私は実家でてんやわんやしながらキーボードに齧り付いていましてよ!
お疲れ様本無料公開マジ感謝でした。ありがとうございます公式様……
夏は予定的にムリだった分冬コミに是非とも行ってみたいですわね!
「それにしても、とんでもない無茶してたのねあんた」
『初動が俺の勘違いだったのは痛恨のミスだがなぁ……かぐやを守るために俺に寄越したもんだと思い上がったのがダメだった』
未来の月との接続を経て、俵の声はより鮮明に聞こえるようになった。最初はすごく驚いたけど、どうやら月で過ごした時間が長すぎたせいで自分の身体という概念そのものを忘れてしまったのが原因らしい。発話すら困難で機械音声とチャットでどうにか会話している状態だったわけだ。
『意識はハッキリしてんのに声の出し方は忘れるわ、テメェに手足があった感覚すら曖昧だわ……もう月、っつーか電子宇宙は勘弁だ』
「……本当に自分がどこにいるか分からないの?」
『てんでダメだな。星もない宇宙空間を魂だけでうろついてるみてぇだ。お前やかぐや達と通信できてるのはわかっても、現在位置がまるで分からん』
どこかに自分がいるのはわかっても、それが何処なのか分からない。正気を失いそうな状況でも何とかなっているのは俵の精神が強いからなのか、あるいは俵とタケトリさまが生み出した技術によるものなのか。
俵が戻ってくるためには、やっぱりかぐやとヤチヨ──どうしても分かりづらくなってしまうからヤチヨ呼びで我慢してもらってる──の協力は不可欠かもしれない。
『それで? アイツを説得できなきゃタイムパラドクスで全部おじゃんな訳だが、いけんのかよ。身内贔屓込みでも一度決めたら相当頑固だぞ』
「大丈夫」
俵とかぐやはこうして戻って来れた。それでも月の「彼女」に地球へ行く理由を与えることが出来なければそこで終わり。彼女の選択一つに俵のこれからが掛かってる事実は変わらない。
『クソ真面目でもあるからかぐやを地球に返す約束は守ってくれるだろうさ。だがそれで終わりにして、俺を眠らせたまま人里離れた場所で静かに朽ちる……なんて、簡単に想像できる』
あの時に感じた壮絶な拒絶と嫌悪、軽蔑。何もかもが嫌になって諦めたような真っ暗な思惟。あれが変わるきっかけがないままに俵の言う通りの計画で地球へ来れば、今のタケトリさまは生まれることはなく、俵の生まれ故郷もきっと生まれない。俵だけが消えた世界になる。
『俺は正直それでも良かったんだがな。あいつの選んだ道だ、寿命で世話投げちまった俺が関われる範疇じゃない』
「……でも」
イントロを聞かせた時、彼女は確かに心を動かした。
理解不能な衝撃に打ちのめされた思考が、はっきりと私に伝わってきた。あれは決して錯覚なんかじゃない、まだ彼女に伝えられることは残ってる。
それに、何より。
「あのまま放っておくなんて、そんなの絶対ハッピーエンドじゃない」
『……なんつうか、かぐやに似てきたな』
「逆に聞くけど、あんたは自分の言葉に納得してるの」
『…………してる訳、ねぇだろ』
それ見たことか、なんて鼻で笑ってやる。ここに来るまで随分掛かってしまったけれど、結局私はかぐやのことが大好きだし、かぐやが悲しむと思えば居ても立っても居られない。
ふつーのエンディングなんてもう御免。我慢なんてできやしない。
それも全部、かぐやが教えてくれたことだから。
「あんた達を、ハッピーエンドまで連れて行く!」
◇
「遥かな未来からコールドスリープで帰ってきた親子……分かるっ!」
