今は昔、竹取の翁といふもの有りける   作:何もかんもダルい

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 オリキャラ突っ込む以上、オリジナルの因縁はあるほうがキャラクターとして立つかなぁと構想し続けてついにここまで来ましたわ。
 前持って言及しておくとタケトリさま周りはちゃんと原作小説や小ネタ拾いつつ考えたカラクリがありましてよ!


タケトリの翁、縁斬りの刃

――――変動確率:97.613%

 

 まだだ。まだ会えない。

 ああ、どうしようもなくもどかしい。

 

――――変動確率:98.137%

 

 これもだめ。

 行けば取り返しがつかなくなる。

 

――――変動確率:99.998%

 

 これは一番駄目だ。

 パラドックスは厄介だ。∞と円環はしばらく見たくない。

 

――――変動確率:96.153%

 

 こっちもだめ。

 ……欲張り過ぎたのかな。罰が当たったのかな。

 

――――変動確率:98.371%

 

 いけると思ったんだけどな。

 ……寂しいな。

 

――――変動確率:95.168%

 

 これもだめか。

 大丈夫。耐えられるように作ってもらえたんだもん。

 

――――変動確率:90.007%

 

 ああ、惜しい。

 あなたの夢が、私の夢になったんだよ。だから大丈夫。

 

――――変動確率:92.874%

 

 うーん、やり直しだ。

 今日此処までが繋がった。それだけでまだ歩ける。

 

――――94.306%

 

 たとえ全てが数字に決められていても。

 

――――99.598%

 

 たとえ全てが計算づくでも。

 

――――97.350%

 

 たとえ傍観の誹りを受けるとしても。

 

――――93.001%

 

 そんなの全然、関係ない。

 

――――93.061%

 

 だって、走り抜けるって決めたんだから。

 

――――89.375%  

 

「ここしかない」

 

 ハッピーエンドまで、ね。

 

 

 

 時は数日前へと遡る。

 

「はぁ? 求婚?」

 

 意味不明の意をありったけ詰めたその一言が、私の耳を貫いた。

 鼻息荒く黒鬼と勝負だと息巻くかぐやと対照的に、俵はひたすら困惑といった感じだった。

 

「……いやこれ、求婚とか10割与太だろ」

「だろうね」

「ゔぇ~なんでぇ!? キュートなかぐやちゃんと結婚したくて勝負申し込んだんじゃないの!?」

 

 求婚、もといかぐやに男が出来るというのはもしかしたら俵のトラウマに掠るかと冷や冷やしていたのだが、当の本人は文面から半眼で溜め息を吐いていた。

 聞けば、俵に初めてKASSENを教えたのが何を隠そう黒鬼のリーダーにしてこのメッセージの送り主、帝アキラ。ついでに言えばその時に()()についても一言貰っていたらしい。

 私にだけ耳打ちで伝えてきたのは、かぐやがまた余計な事を口走らないようにだろうか。変な所で気の回る男ですこと。

 

「まず一つ、女性配信者にプロゲーマーが大っぴらに求婚とかスキャンダルどころじゃねぇ。ぶっちゃけその位は世間知らず(おれ)でも分かる」

「おまけにそれが人気急上昇中ともなれば、ねぇ」

「でへへ、人気者は辛いぜ」

「前半聞いてた?」

 

 また調子に乗って。

 俵は軽く頭に当てるくらいのゲンコツを落としてから、二本目の指を立てる。

 

「んで二つ。結婚って字面が衝撃デケェだけでお祭り騒ぎに乗った感が強い。この間おまえ彩葉巻き込んで求婚争奪戦とか何とかやってたろ」

「有り得ないって言えないのが辛い……」

「?」

 

 なんてったって新しもん好きのあの男だ。新進気鋭のライバーを見逃すはずがないし、こういう形でなくとも接触してくる可能性は大いにあった。

 

 ついでに言えば、俵に正体を明かしているのが不自然。()()()()()()なんて言い方、こいつの周囲に私が居るって確信してなきゃ出てこないはず。

 となると、少なくともかぐやを連れてくるよりも前から私のアバターを知っていて、かぐやを餌にこっちを釣り出すつもりで仕掛けた可能性もある。その場合はお兄ちゃんの目的がまるで分からないという問題点はある。

 

