BLACK LAGOON Maid's Salvation   作:AI太郎

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第七話

BLACK LAGOON

Maid's Salvation

第七話

 

坊ちゃまの休日

街へ出る機会は決して多くない。

ラブレス家は名家だ。

没落しかけていたとはいえ、その事実は変わらない。

当主の息子がふらりと出歩けるような立場ではなかった。

だからこそ。

今日の外出は少しだけ特別だった。

馬車が街の中心部へ到着する。

御者が扉を開く。

先に降りたのはロベルタだった。

自然な動作だった。

周囲を確認し、問題が無いことを確かめる。

本人は付き添いのつもりだ。

ガルシアも何も言わない。

言っても無駄だからだ。

「では坊ちゃま」

ロベルタが手を差し出す。

「子供扱いしないでよ」

「転びます」

「転ばない」

ロベルタは何も言わなかった。

ただ静かに見つめる。

ガルシアが折れた。

「……ありがとう」

「どういたしまして」

勝者の余裕だった。

街は賑やかだった。

商人の呼び声。

市場の喧騒。

子供達の笑い声。

前世では当たり前だった景色。

だが今は少し違う。

「楽しそうですね」

ファビオラが笑う。

「そう見える?」

「見えます」

実際その通りだった。

ガルシアはこの世界が好きだ。

危険だ。

理不尽だ。

死と暴力に満ちている。

それでも。

原作で見ていた世界を自分の目で見られることは純粋に嬉しかった。

もちろん。

ロアナプラだけは別だが。

そこまで考えて。

ガルシアは思考を止めた。

今はまだいい。

まだ。

最初に向かったのは革製品を扱う店だった。

「手袋?」

ファビオラが首を傾げる。

ガルシアは棚を見回している。

訓練用。

丈夫。

動きやすい。

そんな条件で探していた。

しばらくして。

一組の革手袋を見つける。

派手ではない。

だが作りは良い。

「これだな」

店員が包んでいく。

ファビオラはまだ気付いていない。

それが少し面白かった。

次に向かったのは銀細工の店だった。

こちらが本命である。

ロベルタは店先で足を止めた。

少し意外そうな顔。

「アクセサリーですか?」

「うん」

「坊ちゃまがお使いになるのですか?」

「違う」

ロベルタは首を傾げた。

ガルシアは笑う。

本当に何も気付いていない。

そんなところも好きだった。

店内へ入る。

ガラスケースの中に並ぶ銀細工。

その中から。

あの日見つけたロケットペンダントを取り出してもらう。

やっぱり綺麗だった。

飾り気は無い。

けれど上品だ。

ロベルタによく似合うと思った。

「こちらにします」

店員が微笑む。

ガルシアは頷いた。

それだけだった。

帰りの馬車。

ロベルタは不思議そうだった。

「今日は随分と買い物をされましたね」

「そうかな」

「珍しいです」

「たまにはね」

ロベルタは納得していない顔だった。

だが深くは聞かなかった。

夕方。

屋敷へ戻る。

中庭には柔らかな夕陽が差していた。

ガルシアは二人を呼び止める。

「ロベルタ」

「はい」

「ファビオラも」

「何でしょうか」

少しだけ緊張した。

不思議だった。

投資の話をする時より緊張する。

「これ」

まずファビオラへ箱を渡す。

開く。

革手袋。

ファビオラが目を丸くした。

「私にですか?」

「いつも付き合ってくれてるから」

しばらく沈黙。

そして。

「ありがとうございます」

素直な声だった。

訓練で散々転ばされている相手だが。

それでも。

渡して良かったと思った。

そして。

もう一つ。

ガルシアはロベルタへ箱を差し出した。

「坊ちゃま?」

「開けて」

ロベルタは静かに受け取る。

そして箱を開いた。

夕陽が銀を照らす。

小さなロケットペンダント。

ロベルタの動きが止まった。

完全に。

数秒。

誰も喋らない。

ファビオラが気まずそうに視線を逸らした。

「……私に、ですか」

ようやく出てきた言葉だった。

「うん」

ガルシアは少し照れながら笑う。

「いつもありがとう」

それだけだった。

難しい理由は無い。

ロベルタにはずっと世話になってきた。

守られてきた。

支えられてきた。

だから。

渡したかった。

それだけだ。

ロベルタはペンダントを見つめている。

何かを言おうとして。

言葉が出てこないらしい。

珍しい。

本当に珍しかった。

「嫌だった?」

「いえ!」

思った以上に大きな声が返ってきた。

ロベルタ自身も少し驚いた顔をしている。

ガルシアは思わず笑った。

するとロベルタも少しだけ困ったように微笑んだ。

「……ありがとうございます、坊ちゃま」

その声はいつもより少しだけ柔らかかった。

夕陽が三人を照らしている。

穏やかな時間だった。

誰も知らない。

この日が。

ロベルタにとって。

何度も思い出すことになる大切な記憶の一つになることを。

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