ソシャゲ転生したら主人公の偽物だったので、偽りの久条運命としてGARDENに所属します 作:木津
運命陛下の部屋に戻り、ネットで家具を見ていたのだが、書類に追われている陛下は早々に離脱。
知らないブランドによく分からない素材。自分一人では決めきれず、迷いに迷っていたのを見かねて陛下はプロを呼んでくれることになった。なんでもすぐに来てくれるらしい。
今は陛下が飼っているエルという不思議な白い生物を撫でて待機している。
「ふんす! ふんすー!」
もっと丁寧に撫でろと言われた気がしたので優しくゆっくり手を動かす。
最初はあまり姿を見せてくれなかったがこの部屋で過ごす内に膝に乗せて撫でることができるまでになった。
白い袋をかぶったような見た目に、ふんすという不思議な鳴き声。相変わらず謎だらけの生物だ。
陛下と一緒にいる以上何らかの秘密があるはずなので、接するときは気分を害さないように細心の注意を払う。
コンコンとノックの音がする。
自分が応対しようと思ったが、膝の上のエルを降ろしている間に、陛下が先に招き入れてしまった。
眼帯をした銀髪の青年が部屋に入ってくる。
「失礼する。オッター貿易のスリー=スターズ。招集に応じて馳せ参じた」
「忙しい中来てくれてありがとう、スリー」
やってきたのはGARDENの騎士にして、この浮遊大陸の物流を担う最大手、オッター貿易株式会社の副社長、スリーだった。プロというのは家具のプロではなく物流のプロだったようだ。
「気にするな。閣下の招集はオッターの業務でも優先事項だ。そしてそちらが……」
スリーの瞳がこちらを向いた。
「初めまして。陛下の元、GARDENランヴィリズマの騎士見習いとして監視対象となっています、久条 命です。よろしくお願いします。スリー様」
「初めまして。こちらこそよろしく頼む。スリーでいい」
暇な時に用意していた自己紹介をなんとか言い終える。
自分のことをすでに伝えられていたのか、同一人物が二人いる状況にも動じず自己紹介を返してくれた。
「私にそっくりでしょ」
「あぁ、間近で見ても見た目では見分けが付かないな」
運命陛下が少し楽しそうに言っていた。プロの軍人でもあるスリーにも見分けがつかないなら見た目は影武者として100点だろう。正直陛下の影武者なんて顔を覆うマスクとゆったりとした服装のおかげで、体格さえ近ければ誰でもできそうと思っていたのでちょっと嬉しい。
「それでオッターに頼みたいことがあるとのことだったが、どういった用件だろうか」
「とりあえず座って話そう」
お茶汲み係としてコーヒーを淹れて二人の前に置いた。ありがとうと礼を言われる。
コーヒーが好きなスリーにコーヒーを出すのは怖いが、レパートリーがこれしかないので仕方ない。今度別のものを淹れられるようになろうと思う。
「話はわかった。命の私室に家具を秘密裏に運び込みたいのだな。任せてくれ」
「そう、それと家具のセレクトもお願いできないかな」
自分がコーヒーを淹れている間にすでに話を進めていたらしい。運命陛下の隣に座る。
「ふむ……命はどういったものが好みだ?」
「私としては使いやすいものであればなんでも大丈夫です」
「わかった。機能に優れた良いものをこちらでセレクトしよう。このあと実際に部屋を見ることはできるか?」
「はい、すぐ見に行かれますか?」
スリーは先ほど自分が淹れたコーヒーに目を向けた。
「せっかくコーヒーを淹れてもらったからな。これを飲みながら少し近況を話さないか?」
「喜んで。ちょうど一息入れたいところだったんだ」
陛下も異論はないようなので、3人でちょっとしたブレイクタイムを楽しんだ。スリーにコーヒーの淹れ方についてアドバイスをもらったので今後はもっと美味しくコーヒーを淹れられるようになるだろう。
その後、スリーは部屋の間取りをてきぱきと確認すると、二日ほどかかると言い残して去っていった。
「スリーとは初対面だったけどどうだった?」
二人でスリーを見送ったところで陛下が問いかけてきた。
「いきなりでびっくりしました。そもそも自分って騎士と会ってよかったんでしょうか」
ここ数日陛下の部屋に閉じ込められていたのは、自分を他者と会わせない面もあったはずだ。
「マリアが来た時点でもう監視は終わってるよ。今後は騎士との任務に向けて連携訓練とかも始まるから、皆と仲良くしてね」
「もちろんです。監視終了ということはこの部屋からは出て行った方がいいですか?」
自分を監視していた1週間は騎士たちを部屋に呼ぶことはできなかった。自分がいなくなれば、騎士をサポーターとして呼び出して、書類仕事を手伝ってもらうことができるはずだ。いや、自分がいても大した問題は無いか……
「命の私室はまだ家具が無いんだし、あと二日くらいここにいなよ」
「ありがとうございます!」
家具が来るまで陛下の部屋にいていいようだ。自分にできる限りお手伝いをしようと思う。
「お疲れではないですか? 肩もみしましょうか?」
「いや、大丈夫だから座ってて」
陛下に肩を押されそっとソファに座らされた。
【スリー】
第六騎士団「オッター貿易株式会社」のQUEENにして副社長。戦闘とビジネスに長ける青年。趣味はコーヒー。
なお、QUEENとは騎士の階級名であり、必ずしも女性というわけではない。