異世界転生したサモナーさんは呪いの世界に行く   作:cohaku

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pixivでも投稿してます。
結構な話数になったので短編集ではなく独立した形で投稿する事にしました
視点がコロコロ変わります


第3話

前当主を術師として殺し禪院家の当主になった男が言った言葉。

 

 

 

 

 

 

それを始めてみたのは、術式が判明し分家筋から本家へと迎え入れられたお披露目の場だった。

「禪院樹です」

怯えもせず、自分を値踏みする視線を無視して真っすぐに前を見据える姿にいら立ちがあった。

「禪院家に迎え入れるだけの価値があるか試しましょう!」

分家筋から態々迎え入れる価値があるのか、と問いかける声を受けて用意されたと見せかけた最初から予定されていた試合をそれは

「終わりました」

試合はあっけなく終わった。顕現された式神が目にもとまらぬ速さで襲い掛かり、相手をしていた躯倶留隊の3人が地面に倒れ無様を晒していた。

恐ろしく静かな子供だった。渡された任務を粛々と処理をする、嫌がらせで等級違いを渡されても呪詛師であっても顔色一つ変えずに祓い殺し。気が付けば軽々と一級を祓い、特級を祓い特級術師に任命されていた。

特級術師は、単独で国家転覆を行えることが裁定基準。つまりは奴の術式はそれを可能とする力を秘めていると認められたという事だ。

それでも奴を当主にという声はなかった。術式は相伝ではないし、分家筋とはいえ外の血筋で、何かの間違いか禪院家に産まれた呪力ナシを庇護する変わり者だったからだ。

特級術師でありながら猿を寵愛するなど相当な変わり者だ。たった二人だけの特級術師、その一人の寵愛を与えられる猿を羨む奴らは多かった。故に、猿を排除してその寵愛を与えてもらおうと考え猿を殺そうとする奴らは、守りとして待機している特級術師の式神に全治数か月の大けがを負わされて屋敷の軒先に吊るされた。

そして猿の父親である当主の命令で猿を殺すために式神が傍にいない時を狙って、猿を呪霊を飼っている部屋に突き落とした。それで猿は死ぬはずだった。

なのに

「禪院家当主を禪院樹とする」

何もかもが覆った。あの日、猿が死ぬはずだった日。

しかし猿は生き残り、特級術師の逆鱗に触れた者達は自分を含め全員叩きのめされ、主犯格だった前当主は両目を潰され術師としての人生が強制的に閉ざされた。

術師としての生命が終わらされた当主は、当主の座から引きずり降ろされて、その座には本来なら自分か兄の直毘人のどちらかが座るはずだったのに特級術師が座ることになってしまっていた。

「何故貴様がその席に!」

「俺が譲った、強さで言えば樹は禪院で最強だ。何も問題ないだろう」

直毘人の言葉に頭が沸騰した。

「正式な血筋でもないものが当主になるなど!」

「黙れ、扇」

ズンッ、一瞬でその場の空気が凍り付いた。圧倒的な呪力、その圧力に沸騰していた頭に冷水をかけられた心地になった。

「当主になりたいなら私を倒して見せろ、領域展開」

その後は、地獄の時間だった。特殊な領域展開によって及ぼされる死に戻り、それによって与えられる数十を超えたあたりで数えることをやめた死。

時に式神に、時に特級術師に、殺され続ける時間は自分が…いや自分たちがいかに弱く、愚かで矮小な存在なのかを刻み込むには十分な時間だった。

「も、もうお許しください」

地面に頭をこすりつけ懇願する。

「正式な血筋ではない私が当主になるのに不満があったんじゃないのか?」

「あ、ありません!禪院樹様こそ禪院家当主に相応しい方です!」

あまりにも差があり過ぎた。ゾウとアリ、いや龍とミジンコほどの差がある。そんな自分たちが遥か天上の住人であるお方に意見するなどなんと不敬極まりない不作法だったか。

「…折りすぎたか」

「そりゃあ、そうだろ」

直毘人以外の者達が平伏する姿は滑稽なれど笑う事は出来ない。圧倒的な力を前にして矮小なる身である私たちは慈悲を請うしか出来ぬのだから。

「不服があるなら力を持って私が当主に相応しくないと証明しろ。他者を虐げる時間があるなら自己鍛錬をしろ。私を倒せたら当主の座はくれてやる」

そして特級術師が当主になってから禪院家は変わっていった。前のように誰かを虐げようとすれば式神が現れて強制連行、子供達は学校に通い幼いうちから外を知り、内部だけで凝り固まっていたものが少しずつ強制的に解きほぐされていく。

「真希、あんまりむちゃすると樹さんがおこるよ」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ!」

きゃらきゃらと子供達の声が聞こえる。こんな声が聞こえ始めたのも特級術師…樹様が当主になられてからだ。

「真希ちゃん、あんまり無茶せんようにな」

「はーい!」

「真依ちゃんも巻き込まれんようにな」

「はい!」

本来なら虐げられるはずだっただろう女の双子であっても、この禪院に他者を虐げる者はもう存在しない。そんな暇があるなら自己鍛錬をしろとそんなそぶりを見せた瞬間に強制連行され死に戻り前提の地獄の訓練が開始される。

任務を積極的にこなし自己鍛錬をしていると示せば強制参加の頻度は週一程度になるので、今では禪院家の者達は積極的に任務をこなしている。

「……」

相変わらず樹様のお考えは理解できない。あんな呪力0の猿や術師として碌な術式も持たず大成しない一卵性双生児を気に掛ける意味が分からない。

使用人共を育てる意味も分からない。

だが、分からないのが当たり前なのだ。私たちと樹様は生き物としての次元が違う。そのお考えを私たちの様な矮小なる存在が理解できるはずがない。

矮小で愚かな私たちは樹様のご命令通り自己研鑽に励み術師としての腕を上げ呪霊を祓い、呪詛師を殺す。その為に存在しているのだ。

 

 

 

 

 

 

「…?」

「あ~、兄貴。最近引き取った津美紀だ」

「引き取った?」

遊びに来た兄貴に津美紀を見せた。津美紀は、所謂俺のストーカーをしていた奴の娘だった。

まぁ、俺がモテるのは知っているのですぐに警察に相談したし接触禁止令を出してもらったし、俺の口から「お前に興味はねぇ」ってのも伝えた。そしたら逆切れして俺の妻を襲撃した。まあ、それも兄貴の式神に取り押さえられてあっけなく御用となったが、その後に問題になったのが女の娘の処遇だった。