 最初からアバターが割れていたのなら、今日に至るまでのかぐやの配信全部見て私の言動まで把握しているのだろう。考えたくねぇー……今からでもばっくれたい。絶対なんかやってくる。

 

「第三。多分だが、本文は最初と最後の一文だ。ミニライブでのパフォーマンス見りゃ分かる、場を盛り上げるためならどんな事だってやれるタイプだろ、帝アキラ」

「……かもね」

「ぬぅ……」

 

 “俺らでツクヨミ盛り上げようぜ”……自分たちがぶつかれば間違いなくツクヨミ全体に波が起こると確信しての言葉だ。昔から器用だったし、それくらいは考えてこういうことをするはず。

 

「……っつーわけで、どっちかっつーとヤチヨカップ最後の余興として組んだ可能性が高い。この調子だとヤチヨとか運営にも先んじて話通してんじゃねぇの?」

「ぐぬぬぬぬぅ……!」

 

 当のかぐやは、俵が一切慌てず冷静に読み切ったのが気に食わないらしく、歯ぎしりしながら地団太を踏んでむぎゃむぎゃしていた。

 ここ最近のかぐやは俵に対して無遠慮というか強引というか、とにかく末っ子みたいな仕草が目立つようになってきている。

 私に対しては少しばかりの遠慮を覚えただけに――――黒鬼のメッセージが届く前にもちょっとだけこっちを慮ってきた。かぐやのくせに――――なんとなく寂しさも感じる。それを俵に雑談がてら振れば、「好きな人には良いとこ見て欲しいんだろ」なんて揶揄ってきやがる。相談相手間違えたよ、ちくしょう。

 

「人となり分かってんのにキレ散らかすワケねぇだろ」

「わらDも竹取合戦やろ~?」

「身内でやり合ってどうすんだよ、八百長だろ」

 

 かぐやの不機嫌は留まるところを知らず、効かぬと分かり切ったローキックを連打。全部刀の鞘で防がれてる。

 俵はどうすりゃいいワケなんて言ってるけど察してあげなさい。女心ってのは複雑なもんなの。

 

 そして、問題は目下最大のものに突き当たる。

 

「こっちは()()しか居ないのよね」

「ぶー……芦花も真実も冷たい……」

 

 そう、二人だ。

 芦花、真実だけじゃない。俵と友人二人も同じ予定が入っていて、私達のあとに1戦先取というスピードルールでSENGOKUを行う手筈になっている。けれど結託してるのは俵以外の4人で、あと一人は当日まで俵にも内緒、とのことだった。

 チーム分けは俵、道坂、久遠vs芦花、真実、ゲストで確定。なにやら秘密で特訓までしているらしく、かなり本気で勝つつもりらしい。

 

 なんだそりゃと散々文句を垂れていた俵だが、かぐや・いろPチャンネルの一員としてツクヨミを盛り上げるために一役買って出ろと言われたらしく、かなり渋々に納得していた。

 

 そこで問題になるのが私達と黒鬼の対決。こっち側にあと一人足らないのだ。俵を無理矢理突っ込んでもいいのだが、SENGOKUというルール自体が1試合ごとの負担が少々大きい。誰か一人だけ2回連続で出てもらうのもどうなんだという話になり、結局今日まで空席のままだった。

 ちなみに黒鬼の大ファンである真実は無理を押してでも2戦とも出ようとして芦花に止められていた。私もヤチヨと戦えるってなったら同じことしそうだし、気持ちは分かる。推しが兄って言うのがちょっと複雑ではあるけど……

 

「そこなら安心しろよ、話付けてきた」

「随分用意が良いじゃん」

「誰誰!?」

 

 あの男に負けず劣らず新しいもの好きのかぐやが身を乗り出す勢いで聞いてくる。私も今初めて聞いたのもあって興味がある。こいつもこいつで案外人気が出てきてるけれど、今の今まで誰かとコネを作っているようなところは見なかっただけになおさら。

 

「ヤチヨ」

「は?」

「……ゔるるるる」

 

 かぐやが耳を天に立てながら獣みたいに唸りはじめた。というかこっちも聞きたい事山ほどあんだがこの野郎。

 

「聞いたらお助けヤチヨとか何とかってのを派遣してくれるってよ」

「聞いたらって何、まさか運営に連絡でもしたの?」

「いや普通に個人通話」

「は????????」

 

――――えぇ~? しょーがないにゃ~、ツクヨミのためとあらばこのヤッチョ、一肌脱いであげようじゃあありませんかぁ!

