BLACK LAGOON Maid's Salvation 作:AI太郎
第三十六話 招かれざる客
三合会の事務所には、妙な沈黙が漂っていた。
革張りのソファにはラグーン商会の四人と、二人のメイド。そして少し離れた席には、腕を組んだまま不機嫌そうに天井を睨むバオがいる。
イエローフラッグの跡地で張に呼び止められたとき、バオは同行を拒んでいた。自分の店が瓦礫になったばかりだというのに、わざわざ三合会の事務所へ出向く義理などない。
しかし、張の一言が彼の足を止めた。
『お前、まだ話していないことがあるだろう』
その言葉に、バオは露骨に顔をしかめた。そして結局、渋々ついてきたのである。
「……で、張」
バオが沈黙を破った。
「俺の店はどうなるんだ?」
「俺に聞かれても困るな。あんたの店を壊したのは俺じゃない」
「んなことはわかってる! コロンビアの馬鹿どもに、どう落とし前をつけさせるかって話だ!」
「そいつは近々開かれる黄金夜会で話を通そう。あいつらが始めた騒ぎだ。責任を取らせる筋はある」
「……頼むぞ」
「ただし、最後に店を倒壊させたのは、そちらのお嬢さんだろう?」
張の視線がファビオラへ向いた。
少女はびくりと肩を震わせ、勢いよく立ち上がった。
「も、申し訳ございませんでした!」
「謝罪ならもう聞いた!」
バオが怒鳴った。
「俺が知りたいのは、誰がどうやって金を払ってくれるかってことだ!」
ロベルタが静かに立ち上がった。
「バオ様。このたびの損害につきましては、私どもにも重大な責任がございます」
「そりゃそうだろうよ」
「しかしながら、現在の私どもの手持ちでは、損害の全額をお支払いすることができません。また、若様の財産を私の一存で用いることもできません」
「……だろうな」
バオは深いため息をついた。
「ったく……明日からどうやって生活していけばいいんだ、俺は」
「しばらく休暇だと思えばいいじゃねえか」
レヴィが口を挟んだ。
「休暇ってのはな、給料が出る奴が取るもんなんだよ!」
「だったら、建て直したら倍働けばいいだろ」
「何ヶ月かかると思ってんだ!」
「知らねえよ。あたしは大工じゃねえんだ」
「だったら黙ってろ!」
レヴィは鼻を鳴らした。
「へいへい。せっかく慰めてやってんのによ」
「それのどこが慰めだ!」
「レヴィ、その辺にしとけ」
ダッチが煙草をくわえながら言った。
「今のバオに冗談を言っても、請求書が一枚増えるだけだ」
「そいつは困るな。あたしの名前は書かないでくれよ」
「真っ先に書いてやる!」
バオが吐き捨てると、張が机を軽く指で叩いた。
「バオ。店の賠償については、コロンビア側との話し合いも必要だ。ここで金額を決めても、支払わせられるとは限らん」
「……わかってるよ」
「そちらの二人とも、責任の所在と補償について改めて協議してくれ。それ以上は今夜決着する話じゃない」
ロベルタが頭を下げた。
「承知いたしました」
バオは不満そうに鼻を鳴らしたが、それ以上は何も言わなかった。
張は煙草を灰皿に置き、二人のメイドへ向き直った。
「さて。そろそろ本題に入ろうか」
ロベルタが姿勢を正す。
「初めまして。ロベルタと申します。こちらはファビオラでございます」
「張維新だ」
張は軽く頷いた。
「名前は聞いている。以前、この街で随分と派手に暴れたそうだな」
「……お恥ずかしい限りでございます」
「この街には、あんたを覚えている連中が大勢いる。もっとも、直接会った者の中には、もう口を利けない奴もいるだろうが」
ロベルタは表情を変えなかった。
「本日は、突然お騒がせして申し訳ございません」
「謝罪はもう十分だ。それより、あんたがロアナプラに来た理由を聞かせてくれ」
ロベルタは一瞬、ファビオラへ目を向けた。
少女は膝の上で両手を握りしめ、小さく頷いた。
「……若様が、行方不明になられました」
ロックが顔を上げた。
「ガルシア君が?」
レヴィも眉をひそめる。
「……あの坊主が?」
「はい」
「また誘拐されたってのか?」
「いいえ。若様はご自身の意思で屋敷を出られました。書き置きを残して……」
「……家出?」
レヴィは目を丸くした。
「へえ。あの坊主がねえ」
「レヴィ?」
ロックが振り向く。
「いや、十五にもなりゃ家出くらい珍しくねえさ。あたしが驚いてんのは、あの坊主がそんな真似をしたってことだよ」
レヴィは椅子に背を預けた。
「礼儀正しくて、誰にでも頭を下げて、おまけにあのメイドにべったりだったろ。反抗期なんて言葉とは無縁だと思ってたぜ」
「……おっしゃるとおりでございます」
ロベルタは俯いた。