女に親類はいないらしく、施設に行くはずだったがあまりいい扱いを受けていないことが分かる状態の津美紀に妻が「家で引き取ってあげられないかな?」と言い、恵も会わせてみたら相性が良かったのかすぐ仲良くなったので引き取る事にしたのが家に来た経緯だ。

それを兄貴に説明するとうんうんと頷いて

「じゃあ、護衛を増やそう」

すぐに津美紀専門の護衛の式神を津美紀に付けた。

「そろそろ、奥さんにこっちの事も説明しないとって思ってたけど津美紀ちゃんにも説明したいしどうしようか?」

「説明しないと駄目か?」

「私の不注意でもあるが、お前の体の事を含め説明は必要だろう」

兄貴の言葉にそういえばそれもあったかと思った。

俺は兄貴に育てられた。式神たちの補助も受けて育てられた。その時に兄貴の式神のアマルテイアの乳とそれから作られる豊穣の乳を使って育てられた。

兄貴的には、健康に育ってくれたらいいな的な感じで使ったそうだが、その乳と兄貴の領域にいる神様に何故だか気に入られ、ドラゴンたちにも気に入られ、双方の加護を授けられた俺は兄貴と同じように人の道から外れ始めていた。

俺はもう手遅れなので諦めて毎日食べる用の豊穣の乳を渡されるが、恵たちには人の道から外れず術師として成長する程度に、妻には人の道から外れず健康的に過ごせる程度に、とかなり慎重に供給しているのを見て結構俺の事について後悔というか負い目の様なものがあるらしい。こっちとしては兄貴に付き添えるから後悔なんぞしないが、人外の道に恵たちを巻き込みたくないという考えには賛成できるので何も言わないだけだ。

「あと十年もすれば流石におかしいと思うようになる」

兄貴が庭を見た。俺も目線を上げて妻と子供達が遊ぶ姿を見た。

「私も誤魔化せる範囲を超えている。お前もそろそろ誤魔化せるものじゃなくなるだろう」

「そうだな」

「彼女たちは非術師だ。本当ならこちらの事情を一生知らずにいた方が良いかもしれない、だが彼女たちは家族だ。いつまでも隠し通せることでもないし隠すべきことでもない」

「ああ」

「すまないな、甚爾」

「謝るなよ、俺は感謝してるぜ。おかげで兄貴を一人にする心配はなくなった」

「そうか」

兄貴もまた人の道を外れている。俺に加護を与えた存在達を内包しているんだ、そうなるのは当たり前だろう。というか、それがあるから俺に加護を与えた可能性もある。

「もうちょっと津美紀がデカくなったら教えようと思う」

「それが良いかもしれないな」

「ちょうど、恵も術式を自覚しているだろうしな」

術式を自覚するのは5,6歳だ。年齢的に丁度いいだろう。

「いつき、一緒に遊ぼ!」

「お父さんも!」

子供達がこちらに駆け寄ってきた。それに二人そろってまぶしそうに目を細め

「「ああ、今行くよ」」

そう言って立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

この家には、お母さんと津美紀に見えない同居人がいる。

それはお父さん以外の家族一人一人についていて、俺達を守ってくれている。外に出会う気色の悪い奴らは近づいただけで消してしまうし、ジャングルジムから飛び降りてバランスを崩して頭から地面に落ちそうになったときは優しく受け止めて、車の事故に遭いそうになったときは車を受け止めて、物心ついてから…いや、つく前から守ってくれている。

俺が見えることは分かっているのか俺限定だが、高い所の物を取ろうとした時にとってくれたりもする。優しい奴らだ。

家族の中で親父にだけついてないから、お母さんと津美紀がいない時に

「おとうさん、ないない」

「?」

「ないない」

と言いながら護衛として近くにいた同居人を指さすと目を見開いて驚いた後、お父さんは苦笑した。

「ああ、兄貴が付けてくれた護衛だよ。俺にも一応ついてるぜ?」

「ないない?」

「基本は姿を見せねぇからな。おい、恵が会いたいってよ」

お父さんが自分の影に向かって声をかけると影からにゅっと黒い毛並みの犬が現れた。

「!」

「兄貴は心配性だからな、俺にも一応護衛をつけてる。普段はずっと影の中にいるけどな」

「わんわん?」

「…わんわんだな」

「わんわん!」

俺は、その犬に抱き着いた。

「モフモフ」

「確かにモフモフしてんな、シリウスの方が手触りいいけど」

「がふっ!?」

「この子よりモフモフ?」

「ああ、兄貴の一番のお気に入りだ。これをいうとヴォルフの機嫌が悪くなんだけどな」

「きゅーん」

「ははは、お前もヴォルフは怖いか?」

「めぐ、もっと会いたい」

「ん~、恵がもっとデカくなったら紹介してもらうか」

「もっと、大きく?」

「そうそう、もっとデカくなったらな」

お父さんの言葉に早く大きくなりたいなと思いながら、俺は犬の毛並みに顔をうずめた。

 

 

 

 

 

「だぁ!また負けた!」

俺は地面に寝っ転がった。

「まだまだだねぇ」

コロコロと笑う樹に見下ろされながら先ほどの戦闘を振り返る。たまに高専に来る樹の領域を使った訓練、ガチの殺し合いは毎回俺の負け越しで終わる。

多種多様な攻撃に混ぜられた俺の術式を突破する攻撃の対処、封印術で術式や呪力強化すら封じれた戦闘、術式縛りでの接近戦などなど色々な経験をせてもらっている自覚はある。

「ほんと、相変わらず樹は俺の無下限を簡単に突破するよね!」

「時空系は本当に相性がいいな」

樹が時空系と呼ぶやつは基本は不可視の攻撃で俺の無下限を貫通する。

「それに何だよ!影を攻撃って!防御できないじゃん!」

「ハハハ」

「笑い事じゃないんだけど!」

俺にとって樹は天敵だ。術式が突破されるから反転を覚えて常に術式を回す状態になっても勝てる気がしない。

「悟、早く交代してくれないか?私の時間が少なくなるじゃないか」

「へぇへぇ、すぐ交代するよ!」

「傑君は今回どんな内容が良い?」

「そうですね、じゃあ樹さん一人でお願いしても?」

「かまわないよ」

起き上がって観覧席からこちらに向かってくる傑と交代する。

傑と樹の訓練も様々な方法で行われる。傑がより群れを扱う事を覚えるために樹も群れを用いたり、今のように圧倒的な個を相手にする訓練だったり。

多種多様な攻撃の光が傑の呪霊を襲う。その光の中を樹は一直線に傑に向かって走り出す。

傑はそれを止めようとさらに呪霊を出すが、次々と現れる光の奔流に呪霊達は次々と倒されていく。傑の懐に入り込んだ樹と接近戦になれば呪霊を出している暇はなくなる。しばらくして首を折られて戦闘は終わった。