 

 ……と、そんな感じで二つ返事で快諾されたんだとか。

 いや聞いてないが。普通にキレそう。何だおまえその番号私にも寄越せ……いや、それは違うな。でも嫉妬で狂いそう、どうしてやろうかこの恨み。とりあえず八つ当たりしとくか。

 

「何だお前、白髪女子に特効でもあんのかスケコマシ」

「誰がスケコマシだ狂信者」

 

 誰が狂信者だ居合バカ。というか本当にヤチヨと何も関係ないんだろうか。

 ツクヨミの管理者にしてAIライバーの月見ヤチヨとこいつに一体何の繋がりがあってこんな対応をされているのかがまるで見えてこない。

 ()()()()()()()()()()()()()からツクヨミの運営でも身内に居るのかと思えば、機械のプロは居るがプログラマー関連は居ないとのこと。

 

 あれだけ人間に近いんだから贔屓にしたい人柄の一つや二つあるだろ、と当人は宣っている。数多のユーザーを抱えるツクヨミ、その中の一人である俵がたまたま癖に引っ掛かったという可能性はないでもないのかもしれないし、実際俵はそう思っているらしい。

 

――――んなわけあるかい。

 

「適当こくにしてももうちょっと考えなさいよ」

「まだ言うか……とにかく、これで人数問題は解決だろ」

 

 そこまで言うと、今日はバイトがあるらしくそそくさとログアウトしようとする。

 ……が、しかし。そこに待ったをかけたのがかぐやだった。旅装の外套の端を掴んで、俯いたまま離さない。

 

「……かぐやと遊ぶの、嫌?」

「そうじゃねぇって」

「じゃあ、遊んでくれる?」

「時間開いてるときな」

「今がいい」

「は?」

「い、ま、が、い、い!」

 

 考えていたそばから末っ子仕草が炸裂した。

 最初の頃はともかく、かぐやはこういう相手の予定を考慮しない駄々の捏ね方はあんまりしなかった。これで自頭はかなり良い――――良いどころじゃないことも多々ある――――から、相手の事を考えるということも急速に学んでいる節がある。そんな中で俵にだけ例外的にこうして困らせるような事をするのだ。

 

「いや、だからバイトだって」

「う~……」

「ぬぐ……」

 

 そして例外的という意味では俵も同じ。普段だったら適当にあしらって押し切る所を、かぐや相手だと最近はやけに躊躇っている。

 そんな姿にやっぱり過ってくる、身に覚えのない既視感。お兄ちゃんが家を出ていく前の日々が視界を掠めて、少しだけ寂しさが湧いてくる。それを紛らわすように腕を組んで見守るのが私の癖になってきていた。

 

 そうこうして睨み合うこと十秒ほど。少し待ってろと言って俵はログアウト、残されたかぐやはやっぱり俯いたまま。

 ちなみに今日は俵は自宅からログインしている。かぐやがログアウトしたところで突撃できるわけではないので待ってろという言葉を信じて留まることしか出来ず、それだけに込み上げてくるものがあるようで。

 

「大丈夫」

「彩葉?」

 

 それをこうして宥めるのもまた、私の仕事になりつつあった。

 

「あいつはかぐやのこと、無碍になんてしない。したらワイヤーで首絞めてやる」

「うぉ、バイオレンス」

 

 ねえ、俵。かぐやが懐いたり好いたりしてるのは私だってよく言うし、自分が居なくたって大丈夫みたいな言い方するけどさ。かぐやの顔見て、もう一度それ言える?

 

 独りでなんて生きられないってあんたは諦めるように言ったけれど、結局私達は知らない間に色んな人に支えられてるんだと思う。私だって、かぐやの前にも芦花や真実がずっと傍にいた。あんたの隣にも友達がちゃんといた。

 

 独りじゃないし、独りになんてなれない。独りになんて、してやらない。

 

――――この世で頼れるのは自分一人や言うたよな? もう忘れてしもたん?