ダッチが口を開いた。
「事情があるんだろう。最初から聞かせてもらえるか?」
「……はい」
ロベルタは静かに息を吸った。
「すべての始まりは、昨年十月のことでございます」
◇
ロベルタの説明が進むにつれ、室内から軽口が消えていった。
ベネズエラ、バリナス州。
MRVの式典で発生した爆破テロ。
そして、ディエゴ・ラブレスの死。
「……親父さんが死んだのか」
レヴィが低く呟いた。
「はい」
ロベルタは頷いた。
「若様は旦那様を深く敬愛しておられました。事件の後は、ほとんどお食事も召し上がらず、夜も眠れないご様子で……」
ファビオラが俯いた。
「その後、MRVを率いるラファエル・バルガス少佐から、事件に関与した疑いのある人物についてお話がございました」
「犯人がわかったのか?」
張が尋ねた。
「いいえ。あくまで容疑者でございます。マルコス・ホセ・ヘルナンデスを中心とする、六名の元情報将校。そして、彼らが私をも標的にしていることが若様に伝えられました」
レヴィが顔をしかめた。
「……親父を殺されたばかりで、今度はあんたまで狙われてるって聞かされたわけか」
「はい」
「……クソッタレ」
ロベルタは続けた。
「若様は私に、二人で屋敷を出ようとおっしゃいました。家も財産も、すべて捨てて、遠くへ逃げようと……」
「それで?」
ロックが尋ねた。
「……私は、お断りいたしました」
「どうしてだ?」
レヴィが聞いた。
「若様はラブレス家の当主でございます。旦那様が遺されたものを、悲しみの中で捨て去ってよいとは思えませんでした」
レヴィは何も言わなかった。
「若様は、最後に私へ謝罪なさいました。そして、屋敷を出られたのです」
「……謝った?」
レヴィが眉をひそめた。
「何であいつが謝るんだよ」
ロベルタは答えなかった。
「書き置きには?」
ダッチが尋ねる。
「屋敷の管理、使用人への給与、財産に関する指示が細かく記されておりました。私に資金を残す旨もございました。そして……自分を捜さないでほしい、と」
「……十五のガキが、随分と用意周到な家出をしたもんだ」
ダッチが呟いた。
「持ち出したものは?」
「屋敷に飾られていた、古いマスケット銃でございます」
「……マスケット?」
レヴィが眉を上げた。
「よりによって骨董品の鉄砲かよ」
「それが何を意味するのか、私にもわかりません」
ロベルタは首を振った。
「ですが、若様の失踪後、六名の元情報将校が相次いで殺害されました」
張が顔を上げた。
「……六人ともか?」
「はい」
ダッチは煙草を指に挟んだ。
「……おいおい」
レヴィの表情から、冗談めいた色が消えた。
「まさか、坊主がそいつらを……」
「確証はございません」
ロベルタは即座に答えた。
「ですが、若様が事件の関係者について知らされていたこと、そして失踪後に彼らが殺害されたことは事実でございます」
「……なるほどな」
張は煙草の灰を落とした。
「仇討ちと考えれば筋は通る。だが、それだけで犯人と決めつけるわけにはいかん」
「おっしゃるとおりでございます」
「ほかには?」
「ヘルナンデスと、アメリカ陸軍のサイモン・ディケンズ大佐が一緒に写った写真が見つかりました」
ダッチの表情が変わった。
「……アメリカ陸軍?」
「はい。ただし、写真で確認できるのは、両者が接触していたという事実だけです。爆破事件への関与を証明するものではございません」
「その大佐は今どこにいる?」
「……亡くなっております」
ロベルタは続けた。
「カラカス近郊で発生した火災の現場から、焼損した遺体が発見されました。身元はディケンズ大佐と確認されております」
「……そいつはまた」
ダッチが低く唸った。
「厄介な名前が出てきやがったな」
「さらに、その火災が起きた日、現場から離れた場所の監視映像に、若様によく似た人物が映っておりました」
「本人なのか?」
張が尋ねた。
ロベルタは一瞬、言葉を止めた。
「……公式には、確認されておりません」
「公式には?」
「映像は鮮明ではなく、顔を特定できるものではございません。また、その人物が火災現場へ出入りした記録もございません」
張は彼女を見た。
「……だが、あんたは坊やだと思っている」
ロベルタは静かに頷いた。
「……はい。私には、若様にしか見えませんでした」
張はそれ以上、何も言わなかった。
「それで、なぜロアナプラへ?」
「ディケンズ大佐の口座から、ベネズエラからアメリカ、そしてタイへ向かう航空券が購入されておりました。さらに、ロアナプラへ向かうバスの乗車券も確認されております」
「実際に誰が使ったかは?」