「まだ反転覚えないか…これは治癒行為が出来る術式のある呪霊を探す方が速そうだな」

「イタタタ、相変わらず接近戦になったら勝てませんね」

「年季が違うからな」

「兄貴、そろそろ時間じゃねぇのか?」

「ん?あ、もう時間か。じゃあ、今日はこれで終わり、またな」

領域がとけて高専のグラウンドに戻る。樹はそのまま疲れを見せることなく任務に向かっていった。

「ホント、樹って強いよね」

「同じ特級になっても並べた気はしないね」

「年季もちげぇし、お前らと術式の相性も悪くねぇからな。才能もある」

「「それは確かに」」

呪力総量・呪力出力は双方規格外のレベルと言えるし、六眼でも隠れてしまう術式の詳細は分からないが式神を召喚・無数の攻撃手段と汎用性に優れながらも威力もけた違いな術式、フィジカルギフデットと殴り合っても簡単に死なない肉体の頑強さと高い身体能力。どれをとっても術師として最高峰の素質がある。

「それの扱いも巧いしな」

「もっと無下限を磨かないと勝てないだろうなぁ」

「私はもっと強力な呪霊を取り込まないと」

「まぁ、もうちょい本気を引き出せるようになれば遊び相手ぐらいには認定してくれんじゃねぇか?そうしたら色々便宜計ってくれるから頑張れよ」

「甚爾は樹の本気を知っているの?」

「おお、兄貴が一番楽しみにしているのが俺との殺し合いだぜ。まぁ、式神は使わねぇ完全な殴り合いだけどな」

甚爾の言葉に驚いた。フィジカルギフデットの甚爾と殴り合いで試合が成り立ちとは到底思えなかったからだ。

「それ甚爾の圧勝じゃないの?」

「いいや、兄貴は呪力強化+術式の身体強化もあるからな。フル強化した兄貴は俺に匹敵するぜ、まぁ俺もそれをすれば有利になるけどな」

「あの術式、身体強化もあるんですか?本当に汎用性が高いですね」

「後は単純に技術がすげぇ、俺を投げられるなんて兄貴だけだぜ?」

「体術の技術も高いよね、武器の扱いも上手いけどさ」

あらゆる意味で樹は、規格外だ。その底を見たことある人間は甚爾以外いないだろう、俺達との試合だって手加減されているのは知っている。

「何時か本気の樹さんと戦いたいね」

「おう、ぜってぇ追いついてやる」

「精々頑張れよ」

 

 

 

 

 

 

「傑君、うちに所属するつもりはないかい?」

「所属ですか?」

「そう、やっぱり一般家庭出身だと後ろ盾が弱いからさ。呪術高専卒業した一般家庭出身を勧誘しているんだ、こっちに所属したら補助監督はこっち側の人が必ずやるし、任務の精査もしっかりやるから所属するメリットはあるんだよね。

加茂や五条はそういう事やんないから私がやっているだけだけど」

樹さんの言葉に私は考えた。確かに一般家庭出身の私は後ろ盾が弱く、補助監督の人だって信用できない人もいるので樹さんみたいな御三家に所属してくれている補助監督を手配してくれるのはありがたいかもしれない。

「七海たちも誘うけど、高専に所属したままでもこっちに所属する事も出来るよ。任務も怪しいって思えばこっちに情報さえくれれば精査するし、こういう呪霊がいないかって聞いてくれれば探してあげる。

あと呪符の買える金額は学生価格のままで買える種類も増えるよ」

「え!」

「はい、これ。こっちに所属した時用のカタログ」

渡されたカタログを受け取る。呪符の販売価格は複数設定されていて高専生用、外部の術師用、高専所属術師用、禪院家術師用、そして今手の中にある身内用と書かれたそれぞれのカタログを見て買う呪符を選ぶ。

内容も色々違うとは聞いていたが、高専生用以外を見るのは初めてだ。

「うわぁ、大分種類が増えますね。攻撃用の呪符がある」

「悟君の無下限を突破できる奴以外は買えるようになっているよ。流石にそれは自重した」

「他にも色々増えてますね、このテレポートってのは」

「使うと高専の近くに設置してある起点に瞬間移動する奴だね。うちに所属している補助監督とか窓は必ず持ち歩いている呪符だよ。まぁ、術師も持ち歩いているけど緊急避難に使えるから」

「成程」

異様に低い死亡率の高さの秘密はこれか、ヤバくなったら必ず逃げられる手段がある。それだけで生還率は高くなるだろう。これだけでも所属するメリットは高い。

「お値段も高専生の時と同じお手頃価格、所属するメリットが凄いですね」

「元々うちに所属してない人達も勧誘するんだからメリットもちゃんとないと駄目だろ?窓や補助監督はそれを買えるってだけですぐこっちに来てくれるから楽でいいけどな。まぁ、スパイはあぶり出すけど」

剣呑な殺気に息を飲む、私の様子に気づいた樹さんはその殺気を抑えて申し訳なさそうな顔をして謝った。

「いいえ、警戒するのも無理はないかと」

腐った上層部は、勢力を拡大している樹さんを警戒して勢力を少しでも削ろうと嫌がらせが絶えないと悟から聞いている。庇護下に入ってきた者達だってスパイが紛れ込んでいることはよくある事なのだろう。

「術師も家の関係とかで所属できない人も多いし、身内じゃない人に売れるものでもないからな。ままならないものだ」

「全員が使えればいんでしょうけど、無条件に渡すのはちょっと怖いですもんね」

「何時か全員が買えるようになればいいんだけどな」

それから様々な話を聞いた。日本全国に結界を張った拠点がある事、任務で地方を移動する時にその拠点を自由に使っていい事。拠点は呪術師の卵である子供達の保護施設が併設されている場合もある事、食事なども頼めば用意してくれること。もし結婚して子供が出来た場合、その保護施設に子供を預けることもできること。たまに保護施設の子供達に呪術の指南などをしてくれたら給料が出ることも、任務先で保護した子供を施設に預けることもできる事など色々な話を聞いた。