 

――――頼る訳やないよ。放っとけないだけ。

 

 過る母の背中。誰よりも正しくて強いその背は遠いけれど、その距離を少しだけ落ち着いて見れるようになった。追いつけないって焦る心も、自分よりも少しだけ近いあんちくしょうの背中も、今はちゃんと見えてる。

 

 

 十数分ほどが過ぎたころだろうか。俵は憮然とした顔で戻ってきた。

 顔を上げて耳まで持ち上がったかぐやを一瞥して、苦笑して。

 

「店長に話付けてきた。従妹のこと優先してやれだとさ」

「いい人じゃん」

「上京したばっかのクソガキの頃から面倒見てくれてんだ、頭上がんねぇよ、マジで」

 

 もしかして、と。確定していないから少しだけ不安そうなかぐやの方を、今度はちゃんと向いて笑う。

 お前はどうだ、なんてこっちを向いて聞いてくる。幸か不幸か今日は私も開いている。なんてったって病み上がりだ、無理はするなとばかりにこっちもバイト先の店長から言伝を預かってしまっている。

 勉強も長くやりすぎるとかぐやが隣で不安そうにそわそわするせいで手短に終えてしまうようになって、誠に遺憾ながら時間は空いてしまっていた。いくら一度体調崩したからってスポーツドリンク片手に待機しなくてもいいって。

 

「遊ぶぞ、かぐや」

「~~~~っ、うん!!」

 

 陰っていたお日様がようやく顔を出してくれた。

 ひゃふひゃふひゃほほ、なんて珍妙な声で喜びながら兎みたいにびょんびょん跳ねている。

 

「前よりずっと甘くなったじゃん」

「お前よりか厳しいっつの」

 

 何だとこの野郎。人の事を甘やかし一辺倒みたいに。

 

 ジト目で睨んでやれば、あいつは真面目な顔でこっちを見ていた。何事かと聞けば、例の引っ越しと、私からの()()についてだった。

 かぐやも交えたことで色々と話が拗れていたのだが、俵としてはかぐやと私が安全な所に住んでいないといつまで経っても気を揉むことになるし、私達の方は特にかぐやが事あるごとに一緒に住もうと提案していたということもあり、例のマンションに引っ越そうかという話になっていた。

 そして、話がまとまった段階でこいつは一晩考えさせろと言ってきたのだ。曰くこういう話を勢いで決めると碌な事がないと。

 

「冷静に考えたうえで乗ってやるよ……というか、今目ぇ離したらこっちまで具合悪くなりそうだしな」

「かぐやに飽き足らずあんたまで言うかい」

「そんだけ心配かけてんだって自覚しやがれ、過労JK」

 

 それを言われるとぐうの音も出ない。17歳の苦学生女子が赤ん坊抱えてパニックで電話してきた、なんて初手も初手でこいつの古傷を踏み抜いていたと分かった以上は反論できなかった。

 

「俺が保証人用意すんのは多分簡単だ、親父その辺甘いからな」

「なら――――」

「その上で、だ」

 

 文句は許さんと前置くように指差して、俵は条件を突き付けてきた。

 

()()()()()()()()()()。好いてもいねぇ野郎と戸籍なんてある訳ねぇ宇宙人配信者の3人で同居するなんて訳の分からん経緯に納得するような奴をな」

「……」

「俺の方は別にどうだっていいさ。けど、お前は違ぇだろ」

 

 男女で心配の程度に差が出るのは自明の理。ましてや受験を控えつつある高校生という多感な時期、素行という点で睨まれかねないこの構成に理解を示すような相手を見繕ってみろ、と。久しぶりな気のする正論っぽい口ぶりは、やっぱり心臓に悪い。

 

「できねぇならそれまでだ。正気や本気どうこうじゃなく、お前じゃ常識蹴っ飛ばすにゃ足らなかったってだけの話だ」

 

 できないのなら諦めろ。

 その一言に、久々にかちんと来た。

 

「ええよ、やったる」

 

 ――――ちょうど、おあつらえ向きに喧嘩吹っ掛けてきた()()()()()がおるさかい。精々利用させてもらうわ。

 

「かぐやー、ちょっと来て」

「どしたの彩葉?」

 

 

 

「――――お兄ちゃん的に、男と同棲ってのはちょっとなぁ?」

「数年、放っぽった……ッ癖に、今更!」

「そこを突かれると痛いな、っと!」

「どわぁっ!?」

 