「確認できておりません」
張は煙草を灰皿に押しつけた。
「六人の死、大佐の焼死、坊やに似た人影、そしてロアナプラ行きの切符か」
「はい」
「繋がっているようには見える。だが、まだ決定的な証拠はない」
「……承知しております」
ロベルタは頭を下げた。
「それでも、若様がこの街におられる可能性がある以上、私は……」
その声が途切れた。
ロックが口を開いた。
「ロベルタさん。僕らだってガルシア君が心配です」
ロベルタは顔を上げた。
「……ありがとうございます」
だが、ダッチは厳しい表情を崩さなかった。
「悪いが、ミス・ロベルタ。俺たちはその依頼を引き受けられん」
「ダッチ!」
レヴィが振り向いた。
「最後まで聞け」
ダッチは静かに続けた。
「ガルシアのことは心配だ。無事なら、俺だってこの目で確かめたい。だが、アメリカ陸軍の大佐が死んでいるとなりゃ、俺たちが首を突っ込んでいい話じゃねえ」
「……」
「坊主が犯人かどうかもわからん。米軍がどこまで関わっているのかもわからん。そんな状況で依頼を受けりゃ、うちの連中を何に巻き込むことになるか見当もつかねえ」
レヴィは唇を噛んだ。
「……クソッ」
「俺たちは運び屋だ。第三次世界大戦のゴングを鳴らす役なんざ、御免こうむるぜ」
ダッチはロベルタを見た。
「正式には引き受けられん。ただし、何か耳に入れば知らせる。それで勘弁してくれ」
ロベルタは深く頭を下げた。
「……十分でございます。ありがとうございます」
◇
「……ところで、皆様」
ロベルタが顔を上げた。
「一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」
「何だ?」
ダッチが答えた。
「若様について調べているうちに、いくつか不可解なことがございました」
彼女は静かに続けた。
「若様は、いつの間にか自動車の運転を覚えておられたようなのです」
ダッチの手が止まった。
「……ほう」
張が横目で見た。
「さらに、銃器の扱いにも相応の知識をお持ちだったようでございます」
レヴィが視線を逸らした。
「……へえ」
「それだけではございません。コンピューターを用いた情報収集や、不正な操作についても……」
ベニーが咳き込んだ。
「ゴホッ!」
張は三人を順番に見た。
ダッチ。
レヴィ。
ベニー。
「……なるほど」
張が呟いた。
「実に教育熱心な連中だ」
「おい、張さん」
ダッチが低い声を出した。
「余計なことは言わんでくれ」
「俺はまだ何も言ってないぞ」
「顔に書いてある」
「そいつは失礼した」
張は口元を緩めた。
「運転に射撃にコンピューターか。次は何を教えるつもりだ? 銀行強盗か、それとも国家転覆か?」
「そこまで教えた覚えはねえよ」
レヴィが吐き捨てた。
「どうやら坊やは、独学でそこまで進んじまったらしい」
その一言で、笑いは消えた。
ロベルタは三人を見つめていた。
「……皆様」
穏やかな声だった。
「若様がお世話になったこと、心より感謝しております」
「……ああ」
ダッチが答えた。
「ですが、若様が無事にお戻りになられましたら、改めてお話を伺わせていただきたく存じます」
レヴィが顔をしかめた。
「……何の話だよ」
「若様の教育について、でございます」
ロベルタは微笑んだ。
ベニーが椅子の上で身じろぎした。
「……ダッチ」
「何だ、ベニー」
「僕、今ちょっと帰りたい」
「奇遇だな。俺もだ」
「てめえら、何ビビってんだよ」
レヴィが鼻を鳴らした。
「ガキが銃の撃ち方を覚えたくらいで、大騒ぎすることねえだろ」
「レヴィ」
ロックが呆れたように言った。
「今の話を聞いて、まだそんなこと言えるのか?」
「……」
レヴィは黙った。
そして、乱暴に椅子へもたれかかった。
「……ああ、クソッ。わかってるよ」
張はその様子を見ていた。
ガルシアという少年は、どうやら単に保護されていたわけではないらしい。
この街で生きる連中から、必要なものを少しずつ吸収していた。
その結果が、今の失踪と関係しているのだとすれば。
張にとっても、笑って済ませられる話ではなかった。
◇
「……さて、バオ」
張が煙草の灰を落とした。
「そろそろ、あんたの話を聞かせてもらおうか」
バオは顔をしかめた。
「……何の話だよ」
「とぼけるな。さっきも言っただろう。あんたにはまだ、話していないことがある」
張は煙草をくゆらせた。
「二週間ほど前、あんたの店でうちの組員が飲んでいたそうだ」
バオの表情が変わった。
「……!」
「そのとき、あんたが十五、六歳の少年に怒鳴り散らしているところを見たらしい」
ロベルタが顔を上げた。