何が分かったんだろう。この反応するのも卒業ライブ防衛戦のミーティング以来だ。
今になってみれば、あれも含めてお兄ちゃんなりのポージングだったのかも知れない────"どんな事情だろうと彩葉の味方だ"って。
「かぐやちゃん帰って来れてよかったぁ〜〜」
「うぇーい真美ぃ〜」
「じゃあヤッチョは芦花にぎゅ〜」
「わ、っとと、へへ」
「ヤチヨちゃんの正体がもう一人のかぐやちゃん、分かるっ」
「思えば、顔立ちは似ているな」
「目元とかねー」
あの時同様包み隠さず全てを話した訳だけど、やっぱり皆はちゃんと受け入れてくれた。あの時よりも状況のめちゃくちゃさは数段上がっただろうに、私が変な嘘はつかないはず、なんて信頼だけで真面目に全部聞いてくれた。それにどうしようもないほど胸が熱くなる。
「あとは俵だけど……」
『帰って来てるっちゃ来てるんだよな、これが』
「ほんまにめちゃくちゃなことしおったなお前」
「……言いたいことは山ほどあるが、土壇場での判断だったんだ。今回は許す」
『悪ぃな……』
こっちもこっちで受け入れてもらえたみたいで少しほっとする。喧嘩でも始まったらどうしようって内心びくびくしてたから。
「酒寄さんとかぐやちゃんには悪いけど、結果論的にはあの時に失踪して正解やったかもしれんなぁ」
「俵が防衛戦に居たら例の縁切りで暴れていたのは目に見えてる。それで向こうが俵を連れて行こうとしたら……」
『本気になった歴戦の軍隊に子供が挑んだところで、結果なんて見えてるわな』
我がことながらかぐやが倒れただけでもあんなことになってしまったんだ。同じタイミングで俵まで消えたとなれば、正直立ち直れたかどうか。
ある程度の内心の吐露が終わった段階で、話は俵も交えた考察に入った。
タケトリさまが明確に干渉したのがあの一度だけだったのはタイムパラドックスをヤチヨ以上に警戒していたからではないかというのが結論。
今になってなお干渉を絶っているのは、彼女にとってこれから起こることはそれだけ重大な意味を持つんだろう。だからこそ手は抜けない。限られた時間で私の、私たちの持ちうる全てをぶつける必要がある。
「それで? 今度は何考えてるわけ?」
「前みたいにKASSENで戦うの?」
「大まかに言えばそうです」
あの後、私はヤチヨ経由でメッセージを「彼女」に送った。
内容はライブとKASSEN、双方のお誘い。
あの日は1番までしか出来ていなかったReply。私が全てを込めたあの曲を、
「それを、彼女に
彼女が抱えた悪意の全てをぶつけてもらう。その上で、それを私達が超えられると証明する。
「かぐやとヤチヨには俵の捜索をお願いしたいの。二人なら電子の海を総浚いすることもできると思うから」
「で、彩葉の初のソロライブを叩き壊しにくるだろう未来の月のタケトリさまを俺たちが迎撃すると」
「形式としては大ボス1体を相手にしたレイド戦か」
私一人で歌ってもきっと意味がない。
かといって、単純に戦って勝つだけじゃもっと意味がない。
彼女の心を揺らして、震わせて、魅せないといけない。
「私は演奏と歌に集中するから無防備になる……お願い、皆」
────私を守って。
その一言は、思っていたよりもずっとずっと勇気の要る言葉だった。
母の言葉はもう聞こえなくても、それでも他の人への迷惑なんじゃないかという気持ちは消えてくれない。
お母さん。一人で生きてきた貴女は、こんなことを言えない世界を生きてきたの? それとも、お父さんが何でも背負ってしまいそうな優しい人だったから、尚更に頼ることをやめてしまったの?
