BLACK LAGOON Maid's Salvation   作:AI太郎

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第二話

BLACK LAGOON

Maid's Salvation

第二話

 

 

父と子「坊ちゃま、走らないでください」

「急いでるんだよ」

「転びます」

「転ばないって」

転んだ。

見事だった。

廊下の絨毯に足を取られ、そのまま前のめりに倒れる。

幸い受け身は取れた。

最近の訓練の成果である。

だが痛いものは痛い。

「……」

「……」

ガルシアは床に伏せたまま静止した。

後ろからロベルタの視線を感じる。

ものすごく感じる。

「坊ちゃま」

「今のはノーカン」

「何がですか」

「転んだこと」

「転んでおります」

「受け身は成功した」

「前向きな解釈ですね」

呆れた声だった。

ガルシアは起き上がる。

ロベルタが近付いてくる。

嫌な予感しかしない。

「大丈夫だから」

「膝を見せてください」

「大丈夫だって」

「膝を」

「はい」

逆らえなかった。

ロベルタはこういう時だけ異様に強い。

軽い擦り傷だった。

だがロベルタは難しい顔をしている。

「消毒します」

「これくらいなら平気だよ」

「消毒します」

「はい」

二度目だった。

今日も敗北である。

数分後。

ラブレス家当主執務室。

「またロベルタに怒られたのか」

部屋に入った瞬間、父親がそう言った。

ガルシアは思わず足を止める。

「なんで知ってるんですか」

「ロベルタが教えてくれた」

早すぎる。

あまりにも早すぎる。

ロベルタはどこかの諜報機関なのだろうか。

「大袈裟なんですよ」

「お前が無茶をするからだ」

父は笑った。

厳格な人だ。

家のことには厳しい。

仕事にも厳しい。

だが家族には優しい。

特にガルシアには。

「座りなさい」

「はい」

向かいのソファへ座る。

机の上には大量の書類。

最近はこういう光景が増えた。

以前より忙しくなったからだ。

良い意味で。

「それで」

父が腕を組む。

「今日はどんな話だ?」

ガルシアは持参した資料を差し出した。

父は受け取る。

数秒。

そして苦笑した。

「また投資か」

「また投資です」

「本当に好きだな」

「父上が聞いてくれるからです」

父が少し目を細めた。

ガルシアは気付かなかった。

だが父は少し嬉しかった。

息子が自分を頼ってくれることが。

「今度はどこなんだ?」

「ここ」

父は資料に目を落とす。

小さな企業だった。

まだ世間的には無名。

だがガルシアは知っている。

未来を。

もちろん全部ではない。

だが大まかな流れは知っている。

だから少しずつ使う。

少しずつ未来を変える。

家族を守るために。

「面白い会社です」

「理由は?」

「勘です」

「勘か」

「結構当たる」

「それは否定できんな」

二人とも笑った。

ここ数年。

こういう会話が増えた。

最初は相手にもされなかった。

当然だ。

子供の思いつきだと思われていた。

それが今では違う。

成功した。

何度も。

だから父も聞いてくれる。

信じてくれる。

ガルシアはそのことが少し嬉しかった。

「分かった」

父は資料を閉じる。

「検討しよう」

「本当ですか?」

「ここまで当てられると無視もできん」

「やった」

思わず笑顔になる。

子供らしい反応だった。

父も笑う。

そんな穏やかな時間。

ガルシアはふと思う。

守りたい。

この人を。

この家を。

ロベルタを。

全部。

そのためにここへ来たのだから。

会談を終えた後。

ガルシアは廊下を歩いていた。

窓から差し込む陽射しが暖かい。

向こうからロベルタがやって来る。

タイミングが良すぎる。

絶対待ってたな。

「どうでしたか?」

「投資の話」

「旦那様は?」

「聞いてくれた」

ロベルタが少し微笑む。

それだけで嬉しくなる。

単純だった。

自分でもそう思う。

「最近楽しそうですね」

「そうかな」

「そうです」

ガルシアは窓の外を見る。

庭では使用人達が働いている。

みんな忙しそうだ。

だが以前より表情は明るい。

父も笑うようになった。

屋敷も綺麗になった。

未来は変わっている。

確実に。

その時だった。

庭の隅で数人の使用人が困っているのが見えた。

大きな木箱だった。

荷馬車から降ろそうとしているらしい。

だが上手くいっていない。

「失礼いたします」

ロベルタが静かに歩いていく。

使用人達が慌てて頭を下げた。

次の瞬間。

ひょい。

木箱が持ち上がった。

片手で。

それだけだった。

まるで何事もなかったかのように運んでいく。

使用人達も特に驚いていない。

もう見慣れているのだろう。

「……」

ガルシアはその背中を見送った。

普通ならあり得ない。

成人男性が二人がかりで持ち上げようとしていた荷物だ。

だがロベルタにとっては大したことではない。

昔からそうだった。

誰よりも強く。

誰よりも頼もしい。

父から詳しく聞いたことはない。

ロベルタ自身も語らない。

だがガルシアは知っている。

この優しいメイドが。

かつて戦場を駆けた兵士だったことを。

そして今もなお、その強さを失っていないことを。

「坊ちゃま?」

いつの間にかロベルタが戻ってきていた。

「どうかされましたか?」

「いや」

ガルシアは笑う。

「やっぱりロベルタはすごいなと思って」

ロベルタは少し困ったように微笑んだ。

「そのようなことはございません」

「あるよ」

即答だった。

ロベルタはさらに困った顔になる。

それが少し面白い。

「坊ちゃまには敵いません」

「なんでそうなるんだよ」

「事実ですので」

本当に困った人だ。

ガルシアは苦笑した。

そして改めて思う。

強い。

きっと自分なんかよりずっと。

だからこそ。

守りたい。

戦場へ戻したくない。

復讐なんてさせたくない。

この人には。

ずっと笑っていてほしい。

「まあ」

ガルシアは少し笑った。

「みんな元気だから」

ロベルタは一瞬だけ目を丸くした。

そして優しく微笑む。

「そうですね」

その笑顔を見ながら。

ガルシアは心の中で呟く。

大丈夫。

未来は変わる。

ラブレス家は守れる。

父上も守れる。

ロベルタも守れる。

原作とは違う未来へ行ける。

そう信じていた。

少なくとも今は。

まだ。

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