BLACK LAGOON Maid's Salvation   作:AI太郎

45 / 46
第三十七話

第37話 若様の足跡

 

 ロアナプラの裏通り。

 

 頭上には、洗濯物と電線が無秩序に張り巡らされていた。建物の隙間から差し込む陽光は頼りなく、昼間だというのに路地の奥には薄暗い影が落ちている。

 

 その中を、四人の男女が歩いていた。

 

「ったく、面倒くせえことになったな」

 

 先頭を歩くレヴィが、煙草をくわえたまま悪態をついた。

 

「そもそも、あの坊ちゃんは何だってこんな街に来たんだ? 金持ちのガキが観光するような場所じゃねえぞ」

 

「それを調べるために、こうして歩いているんだろ」

 

 ロックが答える。

 

「分かってるよ。けどよ、普通のガキなら遊園地にでも行くだろうが。何が悲しくてロアナプラなんぞに来るんだよ」

 

「若様には、何かお考えがあるのだと思います」

 

 ファビオラが口を挟んだ。

 

「へえ。例えば?」

 

「……それは、まだ分かりませんけど」

 

「だろうな」

 

 レヴィは肩をすくめた。

 

「まあ、あの坊ちゃんが普通じゃねえのは、今さらか」

 

 その言葉に、ロベルタは何も答えなかった。

 

 ただ、歩調を緩めることなく、レヴィの後を追っている。

 

「それで、最初はどこへ?」

 

 ロックが尋ねた。

 

「闇医者だよ。あたしも何度か世話になったことがある」

 

「……レヴィが?」

 

「何だよ、その顔」

 

「いや。診てもらう方だったのか、診てもらわせる方だったのかと思って」

 

「両方だ」

 

「……聞かなきゃよかった」

 

 レヴィは鼻で笑った。

 

「腕は悪くねえ。金さえ払えば、銃で撃たれようが刃物で刺されようが、とりあえず診てくれる。もっとも、診察料を聞いたら別の意味で死にそうになるけどな」

 

「そんな方に、若様が……」

 

 ファビオラの表情が曇った。

 

「怪我をなさったのでしょうか?」

 

「まだ分からないよ」

 

 ロックが答える。

 

「まずは本人に聞いてみよう」

 

 レヴィが路地の角を曲がった。

 

「ほら、着いたぜ」

 

 古びた雑居ビルの一階。

 

 かつては何かの商店だったのだろう。色褪せた看板の下に、薄汚れた金属製のシャッターが下りていた。

 

「……あ?」

 

 レヴィが足を止めた。

 

「おっかしいな。この時間にあのヤブがいねえわけねえんだけどな」

 

「休診日なのでは?」

 

 ファビオラが尋ねる。

 

「そんな上等なもん、あいつにあるかよ。金になる患者がいりゃ、真夜中でも叩き起きる野郎だぜ」

 

 レヴィはシャッターを拳で叩いた。

 

「おーい! ヤブ医者! いるんだろ、開けろ!」

 

 返事はない。

 

「おい、聞こえてんだろ!」

 

 もう一度叩く。

 

 やはり返事はなかった。

 

「……本当にいないんじゃないか?」

 

 ロックが言った。

 

「いや、いる」

 

「どうして分かるんだ?」

 

「さっき中で何か倒れた」

 

 レヴィはシャッターに耳を寄せた。

 

「おーい! てめえ、あたしの声が分かんねえわけじゃねえだろ!」

 

 室内で、小さな物音がした。

 

 ロックがため息をつく。

 

「……どうやら、居留守みたいだね」

 

「だろ?」

 

 レヴィが舌打ちした。

 

「ったく。こっちは診察してもらいに来たわけじゃねえってのに」

 

「……あの」

 

 背後からロベルタが声をかけた。

 

「少々、よろしいでしょうか?」

 

「あん?」

 

「中にいらっしゃるのでしたら、直接お話を伺った方が早いかと」

 

「そりゃそうだけどよ。開けねえんだから――」

 

「では、失礼いたします」

 

 ロベルタはシャッターの前にしゃがみ込んだ。

 

 その指が、金属製の下端に掛かる。

 

「……おい」

 

 レヴィの眉が動いた。

 

「ちょっと待て。あんた、まさか――」

 

 耳障りな金属音が、路地に響き渡った。

 

 シャッターが大きく歪む。

 

 ロベルタは両腕に力を込め、そのまま一気に引き上げた。

 

 固定金具が弾け飛び、ガイドレールが壁から剥がれる。

 

 次の瞬間、シャッターは枠ごと引き千切られていた。

 

 ロベルタは巨大な金属板を壁際に立てかけ、服についた埃を軽く払った。

 

「これで、お話ができますね」

 

「……」

 

 レヴィは煙草をくわえたまま固まっていた。

 

「なあ、ロック」

 

「……何?」

 

「今、何が起きた?」

 

「シャッターがなくなった」

 

「見りゃ分かるよ!」

 

 ロベルタは二人の会話を気にする様子もなく、室内に向かって丁寧に頭を下げた。

 

