今は昔、竹取の翁といふもの有りける   作:何もかんもダルい

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筆が乗るうちに書き切って、今更新止めちゃってる方もちゃっちゃとやっていかないとなぁと思ってたんですの。

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皆様のご期待に沿えるよう頑張りますけど流石にビックリして腰抜けましたことよ!?


翁は子供の世話が手慣れていた。

「お前の血の半分は屑だ」

 

 母は、寝る前に1杯だけ酒を飲んだ。

 幼くてもそれが習慣だと理解できるくらい、毎日欠かさず飲んでいた。

 

 飲み終えると、煙草を点ける。

 深く深く、ジリジリと音を立てて深く吸い込んで、肺の底に溜まったヘドロを全て出そうとするかのように煙を吐いて、そしてそのまま消してしまう。

 

「お前を形作る半分は屑だ」

 

 知っている。何度も何度も、毎日毎日聞いていたから。

 

 けれど、なあ。

 俺が学校でタバコと酒は身体に悪いと習ってきたと語った日から、その習慣を止めたよな。

 鬱陶しそうに眼を細めて、初めて聞いた、なんて溢したよな。

 俺を見て呪いを零していたのに、呪い自体はまるで違う方へ向かっていたよな。

 

「屑の血が、私の腹を使って生まれたのがお前だ」

 

 普通の子供だったら、どう思ったのだろうか。

 褒められもせず、恨むような目を向けられて育って、母を恨むようになっただろうか。

 嫌って憎んで、最低の親だと扱き下ろしながら嗤っていただろうか。

 

 俺には出来なかった。

 きっと俺が普通の育ち方をしなかったからだろう。

 真に呪っているのが誰なのかが分かってしまったから。

 

 毎日飯を作ってくれた。

 金の使い方を教えてくれた。

 知識の必要性を説いてくれた。

 

 目も髪もあまり人前に出れる容姿じゃなかったから、現代の娯楽という奴にはほとんど触れることもできずに育ったけれど。それでも十分だと思えるくらい、沢山の事を教えてもらった。

 

「お前はきっと屑に似る。私から掠め取った色を纏った屑の顔に育つ」

 

 分かってるさ。あんたの言う屑の血を継いでるんだ。そうなるんだろうな。

 

 でも、あんた、一度だって手を上げなかったじゃないか。

 そんなに憎んでる屑の血が入った俺に。これから似てくると、もしかしたらもう面影くらいはあったかもしれない俺に、ただの一度だって拳も平手も振るわなかったじゃないか。

 

 黙って待ってろと一言言って、俺が寝る前には必ず帰って来た。

 風邪を引いた日には、溜め息を吐きながらも治るまで傍にいてくれた。

 雷に震える有様を見かねて、呆れながら添い寝をしてくれた。 

 

「お前は、私に似るな」

 

 褒めてくれたことは一度たりとも無かったけれど。俺を見て笑ってくれたことすらなかったけれど。

 それを補って余りあるほどのものを、貴女から貰えたんだよ。

 

「私に似たら、許さない」

 

 どうして恨むことなどできようか。

 どうして憎むことなどできようか。

 どうして、貴女を嫌うことなどできようか。

 

 

 

「――――よくも、そんな言葉を吐けたものだな……!」

 

 結局、俺があんたに感じていたのは。

 

「好きにしろ。どうせすぐ帰ってくることになる……お前に流れる血の半分は、私なのだから」

 

 どうしようもない、恋しさ(あこがれ)だったのだから。

 

 

 

 

 ぐぅ、なんて間の抜けた音が響いた。

 壁ドンじゃないだけまだましだけど、それが意味する事象など一つだけ。目の前の女の子はミルクをご所望で、今に至るまで貰えていない。

 

「たすけて〜〜〜〜?」

 

 媚びるように首を傾げてこっちを見てくる。無自覚でこれをやる破壊力たるや。

 助けて欲しいのはこっちだ……なんて言ってられない。過った母の言葉を振り払うように、さっさと出てけと言おうとして、視界の端で蹲っていた金色が蠢いた。

 

「……あぁ、腹減ってんのか」

 

 のそりと起き上がった俵は、財布だけ引っ掴んで玄関へ歩いて行く。何をしてるんだと聞けばコンビニに行ってくると。

 