 双剣形態での連撃を軽くいなし、かぐやの加速したハンマーすら側面を叩いて簡単に流されてしまう。

 黒鬼はプロゲーマーチーム。それを率いる帝アキラがこの程度、できない訳もない。そもそもからして、昔からずっとゲームでの鬩ぎ合い(これ)やってるんだ、付け焼刃じゃそりゃ通らない。

 

「私の友達に結婚申し込んどいて、こっちのお願いは聞きもしないってのは不公平じゃない?」

「はは、言うようになったじゃん」

 

 ヤチヨには乃依と雷の二人を徹底して抑え込んでもらっている。1戦目こそ鈍足連射に掛かってやられてしまったが、2戦目でかぐやの作戦もあって残機を削りつつ、1勝をもぎ取る事には成功している。

 帝アキラという突出した前衛をフォローする後衛の二人。2対1で拮抗どころか半ば遊ばれている所へ合流なんてされようものなら間違いなく勝てないし、1対1(タイマン)なんてもってのほか。

 

 作戦を差し置いてもそもそもの経験値で圧倒している状況で、それでもお兄ちゃんは今も私とかぐやとのタイマンに拘り続ける。例えそれが圧倒的不利を被るとしても。

 

――――彩葉にだって譲れへんもんはあるよ。

 

 黒鬼は、夢を見せなくちゃいけないから。夢で魅せる3人だから。それはお兄ちゃんの()()()()()()なんだろう。

 

「私もね。あいつとかぐやの事は譲れんよ」

「――――」

「あいつ、いつも何でもできて、器用に何だってやって、その上で自分のご機嫌取りまでして……せやけど、その裏で、ずっと抱え続けとるから」

 

 器用過ぎて、傷が治らないまま歩くのすら上手いから。

 腫れて膿んで痛い古傷を、いつまでも宥めながら歩けてしまう姿が想像できるから。

 

「せめて、あいつが安心して戻って来れる場所くらい、用意したいんよ」

 

 ブーメラン形態で遠心力を利用して薙ぐ。双剣より威力の乗った近接を受けるのではなく避け、その移動先にかぐやが待ち構える。

 

「ばっちこーい!」

「させねー、よッ!」

 

 上体だけ反らし、咄嗟に引き抜いた仕込み刀でかぐやにダメージを与えつつ、同時に銃器で此方を牽制――――ここだ。

 

「かぐや!」

「うおりゃぁ!」

 

 咄嗟に張り上げた私の声を無視した――――と、()()()()()

 がむしゃらにぶん回されるハンマー。距離を取りつつ斬撃とブーメランでかぐやをフォローするように立ち回る。

 連携が取れて来てるのは向こうだって察してる、引き伸ばし続ければ感づかれる可能性だって十分ある。だから、決着は速攻で!

 

「う、おんどりゃぁっ!!」

 

 思い切り地面へ叩き込まれるハンマー。()()だ。

 かぐやは地面へめり込んだ武器を引き抜く、と見せかけてさらに深く押し込み、極太のアンカーのように固定。それを隙と見て帝がかぐやを蹴り飛ばすが、問題ない。

 

 小回りの利く遠距離を持ってるこっちを警戒して帝は銃器での牽制を続けている。二発、三発と射撃を弾きながらタイミングよく片手のブレードを投擲、背後の岩へ突き立てる。

 

 此方が片手となった瞬間に帝が仕込み刀で大きく此方を弾いて、銃口を無手のまま転がるかぐやへと向けた。

 

「ゲームセットだ!」

 

 投擲した方のブレードは既にワイヤーを射出している。

 先端はかぐやのハンマーへ刺さっている。

 

「彩葉!」

「な……!?」

 

 ワイヤーの巻取りが起動する。

 深々と差し込まれ、ついでとばかりに押し込まれた先端はそう簡単には抜けない。

 

 であれば――――引き抜かれ、振り回されるのは巻取り機構(ブレード)の方。

 中間地点に存在していた帝にたわんでいたワイヤーが引っ掛かり、そのまま振り子のように回転しながらきつく締めあげていく。

 