「ごめんください」

 

 薄暗い診療所の奥から、椅子が倒れる音がした。

 

「ひ、ひいいっ!」

 

 白衣を着た男が、机の陰から顔を覗かせていた。

 

 その顔は真っ青だった。

 

「な、何だ!? 何なんだ、あんたら!」

 

「突然の訪問、申し訳ございません」

 

 ロベルタは穏やかに微笑んだ。

 

「少々、お尋ねしたいことがございまして」

 

「だったら普通にノックしろ!」

 

「いたしましたが、お返事がございませんでしたので」

 

「だからってシャッターを引っ剥がす奴があるか!」

 

 医者は叫んだ。

 

 その声に、レヴィが肩をすくめる。

 

「だからさっさと開けろって言ったんだよ、ヤブ」

 

「レヴィ! てめえ、何て連中を連れてきやがった!」

 

「知るかよ。あたしだって、こうなるとは思ってなかったぜ」

 

 ロベルタが一歩前に出た。

 

 医者が椅子ごと後ずさる。

 

「ガルシア・ラブレスという少年をご存じでしょうか?」

 

「……ガルシア?」

 

 医者の表情が変わった。

 

「あ、ああ。あの金持ちの坊主か」

 

「こちらにいらしたのですね」

 

「来たよ! 確かに来た!」

 

 医者は慌てて頷いた。

 

「だから頼む! もう何も壊さないでくれ!」

 

「もちろんです。お話を伺えれば、それで結構です」

 

 ロベルタは丁寧に頭を下げた。

 

「若様は、こちらで何をなさったのでしょうか?」

 

「……応急処置だ」

 

「応急処置?」

 

 ファビオラが聞き返した。

 

「ああ。止血の方法や傷口の手当て、包帯の巻き方、そういった基本的なことを教えてほしいってな」

 

「……若様が?」

 

「そうだ。しかも、ちょっと教えて終わりじゃねえ。納得するまで何度も繰り返しやがった」

 

 医者は額の汗を拭った。

 

「最初は金持ちの道楽かと思ったんだがな。あの坊主、妙に真剣だったぜ」

 

「どのようなご様子でしたか?」

 

 ロベルタが尋ねた。

 

「どのようなって……」

 

 医者は少し考え込んだ。

 

「とにかく、覚えることに必死だったな。手順を間違えりゃ最初からやり直すし、分からないことがあれば何度でも聞いてきた」

 

「……」

 

「それで、応急処置の道具も一式買っていった。包帯、ガーゼ、痛み止めの麻酔、消毒用品、そういうもんだ」

 

「他には?」

 

 ロックが尋ねる。

 

「他?」

 

「何か特別な薬品とか、普通では使わない道具とか」

 

「いや。基本的な救急用品だけだ」

 

「そうですか……」

 

 ロックは考え込んだ。

 

「それにしても、そんな短期間で覚えられるものなんですか?」

 

「完璧にできるようになるわけじゃねえよ」

 

 医者が答えた。

 

「だが、何も知らねえよりはずっとマシだ。出血したときに何をすべきか、何をしちゃいけねえか。それを知ってるだけでも違う」

 

「……若様は、どなたかのお怪我を心配されていたのでしょうか」

 

 ファビオラが呟いた。

 

「さあな。そこまでは聞いてねえ」

 

 医者は首を振った。

 

「ただ、金払いだけは恐ろしくよかった。普通なら何日もかけて教える内容を、できるだけ短期間で詰め込んでくれって言われてな」

 

「……なるほど」

 

 ロックが腕を組んだ。

 

「自分で怪我を処置するためか、それとも誰かを助けるためか……」

 

 ロベルタは何も言わなかった。

 

 ただ、静かに目を伏せている。

 

 若様が、この街で応急処置を学んでいた。

 

 その事実は、彼女にとって決して喜ばしいものではなかった。

 

「……大変参考になりました」

 

 やがてロベルタが顔を上げた。

 

「ありがとうございます」

 

「お、おう。分かったなら、もう帰ってくれ」

 

「はい。お時間をいただき、申し訳ございませんでした」

 

 ロベルタは深々と頭を下げた。

 

 四人が診療所を出る。

 

 医者はようやく安堵の息を吐いた。

 

 そして、入口に目を向けた。

 

 そこには、シャッターのなくなった大きな開口部があった。

 

「……おい」

 

 医者が呟く。

 

「……これ、どうすんだよ」

 

 もちろん、返事はなかった。

 

---

 

 診療所を離れた四人は、再び裏通りを歩いていた。

 

「……なあ」

 

 レヴィが煙草に火をつけながら言った。

 

「次の店では、もうちょっと穏便に頼むぜ」

 

「申し訳ございません」

 

 ロベルタが頭を下げる。

 

「少々、力が入りすぎてしまいました」

 

「少々で済むかよ。あのヤブ、明日から青空診療所だぜ」

 

「……確かに、修理は大変そうだったね」

 

 ロックが呟いた。

 

「それより、若様のことです」

 

 ファビオラが口を開いた。

 