「それで所属するデメリットって何かありますか?」

「まず上層部に嫌われる」

「元から嫌われているので問題ないですね」

「私と敵対関係の家からも嫌われる」

「呪術師家系とあまり関係ないのでデメリットといえるものじゃないですね」

「後は…たまに私と鍛錬?」

「それはメリットでは?」

話を聞く限りデメリットらしいデメリットはなかった。

「じゃあ、所属します」

「よかった。まぁ、断った子達も数日したら後ろ盾の重要性を再確認して所属するって返事する子ばっかりだけど」

「でしょうね」

「じゃ、これ。うちに所属した証明書みたいなやつ」

渡されたのは金色のチェーンブレスレット。中央に透明な宝石が輝く高そうな奴だ。

「錆びたりしない金属だから手入れは簡単だし頑丈だから任務の時着けてても壊れたりしないから」

「これが証明書?」

「そう、これを呪符の販売店で見せればその身内カタログが出てくるし、各地の拠点に張っている結界の中に入る許可書にもなってる証明書」

「綺麗ですね」

黄金の輝くブレスレットを身に着ける。サイズはピッタリでいつサイズを測ったのだろうと思いながらも樹さんにお礼を言った。

「じゃ、これからよろしく。補助監督たちもそれ付けているからそれ付けてない人だったら警戒してね」

「これ偽造できるんじゃ?」

「大丈夫、見たらわかるよ」

そう言って笑う樹さんの顔は悪戯っ子のようだ。

そして言葉の意味を知ったのは所属してから少し経った日の事だった。所属してから必ず補助監督は私と同じブレスレットをつけた人たちだけが来ていたのだが目の前のやつの手首にあるブレスレットを見てその意味が分かった。

ぱっと見、同じ黄金のブレスレットのように見えるが存在感というか格というものが違うのが一目見ただけでわかった。携帯を取り出し連絡を交換した補助監督に電話するとすぐに偽物は回収され別の補助監督が派遣された。

「結構わかるものなんですね」

「ああ、これですか?これ樹様しか手に入らないもので作っているので金で作ってもパチモンになるだけなんですよ」

補助監督の言葉にそうなのかと思いながら自分の手首にあるブレスレットを見た。確かに偽物が持っていた奴にはない何かが感じられてすぐ偽物だとわかった。

「樹さんの言う通り見たらすぐに分かったな」

 

 

 

 

 

 

「なんで傑がそれ付けてんだよ!」

「へ?」

「それ樹の庇護下に入ったやつが付けているやつでしょ!」

久しぶりに3人で集まって食事をしていると五条が夏油の手首に光るブレスレットに気づいて不機嫌そうに顔を歪めた。

「樹さんにスカウトされて、後ろ盾はあった方が良いだろ?」

「それ僕でもいいじゃん!」

「悟は勧誘しなかったじゃないか」

「そーだけど!」

見せつけるようにブレスレットをつけた手首を掲げる夏油にさらに不機嫌になる五条。

「それ最近付け始めたみたいだけど、なんなんだ?」

「これ、樹のところ所属になったやつらが付けるやつ」

「へぇ、これが。金?いや見たことない金属だな」

「樹さんしか入手できない金属で作られているらしいよ」

触ってみると予想よりも硬い。

「この石、ダイヤモンドか?」

「そうみたいだね」

「全部石も同じなんだよな」

「綺麗じゃん、私も欲しいな」

「硝子も所属すればいいんじゃない?ほとんど高専で働きづめだろうけど息抜きの場所は増えるし」

「それもいいかもね」

その後、夏油は所属する際のメリットとデメリットを説明した。特にデメリットらしいデメリットはないがメリットがデカい。これを聞かされたら余程の事がない限りは所属するメリットしかない。

「随分と厚遇されるんだな、特に何か強制力があるわけでもない」

「まぁ、基本は樹さんと甚爾さんで何とか出来るからってのもあると思うけど」

完全に保護目的で所属をした人たちに求めるものなんて何もないんだろう。

「樹にとっては無駄な術師の死を減らして仕事をする人を無暗に減らしたくないってのが大きいと思うよ。やっぱりさ、1級でも2級でもいいのに人手がないから仕事をサクサク終わらせる僕たち特級にその任務が回ってくるのは大変だしね」

「その為の保護か」

保護施設で術師の卵たちを育て、その権力で術師達を守り、無駄な死を減らす。

「一時期呪霊が蛆のように湧いて出て忙しくて鬱になってたけど、数年前の記録を見るとその時よりも任務って少なかったんだね。昔の術師の記録を見ると私たちはまだ楽をさせてもらっているのだとわかったよ」

「あー、傑非術師家系だもんな。それに最近は樹の教育の成果が出たのか一級とか準1級も増えたしね」

「呪符のお陰で私の仕事も少なくて助かってる」

「硝子は、樹の呪符のお陰でだいぶ楽になったよね。反転アウトプットできる人あまりいないし」

「というか、今の高専で私だけだろ」

「僕はアウトプット出来ないし、傑は何度殺されても反転覚えてないしね」

「もう、回復が出来る術式を持った呪霊を探すことにしたよ」

「まぁこればっかりはセンスだし、本格的に呪術学び始めたの高専に入ってからだからむしろ高専入ってすぐ特級になること自体が凄い事だから気にしない方が良いよ。今じゃ、樹の呪符があればある程度補填は出来るしね」

「あまり無茶するなよ、生きてさえいれば私が治してやるからな」

私の言葉に二人とも口をパカっと開けて唖然とした表情をした後、ゲラゲラと笑い出した。

「何がおかしい!」

「いやだって、硝子がそんなこと言うの初めてじゃん!」

「そうだね、私も初めて言われたよ」

「……まぁ……お前らは同期だからな」

その言葉に二人はさらに大爆笑した。私は眉間に皺を寄せて二人を睨みながら食事を続けた。

後日、樹さんに私も所属したいと言えばすぐにブレスレットを渡してくれた。それを見て仲間外れにされたと拗ねた五条にしつこく絡まれた樹さんは仕方なくブレスレットを渡していた。

 

 

 

 

 

 

「貴方達に話したいことがあります」

いつになく真剣な樹さんの顔に自然と背筋が伸びた。

「本当なら貴方達に話したくはなかったのが私と甚爾の本音です。しかし、家族である以上話すべきだと私が判断し甚爾が賛同しました」

「…いつまでも黙っておける事柄じゃないんでな」

恵の誕生日の翌日のリビングで樹さんと甚爾くんを前にして正座して座っていた。二人の雰囲気に思わず床に座ってしまっていた。

「まずうちの家業の事について話そうと思う」

「家業?」

「まずはこれをかけてくれ」

そう言って私と津美紀に眼鏡を渡された。

「これは?」

「普通の人には見えないものを見えるようにする眼鏡だ」

「「うわっ」」

メガネをかけると樹さんの後ろに大きな黒い狼が見えた。

「これは私の式神だ。この世にはこんな風に普通の人間には見えない存在がいる」

そこから樹さんと甚爾くんの実家である禪院家が昔から見えない存在、呪霊を祓う事を生業としている血筋であること、私たちの様な非術師と言われる見えない人達の負の感情から呪霊が産まれる事、恵が禪院家の血を濃く受け継いで見える側であることとかを色々と説明された。