「流石にそのナリじゃミルクで腹膨れんだろ」

 

 待ってろと女の子を見ながら言って、階段を降りていった。

 こうなっては放り出すこともできやしない。どうしたもんだと頭を抱えると、スマホが着信を伝えてくる。

 

『赤ん坊が10歳そこらになってなかったか』

「さては寝ぼけてたな?」

 

 私もだけど、とは辛うじて声に出さなかった。

 

 

「ほらよ」

「ん〜……ん?」

 

 女の子は何やら不思議そうな顔で差し出されたオムライスを見ていた。

 首を傾げたり、いろんな角度から見たり。横に置かれた使い捨てのスプーンを握るも上下逆だったり。そもそもこれが食べるものであると理解できていない顔だった。

 

「というかオムライスて」

「ガキと言えばだいたい好きだろオムライス」

 

 気持ちは分かるけど問題そこか?

 五百九十四円とか私の食費五日分なんだが。五日が一日どころか一食で消えてるんだが。というか今二時だぞ二時。なんちゅう時間になんちゅうもん食ってるんだ、私までお腹空いてきた……ダメダメ、我慢我慢。

 

「オムライス?」

「そう……ってこらスプーンで突くな、というか持ち方逆!」

 

 ああもう世話の焼ける。

 スプーンをどうにか握らせて、操り人形みたいに手を持って掬って食べさせる。ちくしょうすべすべの肌しやがって。

 

「〜〜〜〜っ!!」

 

 瞬間、瞳に星が散った。あらん限りに目を見開いて、興奮しながらこっちを見てくる。かと思えばすぐにオムライスへ視線を戻して、凄まじい勢いで掻き込み始めた。

 オムライスがというよりも食事そのものが初めてかのような夢中具合。それにしてもまあよく食うこと。ひまわりの種溜め込んだハムスターみたいになってる。

 

「何これ!?」

「オムライス」

「オムライス大好き!」

「そいつは良かった」

 

 頬杖を突いてそれを眺める俵の奴は娘を見守る父親みたいな目してやがる。よくねーよと言いかけて、水を差すのも違う気がして代わりに肘で小突く。

 ある程度を頬張ると今度は好奇心が爆発したのか、少女はこっちに目を向けてあれやこれや質問してきた。

 

「この黄色いのは!?」

「鶏の卵」

「赤色!」

「ケチャップ」

「ちっさいモキュモキュしたの何!?」

「鶏肉」

「不満そうな顔で腹空かしてるのはー?」

「ぶっ殺すぞ」

 

 どさくさ紛れに煽ってんじゃねーぞこの野郎。

 手癖でタブレットを引き寄せてスリープを解除。画面が映るのとほぼ同じタイミングでグラノーラバーが手元に投げ込まれた。

 

「それくらいなら明日に響かんだろ。夜食だと思って食っとけ」

「…………おのれ」

 

 ありがとうもごめんもなんとなく言いたくなくて恨み言。突き返そうにものらりくらりでかわされるのが目に見えてるので観念して封を開けてかぶりつく。

 ちょうどヤチヨの配信も始まってるし、まあ、良いお供を貰ったと思っておこう。

 

『男女の友情は成立するか。ヤッチョ的には全然アリだと思うな〜。戦友とか共犯者みたいな? そういうの割と好きなのです⭐︎』

 

 ヤチヨってそういうの好きなんだ……聞いたこと無かったかもしれない。新解釈。

 

 違うそうじゃない。私にとっては超ウルトラ重要だけど目下もっと気にしなくちゃいけないものが転がってる。

 

「あんた、本当にどこから来たの」

「うまっ、うま、うま~……? んっ」

 

 さも当然のように空へ向かって指を指す。その先にあるのは煌々と輝く満月。

 いやまぁ、間違いなく地球の生き物じゃないだろとは思っていたわけだけど。それにしたって赤ん坊だったっていうのに記憶はあるのか。

 

「ほぉ、月か。つまりマジで宇宙人なわけだ。この場合月人か?」

「感心してる場合か。それで、その月人様は何しに地球まで来たわけ?」

「う~ん……あんまり覚えてないんだけど~、とにかく毎日超つまんなくて~~、楽しいとこに逃げたーい! って思った気がする」

「くっはははは、おいコイツ大物だぞ酒寄彩葉」

 