「応急処置を覚えようとなさったということは、やはり危険なことをお考えなのでしょうか?」

 

「まだ決めつけるのは早いよ」

 

 ロックが答える。

 

「ただ、普通の観光目的ではないのは確かだと思う」

 

「……」

 

 ロベルタは黙っていた。

 

 やがて、静かに口を開いた。

 

「次の方に、お話を伺いましょう」

 

 レヴィが頷いた。

 

「ああ。今度は武器商人だ」

 

 彼女は煙草の煙を吐き出した。

 

「……もっとも、あそこはヤブ医者んとこみたいに簡単には入れねえけどな」

 

---

 

 武器商人の店は、街外れの古い倉庫街にあった。

 

 周囲には錆びついたコンテナや廃車が積み上げられ、昼間だというのに人通りはほとんどない。

 

 建物の入口には、分厚い鋼鉄製の扉が取り付けられていた。

 

「ここだ」

 

 レヴィが顎で示す。

 

「ここの店主は、金さえ払えば大抵のもんを用意してくれる。もっとも、客を選ぶ野郎だけどな」

 

「……随分と頑丈な扉だね」

 

 ロックが言った。

 

「そりゃそうだろ。武器屋が泥棒に入られたんじゃ笑い話にもならねえ」

 

 レヴィは扉を拳で叩いた。

 

「おーい! 客だ! 開けろ!」

 

 返事はない。

 

「……」

 

 もう一度叩く。

 

「おい! いるんだろ!」

 

 やはり返事はなかった。

 

「……まさか」

 

 ロックが呟く。

 

「また居留守?」

 

「……ったく」

 

 レヴィが舌打ちした。

 

「この街の連中は、客を迎える礼儀ってもんを知らねえのか?」

 

「先ほどのことを考えれば、警戒されるのも無理はないのでは……」

 

 ファビオラが控えめに言った。

 

「いや、ここにはまだ何もしてねえだろ!」

 

 そのとき、扉の向こうで何かが動く音がした。

 

 続いて、小さな金属音。

 

 誰かが室内で物を動かしているらしい。

 

「……やっぱりいるじゃねえか」

 

 レヴィが扉を睨んだ。

 

「おい! 開けねえと――」

 

「少々、よろしいでしょうか?」

 

 ロベルタが一歩前に出た。

 

 レヴィの顔が引きつった。

 

「……おい」

 

「ご安心ください」

 

 ロベルタは微笑んだ。

 

「先ほどのようなことはいたしません」

 

「そういう問題じゃ――」

 

 ロベルタは扉の前で半身になった。

 

 軸足を踏み込み、上半身を鋭く回転させる。

 

 腰の回転に合わせて、後ろ脚が大きく弧を描いた。

 

 放たれた踵が、鋼鉄の扉を直撃する。

 

 轟音。

 

 扉が内側へ大きく歪み、蝶番が悲鳴を上げた。

 

 次の瞬間、重い鉄扉が枠から外れ、室内へ吹き飛んだ。

 

 奥で何かが派手に倒れる音がした。

 

 沈黙。

 

「……」

 

 レヴィが口を開けたまま立ち尽くしていた。

 

「……確かに」

 

 ロックが呟いた。

 

「さっきとは違うね」

 

「方法が違うだけじゃねえか!」

 

 レヴィが叫んだ。

 

 ロベルタは何事もなかったように姿勢を正した。

 

「失礼いたします」

 

 店内に入ると、カウンターの陰から男の声が響いた。

 

「な、何なんだよ! 何の恨みがあるってんだ!」

 

「ご安心ください」

 

 ロベルタが丁寧に答える。

 

「危害を加えるつもりはございません」

 

「もう十分加えてるだろうが! 店に!」

 

 男が顔を覗かせた。

 

 禿げ上がった頭に汗を浮かべ、怯えた目で四人を見つめている。

 

「……レヴィ!」

 

「よお」

 

「よお、じゃねえ! 何だ、この連中は!」

 

「客だよ。ちょいと聞きたいことがあるんだとさ」

 

「聞きたいことがあるなら普通に聞け!」

 

「だから開けろって言っただろ?」

 

「……」

 

 男は何かを言いかけたが、ロベルタと目が合うと口を閉じた。

 

「ガルシア・ラブレスという少年について、お尋ねしたいのですが」

 

 ロベルタが静かに言った。

 

「……あの坊主か」

 

 男の顔色が変わった。

 

「来たよ。確かに来た」

 

「何をお買い求めになりましたか?」

 

「拳銃だ」

 

「拳銃……」

 

 ファビオラが息を呑んだ。

 

「小型のやつを何丁か。弾薬もまとめて買っていった」

 

「何丁かって、具体的には?」

 

 ロックが尋ねる。

 

「数丁だよ。詳しい数まで今ここで覚えてるわけじゃねえ」

 

 男は苛立ったように答えた。

 

「ただ、同じような銃を複数揃えたがってたな」

 

「……複数」

 

 ロックが小さく繰り返した。

 

「他には?」

 

 ロベルタが尋ねる。

 