 合図以外は全部アドリブ。かぐやが前に出て、私はサポートと思わせ、そしてトドメを私が持って行くなんて雑な作戦。

 でも委細問題なし。だって、ここまで来たのがその証明。

 

 膝を曲げ、納刀するみたいに腰だめに構える。

 過る狼面。

 いつだって太陽みたいにきらきらしてる満月と、いつだってムカつくくらいに静かに輝く星月夜。

 

()()()()()()()()()くらい、分かってるっつーの!!」

 

 夢くらい、魅せてあげなきゃ。

 

 疾走しながら振り抜くブレード。

 両断される帝アキラ。

 

 これで、決着。

 

「――――やりゃ、できんじゃん」

 

 お兄ちゃんは、なんだか安心したみたいに笑っていた。

 煽るような物言いしまくっといて、最後は随分殊勝で。

 なんとなく、複雑だった。

 

 大喜びで駆け寄ってきたかぐやと“仲良しのやつ”を決めてからライドに乗って天守閣へ。

 帝もとっくにリスポーンして急いでいるだろうけれど、仮に超加速(ウルト)を使われてもこっちの方が早いはず。

 

「彩葉が危なくなったら、かぐやが助ける!」

「……かぐやがミスっても私は置いてくー」

「なんでぇ!?」

 

 思わず噴き出して、笑って、そしてかぐやを見る。

 だって、なんて言いながら親指を背後に向ければ、それだけで察してくれたみたいで。

 

()()、最強ー!!」

 

 涙を浮かべながら笑って拳を突きあげるかぐやを見ていると、どこまでだっていける気がした。

 

 

 

 ――――で、だ。

 

『――――来ちゃった♡』

『――――来ないで☆』

 

『おーっとわらD、なにやら予想外の反応!』

『何でも故郷の幼馴染らしいですねぇ、そそるぜこれは!』

 

「がぁるるるるる!!!」

「人語喪失すんなって」

 

 私達の優勝が決定してから始まったエキビションマッチ。何を聞いたのか気炎を上げる芦花と真実、ジト目で俵を小突く道坂と久遠。

 ここぞとばかりに会場の熱気を煽る実況の乙事照琴と忠犬オタ公。

 仮面越しでも分かるくらい冷や汗ダラダラの俵、同じように仮面をつけているのにビシビシ伝わってくるえっぐい情念を抱えた白髪の少女。

 そしてさっきから人間性を喪失しているかぐや。

 

 タケというユーザーネーム、そしてヤチヨとよく似た白髪に薄桃のインナーカラー。間違いなく……

 

『……あれ、タケトリ様ってやつ?』

『おそらくメイビー間違ってて欲しいけど多分きっとそう』

 

 個人用のチャットで軽く聞いてみれば正解の模様。見た事無いくらいの勢いでパニクっている。

 

 電波がギリギリ届く程度の山奥の集落、そこで祀られている縁切りの神様にして俵の幼馴染が、なぜかそのままの姿でツクヨミへやってきて、そして対戦を所望している。

 

『いや意味分かんねー』

『こっちが聞きてぇんだわ』

 

 一言一句デタラメすぎる。なんだその訳の分からん関係は。事実が小説よりも奇なるにしたって限度がある。

 

『理由不明、目的不明、原理不明、5W1H全部分かったもんじゃねぇ』

『でも今更逃げる訳にも行かないでしょ、頑張って』

 

 通話を切って観戦用モニターへ視線を移す。

 色々ムカッとする要素は多々あるけど、俵から多少事情を聞かされてる分困惑の方が多い。だからせめて情報を拾おうと頭は回転していた。

 

 

 

「で、だ。お前の幼馴染、どっからアクセスしとるんや?」

「集落からはまず無理なはずなんだが。電波1本がデフォだし」

 

 開始地点で、俵を筆頭とした3人は小突き合いを止めてミーティングを始めていた。

 「タケトリさま」がやって来ているなど想像できるはずもなく、俵の脳内では疑問符が桜吹雪の如く舞っている。

 

 お互いの情報のすり合わせをする中で、彼女が「タケ」というネームで接触してきたこと、俵の幼馴染を自称したこと、そして縁切りの神様を祀る神社の出自と名乗ったことが判明している。

 そして、肝心の目的についてははぐらかされてしまった、とも。

 