「……少年?」
「金髪で、育ちのよさそうな顔をした坊やだったそうだ」
張はバオを見た。
「……心当たりは?」
バオは舌打ちした。
「……ああ」
短い返事だった。
「来たよ。二週間ほど前にな」
「若様が……こちらへ?」
ロベルタの声が震えた。
「間違いない。ガルシアだ」
「……!」
「もともと顔見知りだからな。見間違えるわけがねえ」
バオは苦々しく続けた。
「久しぶりに来たと思ったら、妙なことを言い出しやがった」
「妙なこと?」
ダッチが尋ねた。
「情報屋と、闇医者と、武器商人を紹介しろってな」
レヴィが眉を上げた。
「……何だって?」
「聞こえただろ。情報屋、闇医者、武器商人だ」
「……おいおい」
ダッチが低く唸った。
張は黙って続きを待っていた。
「俺だって聞いたさ。そんな連中を集めて、何を始めるつもりだってな」
バオはテーブルを睨んだ。
「そしたら、あの野郎……」
一度、言葉を切った。
「『戦争に必要な人材です』だとよ」
誰も口を開かなかった。
「……戦争?」
ロックがようやく声を絞り出した。
「ああ。そう言いやがった」
張の目が細くなった。
「それで、紹介したのか?」
「……ああ」
「三人とも?」
「全部だよ」
バオは吐き捨てた。
「クソッタレ。俺もどうかしてた」
「おい、バオ」
レヴィが身を乗り出した。
「そんな話を聞いて、何で紹介なんかしたんだよ」
「うるせえ!」
バオが怒鳴った。
「そんなこと、俺が一番聞きてえよ!」
その剣幕に、レヴィも口を閉じた。
「……あいつはな」
バオの声が低くなった。
「昔から、妙に礼儀正しいガキだった」
ロベルタが顔を上げる。
「ジュースを出してやりゃ、きちんと頭を下げる。こっちが悪態をついても、丁寧に返してきやがる」
バオは鼻を鳴らした。
「この街じゃ、十五にもなりゃ人の財布を抜くか、人の頭に鉛玉をぶち込むか、どっちか覚えてるようなガキばっかりだ」
誰も笑わなかった。
「それなのに、あいつは……」
バオは言葉を探すように、しばらく黙った。
「……目だけが、まるで違った」
「……目、でございますか」
ロベルタが尋ねた。
「ああ」
バオは彼女を見た。
「人を殺す算段を、明日の天気でも話すみてえな顔でしやがって」
ロベルタの指先が、膝の上で強く握りしめられた。
「俺は帰れって言ったんだ。こんな街でろくでもねえ連中を探してねえで、家に帰れってな」
バオは歯を食いしばった。
「そしたら、何て言ったと思う?」
ロベルタの唇が、かすかに動いた。
「……何と、おっしゃったのですか」
「……帰れる場所があれば、よかったんですけどね」
バオはその言葉を、吐き出すように言った。
静寂が落ちた。
「……十五だぞ」
バオの声が震えた。
「たった十五のガキが、だ。家もあって、金もあって、あんたみてえに血眼になって捜してくれる人間までいる」
彼はロベルタを睨んだ。
「それなのに、帰る場所がねえって言いやがったんだ」
ロベルタは何も言わなかった。
「一体どうなってんだよ。何があったら、あんなガキがあんな目をするようになるんだ?」
「バオ様……」
ファビオラが口を開いた。
「婦長様は、若様のことを誰よりも――」
「だったら何でだ!」
バオが遮った。
「誰よりも大事にしてるってんなら、何であいつは帰れねえんだよ!」
ファビオラは言葉を失った。
ロベルタは、ゆっくりと顔を上げた。
「……おっしゃるとおりでございます」
その声は、ひどく静かだった。
「若様がそのようなお言葉を口になさったことも、私には何もお話しくださらなかったことも……すべて、私の不徳の致すところでございます」
「……チッ」
バオは舌打ちした。
「そういう話をしてんじゃねえんだよ、俺は」
乱暴に椅子へ腰を下ろした。
「……あのガキはな、最後まで笑ってたんだ」
バオは誰とも目を合わせなかった。
「帰る場所がねえなんて言いながら、こっちに気を遣って笑いやがる」
拳が、膝の上で震えていた。
「……あんなもん、ガキのする顔じゃねえだろうが」
張は煙草を灰皿に押しつけた。
誰も口を開かなかった。
◇
「……バオ」
しばらくして、張が静かに口を開いた。
「その三人の連絡先は、まだわかるか?」
「……ああ」
「後で教えてくれ。坊やの足取りを追うなら、そこから始めるのが早い」
バオは短く頷いた。
「ミス・ロベルタ」
張は彼女へ向き直った。
「坊やがこの街に来ていたことは、これではっきりした。だが、今もここにいるとは限らん」
「……はい」
「俺の方でも調べておこう。何しろ、十五の坊やがロアナプラで戦争の準備をしていたとなれば、こっちも知らぬ顔はできん」