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫。でもちょっと休ませて、いきなりすぎて」

子供達はいつの間にか新しく召喚された式神たちと遊び始めていた。

「樹、他には何がいるんだ!」

「樹さん!ネコさんとかはいないの?」

「猫はいないなぁ、ライオンさんとか虎さんとかはいるぞ」

「ライオン!」

「虎さん!」

その様子に樹さんは苦笑しつつも二人の質問に答えていた。

「危険な世界にいるんだね、樹さんと甚爾くんは」

「危険って言っても俺達を殺せる存在はまずいないけどな」

「そうなんだ?」

「兄貴も俺もつえぇからな。そこら辺は心配すんな」

自信満々の甚爾くんの顔に安心感を覚えた。

「樹、護衛紹介して!」

「護衛?」

「私たちの家業関係で巻き込まれた時用に皆には護衛をつけているんだ。ローテーションだから同じ式神じゃないけどね」

樹さんの言葉に私は甚爾くんを振り返った。

「あ~、気にスンナ。俺と結婚した時から常に護衛付きだからよ」

「へ!?」

「兄貴も気を利かせて女型の式神しかお前と津美紀につけてねぇし何かあったことしか報告もあげてねぇよ。本当に呪霊とか実家関係からのもめ事に巻き込まれた時の護衛だしな」

俺の護衛はだいたいアイツ、と最初に見た狼を指さした甚爾くんに文句を言おうと思ったが、私たちじゃ呪霊や呪術師に対抗できないから護衛をつけるのは当たり前かと考え直した。むしろ人じゃないだけマシかもしれない。

「この家にも結界が張ってあるからある程度安全だからこの家の中にいりゃ、常に張り付いたりはしねぇよ」

「そうなの!?」

「その事もあっての一軒家のプレゼントだぜ?マンションだと結界の条件付けが面倒だからな」

そこまで考えての一軒家のプレゼントだったとは、やけに素直に家を買ってもらったと思っていたがそういう事情もあったからなのかな?

「そろそろ、頭の整理は終わったか」

「は、はい!」

「じゃ、本題を話そう」

「え、恵の事が本題じゃ」

「そっちも本題だが、本命はこっち。私と甚爾の体の事だ」

「体?」

「私は40を超えているはずなんだが、どう思う?」

「あ!」

そういえば話の中に樹さんが甚爾くんを赤ん坊の頃から育ててたって話が合った。え、つまり

「樹さんの見た目って20代でも普通にアリですよね?」

「若い!」

「ちょっと術式の関係で半分人間やめかけているんだ、甚爾も巻き込んでしまっていて」

「俺も人間やめかけてんだわ、だからめっちゃ長生き」

「「「へ?」」」

「神とドラゴンの寵愛は恐ろしいものだ、度が過ぎれば人の道から外れる」

「愛ってのは最も歪んだ呪いっていう奴もいる位だしな」

口元に手を当てて苦笑する樹さんの顔はわがままを言う子供にしょうがないなと対応する父親の様な顔だった。

「だから私たちはずっと見た目は若々しいし、見送ることになると思う」

「それで樹さんはいいの?」

「甚爾を巻き込んでしまった事だけはちょっと後悔しているけど、うん。私自身がそうなるのはもうどうでもいいというかなったものはしょうがないというか」

「兄貴が長生きすんなら俺も付き合うまでだな。お前には悪いと思うけどよ、兄貴を一人にすんのは嫌だなんだわ」

2人は割り切っているのだろう、人でなくなると言いながらもそれを気にする素振りはない。

「私はあまり一般人と関わらないから何もしないけど、甚爾はお化粧とかで何とか誤魔化すから安心してほしい。本当なら結婚前に言うべきだったんだろうが言うのが遅くなってすまない」

「いや、それは樹さんが謝る事じゃないし、結婚前に言われても多分甚爾くんと結婚してましたし」

「俺も初めての相手で浮かれてて兄貴にも紹介したの結婚してからで忘れてたんだわ」

「まぁ、言ってほしかったとは思うけど簡単に話せる内容じゃないのは分かるし」

実は人間やめてますなんて簡単にいえる事じゃないのは分かっているし、呪霊っていうのも本来は私たちみたいな一般人が知るべきことじゃないってのは分かる。

「樹、人間じゃないの?」

「でもどこも違くないよ?」

「普段は隠しているからね」

樹さんは右目に手を当てる。

「ほら、神様からもらったものの一つだよ」

「「虹色だ!」」

その手がのけられると樹さんの目の色が7色に変色する目に代わっていた。

「この目を通して神様が私の様子を見るんだ」

「神様が?」

「その為に与えられたものだからね、今も会いに行ったら色々話されるよ。あまり人間には関心がないのか私や甚爾、後は私の庇護下にいる子たちのお話だけだけれどね」

「めぐ達の話もする?」

「今一番、関心があるみたいだ。甚爾の時もそうだけど、子供が好きらしいね」

「お父さんも」

「何度か会いに行くたびに甚爾と会わせろっていうから連れて行ったら、私と良好な関係の神様全員集合してて全員から祝福を送られちゃったりとか色々あったんだよ」

「しゅくふく?」

「私にもついでとばかりにどっさりとね。恵たちにも薄い加護はあるみたいだ、まぁ人の道を外れるほどじゃないから注意はしないけれど」

「私たちも?」

「私が一等気にかけている甚爾の家族だからな。呪いにほんの少し耐性が出来る程度の軽い加護だけど」

「ないよりはマシだろ、特に非術師なお前らには合って損はねぇ恩恵だ」

「確かにね、こんな世界だと呪いに耐性があった方が良い」

「耐性があると良い事なの?」

「呪霊の中には毒みたいなやつを使う呪霊もいるからな、それに耐性があるって事は生き残れる可能性が高くなるってことだ。人を操る術式にも抵抗できるようになる」

「まぁ、私の式神が守るからそういう事になることはほとんどないと思うけど」

「そういえば、守ってもらっているなら何かお礼がしたいと思うんだけど何か私たちでできる事がありますか?」

「?彼らの仕事だから気にしなくてもいいんだよ」

なぁ、と言いながら式神たちを撫でる樹さんの言葉に各々頷いたり鳴き声を上げたりして肯定を返す。

「でもお世話になっているなら、お礼がしたいな」

「お礼!めぐ達守ってくれるからお返し!」

「子供達もお礼をしたいって」

「と言ってもな」

樹さんが式神たちを撫でながら考え込むように顎に手を当てた。

「基本、皆に付けている式神は人型だ。甚爾は強いから動物型にしているけど、やっぱり人型の方が出来ることが多いからね。動物型の子達なら大体はちみつが好きだからって言えるんだけど人型の子たちはそういう欲求を表に出さないから私も何が好きとかは分からないんだ」

