異世界転生したサモナーさんは呪いの世界に行く 作:cohaku
「当主になりたいなら私を倒して見せろ」
前当主を術師として殺し禪院家の当主になった男が言った言葉。
それを始めてみたのは、術式が判明し分家筋から本家へと迎え入れられたお披露目の場だった。
「禪院樹です」
怯えもせず、自分を値踏みする視線を無視して真っすぐに前を見据える姿にいら立ちがあった。
「禪院家に迎え入れるだけの価値があるか試しましょう!」
分家筋から態々迎え入れる価値があるのか、と問いかける声を受けて用意されたと見せかけた最初から予定されていた試合をそれは
「終わりました」
試合はあっけなく終わった。顕現された式神が目にもとまらぬ速さで襲い掛かり、相手をしていた躯倶留隊の3人が地面に倒れ無様を晒していた。
恐ろしく静かな子供だった。渡された任務を粛々と処理をする、嫌がらせで等級違いを渡されても呪詛師であっても顔色一つ変えずに祓い殺し。気が付けば軽々と一級を祓い、特級を祓い特級術師に任命されていた。
特級術師は、単独で国家転覆を行えることが裁定基準。つまりは奴の術式はそれを可能とする力を秘めていると認められたという事だ。
それでも奴を当主にという声はなかった。術式は相伝ではないし、分家筋とはいえ外の血筋で、何かの間違いか禪院家に産まれた呪力ナシを庇護する変わり者だったからだ。
特級術師でありながら猿を寵愛するなど相当な変わり者だ。たった二人だけの特級術師、その一人の寵愛を与えられる猿を羨む奴らは多かった。故に、猿を排除してその寵愛を与えてもらおうと考え猿を殺そうとする奴らは、守りとして待機している特級術師の式神に全治数か月の大けがを負わされて屋敷の軒先に吊るされた。
そして猿の父親である当主の命令で猿を殺すために式神が傍にいない時を狙って、猿を呪霊を飼っている部屋に突き落とした。それで猿は死ぬはずだった。
なのに
「禪院家当主を禪院樹とする」
何もかもが覆った。あの日、猿が死ぬはずだった日。
しかし猿は生き残り、特級術師の逆鱗に触れた者達は自分を含め全員叩きのめされ、主犯格だった前当主は両目を潰され術師としての人生が強制的に閉ざされた。
術師としての生命が終わらされた当主は、当主の座から引きずり降ろされて、その座には本来なら自分か兄の直毘人のどちらかが座るはずだったのに特級術師が座ることになってしまっていた。
「何故貴様がその席に!」
「俺が譲った、強さで言えば樹は禪院で最強だ。何も問題ないだろう」
直毘人の言葉に頭が沸騰した。
「正式な血筋でもないものが当主になるなど!」
「黙れ、扇」
ズンッ、一瞬でその場の空気が凍り付いた。圧倒的な呪力、その圧力に沸騰していた頭に冷水をかけられた心地になった。
「当主になりたいなら私を倒して見せろ、領域展開」
その後は、地獄の時間だった。特殊な領域展開によって及ぼされる死に戻り、それによって与えられる数十を超えたあたりで数えることをやめた死。
時に式神に、時に特級術師に、殺され続ける時間は自分が…いや自分たちがいかに弱く、愚かで矮小な存在なのかを刻み込むには十分な時間だった。
「も、もうお許しください」
地面に頭をこすりつけ懇願する。
「正式な血筋ではない私が当主になるのに不満があったんじゃないのか?」
「あ、ありません!禪院樹様こそ禪院家当主に相応しい方です!」
あまりにも差があり過ぎた。ゾウとアリ、いや龍とミジンコほどの差がある。そんな自分たちが遥か天上の住人であるお方に意見するなどなんと不敬極まりない不作法だったか。
「…折りすぎたか」
「そりゃあ、そうだろ」
直毘人以外の者達が平伏する姿は滑稽なれど笑う事は出来ない。圧倒的な力を前にして矮小なる身である私たちは慈悲を請うしか出来ぬのだから。
「不服があるなら力を持って私が当主に相応しくないと証明しろ。他者を虐げる時間があるなら自己鍛錬をしろ。私を倒せたら当主の座はくれてやる」
そして特級術師が当主になってから禪院家は変わっていった。前のように誰かを虐げようとすれば式神が現れて強制連行、子供達は学校に通い幼いうちから外を知り、内部だけで凝り固まっていたものが少しずつ強制的に解きほぐされていく。
「真希、あんまりむちゃすると樹さんがおこるよ」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ!」
きゃらきゃらと子供達の声が聞こえる。こんな声が聞こえ始めたのも特級術師…樹様が当主になられてからだ。
「真希ちゃん、あんまり無茶せんようにな」
「はーい!」
「真依ちゃんも巻き込まれんようにな」
「はい!」
本来なら虐げられるはずだっただろう女の双子であっても、この禪院に他者を虐げる者はもう存在しない。そんな暇があるなら自己鍛錬をしろとそんなそぶりを見せた瞬間に強制連行され死に戻り前提の地獄の訓練が開始される。
任務を積極的にこなし自己鍛錬をしていると示せば強制参加の頻度は週一程度になるので、今では禪院家の者達は積極的に任務をこなしている。
「……」
相変わらず樹様のお考えは理解できない。あんな呪力0の猿や術師として碌な術式も持たず大成しない一卵性双生児を気に掛ける意味が分からない。
使用人共を育てる意味も分からない。
だが、分からないのが当たり前なのだ。私たちと樹様は生き物としての次元が違う。そのお考えを私たちの様な矮小なる存在が理解できるはずがない。
矮小で愚かな私たちは樹様のご命令通り自己研鑽に励み術師としての腕を上げ呪霊を祓い、呪詛師を殺す。その為に存在しているのだ。
サモナーズブートキャンプで死に過ぎて細胞レベルまでサモナーさんの恐ろしさを刻みつけられた禪院家術師一同
年代によってサモナーさんへの態度が大分違いそう