「……ありがとうございます」
「礼はまだ早い。見つかる保証はないし、あんたの望む知らせが届くとも限らん」
張は煙草を取り出した。
「それに、近々黄金夜会がある」
「黄金夜会……でございますか?」
「ホテル・モスクワ、三合会、コロンビア、イタリア。この街の四大勢力の頭が顔を揃える会議だ」
ダッチが頷いた。
「……ああ、あれか」
「コロンビアの連中には、さっきの騒ぎについても聞かなきゃならん。ついでに坊やのことも探ってみよう」
「……張さん」
ロックが尋ねた。
「コロンビア側が何か知っていると思うんですか?」
「さあな」
張は肩をすくめた。
「知らないかもしれん。だが、知らないことを確かめるのも情報収集だ」
「……なるほど」
「それに、あんたらの目の前で、あの連中はメイドを殺そうとしていたんだろう?」
張はダッチへ視線を向けた。
「この街で勝手に戦争を始められても困る」
「まったくだ」
ダッチが煙草をくわえた。
「こっちは平穏に商売したいだけなんだがな」
「運び屋が平穏を語るとは、面白い時代になったもんだ」
「張さん。あんたのところに比べりゃ、うちは慈善団体みたいなもんだぜ」
「なら、今度寄付でも頼もうか」
「勘弁してくれ。うちの会計係が泣く」
「もう泣きたいよ」
ベニーがぼやいた。
張は小さく笑い、煙草に火をつけた。
「……ところで、ミス・ロベルタ」
「はい」
「あんたら、この街にはいつ着いた?」
「本日でございます。到着して、まだ数時間ほどですが」
「……今日か」
張は煙を吐いた。
「それなら、一つ妙な話がある」
「……何でございましょう?」
「この街で、メイド姿の人物が目撃されている」
レヴィが顔を上げた。
「……あ?」
「一週間ほど前からだ」
張は続けた。
「少なくとも、あんたらが来るより前になる」
「……おい、張さん」
レヴィが眉をひそめた。
「今度は何の冗談だよ」
「冗談なら、もう少し気の利いたものを言うさ」
「メイドがもう一人いるってのか?」
「そういう噂だ」
ダッチが煙草を指に挟んだ。
「……妙だな」
「ああ」
張は頷いた。
「ただし、今のところわかっているのは、メイドらしき格好の人物が目撃されたということだけだ。誰なのか、何をしているのか、あんたらと関係があるのかもわからん」
「誰かを襲ったという話は?」
ロックが尋ねた。
「そういう報告はない」
「だったら、ただの見間違いかもしれませんね」
「その可能性もある」
張はあっさり認めた。
「だが、時期が気になる」
レヴィが腕を組んだ。
「……ったく。この街はいつからメイドの観光名所になったんだよ」
「前に来た一人が、ずいぶん強烈な宣伝をしてくれたからな」
ダッチが言った。
「宣伝費はゼロ、被害総額は計算不能か」
レヴィは鼻を鳴らした。
「そりゃ広告屋が泣いて喜ぶぜ」
張は二人の軽口を聞き流し、ロベルタへ向き直った。
「心当たりは?」
「……ございません」
「そうか」
張は頷いた。
「なら、こちらでも調べておこう。今のところ、坊やの件と結びつける材料もない」
「お手数をおかけいたします」
「なに。この街で何が起きているかを知っておくのも、俺の仕事だ」
◇
「……さて」
張は腕時計に目を落とした。
「今夜はこの辺にしておこう。話を続けたところで、今すぐ坊やが見つかるわけでもない」
ロベルタは小さく頷いた。
「……承知いたしました」
「ところで、宿は決まっているのか?」
「いえ。まだ手配しておりませんが……」
「なら、こちらで用意しよう」
張は受話器を取り上げた。
「三合会が所有しているホテルがある。部屋の質は保証する」
「そこまでしていただくわけには……」
「遠慮はいらん」
張は片手を上げた。
「この街で女性二人を夜道に放り出したとなれば、俺の評判に傷がつく」
「ハッ!」
レヴィが吹き出した。
「聞いたか、ダッチ。ロアナプラのギャングの親玉が、紳士の評判を気にしてるぜ」
「信用は商売の基本だからな」
張は涼しい顔で答えた。
「特に、あんたらみたいな連中を相手にするなら」
「ケッ。言ってくれるじゃねえか」
張は電話の向こうへ手短に指示を出し、受話器を置いた。
「手配は済んだ」
「……重ね重ねのご厚意、心より感謝申し上げます」
ロベルタが頭を下げた。
「ただし、一つだけ理解しておいてもらいたい」
張は指先で煙草を転がした。
「うちのホテルなら、何かあったときにすぐ連絡がつく。こちらとしても、その方が都合がいい」
「……監視も兼ねている、ということですか?」
ロックが尋ねた。
「察しがいいな」
張は薄く笑った。