「そうなの?」

「彼らは歌を歌ったり鳴いたりはするけどちゃんとした言葉を発する事はないしね。多分、お礼を言われるだけでも喜ぶと思うからいつも見える恵がお礼を言って上げたらいいと思うよ。そのメガネもあげるけど家の外には持ち出さないでね、そこそこいい値段するし、外で呪霊と目が合うと襲われるから危ないしね」

「え、いいんですか?」

「恵もその方が話しやすこともあるだろうしね。はい、これ眼鏡ケース。普段はこれに入れておいてね」

「は、はい」

お高そうな革の眼鏡ケースを二つ渡される。

「よし、お話が終わったことだし。今日は何処かに食べにでも行こうか?」

「俺、くるくるずし喰いたい!」

「私もくるくるするお寿司!」

「回転寿司だな、さっそく行こうか!今日は私の奢りだぞ、好きなだけ食べろ!」

「「やったーーーーーー!!」」

 

 

 

 

 

 

(あの子、万に合いそうだな)

ふと街中で見かけた子が呪物の器によさそうだと思い、一人になるのを見計らい受肉させようとして

「津美紀」

「樹さん!」

その手を慌てて下げて物陰に隠れた。

(禪院樹!)

目下六眼と無下限の抱き合わせである五条悟と同等に厄介だと警戒している術師の出現に身を縮こまらせた。

(あの子は、禪院樹の関係者だったのか)

2人は親し気に話していてその関係性が知人以上だと容易に想像できた。

「    」

二人そろって歩き出す直前、一瞬此方を向いて口パクで伝えてきた言葉に冷汗が流れた。

(くそっ!)

禪院樹、強力な式神を扱う特級術師。そして最近私が自由に動けなくなった原因。

(本当に厄介な奴だな!)

禪院樹が特級術師になってから私は、自由に動けなくなった。どうやってか知らないが日本全国に糸を張り巡らせ、帳を下ろせば何処からともなく姿を現し、最悪帳を自由に出入りできる伏黒甚爾を連れてきて調査し始める。おかげで日本で大きな動きが出来なくなってしまった。今この日本で呪詛師が息をしているのは任務がなければ殺しはしないという禪院樹のスタンスのお陰とも言われるほど日本は完全に禪院樹の監視下に置かれている状況なのだ。

(それでも何とか受肉体を探したり術式を持つ非術師を探してたけど、まさか目を付けた子が禪院樹の関係者だとは)

あの女の子に悟られないように飛ばされた殺気。そして警告。

もしあのまま私が引かなかったらこの場で殺されていた。

(五条悟だけでも頭が痛いのに)

禪院家当主であり特級術師である禪院樹。それだけならどうとでもなったが、禪院樹は早々と禪院家を掌握し、外野の術師の卵達を保護育成し、その実績によって弱小の術師家系が自ら軍門に下りその勢力は拡大し続けている。

こちらも総監部を動かし勢力を削ろうと動いたが、禪院樹の呪符による手厚い保護によって窓や補助監督すら削ることはできていない。

ならば内部から切り裂いてやろうと動くがどんな手品かスパイを送り込んでもすぐにあぶり出され、所属している人間を揺さぶろうとしても欠片もこちらに靡かなかった。

外からも内からも罅すら入らない。

(もっと早く…いや)

禪院樹を排除しようとは動いた。まだアレが幼く未熟だったころにその未知なる脅威にすぐに動いた。

(だが、それさえも軽々と乗り越え特級となった。五条悟対策もそうだが禪院樹対策も考えなければ!)

殺すために渡した任務、確実に殺せると思っていた。思い出すのは殺せたら肉体を奪ってやろうかと考えて遠くから見たあの光景。

無数の眷属を従える特級を下した子供の姿が未だに目の奥に焼き付いていた。

 

 

 

 

 

 

「後輩の顔を見に来たんだけど君かい?」

「へ?」

高専で甚爾先生に扱かれていると突然声をかけられて顔を上げた。

「樹じゃねぇか!久しぶりだな」

「樹さんお久しぶりです。乙骨君の顔を見に来たんですか?」

「久しぶり真希、真依。最近来ても任務の行き違いで顔を合わせるのは高専入学以来かな?そう、特級の後輩が出来たって聞いて顔を見に来たんだ」

そこにいたのは甚爾先生や真希さんや真依さんと似たような顔なのに温和で優しそうな顔つきの男の人だ。

「兄貴、此奴が特級過呪怨霊に取り憑かれて特級認定を受けた乙骨憂太だ」

「は、初めまして」

「初めまして乙骨君。私の名前は禪院樹、真希達の親戚だ」

「そして悟と同じ、御三家の一つ。禪院家現当主でもある」

「しゃけ!」

「ぜ、禪院家って五条先生と一緒に僕の」

「悟君から連絡を受けて手を貸したけど気にしなくていいよ。私と悟君は同盟関係だから、要請があれば手を貸すのは当たり前だしね」

僕の秘匿処刑に反対したのは五条先生と禪院家当主だと教えられていた。この人が禪院家当主。五条先生と同じ特級で御三家の当主。

「同盟ですか?」

「そう、同盟。後は人材確保?特級の数はもう少しいてほしいからね」

「は、はぁ」

「今日は君の顔を見に来たのと、はいこれ」

樹さんは、紙の束を甚爾先生と真希さんと真依さんに渡した。

「頼まれていた呪符、ついでに持ってきた」

「お、助かる。大分使っちまったからな」

「あと、狗巻君達にも」

渡されたのは10枚ほどの紙。それには不思議な模様が書いてあって、なんだろうと首を傾げた。

「おかか!」

「これ、身内限定のやつもあるじゃねぇかいいのか?」

「今回は特別ね」

「あの~、これは一体なんですか?」

僕の言葉に樹さん以外の全員が信じられないと言った顔をして僕を見た。

「あ~、そういえばまだ案内してなかったか?」

「そういえば、そうね」

「ならこういう反応もしょうがねぇか」

「しゃけ」

「乙骨、これは呪符って言って兄貴の術式の一部を封じたもんだ」

「術式の一部を?」

「例えばこれは軽い反転術式が使える奴」

甚爾先生がナイフを取り出して腕を切り裂いて、渡された紙束から一枚取り出して破り捨てる。傷口が光り、逆再生するかのように消えていった。

「兄貴が今渡したのは、反転術式8枚と緊急離脱用の瞬間移動と影移動のセットだな」

これとこれが瞬間移動と影移動と甚爾先生が指をさしたのを見ると確かに他の8枚は同じ模様が書いてあって、この2枚が別の模様が書いてあった。

「普段ならこの瞬間移動と影移動はうちの派閥に入らないと買えないんだが」

「真希と真依の同級生だし乙骨君は特級の同僚だからね、今回は特別。これ発動に呪力要らないから空っけつでも使えるんだ。真希とか甚爾でも使えるから何かあった時用に持っておいて」

