BLACK LAGOON Maid's Salvation 作:AI太郎
ロアナプラの外れにある射撃場は、土と火薬の匂いがした。
レヴィは標的の前に立つと、何の前置きもなく銃を抜いた。
構える。
撃つ。
乾いた音が連続して響く。
標的の中心近くに穴が増えていった。
速い。
無駄がない。
漫画やアニメで見た時とは違う。
目の前で見るレヴィの射撃は、派手さよりも先に「慣れ」が来た。
呼吸するように撃つ。
殺すための動作を、日常の動作にしている。
ガルシアは少しだけ息を呑んだ。
q
「何だその顔」
レヴィが銃口を下げる。
「すごいと思って」
「気持ち悪ぃな。素直に褒めんな」
「褒めたら駄目なの?」
「ロアナプラじゃ駄目だな。舌を抜かれる前に財布を抜かれる」
そう言って、レヴィは予備の拳銃を投げてよこした。
ガルシアは受け取る。
重い。
カルテルの船で触らせてもらった時と同じだ。
けれど、今度はただ持つだけではない。
撃つ。
「やってみろ」
ガルシアは頷いた。
足を置く。
重心を落とす。
腕を伸ばす。
グリップを確かめる。
狙う。
撃つ。
乾いた音。
弾は標的の外側に当たった。
中心ではない。
だが外れてもいない。
レヴィの眉がわずかに動く。
「もう一発」
ガルシアは撃った。
今度は胴体の中心寄り。
三発目。
少し左。
四発目。
また外周。
それでも、弾は標的を捉えていた。
レヴィは煙草を咥えたまま黙って見ていた。
「……当たるじゃねぇか」
「近いから」
「近くても当たらねぇ馬鹿はいる」
ガルシアは銃を下ろした。
「でも遅いでしょ」
レヴィはそこで初めて笑った。
「分かってんじゃねぇか」
彼女はガルシアの横へ立つ。
「構えは悪くねぇ。体もブレねぇ。誰かに叩き込まれたな」
「ファビオラに」
「知らねぇ名前だが、そいつはガキ相手に随分と物騒な教育をするらしい」
「優しいよ」
「だったら俺は聖母マリアだ」
ガルシアは少し笑った。
レヴィは煙草を吐き捨て、足で踏み消す。
「だがな、坊主。お前の撃ち方は綺麗すぎる」
「綺麗?」
「教科書通りだ。構えて、狙って、呼吸して、撃つ。お行儀が良くて涙が出るぜ」
レヴィは自分の銃を抜いた。
「だが撃ち合いってのは学校の試験じゃねぇ。相手はお前が答案用紙を綺麗に埋めるまで待ってくれねぇんだよ」
銃声。
標的に穴。
速すぎて、ガルシアは瞬きを忘れた。
「今のでお前は三回死んだ」
「一発しか撃ってないよ」
「俺が三人いたら三回死んでる」
「それは反則じゃない?」
「死体は抗議しねぇ」
それはレヴィらしい答えだった。
ガルシアは黙って頷く。
悔しい。
だが納得もあった。
ファビオラから教わったのは、体の使い方と基礎だ。
生き残るための土台。
だがレヴィが言っているのは、その先だった。
撃つか撃たれるか。
迷った瞬間に終わる世界。
「もう一回」
ガルシアは言った。
レヴィは口の端を吊り上げる。
「いい目だ」
そしてすぐに付け加えた。
「だが百年早ぇ」
「じゃあ百年分やる」
「言うじゃねぇか、お坊ちゃん」
レヴィは笑った。
獲物を見つけた獣のような笑みだった。
「構えろ。まずはその上品な撃ち方から少しずつ汚してやる」
ガルシアは銃を構え直した。
標的を見る。
呼吸を整える。
その瞬間、レヴィの声が飛ぶ。
「遅ぇ」
次の瞬間、後頭部を軽く叩かれた。
「撃つ前に死んでる」
「痛い」
「生きてる証拠だ。感謝しろ」
最悪の教師だった。
だが、最高の教師でもあった。
ガルシアはそう思いながら、もう一度銃を構えた。