「ああ。それから、古い銃を持ち込んできた」

 

「古い銃?」

 

「マスケット銃だ」

 

 ロベルタの目が、わずかに見開かれた。

 

「……マスケット銃」

 

「ああ。ずいぶん古い代物だったが、修復してくれってな」

 

「……」

 

「使える状態にしてほしいって話だった。手間はかかったが、何とかしたよ」

 

「……その銃は」

 

 ロベルタが静かに口を開いた。

 

「どのようなものでしたか?」

 

 男は首を傾げた。

 

「どのようなって……古いマスケット銃だよ。年代物だったことは確かだが、どこの誰が使ってたもんかなんて知らねえぞ」

 

「……そうですか」

 

 ロベルタは目を伏せた。

 

「他に何か注文はありましたか?」

 

 ロックが尋ねた。

 

「いや。俺が受けたのは銃の修復と、拳銃と弾薬の販売だけだ」

 

「若様は、何かおっしゃっていませんでしたか?」

 

 ファビオラが尋ねる。

 

「何かって?」

 

「例えば……何のために、それほど多くの銃を必要としているのか、とか」

 

「知らねえよ」

 

 男は首を振った。

 

「この街で武器を買う奴に、いちいち理由なんか聞いてたら商売にならねえ」

 

「……」

 

「ただ、妙に落ち着いた坊主だったな」

 

「落ち着いていた?」

 

「ああ。あの年頃のガキが銃を見りゃ、普通は興奮するか怖がるか、どっちかだろ」

 

 男は肩をすくめた。

 

「だが、あの坊主は違った。必要なものを確認して、金を払って、それで終わりだ」

 

「……そうでしたか」

 

 ロベルタが頷いた。

 

「ご協力、感謝いたします」

 

「お、おう……」

 

 男は安堵しかけた。

 

 だが、入口に転がる鋼鉄の扉を見て、顔を歪めた。

 

「……おい。ちょっと待て」

 

「何でしょう?」

 

「この扉はどうしてくれるんだ?」

 

 ロベルタは一瞬、言葉に詰まった。

 

「……」

 

 ファビオラが気まずそうに目を伏せる。

 

 ロックも、何とも言えない表情になった。

 

「……大変、申し訳ございません」

 

 ロベルタは深々と頭を下げた。

 

「おい! 謝って済む話じゃねえぞ!」

 

「……」

 

「おい、待て! まだ話は終わってねえ!」

 

 男の叫びを背に、四人は店を後にした。

 

 しばらく歩いたところで、レヴィが口を開いた。

 

「……なあ、ロック」

 

「何?」

 

「次の店は、最初から開いてるといいな」

 

「……僕もそう願うよ」

 

---

 

 三軒目の情報屋は、裏通りのさらに奥にある雑居ビルの二階で商売をしていた。

 

 階段は狭く、壁には古い広告や落書きが幾重にも重なっている。

 

「こいつは用心深い野郎でな」

 

 階段を上がりながら、レヴィが説明した。

 

「客が来ても、まず覗き穴から確認する。知らねえ顔なら扉すら開けねえ」

 

「それだけ慎重なら、話を聞くのも大変そうだね」

 

 ロックが言った。

 

「まあな。金次第だろうけどよ」

 

 レヴィが二階に上がりきった。

 

 そして、足を止めた。

 

「……あ?」

 

 扉が開いていた。

 

 わずかに開いているのではない。

 

 壁にぴったりと寄せられ、文字どおり全開になっていた。

 

「……珍しいね」

 

 ロックが呟いた。

 

「珍しいどころじゃねえぞ」

 

 レヴィは眉をひそめた。

 

「こいつがこんな無防備に店を開けてるなんざ、初めて見たぜ」

 

「お待ちしておりました!」

 

 室内から、張り上げるような声がした。

 

 机の前に立っていた男が、四人に向かって深々と頭を下げた。

 

「どうぞ! どうぞお入りください! お茶もございますので!」

 

「……何だ、てめえ」

 

 レヴィが怪訝そうに言った。

 

「気持ち悪いな」

 

「い、いえ! 決してそのような!」

 

 情報屋は慌てて首を振った。

 

「皆様がお越しになると伺っておりましたので!」

 

「誰からだ?」

 

「先ほど、知り合いから二件ほど電話がございまして……」

 

 男は額の汗を拭った。

 

「扉を閉めていると大変なことになると、親切に教えていただきました」

 

「……ああ」

 

 レヴィが納得したように頷いた。

 

「そういうことか」

 

「おかげさまで、事前に準備ができました!」

 

 情報屋は引きつった笑顔を浮かべた。

 

「どうぞ、お掛けください!」

 

 ロックは無言でレヴィを見た。

 

 レヴィも無言で肩をすくめた。

 

「……それで」

 

 情報屋が恐る恐る尋ねた。

 

「本日は、どのようなご用件でしょうか?」

 

 ロベルタが一歩前に出た。

 

「ガルシア・ラブレスという少年について、お伺いしたく参りました」

 