答えはきっと、母が墓場まで持って行ってしまうだろう。だから、私は私なりに、皆と、かぐやと生きていきます。
下げた頭と覚悟した心のまま聞く沈黙がなんだか怖くなって、薄目で皆を見る。
皆は呆れたように笑っていた。
その呆れは、なんだか身に覚えのある顔色。少しだけ呆然として、すぐにいつも私がかぐやにしてた顔なんだと気付く。
「やっと言ってくれたね、彩葉」
「傷一つだって許さないから」
「今度こそ任せとけよ、俺たちが最強なんだから」
「リベンジ、だな」
「リーダーは絶対だもんねー」
「ダチの娘と遊ぶなんて、よくあるシチュエーションやないか」
「一人でしか遊んだことないんだろ? マルチの良さも教えてやらないとな」
口々に発される肯定がむず痒い。でも、誰もが異論なく頷いてくれたことが、泣きたくなるくらい嬉しかった。
その最中、笑顔を一度潜めて道坂が聞いてくる。
「んで、問題は酒寄さんのメッセに向こうが律儀に動いてくれるかやけど……」
「きっと大丈夫」
答えたのはヤチヨだった。表情は心なしかいつもより明るくて、何だって出来そうな充溢を感じる。
「タケちゃん真面目さんだから、お誘いは断れないよ」
「彩葉みたい」
「言われてみればそうかも」
「何だかんだ約束したら断れないもんね」
失礼なと言いたいけど、今となっては割と身に覚えがある……その節はご迷惑おかけしました。
真面目だから誘われないと遊ばないし、誘われれば律儀に時間を空けてしまうだろう。かぐや防衛戦の時の月人の律儀さからして、KASSENのルールを学習して自ら則ってくるのも目に見えてる。
無視して俵を抱えたままにすれば、私たちには何もできずにゲームオーバー。けれど、お願いされたら断れない。真面目すぎるから土俵に立つ以外の選択肢を考えられない。
それは、ああ、確かに。ひどい既視感もあったものだよ。
『真面目に育てすぎたかねぇ……もう少し遊んでやれば良かった』
「俵がお父さんみたいなこと言ってるー」
「パパ助ー」
「パパ助だー」
「ちょろ葉にぱぱ助〜」
『誰がパパだコラ、それ言っていいのはアイツだけだわ』
「かぐや、後で覚えてなさいよ」
ここぞとばかりに調子に乗りおって。あんたには何が何でも俵を連れ帰ってもらうって重大なミッションがあるんだからね。
────そして、そんな穏やかな空気は一通のメッセージでかき消される。名前はMoon10000、彼女からだ。
「彩葉、タケちゃんは」
「……来るって」
決戦の日は、十日後。
ファンの人たちには悪いけどゲリラライブといかせてもらおう。
『急展開に次ぐ急展開! 衝撃の卒業からはや十数日、まさかのいろP単独ライブ決行だぁ────!』
かぐや推しを公言していたオタ公さん。メッセージが来てすぐにMCの打診をしたのだが、即座にOKを出してくれた。かぐやにどうしても伝えたいことがあると口頭で話した瞬間に嗚咽が聞こえ始めたのは流石にびっくりしたけど。
『騒いでる暇なんて無いぞオタク共! 月へと去ったプリンセス、霞と消えた狼の剣士! 届かなかったあの日にもう一度と、第一人者が声を張り上げてきたんだぁ!!』
『なんか有る事無い事叫んでねぇかあの人』
「テンションすげー……」
なんかすごい勢いで誇張されてる気がする。いやまあヤチヨがかぐやだと分かってしまった以上半分合ってる感じではあるんだけど。もう半分が風船の如く膨らんでってるというか。
準備期間中に知ったのだが、かぐやは卒業後に流す動画としてインタビューを予約投稿していた。答えていく言葉の中には「ヤチヨに後を任せる」という要旨のものもあり……隣にかぐやがいて、画面の向こうにヤチヨがいるのにそのまま泣き崩れてしまったのは記憶に新しい。結局立ち直るのにまた丸一日使っちゃったっけ。