 笑っとる場合かこの野郎。つーかなんも分からんわ具体性ゼロか? 目的とかなんかないのか。

 それはそれとして。私にだって不満をぶちまける権利くらいはあるだろう。目を細めて睨みつけながら不満点をあげつらう。

 

「逃げんな~~~~」

「え~なんで~~~~??」

「な、ん、で、だ、あ~~~~??」

 

 舐め腐っとんのかこいつ。

 

「落ち着けよ酒寄さんちの彩葉さん」

「たった今沸点超えそうって話からせんとあかん?」

 

 (コイツ)はコイツでこの状況思いっきり楽しんでやがる。さっきからちょっと噴き出してるの見えてるんだからな?

 イライラしてきたこっちを尻目に、アイツは唐揚げ弁当をレンジに放り込んで暖め始める。好きな女子について話していたあの日と同じ、心底から今を楽しんでいるような表情。あんな顔、私はしたことなんてあっただろうかってくらいに面白がってる。それが余計にイライラするんだ。

 

 日々がつまらないなんて当たり前。そう思ってここまで来たのに、こいつはいつだって自分で自分のご機嫌取って笑ってる。何でこいつばっかり、どうして私ばっかりムカつかなくちゃいけないんだ。

 

「ま、逃げるが勝ちって言葉もあんだろ。それはそうと再出発はクソ怠ィぞ、そこんとこどうすんだお前」

「ん~、やりたくなかったらやんない! やりたくなったらやる!」

「だっはっはっは! オイマジで傑作だぞ酒寄!」

「いひひ、俵は話分かるね~」

 

 こいついっぺんしばいたろか。

 

「……ま、一旦落ち着けよ。昨日まで赤ん坊だった奴に、おまけに言やぁオムライスどころかスプーンが何かも分かって無かった奴に人生説いたってそりゃまともな答え返ってくるワケねぇだろ。見た目で精神年齢判断してカッカし過ぎだって」

 

 やっぱ栄養足りてねぇだろ、真面目過ぎるぜなんて言いながら暖めた唐揚げ弁当を私に寄越してくる。あんな雑穀の塊じゃ足らんとばかりに追加を要求してくる我が胃袋。女子に、それも夜中にそのカロリー爆弾勧めてくるのは大罪だぞこの野郎。

 それはそうと、言っていることは一理はあるのだ。明らかに一般常識が欠如した幼児に意地で言い返したってなぜなぜ攻撃を食らって轟沈するのがオチだろう。こっちをムカつかせて来るくせに、ある程度ヒートアップすると的確に宥めてくるのがまた腹が立つ。

 

「親父にも言われたもんだ、重要なことほど飯食ってから考えろってな。コイツの件はどう考えたって重要な事だろ?」

「そんな風に丸め込もうったってそうは問屋が――――」

「……じゅるり」

 

 刺さる視線。さっきみたいにきらきらした目で唐揚げを見つめる悪童。こいつ、あのでっかいオムライス完食しておいてまだ足らないと?

 

「追加で買ってくるか?」

「……………………一個だけ。一個だけね」

 

 全部寄越すのもなんか悔しいので、箸でつまんで食べさせる。

 口に含んだ瞬間にまた満天の星空みたいに目を輝かせて、そして手づかみで更にもう一個持って行きやがった。

 

「あっ!」

「うま、うまー! これなに!?」

「鶏肉。さっきのは刻んで火通した奴でこいつはぶつ切りで揚げた奴」

「もっと食べたい!」

「だめ!!」

「ぅえ~~~~???」

 

 弁当丸ごと持って行く気かこいつ。

 もっと、だめ、もっと、だめと弁当を取られないように攻防を繰り広げれば、むくれた顔で諦めつつじゃあどうすればもっと食べれるの、なんて聞いてくる。本格的に体がでっかくなっただけの幼児じゃないか。

 

「テメェで作るんだよ。好きなだけ材料買ってきて器に山盛りな」

「作れるの!? してみたぁ~~~い!!」

「うぐぅ……」

 

 好奇心の権化か。眩しすぎて気圧される。

 