「親切と用心は、別に矛盾せんだろう?」
「……そりゃそうだ」
ダッチが頷いた。
「この街で親切だけを売り物にしてたら、三日と持たねえ」
「三日も持てば大したもんだ」
張はロベルタへ向き直った。
「ミス・ロベルタ。あんたらの行動を縛るつもりはない。ただし、騒ぎを起こすなら、せめて事前に知らせてくれ」
「……心得ております」
「それと」
張は一拍置いた。
「ホテルは壊さないでくれ。あそこはうちの持ち物なんでな」
レヴィが噴き出した。
「ハハッ! 聞いたか、バオ! 今度は張さんが店を失う番かもしれねえぞ!」
「冗談じゃねえ!」
バオが怒鳴った。
「俺はまだ一銭も受け取ってねえんだぞ! 次の建物の話なんざ聞きたくもねえ!」
「安心しろ、バオ」
張は笑みを浮かべた。
「俺もあんたと同じ目に遭うつもりはない」
「だったら、そこの二人を泊めるのはやめとけ!」
「……バオ様」
ファビオラが申し訳なさそうに頭を下げた。
「本当に、申し訳ございませんでした」
バオは彼女を見た。
それから、深いため息をついた。
「……もういい。謝るなら、今度は店を壊す前にしてくれ」
「……はい」
「いや、壊すなよ! そこは否定しろ!」
レヴィが腹を抱えて笑った。
張も小さく肩を揺らしたが、ロベルタだけは笑わなかった。
彼女は窓の外へ目を向けていた。
夜のロアナプラ。
酒と硝煙と、腐敗した金の匂いが染みついた街。
そのどこかに、ガルシアがいるかもしれない。
そして彼は、かつて自分が守ろうとしたものを、今度は自らの手で壊そうとしているのかもしれなかった。
「……婦長様」
ファビオラが小さく声をかけた。
ロベルタは振り返り、少女に微笑んだ。
「参りましょう、ファビオラ」
「……はい」
二人は張に一礼し、事務所を後にした。
扉が閉まる直前、ロベルタは一度だけ振り返った。
「張様」
「何だ?」
「……若様について、何かわかりましたら」
「ああ」
張は短く頷いた。
「連絡しよう」
「……ありがとうございます」
扉が閉まった。
廊下を歩きながら、ロベルタは胸元に手を添えた。
若様。
あなたは、どこにおられるのですか。
あの日、差し伸べられた小さな手を、私は取ることができなかった。
それでも。
今度こそ、あなたを一人にはいたしません。
ロベルタは足を止めず、夜のロアナプラへと歩き出した。
番外編 イエローフラッグ再建計画
――後日、ロアナプラ。
「……で、ガルシア。こいつは何だ?」
バオは目の前に広げられた設計図を睨んでいた。
「新しいイエローフラッグの設計図です」
「それは見りゃわかる」
ガルシアはにこやかに頷いた。
「今回の件ではご迷惑をおかけしました。ですので、再建費用は僕の個人資産から全額負担させていただきます」
「……本当にいいのか?」
「もちろんです。僕たちの責任ですから」
「そいつは助かる。正直、店を建て直す金なんざ、どこにもなかったからな」
バオはようやく表情を緩めた。
その向かいでは、ロベルタが誇らしげに微笑んでいる。
「若様。ご立派でございます」
「ありがとう、ロベルタ」
「バオ様にもご満足いただけるよう、私どもも精一杯お手伝いいたします」
「……ああ、頼むぜ」
ファビオラも元気よく頷いた。
「私もお手伝いします!」
「お前さんは、もう榴弾発射器を持ってくんなよ」
「うっ……」
ファビオラは肩を落とした。
「……はい」
「まあ、過ぎたことだ。今度は壊さねえでくれりゃいい」
バオは設計図に目を戻した。
「で、前と同じような店にしてくれるんだろうな?」
「はい。基本的には以前の雰囲気を残すつもりです」
「そいつはいい」
「床や壁は木目調にして、落ち着いた内装にしようと思っています」
「おう。前の店もそんな感じだったしな」
「ただ、一つ気になることがありまして」
「何だ?」
「床の掃除です」
「……掃除?」
「はい。お客様が土足で出入りすると、どうしても床が汚れてしまいますよね。特に雨の日などは、閉店後のお掃除が大変でしょう?」
「……まあな」
バオは頷いた。
「酔っ払いが泥だらけの靴で歩き回るからな。毎晩モップがけだ」
「でしたら、いっそのこと土足厳禁にしませんか?」
「……土足厳禁?」
「入口で靴を脱いでいただくんです。そうすれば床の汚れを大幅に減らせます」
「……なるほど」
バオは顎を撫でた。
「確かに、掃除は楽になるか」
「はい。それに、床材も長持ちします」
「悪くねえな」
「若様、従業員の負担までお考えになるとは……」
ロベルタが感心したように頷く。
「さすがでございます」
「いえ、それほどでも」