「あんな可愛い子ほっぽって東京の女に現抜かすとはな、スケコマシ」

「今ここで残機減らしておくか?? 俺ぁ別にいいぞ根性無しが」

 

 鍔なりの音をギチギチと響かせて睨み合う久遠と俵。まあまあと鬩ぎ合いを一旦宥めた道坂は、作戦立案へと話の舵を切る。

 

「まあまあ、残機減らすかどうかはあとでやるとしてや。十中八九嫉妬で殴り込んで来たやろ」

「だろうな」

「……嫉妬する要素なんてあったか?」

 

 一瞬双剣を引き抜きかけた久遠を制し、道坂は話を続ける。重要なのは動機ではなくどう動いてくるか、と。

 事情がどうであれ、これが勝負である以上手は抜かない。それが道坂の一種の拘りだった。

 

――――私を置いて行って、気が付けば他の女の子のお世話してるんだもの

――――もう1年以上音信不通なのよ? いい加減ムカついても仕方ないと思わないかしら

――――私のこと、飽きちゃったんだと思うの。だからサプライズしようかなって

 

「事情がどうあれ、間違いなくあの子はお前を狙ってカッ飛んでくるはずや。ちっとばっか手合わせしたけど、異常なくらい強いで」

「正直あれは3対1でも手に余る。悪いがお前に任せるぞ」

「縁切りの専門家が刃物片手にやって来てる件についてはスルーかよ」

「刺されとけ」

「おいコラ」

 

 仮に芦花と真実の二人を俵が相手するとしよう。2対1でも善戦できるだけの実力は俵にもあるが、例え肝心の櫓を無視してでもタケが俵へと突っ込んでくるのは目に見えている。俵に内緒で行った会話と軽い練習の中で、道坂と久遠はそう分析していた。

 

 故に、作戦らしい作戦といえば芦花と真実を道坂と久遠が抑え、その間に突出した戦力であるタケに俵が立ち向かうという一択となる。

 

「マジな話、お前の選択肢は3対1か1対1や」

「3対1を選べば尋問も付いてくるぞ」

「最近受けたばっかなんだけど」

「どういう状況だよ」

 

 愚痴り合いに近い作戦会議がひと段落したころ、開戦を告げる法螺貝が鳴り響く。

 カラスのライドに乗って俵はトップレーンへと向かい、二人はマップを確認してから予定通りにボトムレーンへ。

 

『1戦先取やから、ここで櫓を両占拠(コールド)されればそのまま負けや。残機は有って無いもんやと思った方がええ』

『へいへい了解……しくじんなよ、久遠』

『何で今俺を名指しした?』

 

 女子相手だとやらかすから、と二人の声が一致し、再びギチギチと鳴る双剣。

 そんな軽口もミニオンからの攻勢によって終わりを告げる。

 

『……まあ、あれだ。ちゃんと話してこい』

『だーから、訳わかんねぇって……!』

 

 それぞれがライドから飛び降り、ミニオンを蹴散らしていく。

 

 納刀したままの大太刀にぶん殴られて軽い悲鳴を上げながら消えていく雑兵。

 櫓へ駆けようとした旅装の視界に、白が映る。

 

「残念」

「いきなり首かよ……!」

 

 超速で抜き放たれた大太刀の切っ先は、半ばまで鞘から抜かれた大太刀によって迎え撃たれる。

 位置は背後。開けた地形の中、どうやって移動したのかタケは俵の背後から一撃必殺狙いの強襲を仕掛けていた。

 

 激突する抜き身の刃と白い鞘。いつものように居合で格好をつけている余裕はないと俵も抜刀し、剣戟に移行する。

 

「つーか、喋れたのかお前!」

「昔は無理だったよ? 喋れるようになったのはほんの最近」

 

 鞘を杖代わりに使って高跳びのように跳ね、大上段からの唐竹割り。まるで読んでいたかのように受け流しで対応する純白。

 連続する金属音が文字通りに鎬を削り合い、忘れた頃に鞘による打突や殴打が繰り出され、そしてそれを受けるか避けるか。直撃こそしていないものの、互いのHPは着実に削られていく。

 

「何で来た、つうかどうやって来やがった」

「方法は……秘密かな。チートとかハックじゃないから安心してね」

「理由は!!」

「そんなにピリピリしないでよ」

 

