BLACK LAGOON Maid's Salvation 作:AI太郎
朝は嫌いだ。
正確には。
朝起きる瞬間が嫌いだ。
人間は寝起きが一番無防備になる。
そして俺の場合。
毎朝確認しなければならないことがあった。
目を開く。
天井を見る。
深呼吸。
そして。
「よし」
生きてる。
ブラックラグーンの世界だった。
今日も。
思わず笑う。
十年以上経った今でもたまにやる確認だった。
夢じゃない。
幻覚でもない。
本当にここはブラックラグーンの世界で。
俺は。
ガルシア・フェルナンド・ラブレスだった。
「坊ちゃま」
ドアの向こうから声がする。
聞き慣れた声だ。
世界で一番聞き慣れた声。
「起きてるよ」
「失礼します」
「どうぞ」
ドアが開く。
そして。
俺は毎朝思う。
綺麗だなぁ、と。
黒髪。
メイド服。
整った顔立ち。
背筋の伸びた立ち姿。
ロベルタだった。
俺のメイド。
俺の護衛。
俺の家族。
そして。
俺の推し。
「おはようございます」
「おはよう、ロベルタ」
ロベルタがカーテンを開ける。
朝日が差し込む。
眩しい。
だが嫌いじゃない。
「本日の予定ですが――」
話が始まる。
今日の予定。
勉強。
父親との会談。
投資報告。
その他諸々。
聞きながら。
俺は思う。
ほんまにロベルタや。
何回見ても慣れへん。
前世の俺に言ったら卒倒する。
推しに起こしてもらう人生。
強すぎる。
「坊ちゃま」
「ん?」
「聞いておられますか?」
「聞いてる聞いてる」
「聞いておりませんね」
バレた。
さすがである。
ロベルタは昔から俺にだけ鋭い。
熱を出す前に気付く。
寝不足にも気付く。
嘘にも気付く。
なんなら最近は隠れて筋トレしていることまで気付かれそうになった。
恐ろしい。
「ごめんごめん」
「謝る時の顔ではありません」
「いやぁ」
「いやぁ、ではありません」
怒られた。
だが少し嬉しい。
こういう時間が好きだった。
平和だから。
ロベルタがいて。
父親がいて。
ファビオラはいないけど。
まあそのうち来る。
ラグーン商会もまだいない。
レヴィにも会っていない。
ロックにも会っていない。
でも。
それでいい。
今はまだ。
「坊ちゃま」
「なに?」
「何か良いことでもございましたか?」
ロベルタが不思議そうな顔をする。
気付けば笑っていたらしい。
「いや」
俺は少し考えて。
そして正直に答えた。
「ロベルタがいるから」
数秒。
沈黙。
ロベルタが固まった。
珍しい。
本当に珍しい。
「……坊ちゃま」
「どうしたの?」
「そのようなことを朝から仰らないでください」
耳が少し赤い。
俺は吹き出した。
「あはははは!」
「坊ちゃま!」
「ごめんごめん!」
「全くもう……」
呆れたようにため息を吐く。
だが。
口元は少しだけ緩んでいた。
それを見て。
俺は思う。
絶対に守る。
この人を。
原作みたいな未来にはさせない。
父上も。
ラブレス家も。
全部守る。
そのために。
俺はこの世界へ来たんだから。
その時だった。
コンコン。
ノックの音。
「ガルシア」
父親の声だった。
「起きているか?」
俺は顔を見合わせる。
ロベルタも微笑む。
そして。
「もちろんです、父上」
そう答えながらベッドを降りた。
まだ誰も知らない。
この幸せが。
あと何年続くのかを。
少なくとも今の俺は。
本気で信じていた。
未来は変えられると。
変えてみせると。