「後で呪符の売店に案内するわね。新人だからこそ持っておいた方が良い奴もあるし」

「本当なら実力とかも確認したいけど、この後海外出張でね。甚爾、何かあったら連絡よろしく。真希達もね」

「「「おう/わかった/わかってます」」」

「じゃ、命を大切に頑張って地獄を生きてね」

ニッコリと笑みを浮かべた樹さんは僕たちに背を向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

これまで波乱という波乱はなかった呪術界。

しかし、それも今日で終わりらしい。

「ん?」

式神からの連絡を受け取った。

「どうした、樹」

「ちょっと用事、少し席を外すぞ」

処理をしていた書類から顔を上げてすぐに目的地に向かう。

「…成程、頭に引っ掛かってた違和感はアレだったか」

夜の学校に監視をつけてからたまに様子を見ていた子と恵の呪力を感じて昔から思っていた疑問が解けていく。何度か単独で回収したことはあったが二つ揃っている場面に立ち会う事でその呪力の類似性がやっとわかった。

「これ、絶対あいつの仕込みだな。恵が苦戦するレベルの呪霊が普通はこんなに集まんないし」

思い出すのは額に縫い目のあった女。津美紀にも手を出そうとしてたし、やっぱり早々に殺すべきだったか。

「おっと、まずはここを何とかしてからだね。闇より出でて闇より黒く その穢れを禊ぎ祓え」

帳を下ろす。監視があると面倒なので近場にいるだろう悟君だけを通す設定にしておく。

「俺にジュリョクがあれば「はい、そこまで」え?」

「樹さん!?」

「これは没収。ダーク・ヴォルテックス」

呪霊が闇に包まれ消える。消えた後には禍々しい呪力を持った死蝋の指が落ちていた。それを拾って、2人を見る。

「なんかヤバそうだから来たけど…うんやっぱりそうか」

2本の死蝋から感じられる呪力とピンク色の髪の子の奥底に眠るものの呪力が完全に一致している。

(つまりアレは両面宿儺の器を作ってたって事か、身体能力は劣化フィジギフぐらいはあるし、他にどんな細工をしているんだか)

「樹さん、助けてくれてありがとうございます」

「恵、悟君は?」

「今頃、自分用のおやつでも買ってんじゃないですかね?」

「ふぅん、まぁいいや。とりあえず恵の治療が先かな?」

傷はそれほどひどくない。アースヒール一発で見た目の怪我は全て治った。

「今どういう状況?」

「遅かったね、悟君」

「樹がいるって恵が危なかったの?」

「危なかったのはこっちの子、えっと確か虎杖悠仁君だったね」

「は、ハイ!」

「端的に言うと君は私の監視対象だったんだよね」

「「!」」

「カンシタイショウ?っすか?」

「そう産まれた時からね。君のお母さんが明らかにお腹の中にいる君に呪術的な奴で何かしているのを見ちゃってね、君自身が何かしたってわけじゃないから監視対象として監視していたんだ」

その言葉の意味が分かる悟君と恵は目を見開いて悠仁君を凝視している様に見える。悟君は目が見えないけれど。

「何もなければそのまま放っておくつもりだったんだけど、そうもいかないみたい。悟君なら見えるんじゃない?悠仁君の中にあるやつ」

「……うそ、そこの子の中に宿儺の指がある」

「!?五条先生、それは本当ですか?」

「多分、悠仁君は人工的に作られた宿儺の器なんだろうね。流石にそれを知って放置しておくわけにはいかないからちょっとお話し合いをしようか、領域展開」

風景がいつもの闘技場に切り替わる。悟君と恵はいつもの事と反応はないが、悠仁君は突然変わった周りの景色に目をいろ黒させて驚いている。

「さて、まずは人工的な宿儺の器だと仮定して悠仁君をどうするかって話だね」

「本当に宿儺の器なら放置しておくわけにはいかないでしょ」

「それは分かりますけど、今の虎杖は非術師ですよ?高専で保護とかは出来ないじゃないですか」

「それが問題なんだよね」

「えっと、宿儺の器とかって何?」

「ああ、そういえば説明してないね。恵、何処まで説明した?」

「呪霊の事ぐらいですね、此奴の先輩が宿儺の指の封印を解くって言ってたんでそんな説明する時間はありませんでした」

「じゃ、簡単に今の状況を説明しようか」

悠仁君に呪術師とか両面宿儺とその指についてとかを簡単に説明する。

「えっと、つまり俺のかーちゃんが何かしらの目的で俺をりょうめんすくな?の器として作ったってこと?」

「そういう事だね、呪詛師として登録されているわけじゃなかったから見逃したけど失敗したかな?」

「宿儺の指は20本、そのうちのいくつかはそっちに確保されていると見るべきだ。このまま悠仁を放置して知らない所で宿儺の受肉をされるわけにはいかない。

でも悠仁は呪術師じゃないから、高専で保護するわけにもいかない…いっその事、今宿儺を受肉させる?秘匿死刑の対象にはなるけど僕と樹ならそれに無期限の執行猶予を付けることはできる」

「それは」

悟君の言葉にしばし考えた。確かにこちらとしてはそっちの方がメリットがある。高専の忌庫に保管されている6本、今ここにある2本、私が確保し領域内に隠してある6本の14本が手元にあり、残りの5本を相手側が持っていると仮定する。

全ての指を取り込むまでという執行猶予なら私の領域内に封じてあるのが見つからない限り悠仁君の処刑は執行されない。

「そうだな、その方がこちらとしては安心できる。だけど悠仁君にとってはあまりいい選択肢じゃない。常に命を狙われる立場になるけど体に封印された指の力が解放されたらどっちみち存在はバレる。

