BLACK LAGOON Maid's Salvation   作:AI太郎

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第五話

BLACK LAGOON

Maid's Salvation

 

第五話

後継者

 

ラブレス家は少しずつ変わっていた。

劇的ではない。

誰もが驚くような変化でもない。

だが確実に。

少しずつ。

良い方向へ向かっていた。

 

「坊ちゃま」

「ん?」

「そちらは駄目です」

「なんで?」

「塗料が乾いておりません」

 

ガルシアは廊下の途中で立ち止まる。

最近。

屋敷のあちこちで修繕工事が行われていた。

傷んだ壁。

軋む床。

古くなった家具。

少しずつ直されている。

以前なら後回しだった。

予算が無かったからだ。

 

「綺麗になったな」

「そうですね」

 

ロベルタも頷く。

昔のラブレス家を知る人間ほど。

今の変化を感じていた。

 

「旦那様も喜んでおられます」

「父上が?」

「はい」

 

少し意外だった。

父はそういうことをあまり口にしない。

だが。

確かに最近は表情も柔らかい。

仕事が増えているにも関わらず。

不思議な話だった。

午後。

ガルシアは中庭を歩いていた。

訓練終わりだった。

全身が少し痛い。

ファビオラは容赦が無い。

その時だった。

物陰から声が聞こえる。

使用人達だった。

休憩中らしい。

 

「最近は助かりますな」

「ああ」

 

年配の使用人が頷く。

「修繕も始まりましたし」

「給金も滞らなくなった」

「旦那様もお元気だ」

 

穏やかな会話だった。

ガルシアは立ち止まる。

聞くつもりはなかった。

だが。

聞こえてしまった。

 

「坊ちゃまも立派になられた」

「そうですな」

「旦那様も安心しておられるでしょう」

「まだお若いですがな」

「それでもラブレス家の未来ですよ」

 

ガルシアは思わず目を逸らした。

なんだか気恥ずかしい。

褒められるのは苦手だった。

前世からずっと。

だから静かにその場を離れる。

気付かれないように。

夜。

食堂。

父。

ロベルタ。

そしてガルシア。

いつもの夕食だった。

 

「今日、工房の責任者と会ってきた」

父がそう言った。

「どうでした?」

「順調だ」

ナイフを置く。

「予定より利益が出ている」

 

良い話だった。

最近はそういう話が増えている。

ガルシアも少し嬉しくなる。

すると。

父がふとこちらを見た。

 

「使用人達も喜んでいたぞ」

ガルシアが固まる。

嫌な予感がした。

「何の話ですか」

「お前の話だ」

やっぱり。

「やめてください」

思わず顔をしかめる。

父は少しだけ目を細めた。

 

「何故だ」

「恥ずかしいです」

 

本音だった。

父は数秒黙る。

それから。

僅かに口元を緩めた。

 

「そうか」

それだけだった。

だが。

ロベルタは分かる。

機嫌が良い。

非常に。

長年仕えているから分かる。

 

「ガルシア」

「はい」

父が呼ぶ。

「最近よくやっている」

ガルシアは顔を上げる。

「投資も」

「勉強も」

「鍛錬も」

 

父は続ける。

 

「無理はするな」

「してません」

「している顔だ」

図星だった。

ガルシアは黙る。

父は少しだけ笑った。

「だが」

そこで言葉を区切る。

「頼もしくなった」

静かな声だった。

大きな言葉ではない。

だが。

ガルシアには十分だった。

胸の奥が少し熱くなる。

「ありがとうございます」

自然とそう答えていた。

父は頷く。

それだけだった。

だが。

その瞬間。

ガルシアは思った。

もっと頑張ろうと。

父のために。

ラブレス家のために。

そして。

大切な人達のために。

夕食後。

部屋へ戻る途中。

窓の外を見る。

修繕中だった屋敷。

明るくなった庭。

行き交う使用人達。

笑い声。

平和な日常。

ガルシアは少しだけ微笑んだ。

悪くない。

いや。

かなり良い。

未来は少しずつ変わっている。

そして今は。

その変化を素直に喜びたかった。

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