゃん!?え、これ犯罪だよね!?」

「友奈ちゃん、合意の上なら大丈夫なのよ」

「あ、なんだ、ははは、合意なら大丈夫だね―、夏凜ちゃんよく許可したね―」

「事後承諾になる予定よ」

「それは許可取ったとは言わないよ東郷さん!!」

「東郷先輩いつの間にカメラと盗聴器設置したんですか?」

「この前お泊りした時こっそり、ね」

「東郷さん何やってるの……」

「友奈ちゃん、友奈ちゃんも風先輩と夏凜ちゃんが仲良くなる所見たいと思わない?」

「た、確かに見たいと思うけど勝手に見るのはダメでしょ!?」

「大丈夫!今日だけ!今日だけだから!」

「勇者パァアアアアンチ!!」

 

親友と後輩を犯罪者にしない為に人知れず勇者が活躍していたりしたがそれはまた別の話。

「本当に鍋って簡単ね」

「でしょー?しかも皆で囲んで食べられる量を一気に作れるからお泊り会では重宝するのよ」

「良いわね、得した気分だわ。その皆で食べるはずの量の大部分をあんた一人が食べられるのは謎だけど」

「良いじゃない、放っておいても夏凜だけじゃ食べられないんだし」

「いや文句があるわけじゃないんだけど、純粋にあんたの体のどこにそんなに入るのか謎なのよ」

「ふっふっふ、こうしてたくさん食べた食べ物があたしの体内で女子力に変換されているわけよ!」

「理屈になって無いわよ……」

 

鍋を食べながらゆっくりする時間。

いつもは樹と二人で食べているからなんだか新鮮ね。

 

「しかし樹は大丈夫かしらね―」

「大丈夫でしょ、あの娘はしっかりしてるわよ。それに友奈と東郷もいるんだし問題があるわけが無いわよ」

「それもそうね。いやなんだか妹ってどうしても心配になっちゃうのよね」

「まあ確かに樹は可愛いしその気持ちも分からないでは無いけどね」

「でしょー?あげないわよ!」

「大丈夫よ、樹があんたから離れる所なんて想像出来ないわ」

「そう真面目に返されるのもなんだか照れるわね…」

 

鍋を食べ終わると夏凜は立ち上がった。

 

「じゃ、風呂沸かしてくるわね。今日は汗かいたし早く入りたいわ」

「ういうい、じゃあ私は食器洗っとくわ」

「ありがとう」

 

うーんこうして家事をやってくれる子がいると助かるわね。

いやここ夏凜の家だから当然なんだけど。

やっぱり樹にも一通り家事覚えてもらった方が良いわよね、私も高校生になっちゃうからどうなるか分からないし。

そんな事を考えながら皿を洗っていると、風呂が沸いたようだった。

 

「風呂沸いたわよ」

「ありがと、じゃあ夏凜ちゃん、せっかくだから一緒に入る~?」

「そうね、じゃあ一緒に入ろうかしら」

「…え、本当に入るの?」

「何よ、あんたが言い出したんじゃない」

「いや夏凜の事だからこの歳になって何言ってるのよとかそんな感じで突っぱねられるかと」

「東郷とも一緒に風呂に入った時点で色々諦めたわ」

「あーあの子ね……うんなんとなく分かったわ」

 

東郷はなんというかこう、友奈のスキンシップに慣れてる部分があるからそういう所もあるのよね。

 

「じゃあ入りましょうか」

「ふふ、背中流してあげようか?」

「流石に一人で洗えるわよ」

 

 

 

体を流し終えた私達は湯船に浸かっていた。

 

「あー生き返るわ―」

「中学生なのにババ臭いわよ」

「いやだって今日たっぷり動いたし仕方ないじゃない」

「あんまり年寄り臭いと樹にも何か言われるんじゃない?」

「それは困るわね」

 

湯船に浸かると体も心も安らぐ。

こんな時は普段は出来ない話がさらっと出来たりするのよね。

 

「ねえ夏凜」

「んー?」

「ありがとね、色々」

「…突然どうしたのよ?」

「いや、なかなか言う機会無かったから」

「別に、何かした覚えは無いけど」

「うーんいや、今まで私後輩しかいなかったからさ。勇者になってから夏凜が来てくれて良かったわ」

「ああ、そういえばそうね、でもやっぱり私は何もしなかったわよ。

 勇者部で部長として頑張ったのはあんたの力でしょ」

「そんな事ないわよ、あの日だって私、あんたがいなければきっと取り返しがつかない事してたわ」

「……」

 

あの時の私は後悔と怒りと悲しみがぐちゃぐちゃになっていて、ただただ目の前の現実を壊したかった。

でもそんな事をしても私達の日常は返ってくるわけもなくて、あの時夏凜と友奈と樹に止められなければ私は取り返しのつかない事をしていたかも知れない。

 

「あの時」

 

長い沈黙の後に夏凜は口を開いた。

 

「あの時私が風を止めたのは、私が大赦の勇者だったからよ。

 だからあんたの事を思って止めたとかそういうのじゃなかったの。

 風がお礼を言うべきなのは、友奈や樹の方よ」

「そう、そうだったの……なーんて言うわけ無いでしょうが!」

 

俯く夏凜を私は後ろから抱き寄せた。

 