それはともかく、会場の熱気からしてもたった10日という期間で凄まじい数が駆け付けてくれたんだと分かる。ほんと、かぐやはみんなに愛されるアイドルだよ。
「行ってらっしゃい、彩葉」
「俵のことは任せてよ」
二人のかぐやが背中を押してくれる。
いつだって私を引っ張って振り回してた手は離れてしまったけれど、もう寂しくない。
けれど、一つだけ。
「パンケーキ、絶対食べれるようにするから」
ヤチヨもそうだが、かぐやの器となっている仮初の体では食事ができない。あくまでも実体の感触を与えるホログラムのようなものだから、言ってしまえば外見だけのハリボテ。消化器をはじめとした内臓はもちろん未搭載で、スペック確保のために味覚もオミットされていた。
「彼女」に希望をぶつけて、そして何年掛かってでもかぐやとヤチヨの体を造る。それが今の私の夢になった。今は母と先生を説得するために理転しつつ進学先や志望理由なんかの準備中だ。
『デケェ夢掲げたもんだな』
「大きさなんて関係ないでしょ」
『ま、それもそうか』
頭の奥へ響く声はどこか穏やかで、呆れたような響きを持っている。いつだかみたいなやりとりは気安くて、気が付けば寄り掛かりそうになる。
『聞いたぜ、学校もバイトもズル休みしたんだって? 随分不良になっちまったなぁ学年一位様』
「あんたこそ、そんな有様で学校どうすんのよ」
前はそれが怖かった。誰かに頼るのが、自分一人で立てなくなるのが。いつか足元が崩れて一人投げ出されるんじゃないかって。
『それなんだがな。やっぱ、辞めようと思う』
「本気? 真面目はどこ行ったのよ」
『学校より大事なこと出来たからな。それに、皮肉だが学校の成績なんざどうでもいいくらいの知識は手に入れちまった』
でも、違ったんだ。こいつも私も、最初から一人でなんて生きてなかった。独りでなんて生きられなかった。
『テメェの子供放り出して自分は自由なんて、それこそ不真面目だろ。何言われるか分からんが、親父や母さんともちゃんと話そうと思う』
「……そ。なら頑張りなよ」
『おいおい、援軍にも来てくれねぇってか?』
「もとより要らないでしょ? 何だったら人の陰に隠れて口だけ出す方が不真面目だーって言い出すじゃんあんた」
『はっ、御名答』
芦花も、真美も、お兄ちゃんも。もちろんかぐやとヤチヨだって。俵だって同じ。私が応えようとする限り、笑って応えてくれる。そのつながりが泣きたくなるほど心強い。
『歯痒いが、これもテメェの行いのツケだ。かぐや達に全部任せて待ってるさ』
行ってこい。そう言われて、私はステージへの階段を上がっていく。
いつもはエレベーターで昇っていくそれを、わざわざ階段にしてもらったのは、ひとつのけじめのためだった。
誰かに乗せて行ってもらうんじゃなくて、今だけは自分の意思であの場所に上がりたい。
一歩一歩、踏み締めるたびに近づいていく歓声。胃が縮み上がりそうになるのを必死で押さえ込む。一度や二度で慣れやしない。失敗したらどうしようって思いはいつだって付きまとう。
でも、それを上回る「やりたい」って心が熱を持っている。あの日の、ヤチヨとかぐやが一緒にいてくれたライブの高揚を、体がまだ覚えてる。
「ぜんぶ、大丈夫!」
だからきっと大丈夫。
その声と共に、最後の一段を上がり切った。
あの日のように、スポットライトがステージを照らす。
あの時はかぐやが主役だったけど、今回は私。そのことに不思議なおかしさが漏れる。あれだけ裏方がいいって言ってたのにね。
「皆さん、急な開催にも関わらず集まっていただき、ありがとうございます!」
今もステージの調整をしてくれている裏方の人にも届けと、声を張り上げる。