 男の笑顔が消えた。

 

「……ガルシア・ラブレス様、ですか」

 

「はい」

 

「……」

 

 情報屋は少しの間、黙り込んだ。

 

 やがて、申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「大変恐縮ですが、依頼人に関する情報を第三者にお話しすることはできません」

 

「そうですか」

 

 ロベルタは静かに頷いた。

 

「それは、残念です」

 

「申し訳ございません。ですが、こればかりは商売上の信用に関わることでして……」

 

「ご事情は理解いたしました」

 

 ロベルタは微笑んだ。

 

 そして、ゆっくりと室内を見渡した。

 

 机。

 

 棚。

 

 窓。

 

 壁。

 

 情報屋の視線が、その動きを追う。

 

「……あ、あの」

 

「はい?」

 

「……いえ、その」

 

 男は開け放たれた扉を見た。

 

 次に、ロベルタを見た。

 

 そして、机の上に置かれた電話へ目を向けた。

 

 先ほどの二本の電話。

 

 片方は、シャッターを引き剥がされた医者。

 

 もう片方は、鋼鉄の扉を蹴り飛ばされた武器商人。

 

 どちらも、電話口で同じことを言っていた。

 

 絶対に逆らうな、と。

 

「……二十年かけて築いた信用も、棺桶の中じゃ使い道がねえ」

 

 男は小さく呟いた。

 

「……分かりました」

 

 顔を上げる。

 

「お話しいたします」

 

「ありがとうございます」

 

 ロベルタが丁寧に頭を下げた。

 

「ただし、一つだけお願いがございます」

 

「何でしょう?」

 

「私がお話ししたことは、どうか他言なさらないでください」

 

 情報屋の声は切実だった。

 

「依頼人の情報を漏らしたと知られれば、私はこの街で商売ができなくなります。どうか、その点だけは……」

 

「承知いたしました」

 

 ロベルタが頷いた。

 

「あなたから伺ったことは、決して口外いたしません」

 

「……ありがとうございます」

 

 男はようやく椅子に腰を下ろした。

 

 それでも、顔色は悪いままだった。

 

「……ガルシア様からは、いくつかのご依頼をいただきました」

 

「どんな依頼だ?」

 

 レヴィが尋ねた。

 

「まず、ある男たちの居場所を調べてほしい、というものでした」

 

「男たち?」

 

「はい。白人の男性で、旅行者のような服装をしている集団です」

 

「観光客か?」

 

「見た目はそうですが、普通の旅行者とは少々違っていたようです」

 

「どう違うんです?」

 

 ロックが尋ねた。

 

「ガルシア様から伺った特徴では、全員で十八人。六人ずつ三組に分かれ、別々の場所に滞在しているとのことでした」

 

「……十八人?」

 

 ロックの眉が動いた。

 

「はい。三組とも、こちらで居場所を確認しております」

 

「三組とも?」

 

「ええ。それぞれ別の宿泊施設を利用していました」

 

「……何者なんだ、そいつら」

 

 レヴィが尋ねた。

 

「申し訳ありません。そこまでは分かりません」

 

 情報屋は首を振った。

 

「ガルシア様も、彼らの素性については何もお話しになりませんでした」

 

「……」

 

「ただ、居場所を突き止めることを、非常に重視されていたようです」

 

 ロックは考え込んだ。

 

 六人ずつ三組。

 

 全員で十八人。

 

 しかも、旅行者を装って別々の宿に滞在している。

 

 偶然にしては、あまりにも整いすぎた人数だった。

 

「……次の依頼は?」

 

 ロベルタが尋ねた。

 

「ある噂を流してほしい、というものでした」

 

「噂?」

 

「はい」

 

 情報屋は頷いた。

 

「コロンビア・マフィアのことを嗅ぎ回っているメイドが、ロアナプラに現れた……という噂です」

 

 室内が静まり返った。

 

「……メイド?」

 

 ファビオラが呟いた。

 

「ええ。コロンビア・マフィアについて、あちこちで聞き込みをしているメイドがいる、と」

 

 レヴィがゆっくりとロベルタを見た。

 

「……おいおい」

 

「……」

 

 ロベルタは何も言わなかった。

 

「ちょっと待ってください」

 

 ロックが身を乗り出した。

 

「その依頼は、いつ受けたんですか?」

 

 情報屋が日付を答えた。

 

 ロックの表情が変わった。

 

「……おかしい」

 

「どうした?」

 

 レヴィが尋ねる。

 

「その日は、ロベルタさんがロアナプラに来る一週間も前だ」

 

「……何?」

 

 レヴィの目が細くなった。

 

「つまり、どういうことだ?」

 

「ガルシア君は、ロベルタさんがこの街に来る前から、彼女がここにいるという噂を流していたんだ」

 

「……」

 

「実際には、まだ来ていなかったのに」

 

 ファビオラが口元を押さえた。

 

「……若様が、そのようなことを?」

 

「そういう依頼だったんですか?」

 

 ロックが情報屋に尋ねた。

 