 旗色が悪くなってきたので話題転換を試みる。ヤチヨの配信を終了して検索エンジンを起動。日本人だったらほぼ誰でも知ってるあの物語の絵本を出す。

 タイトルは、「竹取物語」。

 

「あんた、これに心当たりある?」

「なにこれ?」

 

 絵本のページをさっさと捲っていく少女を尻目に、これ以上奪われないうちに弁当を食べてしまう。説明を挟もうとすれば、俵が手で制してアイコンタクトしてきた。

 先に食っちまえって? 変なトコで上手い気遣いしやがって。

 

「竹から出てきた赤ん坊が爺さんに拾われて、たった三か月であんまりに美人の姫に育ったもんだから結婚しろって詰め寄られる話」

「けっこん?」

「そう結婚。美人だから嫁にくれっつって、めんどくなった姫さんがキレて無理難題吹っ掛けんの。まーそこは良んだわ。お前さんが電柱から出てきて拾われた赤ん坊で、そんでもってたった三日で急成長したもんだから心当たりないかっつう話」

 

 腕を組んで首を傾げて、うんうん唸る女の子。今までになく真面目に考えているように見えるし、これは本格的にヒントか何か得られるのでは、と。

 

「つまり彩葉がお爺さんって話?」

「八十年後の未来でも見えちゃってるのかな~~~?? 違うよ?」

「ぬはは~」

 

 ブッ飛ばすぞ、匙と一緒に月まで。

 笑うな俵、性別は突っ込むとこじゃない。次から山姥呼びしたろかお前。

 

「で、続きは?」

「色々あって月から迎え来て、爺さんがふざけんなって軍団引き連れて戦うも空しく連れてかれる。羽衣で地球のこと忘れるオマケ付きで」

「はえ~……で、次は?」

「おしまい」

「え?」

「連れてかれておしまい。めでたしめでたしってワケ」

 

 そこまで聞いた途端、大声で暴れ始めた。

 何が目出度いんだ、そんなのバッドエンドだ、ハッピーエンドが良い、なんかいい話風なのが余計許せない。これ以上ないくらい発奮して喚いて騒ぎまくる。何が琴線に触れたのか、よっぽど結末が気に入らなかったらしい。

 

「バッドエンドや~~~~だ~~ハッピーなのがい~~い~~~~♪」

 

 喚けば結末が変わるわけじゃない。この話はこれでおしまいなんだと切り上げようとすれば、今度は歌にしてまで拒否し始めた。どれだけ気に食わなかったらそうなるんだ。

 気が立って、一言言ってやろうと女の子の目を見た、その時。

 

「――――ま、この世に生まれた時点でバッドエンドだろ」

 

 まるで当たり前みたいな言い方で、鋭い言葉が振りかざされた。

 

「どいつもこいつもまとめて後味悪いクソッタレな“おめでたし”から人生始まってんだ。いつか来る不幸が約束された線路の上、勝手にエンジン括りつけられて発進させられんのさ。誰だっていつだって、足元の見えねぇ爆弾がドカンといくのを覚悟し続けなきゃなんねぇ」

 

 俵の言動は荒い。ともすれば不良だし、学校でも半々くらいでそういう風に見られている節はある。

 けれど、これは不良のような擦れて引き摺った結果尖ったようなものではなくて。もっと何か、明確に意図を持って研がれたような、それこそ日本刀のような冷たい輝きを帯びていた。

 

 でも、そうだ。こいつの言うことは端から端まで気に障るけど、それだけは共感できる。人生っていうのはそういうものだから。

 

「暴れたって歌ったって、決まってることが変わるわけじゃないし。受け入れて、覚悟するしかないんだよ」

 

 決まってしまったものを変えることはできない。俵の言葉に沿うなら、既に置かれた爆弾を取り除くことは線路を走ってる私達にはできやしない。出来るのは方向を変えることだけ。

 そういうものだと飲み込んで、前を向く以外にないんだ。

 

「……変えられるもんなら変えてぇよ。でも、()()()()()んだ。いつだって、変えられるのは今だけだ」

 

 重苦しい、鉛みたいな言葉だった。

 あの時みたいに髪紐を解いて、またじっと見つめている。

 

 それが、手指に巻き付いた赤い糸みたいに見えた。

 

 