「あの日、私はかぐやとお別れをしました」
しんと静まった観客席。私の言葉を待ってくれてる。
伝えるんだ。
「本当に突然でした。このままずっと一緒だと思ってたのに、あのライブの後すぐにかぐやは居なくなってしまいました」
啜り泣くような声。あちこちから聞こえるそれの中に、自分の声もいつの間にか混じっていた。
踏み出せ。
「これで終わりなんだって、受け入れようとしました。でも無理でした。忘れて元に戻るなんて、出来やしなかった!」
そうだ、起きたことは変えられない。かぐやが私を変えてくれた。
進むんだ。
「だから、歌います! あの日に届けられなかった、押し殺してしまったもの、全部込めて!!」
鍵盤に指を這わせ、あの日のメロディをもう一度。
────瞬間、世界がひび割れた。
ツクヨミの天に走った亀裂へ、無機質な鋼の手指が差し込まれる。
強引に、引き裂くようにこじ開けて現れたそれは、およそ人知のうちに収まるとは思えない存在だった。
鋼鉄の両腕は亀裂が戻ろうとするのを力技で抑え込み、世界に悲鳴を上げさせる。
覗き込む眼球の正体は天球儀。恒星をそのまま加工したような青白く幻想的な光が、黄金色の構成物に囲まれている。熱と光の代わりに投射される拒絶と軽蔑は、それがただの演出だと一蹴することを誰にも許さない。
『証明せよ 生命の 知性の 存在理由』
脳裏に打ち込まれる言葉は嫌悪に塗れている。
お前達のような存在に何ができると、本気の悪意を向けている。
それを一瞥もしない私に代わり、黒鬼達が立ちはだかる。
彼らの背後に指揮官のように立つヤチヨが指を鳴らした瞬間、7人全員を取り囲むエラー表示。
【オーバードライブ】
【活動限界まで 90秒】
仰々しい音声と共に、皆の姿が変わった。
顔に浮かぶ怖気の立つ模様、青白い力場を纏って変色する髪や衣装。
『おぉっとこれは! KASSEN導入予定の
ことここに来て、お兄ちゃん達だけバッシングなんて許さない。怒られるなら一緒だとヤチヨも皆も笑顔でハッタリをでっち上げてくれた。
「瞳映る 静かな世界 何を見てたんだろう────」
何の前触れもなく発射された赤黒い光。二重螺旋の有刺鉄線が炎の中から迫る。
触れるもの全てを傷つけようという明確な害意が込められたそれに、何らかのデバフが乗っているのは見るだけで分かってしまう。
「優しい思い出 ふさいだ鍵穴────」
俵を地球に帰したくない。それは、あいつに大切にされていなければ決して出てこない発想なのは言うまでもない。
「触れない きみだけの彩────」
大切だから、傷付いてほしくないから。あるいは、もう十分頑張ったから。彼女との会話で彼女の心境は自分のことのように分かってしまった。
「真正面から弾くな、
「回避優先了解!」
「ROKAさん、雷さん、いろPの周囲の援護回って下さい!」
「乃依さんの援護俺入ります、帝さん!」
「助かるトワ君!」
弾いた側から連射される有刺鉄線。パターンなんて甘えたものはなく、ひたすらに叩き潰すため投射される憎悪の弾幕はチート状態すら貫通してダメージを叩き込んでいる。
「わがままになって 遊びすぎちゃって────」
大好きだったんだね。大切だったんだね。
だからこそ、私たちを許せなかったのかな。
あいつと同じ生き物が。好き勝手に動いて、複雑で、一回きりで、自由な私たちが。
その自由の中で誰かを傷つけて、本心を隠して、夢を押し込めて、我慢してしまう私達が。
「っ、く……」
「好きに動け、此方で合わせる!」
高難易度なんてもんじゃない、地獄のような密度の圧力を皆が全力で迎え撃つ。私は全てを詰め込んで歌っている。かぐやとヤチヨは世界のどこかにいる俵を今も探し続けている。