ガルシアは照れくさそうに笑った。
「ただ、靴を脱いでいただくとなると、一つ問題がありまして」
「何だ?」
「靴の取り違えです」
「……ああ」
「酔ったお客様が、ほかの方の靴を間違えて履いて帰ってしまうかもしれません」
「ありそうだな」
「それに、盗難の可能性もあります」
「……この街じゃ、そっちの方がありそうだ」
「ですので、入口に鍵付きの靴箱を設置しましょう」
ガルシアは設計図の一角を指差した。
「お客様ごとに鍵をお渡しする方式です」
「おお。そいつはいいじゃねえか」
バオは満足そうに頷いた。
「靴のことで揉められても面倒だしな」
「では、そうしましょう」
ガルシアは設計図に印をつけた。
こうして、イエローフラッグの入口には鍵付きの靴箱が設置されることになった。
◇
「それから、バオさん」
「今度は何だ?」
「以前のお店では、異なる組織のお客様同士が揉めることも多かったですよね?」
「……多かったどころじゃねえよ」
バオは苦虫を噛み潰したような顔になった
「そうですよね」
「店の中で喧嘩するだけならまだしも、銃撃戦なんざ始められた日には……」
「そこで、一つ考えたんです」
ガルシアは別の設計図を広げた。
「客席を個室にしてしまうのはどうでしょう?」
「……個室?」
「はい。壁で仕切って、ほかのお客様と顔を合わせずに飲食できるようにするんです」
バオは図面を覗き込んだ。
「……ほう」
「組織ごとに別々の部屋へご案内すれば、余計な接触を減らせます」
「……確かにな」
「もちろん、完全に争いを防げるわけではありませんが、少なくとも同じ空間で睨み合うことはなくなります」
「……悪くねえ」
バオは腕を組んだ。
「いや、むしろいいかもしれねえな」
「ありがとうございます」
「ただよ」
「はい?」
「個室にしちまったら、俺の目が届かねえだろ。注文を取りに行くのも面倒になる」
「それも考えました」
ガルシアは鞄から小さな装置を取り出した。
「こちらをご覧ください」
「……何だ、こりゃ?」
「呼び出しベルです」
「ベル?」
「各個室に設置して、お客様が注文したいときに押していただくんです」
ガルシアがボタンを押す。
ピンポーン。
小気味よい電子音が鳴った。
「店員側の受信機には、どの部屋から呼ばれたか表示されます」
「……おお」
「これなら、バオさんが何度も各部屋を見回る必要はありません」
「そいつは便利だな!」
バオの顔が明るくなった。
「今までは客が大声で怒鳴ってくるたびに、こっちが走り回ってたからな!」
「お役に立てそうで何よりです」
「若様、素晴らしいお考えです!」
ロベルタが嬉しそうに微笑んだ。
ファビオラも感心している。
「確かに、これならお仕事が楽になりますね」
「でしょう?」
「はい!」
ガルシアは満足げに頷いた。
「では、個室と呼び出しベルも採用ですね」
「おう!」
バオは力強く頷いた。
◇
「……ところで、ガルシア」
「はい?」
「一つ気になるんだが」
「何でしょう?」
「土足厳禁にするんだろ?」
「はい」
「だったら、客はどこに座るんだ?」
「床に座っていただく形を考えています」
「……地べたに?」
「もちろん、座布団を用意します」
ガルシアは別の図面を広げた。
「床を一段高くして、低めの木製テーブルを置くんです」
「……ふむ」
バオは考え込んだ。
「いや、待てよ」
「はい?」
「酒を飲みに来た客が、何時間も床に座ってられるか?」
「……確かに」
「若い奴ならともかく、年寄りにはきついだろ。俺だって嫌だぞ」
「なるほど……」
ガルシアは少し考えた。
「では、テーブルの下に足を下ろせる空間を作りましょうか」
「……足を下ろす?」
「はい。床の一部を掘り下げて、普通の椅子に座っているような姿勢でくつろげるようにするんです」
ガルシアは簡単な図を描いた。
「こういう形ですね」
「……おお!」
バオが身を乗り出した。
「これなら楽そうだな!」
「長時間座っていても、足が疲れにくいと思います」
「いいじゃねえか!」
「ただ、足を伸ばしたい方もいらっしゃるでしょうから、座布団を敷いた座敷席も一部残しましょう」
「おう。客が選べる方がいい」
「それと、通常のテーブル席も少し用意しておきます」
「完璧じゃねえか!」
バオは満足そうに笑った。
「ガルシア、お前なかなか商売の才能があるな!」
「ありがとうございます」
「若様……!」
ロベルタが感極まったように胸元へ手を添えた。
「お客様の快適さにまで、これほど細やかなお心遣いを……」
「いや、バオさんのご意見のおかげだよ。」
「とんでもございません。若様の柔軟な発想力があってこそでございます」
