ソシャゲ転生したら主人公の偽物だったので、偽りの久条運命としてGARDENに所属します 作:木津
家具の手配をスリーに依頼してから二日。配送完了の連絡を受け、皆で部屋を見に行った。何もなかったワンルームは匠の手によってシンプルながらも機能的な部屋へと変貌を遂げていた。
家具を運び込むだけでなく組み立てた上、センス良く配置もしてくれている。まるで企業のモデルルームのようだ。
「ここから君の自由に部屋を染められるよう機能に優れたものからあまり主張しすぎないものをチョイスした。オッターで品質や盗聴器の有無もチェックしてある」
「すごいです! ありがとうございます」
部屋を一通り見て回る。生活に必要な家電もすべて揃っている。ベッドも高級ホテルのものみたいにふかふかだ。
「効率的に休息できるよう最高級品の寝具を用意してある。もし硬さに要望があったら言ってくれ」
「え、最高級品ですか?」
よく見ると周りの家具や家電も高そうだ。魔界のブランドものだとすると幾らになるのか想像もつかない。経費で落ちるだろうか……
「費用の心配ならいらない。これらはオッターからの歓迎の贈り物だ」
「そんな、いいんですか!?」
雰囲気に出ていたのだろうか、スリーから代金についての話が出る。これらを全部負担するとなると、かなりの額になるはずだ。まだほとんど面識の無い自分に対する歓迎のプレゼントにしてはとても豪勢だ。
「あぁ、受け取ってくれ」
「ありがとうございます!」
スリー、ひいてはオッターの歓迎に応えられるよう精一杯頑張ろうと思う。
「そこまで感謝しなくてもいい。元の発案は閣下だ。ポケットマネーから出すと言っていたものをこちらが少し負担したにすぎない」
「え!?」
「あはは。今月は少し厳しかったから助かったよ、スリー」
運命陛下は照れたように笑って、スリーに礼を言っていた。
「別にこれくらいなら経費で落としても良かったわよ。
一緒に部屋を見に来ていたマリアが少し不貞腐れたように言った。
「まあいいわ。家具の説明とかはこのあと聞きなさい。早速だけど命、あなたにお願いがあるの」
「はい、なんですか?」
新しい家具にテンションが上がっていた自分に対して、マリアは不敵な笑みを浮かべていた。
「ふわぁ」
新たな部屋で一夜を過ごした翌朝、柔らかなベッドに預けていた身体を何とか起こすと可愛らしい声が漏れる。
「ふふふ」
身支度を済ませ鏡の前に立つと思わず笑みがこぼれた。
(まだそんな嬉しいのか……)
リリィ様の呆れたような声が脳内に響くが気にならない。
鏡に映るその姿は昨日までとは全く違っていた。頭をすっぽりと覆う、悪そうな表情を映し出すディスプレイの仮面と黒いフードは男性時と変わらない。
しかし、体型や服装は大きく違う。
身長は小さくなり、首元まで覆うノースリーブの服は身体のラインがかなり出ている。上から羽織っているジャケットは大きめで、肩から二の腕までの白い肌が覗いている。下半身は大きめの布を巻き付けており、スカートというよりは着物の裾のようだ。前面の切れ込みからは片脚が大胆に露出しており、足元の大きめのスニーカーも相まって、全体的に華奢な印象を受ける。
仮面で覆われて顔が不審者になっていることを除けば、まさしく美少女だ。
そう、全オタクの夢と言っても過言ではない、TSして美少女になるという夢を叶えたのだ!! 自分が美少女になっているというだけで自信とやる気が湧いてくる。これが夢叶えしものが見る世界なのだろうか。
(いい加減落ち着きたまえよ。大体、実験中でも何度か試していただろう?)
(いろいろとあるんですよ~)
久条運命の能力、あるいは特性というべきか。世界を侵食し上書きする魔剣は装備者の魂を侵食し、その肉体を変える。
陛下の持つ魔剣リリーリベルタはSOLとLUNA、二つのモードを持つ。SOLなら男性、LUNAなら女性。これの複製を持つ自分は今まで使っていた男の姿を取るモード「SOL」からモード「LUNA」に変更することで今の姿となったのだ。
きっかけはマリアからのお願いである。
昨日から陛下の部屋を卒業しこの部屋で新たな生活を始めた。それに合わせて監視生活も終了し久条命としての任務を受けることになるのだが、全く同じ姿の人物が二人いるのはややこしいから姿を変えておいてほしいという話だった。この世界の陛下は普段男の姿をしていることが多いから、反対に女の姿になったというわけである。
陛下の影武者として存在を秘匿した隠遁生活をするものと思っていたが、存在を隠すのはGARDENの一般的な住人までで騎士たちやGARDENの必要な職員までには存在を隠す必要はないらしい。思い返せば最初の実験の時に多数の研究員に存在を秘匿していなかった。せっかくの魔剣使いを同時に二人運用できないのでは宝の持ち腐れとのことだ。
普段は別の姿で久条命として活動しつつ、影武者となるときは同じ姿となって入れ替わる。楽園聖典はそういった運用を想定しているようだ。
これから騎士たちと共に魔界に降りるための訓練等が始まる。今日はGARDEN『ランヴィリズマ』の第六層 市街区画にカノン、シオン、プログラムの仲良しKING同盟の三人とおでかけである。GARDENに慣れるため三人が案内してくれるらしい。行く場所などは自由だが条件は久条運命として過ごすこと。
いうなれば今回のおでかけは影武者としての最初の試験でもある。第六層はランヴィリズマのほとんどの人が住んでいる区画。ここですら運命として過ごせないようなら影武者失格というわけだ。
(しかし、男の姿で行かなくていいんですかね?)
(今の姿で使うものを買いに行くのに、男の姿で行ってどうするんだ。運命だって女の姿をとることもある。重要なのは、運命として過ごすことだ。男女どちらの姿でも運命として過ごせなくてはな)
騎士たちや陛下は差はあれどGARDENの住人に認知されている。姿を変えることも知られているので、ある程度姿が違っても久条運命として認識されればよいそうだ。他にはノルマなどないのでなんというか、最悪ばれてもいいかみたいな楽園聖典からの期待度の低さを感じるので頑張ろうと思う。
(運命らしくない行動をしたら減点だからな~)
(もちろんです)
脳内に審査員もいるので真剣に臨まないといけない。そろそろカノンたちとの集合時間だ。
おでかけへの意気込みを胸にして、待ち合わせ場所へ向かって部屋から飛び出した。