「はい。実際にそのような人物がいるかどうかは関係なく、噂として広めてほしいとのことでした」

 

「……なるほど」

 

 ロックが腕を組んだ。

 

「つまり、最初から偽情報だったわけだ」

 

「はい」

 

「誰に聞かせるつもりだったんだろう……」

 

 レヴィが呟いた。

 

「コロンビア・マフィアに決まってんじゃねえのか?」

 

「可能性は高いね」

 

 ロックが答えた。

 

「でも、何のためにそんな噂を流したのかが分からない」

 

「……」

 

 ロベルタは静かに目を伏せていた。

 

 自分がロアナプラに来る前から、若様は自分の名前を使っていた。

 

 それが何を意味するのか。

 

 まだ、分からなかった。

 

「……他にはございますか?」

 

 ロベルタが尋ねた。

 

「はい。最後は、ガルシア様ご自身の滞在先についてです」

 

「滞在先?」

 

「ええ。できるだけ静かで、安全な場所を紹介してほしいと」

 

「ホテルじゃ駄目だったのか?」

 

 レヴィが尋ねた。

 

「普通の宿泊施設では、少々都合が悪かったようです」

 

「どうして?」

 

 ロックが尋ねる。

 

「そこまでは伺っておりません。ただ、人目につきにくく、余計な詮索をされない場所をご希望でした」

 

「……」

 

「それで、少々変わった場所をご紹介しました」

 

「変わった場所?」

 

 レヴィが眉をひそめた。

 

「はい。宿泊施設ではありませんが、相応の寄付をすれば、滞在を認めていただけるかもしれない場所です」

 

「……おい」

 

 レヴィが顔をしかめた。

 

「まさか、あそこじゃねえだろうな」

 

 情報屋は頷いた。

 

「リップオフ教会です」

 

「……あのクソ教会かよ」

 

 レヴィが呆れたように息を吐いた。

 

「よりによって、あそこを紹介したのか?」

 

「ええ。ヨランダ様に相当な額の喜捨をなさったと伺っております」

 

「……いくらだ?」

 

 レヴィが尋ねた。

 

「具体的な金額までは存じません。ただ、普通の宿泊費とは比較にならない額だったようです」

 

「……ったく」

 

 レヴィは頭を掻いた。

 

「あの婆さん、またとんでもねえ金を巻き上げやがったな」

 

「実際に泊まったのかい?」

 

 ロックが尋ねる。

 

「滞在を認められたとは聞いております。ただ、何日お泊まりになったかまでは把握しておりません」

 

「……そうですか」

 

 ロベルタが頷いた。

 

「大変参考になりました」

 

 情報屋は安堵の息を吐いた。

 

「……お役に立てたのでしたら、幸いです」

 

「ご協力、感謝いたします」

 

 ロベルタは深々と頭を下げた。

 

 四人が立ち上がる。

 

 情報屋は慌てて扉の前まで見送った。

 

「どうか、先ほどのお約束だけは……」

 

「ええ。決して口外いたしません」

 

 ロベルタが答えた。

 

 男は何度も頭を下げた。

 

 四人が階段を下りていく。

 

 その足音が完全に遠ざかるまで、情報屋は扉を閉めなかった。

 

---

 

 建物を出ると、午後の陽射しが四人を照らした。

 

 レヴィは煙草を取り出し、火をつけた。

 

「……さて、と」

 

 煙を吐き出す。

 

「どうするよ?」

 

「整理しよう」

 

 ロックが口を開いた。

 

「ガルシア君は、この街で応急処置を習って、武器を調達していた」

 

「拳銃を何丁も、だな」

 

 レヴィが付け加えた。

 

「それから、十八人の白人たちの居場所を調べさせていた」

 

「六人ずつ、三組に分かれて……」

 

 ファビオラが呟く。

 

「普通の旅行者では、ないのでしょうか?」

 

「断定はできない」

 

 ロックが答えた。

 

「でも、わざわざ三組に分かれて滞在しているのは気になるね」

 

「……それに」

 

 ファビオラは顔を曇らせた。

 

「若様は、婦長様がこちらに来る前から、婦長様の噂を流しておられたのですよね」

 

「そうだ」

 

 ロックが頷いた。

 

「しかも、コロンビア・マフィアを嗅ぎ回っているという噂だ」

 

「……何のために?」

 

 ファビオラが尋ねた。

 

 誰も答えなかった。

 

「……まあ」

 

 レヴィが煙草を指に挟んだ。

 

「少なくとも、あの坊ちゃんが単なる家出旅行を楽しんでるわけじゃねえのは確かだな」

 

「……」

 

 ロベルタは静かに立っていた。

 

 応急処置。

 

 拳銃。

 

 修復されたマスケット銃。

 

 正体の分からない十八人の男たち。

 

 そして、自分について流された偽の噂。

 

 それぞれの出来事が、胸の奥に重く沈んでいく。

 

 若様は、何をなさろうとしているのか。

 

 なぜ、誰にも相談してくださらないのか。

 

 ロベルタは目を閉じた。

 

 そして、静かに息を吐いた。

 