「────どこにもないカラフル 捕まえよう…さぁ!」
『知性の 存在理由────』
「────パターン変化!! 彩葉を守れッ!!!」
何十、何百、何千の有刺鉄線が捻りに捻られて、悍ましい金切音を立てながら圧縮されていく。
黒いパチンコ玉ほどにまで押し潰された悪意はさらに一点に押し固められ、天高く投射された。
それは、彼女が見た人間の醜さの具現。
誰かを傷つけることばかり上手いという軽蔑の怨嗟。
『
────人間は、孤独を継承するために知性を発展させた。ゆえに全てを傷つける。
花火のように炸裂して、血の雨のように降り注ぐ鋼の槍。
回避不可能の絶対的暴力。
「この一瞬が最高のパーティーなんだ 全部ぎゅっと覚えてようよ 眩しい日を────」
「────っ……!」
「ぐ、ああぁぁぁぁ!」
芦花と雷さんのビットが傘のように展開され、それでも防ぎきれない破滅を久遠とお兄ちゃんが超加速の連撃で撃ち落とす。
この世のものと思いたくない光景に思わず飛び出そうとしたヤチヨをかぐやが止めた。私は────いいや、私達は。ヤチヨを見て、そして笑った。
「どっしり構えときぃや! 管理人やろ!?」
「ぜーんぜん平気だよ、このくらい!」
彼女は本気だ。
ツクヨミというルールに則って、一切の手加減なく、全霊をもって私達を押し潰そうとしている。
だから、私も本気で応える。
「ねぇ もっとふざけて 夢だけシェアして ありふれてる 好きなものにずっとまみれて────」
演奏はやめない。歌も止めない。あなたがあの時と同じコミュニケーションツールを使っているのはもう分かってる。
聞こえてるでしょ、見ているでしょ。貴女の答えに、私達は意を唱え続ける。
【タイムオーバー、強制リスポーン実行】
音と声に全てを乗せろ、伝えるんだ。
あなたが思うよりずっと、世界はもっとキラキラしてるから。
「君といたあの部屋も 電子の海も 胸の中詰め込んで タカラバコにしまおう────」
【オーバードライブ】
【活動限界まで 90秒】
鋼の嵐が止んだ後、皆はリスポーンした。一切の容赦なく再開された弾幕を前に、揃って間髪入れずに再び
「ねぇ もっとはしゃいで アンコールないのって────おねだりして とびきり キラめいて歌おう」
◇
────真反対だなぁ。
それが、
私にとって地球っていうのは、複雑で、一回きりで、自由で。
でもそれだけじゃなかったんだよね。皆、何かを我慢してた。
彩葉も、俵も、皆。
タケちゃんにとって、それは見てられないことだったのかな。
そんな風になっちゃうくらい、見苦しかったのかな。
そうだとしたら────悲しいな。
「ぬぅぅ〜〜総当たりめんどーい! マクロ組んでいい!?」
「組むより漁る方が早いよ〜手を動かすべし!」
「だよね〜進捗60
「りょー!」
ヤチヨが飛び出そうとした時の顔、嫌でも焼きついちゃった。
泣きそうで、叫びそうで、居ても立っても居られないって顔だった。
「ヤチヨ」
「なんだーい?」
「何でヤチヨはいっつも笑ってんの?」
「それがヤチヨだから」
「……そっか」
適当言ってない?……なんて、もう茶化せないなぁ。
……俵が戻って来れたら彩葉と一緒に見せてもらうって約束した8000年の記憶、見るの怖くなってきちゃったな。
彩葉も俵もいない8000年なんて想像できない。ううん、想像したくない。きっと寂しくて辛くて泣いちゃう。
「ヤチヨ」
「なんだいなんだいー?」
「彩葉のこと、お願いね」
「────っ」
嫌だよ。そりゃあ。
でもさ、嫌でも見なきゃって思うから。
だって、ヤチヨばっかそんな思いしてたとか可哀想じゃん。
無敵のかぐやちゃんに、ちょっとくらい背負わせていいんだぜ?
