BLACK LAGOON Maid's Salvation   作:AI太郎

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第四話

BLACK LAGOON

Maid's Salvation

 

第四話

はじめの一歩

 

「痛っ!」

 

芝生に背中から倒れ込んだ。

青空が見える。

雲がゆっくり流れていた。

そして。

自分が弱いこともよく分かった。

 

「坊ちゃまは弱いですね」

頭上からそんな声が降ってくる。

 

ガルシアは顔だけ上げた。

 

「分かってるよ」

「思った以上でした」

 

「ひどくない?」

「事実ですので」

 

ファビオラは悪びれもせず答えた。

少し腹が立つ。

だが反論できない。

実際。

五分ほど訓練した結果がこれだった。

三回転ばされ。

二回投げられ。

一回押し倒された。

戦績は散々である。

事の始まりは数日前。

 

「鍛錬?」

ロベルタは露骨に眉を寄せた。

 

「うん」

「必要ありません」

即答だった。

 

「なんで」

「坊ちゃまが危険な場所へ行くことはありません」

「でも」

「ありません」

終わった。

ロベルタはこういう時だけ本当に強い。

だから。

諦めた。

諦めたふりをした。

そして翌日。

 

「ファビオラ」

「はい?」

 

「お願いがある」

 

それが始まりだった。

 

「もう一度やりますか?」

 

ファビオラが手を差し出す。

ガルシアはその手を掴んで立ち上がった。

 

「やる」

「懲りませんね」

 

「勝ってないから」

「勝てると思っているのですか?」

 

「いつかは」

 

ファビオラは少しだけ笑った。

「その意気込みは嫌いではありません」

再開。

ガルシアが前に出る。

ファビオラは待つ。

距離。

姿勢。

重心。

考える。

そして踏み込んだ。

次の瞬間。

視界が回転した。

 

「うわっ!」

 

再び芝生。

 

「痛い……」

「今のは惜しかったですよ」

「慰めになってない」

 

「本当にです」

ファビオラはしゃがみ込んだ。

 

「最初よりは良くなっています」

「本当に?」

「本当に」

 

少なくとも。

最初の頃よりは。

最初の日など酷いものだった。

身体が思うように動かなかった。

足の置き方。

腕の使い方。

力の入れ方。

全部滅茶苦茶。

今はまだ弱い。

それは間違いない。

だが。

少しずつ覚えている。

少しずつ。

本当に少しずつ。

 

「坊ちゃま」

「何?」

「足です」

 

「足?」

「そこではありません」

 

ファビオラが自分の足元を指差す。

「こちらです」

「こう?」

 

「もう少し」

「難しいな」

「簡単なら誰も苦労しません」

 

正論だった。

ガルシアは足の位置を直す。

もう一度。

そしてまた修正される。

その繰り返し。

だが不思議と嫌ではなかった。

投資も好きだ。

勉強も好きだ。

けれど。

こうして何かを覚えていくのも悪くない。

 

「坊ちゃまは真面目ですね」

「そうかな」

 

「ええ」

 

ファビオラは頷く。

 

「普通ならもう飽きています」

「そんなに?」

 

「そんなにです」

少し失礼だと思った。

だが。

褒められている気もした。

 

「どうしてそこまで頑張るのですか?」

ふと。

ファビオラが尋ねた。

ガルシアは考える。

答えはある。

だが言えない。

未来を知っていることも。

父親のことも。

ロベルタのことも。

全部。

だから。

 

「護身術くらい覚えておきたいんだ」

ファビオラはしばらくガルシアを見ていた。

嘘ではない。

だが。

全部でもない。

そんな答えだった。

 

「そうですか」

それ以上は聞かなかった。

風が吹く。

ガルシアは何気なく屋敷の方を見る。

ロベルタが使用人たちに指示を出していた。

いつもの姿。

見慣れた光景。

それだけなのに。

なぜか少し安心する。

 

「坊ちゃま」

「ん?」

「見すぎでは?」

 

ガルシアは思わず咳き込んだ。

「見てない」

「見ていました」

「見てない」

「見ていました」

ファビオラは楽しそうだった。

ガルシアは不満そうに顔をしかめる。

すると。

遠くにいたロベルタがこちらを向いた。

目が合った。

そして。

微笑んだ。

それだけだった。

ガルシアもつられて笑う。

平和だった。

穏やかだった。

そして。

それで十分だった。

 

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