「……参りましょう」

 

 レヴィが振り返った。

 

「どこへ?」

 

「リップオフ教会です」

 

 ロベルタは顔を上げた。

 

「若様が何をお考えなのか、少しでも手掛かりを得なくてはなりません」

 

「……ああ」

 

 レヴィが頷いた。

 

「そうだな」

 

 ロックも歩き出した。

 

 ファビオラがロベルタの隣に並ぶ。

 

「婦長様」

 

「何でしょう、ファビオラ」

 

「……若様は、ご無事なのでしょうか」

 

 ロベルタは、すぐには答えなかった。

 

 やがて、静かに口を開いた。

 

「……大丈夫です。必ず」

 

 ファビオラが頷いた。

 

 四人は、再び歩き始めた。

 

 向かう先は、ロアナプラの外れにあるリップオフ教会。

 

 若様の残した足跡を追って。




青春☆ロアナプラ高校!

こんにちは!

僕の名前はガルシア・フェルナンド・ラブレス。15歳!

今日からロアナプラ高校に通うことになった、ピカピカの高校1年生だ!

――ピンポーン。

「あっ、来た!」

玄関へ駆け寄ってドアを開けると、そこには見慣れた女性が立っていた。

「おはようございます、ガルシア君」

「ロベルタ姉さん! おはよう!」

彼女の名前はロベルタ。

僕のお父さんが経営している会社の役員さんの娘さんで、僕より二つ年上の幼馴染だ。

お父さん同士が仕事で付き合いがあることもあって、僕たちは小さい頃から家族ぐるみで仲良くしている。

ロベルタ姉さんは頭が良くて、優しくて、何でもできる人なんだ。

しかも、ロアナプラ高校の特進科に通っていて、学年成績はずっと1位!

おまけに生徒会長まで務めているんだから、本当にすごいよね!

僕にとっては、ずっと憧れているお姉さんみたいな存在なんだ!

「もう、ロベルタ姉さん。わざわざ迎えに来なくても大丈夫だよ。僕だってもう15歳なんだから。一人で学校くらい行けるよ」

少し胸を張ってそう言うと、ロベルタ姉さんは困ったように微笑んだ。

「いいえ、いけませんよ、ガルシア君。今日は初めての登校日なのですから。何かあってはいけません」

「もう、心配しすぎだってば」

「そんなことはありません。ほら、ネクタイが曲がっていますよ」

「あっ、本当だ」

ロベルタ姉さんは僕の前に立つと、慣れた手つきでネクタイを直してくれた。

「じっとしていてくださいね……はい、これでよろしいですよ」

「ありがとう、ロベルタ姉さん!」

「ふふっ。どういたしまして」

ロベルタ姉さんは満足そうに僕の制服を眺めた。

「それにしても……今日からまたガルシア君と一緒に登校できるなんて、本当に嬉しいです」

「大げさだなあ、ロベルタ姉さん。中学校のときだって毎朝一緒に登校してたじゃないか」

「ええ。ですが、ガルシア君が高校生になっても、こうしてご一緒できることが嬉しいのです」

「そっか。僕もロベルタ姉さんが一緒だと心強いよ!」

「まあ……!」

ロベルタ姉さんは頬をほんのり赤く染めた。

「ふふっ。私も、ガルシア君とご一緒できて幸せです」

「でも、僕ももう高校生なんだから、あんまり子供扱いしないでよ?」

「もちろんです。ガルシア君も、もう立派な高校生ですものね」

そう言いながら、ロベルタ姉さんは僕の頭を優しく撫でた。

「もう! だから子供扱いしないでってば!」

「あら、ごめんなさい。つい嬉しくなってしまって」

ロベルタ姉さんは、なんだかとても幸せそうだった。

「それでは、参りましょうか。ガルシア君」

「うん!」

こうして僕たちは、並んで学校へ向かって歩き始めた。

そうそう。実は僕、最初からロアナプラ高校に行くつもりだったわけじゃないんだ。

僕の趣味はクレー射撃。

昔からスポーツ観戦も大好きで、特にクレー射撃にはずっと夢中なんだ!

だから高校では本格的に射撃をやってみたくて、地方にある射撃の強豪校に進学するつもりだった。

ところが、その話をロベルタ姉さんにしたら、ものすごく心配されちゃったんだよね。

『ガルシア君。運動部の寮生活というのは、決して楽しいことばかりではないのですよ』

『厳しい上下関係や、理不尽な先輩からの要求……場合によっては、部内いじめに巻き込まれることだってあるのです』

『それに、親元を離れて暮らすということは、何かあってもすぐに助けてもらえないということです。一人暮らしならなおさらです』

『もしガルシア君が病気になったら? 怪我をされたら? それも、私の知らない遠い場所で……』

……と、こんな調子で何時間も。

もちろん、僕だって寮生活が大変なのは分かってるつもりだったけど、ロベルタ姉さんの話を聞いているうちに、ちょっと不安になってきちゃったんだ。

それに、なんだか不思議なことも続いたんだよね。

志望していた高校のパンフレットを何校分も取り寄せたはずなのに、なぜか一冊も届かなかったり。

その代わり、頼んだ覚えのないロアナプラ高校の学校案内が、いつの間にか僕の机の上に置かれていたり。

それどころか、気がついたらロアナプラ高校の受験票まで用意されていたんだ!