「かぐやも一緒だからさ!」
「……うん……うん!」
わざとらしいくらいのドヤ顔で笑う。ヤチヨも笑いなよ、ほら、こうやって。
ハッピーエンドに泣き顔は似合わない。みんなで笑って仲良しのやつして、パンケーキ食べるんだ。
◇
「進捗80%、あと一息!」
「おっしゃ!」
必死で走らせる捜査線の傍ら、怪物として姿を見せたタケちゃんに思いを馳せる。
俵はきっと帰りたいって言ったんだよね。
お父さんのお願い無視したくなるくらい、嫌だったんだね。
この時代のタケちゃんになるまで、何を見たんだろう。
あんな風に笑うまで。心の中に穏やかさと確かな信頼を湛えるまで、どれだけのものを積み重ねたのかな。
『あまねく時間の只中で、私は貴女を見つめている』
最初の頃はびっくりしちゃった。鎌倉時代だったかな。急に現れたと思ったらむすーっとしてばっかりで、何考えてるか全然わかんなくて。かと思えばウミウシの私をひと撫でして消えちゃったから、散々ぶーたれたっけ。
『あまねく時間の只中で、私は貴女を見つめている』
次に会ったのは江戸時代直前の頃。すこしだけ優しい顔になってた。
お姫様を見送ってすぐの頃にたまたまばったり会って、お別れ直後のべこべこなめくじって感じだったから、涙も流せない分お話をずうっと聞いてもらったね。
そして、あの日────何もかもが焼け野原と化した日。
何も出来ないまま、楽観を徹底的に叩き壊されたあの日。
『────あまねく時間の只中で、私は貴女を見つめている』
どうやったのか分からなかった。今も原理は解明しきれてない。
けれど、貴女は確かに手を握ってくれた。“きっと大丈夫”って、言葉少なに励ましてくれた。
ツクヨミのプロトが出来て、単独ライブを決心した時、貴女は初めて笑ってくれた。
薄くて、すぐに記憶から消えてしまいそうな儚い笑みだった。けれど、確かに“おめでとう”ってお祝いしてくれたんだよね。
「90%!」
「漂流痕跡捉えた!」
私に孤独じゃないって教えてくれた人の中には、貴女もちゃんといたんだよ。
好きなことが出来ないことに失望して、殺し合うことに絶望して、返事なんて届かないことが当たり前で。だからこそ、今ここにいる貴女は「孤独」を答えに選んでしまったんだね。
ねぇ、タケちゃん。
ツクヨミはそんなに悲しい場所に見えたかな。
これでも結構、頑張ったんだけどなぁ?
「見つけた!」
「サルベージ開始!!」
あの日にデリートされてしまったアカウントに代わる新しい
既に新生アカウントは動き出してる。俵が大急ぎで自分の再定義を行い始めたのを見届けて、かぐやはバックヤードに尻餅をついた。
何度も触れてきた貴女の心。
今も触れ合ってる貴女の心。
気づいてるかな。気づいてほしいな。
どす黒い海原、全てを拒む失望の中。微かに光る一番星がとっくに昇ってること。
貴女の中を満たす『孤独』が、とっくに唯一解じゃ無くなってること。
「管理者権限、アカウントMoon10000へメッセージおよびファイルを送信————FUSHI!」
「いくぞぉ————っ!!」
だから今度は、ヤッチョの番。
もしかしたら、今から見せる光景も貴女の考えを変える一因になるのかな。そうだと、嬉しいな。
『────
ツクヨミの管理人として、8000年を見届けた生き証人として、その悲しい答えに異を唱えよう。
◇
『証明せよ』
人間は醜い。
『証明せよ』
歴史は悲劇しかない。
『証明せよ』
こんな生き物に■■するなど、ありえない。
『生命の存在理由を』
反証される。
偽を指摘される。
駄目だ、駄目だ、理解するな。
『知性の存在意味を』
真は孤独だ。
孤独こそが答えなんだ。
傷つけ合い、無理解を尊ぶ悍ましい生命体。孤独の生存を史上とするが故に触れ合う全てを害し続ける理解不能の異形共。
『理性の存在意義を』
そんなはずはない。
たかが音の震えで何かが理解できるなどありはしない。
全て錯覚だ。
錯覚だ。
錯覚だ。
錯覚でなくてはならない。
「やめろ」
違う。
「歌うな」
違う。
「抗うな」
違う。
「届けるな」
違う。
そんなはずはない。
こんな不完全な知性体に、
「それ以上————」
「————私に、踏み込むなぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!」
相互信号接続遮断。コミュニケーション機能カット。
遮二無二攻勢を繰り返す。
死ね、潰えろ、削除されろと殴りかかる。
だってそうだろう。もうこれ以上、こいつらを理解したくない。
「証明は真である」
やめて。
来ないで。
いや、いや、いや……!
「証明は真である」
有り得ていい訳がない!
悲劇しか産めない欠落ばかりの存在が!
争うことしか出来ない生き物が!
「証明は————」
こんな、こんなにも……!
「真である!!」
「————ったく、頭の固ぇ娘になっちまったな」
届いた声。
次回
証明、そしてハッピーエンド目掛けて。