それならまだ擁護者になりえる私たちの目の届くところにいた方が安全ではある」

「すでに指一本体に埋め込まれているならどっちにしても遅いか早いかの違いだけだしね。それで君はどうする?好きな地獄を選んでいいよ」

「えっと、その両面宿儺ってのはそんなに警戒されるやつなの?」

「伝承では、人肉を好んで食べていたとか色々書かれている呪術界で一番恐れられている呪詛師だ」

「俺がそいつの器で、それを喰う事で両面宿儺が復活するって事でいいんだよな?」

「そうだね、どういうつもりで作ったのかは知らないけどそういう思惑で作られたとは思うよ」

「そのトッキュウジュブツってのは壊せないんだよな」

「そうだね、本来なら周りに被害を与えないって言う制約の元絶対に破壊できない代物なんだけどこれはあまりにも呪力が濃すぎて周りにも被害が出る一番厄介なやつだ」

「俺が喰って死ねば、それはなくなるの?」

その言葉に3人とも言葉に詰まった。悠仁君の視線は嘘は許さないと私たちを見つめている。

「…なくなるね、君が腹に宿儺を抱えたまま死ねばね」

「樹さん!」

「こんなことで嘘はいてどうするの、それに彼は人工的に作られた存在なんだ。作った製造者がいつ彼の元に現れて使おうとするかもわからないんだ。なら、私たちの監視下にいてもらった方が彼の安全のためにも必要な事だと思うよ」

「なら、俺それ喰うよ。じいちゃんに言われたんだ「お前は強いから人を助けろ」、それに抑えられる人のいない所でその両面宿儺が俺に受肉したら大変だしな」

「覚悟は決まった?って事でいいのかな」

「……全然、なんで俺が死刑なんだって思っているけど呪いは放っておけねぇ。宿儺は全部喰ってやる、後は知らねぇ」

悠仁君がこちらに手を伸ばした。

「そう、本来ならそんな心境の子をこちらに巻き込みたくはないのだけど君を放置しておくことはできないからね。悟君」

「ん、今回は僕が抑え込むよ」

「悠仁君、君がどれほど器としての適性があるかもわからない。最悪、君の自我も消えるかもしれないそれでもこれを喰らうかい?」

「ん~、自信ねぇけどなんか大丈夫な気がするからモーマンタイ」

「分かった、歓迎するよ虎杖悠仁君。地獄へようこそ」

悟君に宿儺の指の一本を渡し、恵と共に観客席に移動する。

「いいんですか?」

「ダメだけど、しょうがないよ。製造者がいるって事は使う当てがあるって事、見知らぬところで核爆弾を使われるより、私たちの監視下に置いた方がいくらかマシでしょ」

「それは、そうなんですけど」

恵の言いたい事だってわかる。非術師である虎杖悠仁を巻き込みたくないと思っているんだろう。

悠仁君が宿儺の指を飲み込み、両面宿儺が受肉する。その証のように体に呪印が現れ、近くにいた悟君に襲い掛かる。

「まだ指二本だから、子供みたいなもんだな」

「それでも俺にとっては脅威ですけどね」

暫くして突然動きが止まり呪印が消える。

「アタリだね」

「そうみたいですね」

「しばらくは見守りの式神の数を増やす、合図はいつも通り。悠仁君にも教えておいて」

「分かりました、何かあれば遠慮なく頼ります」

「うん、本当なら君たちの成長のためにも頼ってほしくないけど。いつ上が動くか分からないから」

闘技場で悟君と話す悠仁君を見る。

「宿儺を抑え込むって選別基準で選ばないとね」

何かが動き出す、そう思える風が吹いてきた。




将来的に人外になるサモナーさん
日本全国どころか地球全体に式神という目がある特級術師
何か異変があればサモナーさんに変身したレプリカントが偵察に現れ、最悪結界を無視できるフィジギフを派遣するので隠れて悪だくみをする難易度がめっちゃ上がっている
サモナーさんの時に友好的だった神様たちの特級呪霊が領域の中に住み着いており、ドラゴン達の特級呪霊も住み着いて両者からの特盛の祝福や加護と豊穣の乳などのせいでいつか完全に人間をやめて半神半竜のナニかになる

将来的に人外になる禪院甚爾
高専で元気に術師と講師として活動中
ストーカーの娘を引き取って二児の父になった
サモナーさんに育てられたせいか、神様達やドラゴン達にも気に入られて特盛の祝福や加護と豊穣の乳などのせいでいつか半人半神のナニかになる

基本五条預かりの乙骨憂太
サモナーさんの探査から逃れて不良ロッカー事件で発覚した特級術師
多分この後、何とか里香ちゃん開放して4級になって特級に返り咲いている

完全に心折られた禪院家
一番最初だったのでゲーム基準で殺し合い繰り返してたら心折りすぎちゃった人たち
完全にサモナーさんを自分たちとは違う化け物だって思っているし、反抗したりしなければ酷い事をされないと学んで術師として腕を磨き続けることで精神を保っている
よい活躍をしたら強くなれるもの(豊穣の乳)を下賜されるので頑張って任務を遂行している

サモナーさんの庇護下にある伏黒家
絶対に原作よりハッピーエンドになる事を約束されている圧倒的な勝ち組一家
家には結界が張られ、常に護衛の式神もついている完全防御態勢
養子の津美紀でも分け隔てなく愛情深く育てられて守られている
神様やドラゴン達から軽い加護がある
オリハルコン合金のネックレスを渡されている

サモナーさんの派閥
目印はオリハルコン合金のブレスレット、ダイヤモンド付きで全耐性の付与もあるので洗脳や毒などはほとんど意味が無くなっている
護衛として式神が気付かれないようについているのでスパイはすぐ判明するという事は誰も知らない
一般人出身だったり保護された術師の卵だったり、サモナーさんに恭順している術師家系など様々な人たちが所属している
保護施設以外はサモナーさんの式神たちが施設を管理運営している。料理がおいしいと評判

暗躍しようと頑張っているメロンパン
悪だくみしようにも大きく動くとサモナーさんが動くので動きにくくなった
津美紀に触れてたらその場で殺されていた可能性があったけどギリギリ回避した
何とかサモナーさんの目から逃れて悪だくみしようと頑張っている
いざ、事を起こそうとしたらサモナーさんを海外に飛ばそうと考えている

少しずつ権力がそがれ始めている上層部
メロンパンとずぶずぶの腐ったミカン達
特級の片鱗を見せていたサモナーさんを殺そうとメロンパンと悪だくみしたことがあって余計警戒されている
少しずつ自分たちの足場が削られて言っているのに気づいているけど対処できず冷汗ダラダラ

次回から本編が始まりますが、さてどうなる事やら。
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