あれにはびっくりしたなあ。

お父さんに聞いても『ロベルタさんがいろいろ手伝ってくれているんだろう』って言うし。

まあ、ロアナプラ高校にも射撃部があるって聞いたし、ロベルタ姉さんもあんなに心配してくれているんだから、こっちでもいいかなって。

そんなわけで、結局ロアナプラ高校に進学することにしたんだ。

名門校に行けなかったのは少し残念だけど、射撃ができるなら十分だよね!

それに、ロベルタ姉さんもいるし!

「……ガルシア君?」

「えっ? なに、ロベルタ姉さん?」

「どうかなさいましたか? 先ほどから考え事をされているようですが」

「ああ、ううん! なんでもないよ。ロアナプラ高校の射撃部って、どんなところなのかなって考えてたんだ!」

「…………」

その瞬間だった。

さっきまで優しく微笑んでいたロベルタ姉さんの顔から、すっと表情が消えた。

「……ロアナプラ高校に、射撃部などありませんよ」

「え?」

「射撃部など、ありません」

「えっ、でも……学校案内には射撃部って書いてあったよ?」

「ありません」

「いや、でも……」

「ここ数年、公式大会に出場した記録もなければ、まともな活動実績もありません。そんなものを部活動と呼べるでしょうか?」

ロベルタ姉さんの声は、さっきまでとは別人みたいに冷たかった。

「い、いや、でもさ。部室くらいはあるんでしょ?」

「……ガルシア君」

「は、はいっ!」

ロベルタ姉さんは立ち止まると、僕の両肩にそっと手を置いた。

「よく聞いてください」

「う、うん……」

「何があっても、『射撃部』と書かれた部室には、絶対に近づいてはいけません」

「ええっ!?」

「あそこは不良の吹き溜まりです。部活動の名を借りているだけで、射撃部としての実態など微塵もありません」

「そ、そんなにひどいの……?」

「ええ。ガルシア君のような善良な生徒が足を踏み入れる場所ではありません」

「で、でも、僕……射撃がやりたくて……」

「ガルシア君」

「は、はい……」

「射撃部など、ありません。よろしいですね?」

「…………うん」

僕は小さく頷いた。

ロベルタ姉さんは、しばらく僕の顔を見つめていたけれど、やがていつもの優しい笑顔に戻った。

「ふふっ。分かっていただけて嬉しいです」

「はあ……でも、そうなると何の部活に入ろうかなあ……」

「……あら」

ロベルタ姉さんが、ふと何かを思いついたように手を合わせた。

「そうですわ! でしたら、生徒会に入るというのはいかがでしょう?」

「生徒会?」

「ええ。実は私、ロアナプラ高校の生徒会長を務めているんです」

「あっ、そうだったね! ロベルタ姉さん、生徒会長なんだよね!」

「ふふっ。生徒会のお仕事はとてもやりがいがありますよ。学校行事の運営や、生徒の皆さんからの相談、それに学校をより良くするための活動など……」

「へえ、なんだか大変そうだね」

「そんなことはありませんよ。私が一から丁寧にお教えしますから」

「でも、僕に務まるかなあ?」

「もちろんです! ガルシア君なら、きっと立派な生徒会役員になれますよ!」

ロベルタ姉さんは僕の手を両手で包み込んだ。

「そうすれば、登下校だけでなく、放課後もずっと一緒にいられますね」

「えっ?」

「……いえ、生徒会活動も一緒に頑張れますね、という意味です」

「ああ、そっか!」

ロベルタ姉さんはにっこりと微笑んだ。

「いかがですか、ガルシア君? 私と一緒に、生徒会で活動しませんか?」

「うーん……」

生徒会かあ。

確かに、ロベルタ姉さんと一緒なら楽しそうだし、いろいろ勉強にもなりそうだ。

でもなあ……。

「ちょっと考えてみるよ!」

「…………」

あれ?

ロベルタ姉さんの笑顔が、一瞬だけ固まったような……。

「……そうですか。ええ、もちろんです。大切な高校生活ですものね。じっくり考えてください」

「うん! ありがとう、ロベルタ姉さん!」

「ふふっ。どういたしまして」

そう言って微笑むロベルタ姉さん。

だけど、僕の手はなぜかまだ握られたままだった。

……ちょっと痛い。

「あ、あの、ロベルタ姉さん?」

「はい?」

「手……」

「あら。ごめんなさい」

ようやく手を離してもらった僕は、ほっと息をついた。

こうして僕たちは、再び学校へ向かって歩き始めた。

……おかしいなあ。

学校案内には、確かに射撃部って書いてあったんだけど。

それに、射撃部があるからロアナプラ高校に決めたのに……。

僕の高校生活、本当に大丈夫なのかなあ?


続かない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。