「……何だか照れるな」
ファビオラは二人のやり取りを微笑ましく見守っていた。
こうして、イエローフラッグには座敷席と掘りごたつ式の個室が設けられることになった。
◇
「最後に、もう一つだけ」
ガルシアが鞄から分厚い冊子を取り出した。
「お店のメニュー表を作ってみました」
「……メニュー表?」
「はい。こちらです」
バオは差し出された冊子を開いた。
そこには料理や酒の写真が、色鮮やかに並んでいた。
「……おお?」
思わず声が漏れる。
「こいつは……ずいぶん立派だな」
「ありがとうございます」
「全部写真付きなのか?」
「はい。料理の名前だけでは、どんなものかわからないお客様もいらっしゃると思いまして」
ガルシアはページをめくった。
「ロアナプラにはさまざまな国の方が集まります。写真があれば、言葉が通じなくても注文しやすいでしょう?」
「……なるほどな」
「もちろん、料理名や価格も記載しています」
「ほう……」
バオは真剣な顔で冊子を眺めた。
「……こいつはいいな」
「お気に召しましたか?」
「ああ。今までは客にいちいち説明してたからな」
「個室ごとに一冊ずつ置いておけば、注文の際にも便利だと思います」
「そいつは助かる!」
バオは嬉しそうにページをめくった。
「おお、酒の写真もあるのか!」
「はい。銘柄がわかりやすいようにしてあります」
「……いいじゃねえか」
バオは満足そうに頷いた。
「こいつは採用だ!」
「ありがとうございます」
ガルシアは微笑んだ。
「では、これで再建計画はひととおり完成ですね」
「おう!」
バオは設計図を見渡した。
「いやあ、最初はどうなることかと思ったが、なかなかいい店になりそうじゃねえか!」
「若様、お見事でございます」
ロベルタが深く頭を下げた。
「バオ様のご負担を減らし、お客様の安全と快適さにも配慮なさるとは……」
「ありがとう。ロベルタ。」
「私も完成が楽しみです!」
ファビオラが笑顔を見せた。
バオも満足そうに腕を組んだ。
「よし! じゃあ、この設計で頼むぜ!」
「はい。お任せください!」
こうして、イエローフラッグの再建工事が始まった。
◇
――数ヶ月後。
新生イエローフラッグは、無事に完成した。
外観は以前の雰囲気を残しつつ、木目調の落ち着いた造りになっている。
入口には鍵付きの靴箱。
店内には、木製の低いテーブルと座布団。
さらに、掘りごたつ式の個室が並び、各部屋には呼び出しベルが設置されていた。
テーブルの上には、カラー写真付きの分厚いメニュー表。
バオは腕を組み、満足そうに店内を見渡していた。
「……いやあ、いい店になったな!」
「お気に召していただけて何よりです」
ガルシアが微笑む。
「掃除も楽になったし、客同士の喧嘩も減りそうだ。注文も取りやすくなった」
「はい。バオさんのご意見を取り入れたおかげです」
「ハッハッハ! 俺もなかなかいいアイデアを出したもんだ!」
「ええ。本当に助かりました」
ロベルタも誇らしげに微笑んでいた。
「若様、素晴らしいお仕事でございます」
「ありがとう」
ファビオラも嬉しそうに頷いた。
「前のお店より、ずっと居心地がよくなりましたね!」
「だろ?」
バオは上機嫌だった。
そのとき。
入口の扉が開いた。
「こんにちは。バオさん、開店おめでとうございます」
「おう、ロック! よく来たな!」
ロックが店内へ足を踏み入れようとすると、ガルシアが声をかけた。
「あ、ロックさん。すみませんが、こちらで靴を脱いでいただけますか?」
「……え?」
「靴はこちらの鍵付きの靴箱にお願いします」
「……ああ、うん」
ロックは少し不思議そうな顔をしながら靴を脱いだ。
そして、店内へ進む。
木目調の廊下。
左右に並ぶ個室。
引き戸の向こうには掘りごたつ。
低い木製テーブルには、カラー写真付きのメニュー表。
そして、その横には呼び出しベル。
「……」
ロックは立ち止まった。
「……ロックさん?」
ガルシアが首を傾げる。
「どうかなさいました?」
「……いや」
ロックはもう一度、店内を見渡した。
バオが得意げに胸を張る。
「どうだ、ロック! 生まれ変わったイエローフラッグは!」
「……」
「掃除は楽だし、客同士の揉め事も減る。注文だってベル一つで受けられるんだぜ!」
「……」
「なかなかいい店になっただろ?」
ロックはゆっくりと振り返った。
満足げなバオ。
にこやかなガルシア。
誇らしげなロベルタ。
嬉しそうなファビオラ。
四人の顔を順番に見つめる。
そして――。
「いや、これ日本の個室居酒屋じゃないか!」