「なっ!?ちょ、ちょっと風!?」

「私は知ってるわよ、あの後壁が壊れた結界の中で、夏凜はたった一人で私達の為に戦ってくれたじゃない。

 私と樹も、あんたの勇姿をしっかり見てたわ。あの時は東郷を止めなきゃいけないから助けに入れなかったけど。

 後で友奈からも聞いたわよ、夏凜が私達の日常を壊させない為にたった一人で戦ってくれたって」

「あ、あれは、その、友奈が泣いてたから……」

「ありがとう、夏凜」

「ふぇっ!?」

「私と友達になってくれてありがとう。

 難しい事色々言ったけど、夏凜と会えて、友達になれて良かったって、それだけ言いたかったのよ」

「…ど、どういたしまして?」

「うん、それで良いの!さあ上がるわよ、そろそろのぼせちゃうわ」

 

真っ赤な顔は風呂にずっと浸かってたせいだって事にしときましょう。

 

 

 

「夏凜の家ってベッド一つしか無いわよね」

「そうね」

「この前はどうしたの?」

「友奈と東郷は、一緒にベッドで寝たわ……」

「あの二人も大概大胆ねー……」

 

ベッドの前で少し考え込んだけど、迷えば迷うほど恥ずかしくなるからこういう時はとっとと行動するに限る。

 

「えーい私達も一緒のベッドで寝るわよ夏凜!」

「はいはい、言うと思ったわ」

「な、慣れてる、夏凜がいつの間にかプレイガールに……」

「私だって慣れたくて慣れたわけじゃないわよ!」

「モテモテで羨ましい事だわ」

 

あーだこーだ言いながら二人でベッドに入った。

あ、結構大きいわね、このベッド。

 

「あー今日はたくさん遊んだからすぐ眠れるかも……」

「そりゃあ何よりだわ」

「ね~夏凜」

「…今度は何よ」

「あんたは何か話とか無いの?こうして二人で話せる機会なんて滅多に無いわよ」

「話…ね」

 

夏凜は悩みだした。

なんか話す内容を考えているというよりも、言おうか言うまいか悩んでいるような感じだった。

 

「何でも聞いてあげるわよ、ほら言ってみなさいよ」

「……まああんたもあんな話してくれたし良いか」

「お、なになに?」

「私に兄貴がいるって話はしたっけ?」

「いや、初耳ね」

「樹には前にした事あったんだけどね、あの子あんたには話さなかったのか」

「あーあの子そういう他人の話はあまりしないわよ?その辺りは結構きちんとしてるし」

「しっかりしてるわね、本当。まあそれはともかく、私には兄貴がいるのよ」

「意外ね、なんか一人っ子っぽいイメージがあったから」

「うん、まあそれは良いんだけど、その兄貴とは正直そこまで仲が良いわけじゃなかったのよ。悪くもなかったけどね」

「なるほど」

 

うーん兄妹仲についての相談とかかしら?

だったら私に言える事が少ないんだけど、いやでも夏凜が相談してくれるなら何かしら力になりたいけど。

 

「風」

「何?」

「良い?一度しか言わないわよ?一度だけだからね!?」

「は、はい」

「私は!今まで兄貴とそんなに親しくしたことも無かったしそんなに兄妹っぽい事した事もなかったから!風と仲良くなって、その、お…お、お姉ちゃんってこんな感じなのかなって……ちょっとだけ、そうちょっとだけ思ったのよ!!!」

「……え」

 

真っ赤になって言い切った夏凜を呆然と見つめる私は、夏凜の言葉が脳に浸透するに連れて眠気が吹き飛び第二の人格が目覚めそうな程意識が覚醒して言葉に出来ない感情が一気に胸から溢れだした。

 

「あーもう恥ずかs「か、かりぃいいいいいいいいいん!!!」ちょ、どうしたのよ!?」

「どうしようあたし今すっっっごく嬉しくて泣きそう!!夏凜もうあたしの妹で良いわよ大好きよ妹おおおおおおおおお!!!」

「ふ、風が壊れた!?」

「夏凜愛してるー!!!」

「だああああくっつくなああああああああ!!」

 

その後も騒ぐ夏凜を抑えこんで抱きしめぐりぐり頭を撫でて夏凜が諦めて大人しくなっても抱きしめ続けて気がつけば意識を失って朝になっていた。

当然の事ながら夏凜は私に対して近づこうとしなかったが、そんな夏凜を見ながら私は笑顔が止まらなかった。

 

 

                    *

 

 

次の勇者部の活動日。

何故かよそよそしい夏凜と風を見て他のメンバーは首をかしげた。

 

「夏凜さんとお姉ちゃんどうかしたんでしょうか…?」

「うーん分からないね…」

「まるで初夜を体験した恋人同士のようだわ、怪しい」

「東郷さんまだ顔が痛むでしょ話さないほうが良いと思うよー」

「痛い痛い友奈ちゃんごめんなさい腫れてる所はやめて!」

 

友奈と東郷が漫才を繰り広げているのにも全く反応を示さない。

いよいよもって心配になった樹は思い切って風に声をかけた。

 

「お姉ちゃん夏凜さんと何かあったの…?変だよ二人共」

「樹……いや大丈夫よ、それよりもね、樹」

「?」

「あんたにお姉さんがもう一人増えたって言ったらあんたどうする?」

「え?」

「はい?」

「あ!?いや、その」

「「「……ええええええええええええええ!?」」」

 

無意識に思わず口を出た言葉にどうごまかそうかと慌てる風、異様に食いつく東郷にそれを止める友奈、形容し難い凄い目で夏凜を見る樹。

奇しくも東郷が泊まった次の日と同じようにそれを見ないふりをして机に突っ伏したまま夏凜は小さく呟いた。

 

「……お姉ちゃんのバーカ」




というわけで風の番でした。
東郷がだいぶぶっ飛んでしまったのが果たしてこれで良かったのか……
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