「――――よし、決めた! 自分でハッピーエンドにする!」

「は?」

「ほぉ」

「そんでハッピーエンドまで二人も連れてく。一緒に!」

 

 言葉につられて重くなった空気を振り払うように、少女の言葉が部屋に響く。

 幼い頃に見た魔法少女みたいに、あるいはアイドルみたいに。四畳半の狭い部屋の中、眩しいくらいの純真さで輝いていた。

 けれど、この子が向かう先がハッピーかどうかなんて分かんないじゃん。決まってしまった場所へ積み上げていくだけなんだから。

 

「くはっ、そりゃあいい。けどそこまで俺が付いてくなんて一言も言ってねぇぞ?」

「ハッピーエンドいらない。フツーのエンドで結構です」

「うそうそうそ、なわけないでしょ、ね、ね!?」

 

 必死に縋りついてくるのをどうにか躱して俵に押し付ける。どっちにしろ今日までは夜の間この子の相手をするのは彼だと決めていたんだから構わないだろう。

 折角だからトランプでもするか、なんて言ってポーチから擦り切れたカードの束を取り出す同級生を尻目に、私は布団にも潜った。

 

 いつも痛んでいた口内炎は、少しだけ減っていた。

 

 

 キジバトの告げる朝。既視感しかない目覚め。

 いやに静かな空気を弾くように起きて、部屋を見渡す。

 

「夢、だったのかな」

 

 ベランダ、ユニットバス、押し入れ。確認してもあの少女はいなくて、俵も居ない。

 もしかしたら自力で何とかできると気付いて何処かに行ったのかも。

 

「ヨッシャ!」

「ココダヨー」

 

 流し台の下に居た。渾身のガッツポーズに合わせるかのように顔見せやがって。

 しかも昨晩よりまたでかくなってるし。

 

「ちーっす、朝飯持って来たぞー」

「お前もかい」

「あ?」

 

 さも当然のように玄関から入ってくる制服姿の俵。手元には明らかにコンビニ弁当ではないいくつかのタッパー。まさかとは思うが自分の賄い飯でも持ってきたのか?

 怪訝な顔で問えば、この少女の分だと答えが返ってくる。

 

「俺だって学校あるし、まさかその間腹空かせたまま閉じ込めとくわけにもいかんだろ」

「流石に悪いって。コイツには私のパンケーキ食べさせとけばいいよ」

 

 ささっと作ったお手製パンケーキを見せる。俵が一口、続いて少女も一口。

 

「……くそまじぃ」

「……嫌な予感するから一応聞いとくわ。原材料何よ」

「粉と水」

「家庭科の先生に首圧し折られてぇのか」

 

 なんだと失礼な。ちゃんと腹が膨れる画期的貧乏飯なんだぞ。

 そう主張するも空しく、んなもんガキに食わせられるかって愚痴りながら俵はタッパーを机に置いた。中身は山盛りのチャーハン。一人分、一食分で小分けにしていたらしい。適当に冷蔵庫に突っ込むと、3人分を順番にレンジに入れていく。

 

「ニンジンだのピーマンだの刻んで突っ込んだから栄養は足りてんだろ。ただの小麦の塊食わされるよかずっといい」

「……待って、まさか作って来たの?」

「今さっき作ったわけじゃねぇぞ? 一週間の半分くらいの量週末に纏めて作り置きしてんだよ」

 

 どえらい家庭的な言葉が飛び出してきた。

 え、もしかして私の生活能力コイツに負けてる? いやいやそんなことはないはず。お金と時間がないだけで私だってやろうと思えばその位できるはずなんだから、まだ負けてない。まだ勝てる。そうよ私は優等生、家庭的な料理くらい……

 

「今日に至るまでの数日間会うたび腹空かせてそうな顔してたやつが何か言っても無駄だからな」

「ぐぅ」

「ギリぐうの音出してんじゃねぇよ反省しろ」

 

 くそう、コイツに反論できない。この数日間定期的に俵が買い食いついでに私の分まで持ってくるもんだから舌が肥えて仕方ないのに。ただのコンビ二飯と賄い飯で胃袋握られちゃってるのよ。 

 

「何でコイツが家庭科で満点取ってんだよ……絶対ェ俺の方が上だろ……」

 

 うるさいな。




Tips
 俵の家事スキルは母親直伝である。
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