 余裕の表情で鍔迫り合いから離脱し、距離を取って納刀する少女。

 一方の俵は理解不能の連続で露骨に神経をすり減らし、明らかにパフォーマンスが落ちている。

 

「君は、さ。こっちに住むことにしたみたいだね」

「……なんで、それを」

 

 彩葉とかぐや以外にまだ誰にも言っていない筈の引っ越しの子細。後から連絡するはずだったそれを、縁切りの神(タケトリ)さまが知っている。その事実に薄ら寒いものを感じながらも、視線だけは決して離さない。

 

「置いてっちゃうんだ、私のこと」

「盆と正月くらいは帰る。第一、山入りゃいつだって居ただろお前」

「いつでも会えるわけじゃないって、けっこう辛いんだよ?」

 

 眉根を下げて、僅かに寂しそうにするタケ。だが、その瞳には先ほどのような情念はなく、ひたすら穏やかに好意を伝えてくる。

 

「おまけに私によく似た……こっちはいいか。別に」

「何処まで把握してやがる……!」 

 

 昔日の懐かしさが吹き飛ぶような薄気味悪さに戦慄しながら、俵は刀を構え直す。

 彼には眼前の少女が幼少期に遊び回った幼馴染などにはもはや見えていない。人ならざる何かが、人間に見える形で立っているとしか思えない。

 

 少女は視線を自身の刀に向け、そして自らの髪を一房手に取り、撫でる。

 本当は全部()()()にしたかった、と呟きながら。

 

「でもね、私にも譲れないものがあるの」

「……」

 

 視線が俵へと戻る。

 金色一色の人知を超えた瞳が只人を射抜く。

 

「ねぇ、私が勝ったらさ、帰ろうよ。全部切り捨てて」

「……は?」

 

 予想外という程ではない。縁切りの神である以上、縁を切るために出てきたという可能性は俵も考えていた。

 だが、今のように条件として提示してくるとは思っていなかった。それが狼面の意識を漂白する。

 

「お母さんに謝りづらいなら、一緒に行ってあげる。面倒臭い事全部斬って捨てて、あそこで静かに生きていこうよ。きっと皆怒らないから」

「……」

「君が居なくても、きっとみんな大丈夫。でしょ?」

 

 それは姉のような、或いはもう一人の母親のような声色だった。幼き日、少年が無口だった少女を引っ張っていた時は妹か娘のようだったというのに。

 毒のように沁みてくる思い出と、郷愁。忘れ去りそうになっていたそれが、再び彼を蝕む。 

 

 「タケトリさま」が単なる与太話や土着信仰でないことを、俵は目の当たりにしている。

 本当に切り捨てられてしまうのだ。縁も、思い出も、全て。願った本人だけがそれを覚えていて、世人からは忘れられてしまう。

 円満な離別。絶縁。リセット。完璧なゼロからの再出発。通常極めて難しいはずのそれが、タケトリさまには出来てしまう。

 

 後ろ髪を引く恋しさ。

 だが、それを跳ね除けるだけの理由が俵にはまだある。だから頷かない。刃を向け続ける。

 

 そんな姿に、やはり困ったように微笑みながら。

 

「私が勝って、無理矢理全部切り捨てても、きっとあなたの心は私に向いてくれないよね」

 

 納刀した刃を、改めて引き抜く。

 長大で、傷一つない、白く艶やかな直刃。

 

「私が負けて、あなたが留まっても、結局時折顔を見せてくれるのなら……こんなこと、する意味ないんだろうね」

 

 鞘を捨て、刃を両手で腰だめに構える。

 十二単をモチーフにしたような純白の衣装が微かにひらめき、刀身を覆い隠した。

 

「でもね。決着をつけないでうじうじしてるより、ずっと良いかなって、思ったんだ」

「……」

「だから、あなたの友達に接触した。相談して、けっこう無理も聞いてもらったの」

 

 感情の分からない穏やかな笑みは、不思議な既視感を呼び起こす。

 結われていない長髪が、金色に染まったように錯視する。

 起きたことに対して抗うのではなく、受け入れて覚悟するとばかりの言動は、見覚えしかない。

 

「じゃあ、改めて始めよっか」

 

 彼女はタケトリさま。

 縁を切るために、現れる。




次回、SAIKAI
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