今は昔、竹取の翁といふもの有りける   作:何もかんもダルい

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気がつけばお気に入りも500件ぶち抜いてて戦々恐々でしてよ……皆様ありがとうございますわ!

超かぐや姫復活上映マ……??


翁は迷う。

 かぐやの快進撃が始まって幾らか。

 あの宇宙人の辞書に躊躇や羞恥といったものはなく、とにかくやりたいことを片っ端からやっていく。二番煎じなんて気にしない、セオリーなんて知ったこっちゃないとばかりに、本当に何でも実行する。

 ダンスに始まり、芦花のメイク、真実の食レポ、果てにはヤチヨを真似てのお悩み相談まで。それが誰かの後追いだろうがやりたいと思えば一直線。そんな貪欲な姿勢もあってか、登録者数はうなぎ登りだった。

 

 なんか気づけば私はプロデューサーが定着していろPなんて呼ばれ、俵の奴はわらDなんて呼ばれ始めた。

 俵の奴は、最初の内はKASSEN一本で配信を垂れ流しては居合抜刀切り抜き集を作って上げるを繰り返していたのだが、次第に料理だのハーブや薬草、食べられる野草の解説、遂には竹細工をひたすら作る配信なんてのまで上げ始めた。おかげで「かぐや・いろPチャンネル」は更にカオスな様相を呈している。

 

『誰これ?』

『わらDを知らんのか』

『時代に逆行した謎の狼面ディレクターだぞ』

 

 かぐやに釣られてチャンネルを覗けば、菅笠狼面のどっからどう見ても変な奴が無言で人斬りしたり無音字幕で山に分け入ったり竹細工量産したりしている姿がチラチラ入ってるのだ。何してんだコイツとなるのも当然である。

 

 最近はかぐやの背後に正座で控えてハリセンを持ち、言ったら不味い事を口走りそうになる度に引っ叩いている。金髪ギャルい兎耳の背後に菅笠狼面が刀みたいにハリセン構えてる絵面は中々にシュールだ。

 

「そんでね、いろPが……暑そうにしてたから涼しいもん作ってあげたりね~」

 

『草』

『衣擦れの音で流れるように口閉じてて草』

『教育行き届いてらっしゃる』

 

 そんな様を笑って見ていれば、かぐやの発案で裏方対談とかいう変な枠が出来て衝撃の事実が発覚することもあった。

 

「そういえばリアルでも被ってる菅笠と狼面どうしたのよ。まさか買ったの?」

「作った」

「作った!?」

 

『作ったで草』

『手先器用なんてレベルじゃねぇぞ』

『販売希望』

 

「てかこの動画どこ行ってんの!?」

「実家の近く」

「魔境か……?」

 

 人ん家を魔境呼ばわりすんなとあいつは言うが、何をどう考えたって人の手が入りきってない藪の中を近所と言い張り鉈1本手に突き進むのだ。これが魔境でなくて何だという。

 

『今何で合掌したの?』

『お地蔵様でも見えたんか』

『怖い怖い怖い』

 

 あと、時折何もない森に向かっていきなり合掌するのは止めて欲しい。素直に死ぬほど怖い。何が見えてるんだお前には。

 

「かぐやも行きたいのに……」

「しょうがないでしょ、ダニとかヒルとか山ほどいるだろうし……慣れてないあんたや私が付いてったら、俵まで危なくなるかもしれないんだよ」

「ぶー……」

 

 ちなみに山に行く時はたいてい休日丸々居ないのでかぐやが拗ねる。配信で愚痴を垂れるとお兄ちゃんにべったりだの何だの言われるが、あいつは基本そういうのを訂正しないのでわらD=かぐや実兄説がまことしやかに蔓延している。

 まぁ事あるごとにそれらしき男性の声が聞こえたり、明らかに同じ家に住んでるようなエピソードを漏らすのでいい虫よけにはなってるんではなかろうか。

 

 ただ私を巻き込むな。誰が血のつながってない家族だ。風評被害にも程がある。

 

「お前がオカンみたいな言動しかしてねぇのが悪いんじゃね」

「ぶっ飛ばすぞ」

 

 最近口癖になってきてる気がする。おのれ、自分だけ覆面で一切個人情報漏らさないのをいいことに。

 

 ……と。そんな俵だが、ここ最近は随分憂い顔が多かった。

 出会った当初とは違う、何かを迷うようなその目つき。

 

 そういえばこいつの事あんまり知らないなと、ふと思い立った。

 かぐやの面倒を見るって名目で結構な頻度でウチに上げてしまっているけど、一応は異性で同年代なのだ。相応の警戒や注意をして然るべきなのではと思うのに、こいつにそんな素振りが無いから今更に戸惑ってしまう。

 

「俵って性欲あるの?」

「おうコラもっとオブラートに包めやこの野郎」

 

 とある夜、かぐやがぐっすり眠ってしまってからそう聞いてみる。今日は俵の奴も珍しく勉強に精を出していた。

 質問に憤慨こそしているが、かぐやに背後からしがみ付かれたり、正面から抱き付かれて甘えられてもこの調子なのだ。風呂上がりの無防備極まりない姿にすら無反応となれば疑いたくもなる。

 

「チョロいお前と一緒にすんな。興味あるか無いかっつう話なら、ま、無い寄りかもな」

「チョロくないわ。……()()()の話と関係あったりする?」

 

 正直に言うと、少しだけ心当たりがあった。

 かぐやが初めて外に出て、そして夕食を作った日。あの憔悴や拒絶の様相からして、()()()()()に関する悪い縁があってもおかしくない。

 

「あー……まぁ、あるっちゃあるし、無いっちゃ無い」

「なにそれ」

「俺自身分かんねぇってのが本音だな。一因にはなるかもしんねぇけど、10割ソレのせいでって訳じゃない」

 

 誰かを好きだと思ったことが無いと、俵はそう溢す。

 在り方を気に入ったり見た目が好みだったりということは有るが、それ以上の感情へ繋がらないのだと。

 

「実際、お前やかぐやと過ごすのは居心地は良いと思ってる。けど、じゃあお前らの事()()()()()()で好きかっつったら、多分違う」

「……そう」

 

 いつもはイラっとするコイツの言動も、今だけは胸の奥をちくりと刺すに留まった。

 いつの間にか私たちの生活の中に居て、私もそれを疑問に思わなかった。やることなすことムカつくのに、いざ本気で当たろうものなら次に待ってるのは後悔で。

 スカッとしたことなんて数えるほどしかないし、そういうものほどささやかで何でもないような、それこそ友達同士の煽り合いくらいで終わることばかりだった。

 

「私もさ、あんたが居るとムカつくのに、居心地は良いよ。()()()()()()()って聞かれたら即答でNO言えるけど」

「はっ、何だよ両思いか?」

「死んでも御免です~」

 

 お互いに鼻で笑って有り得ない未来を切り捨てる。こいつをそういう目で見ることはきっと金輪際来ないだろうという確信がある。

 でも、じゃあそうなるとこいつと私の関係は一体どう表現したものなのだろうか。

 

「……友達、でいいのかな」

「さぁな、俺もお前も異性のダチなんてどんなもんか分からんだろ。考えるだけ無駄じゃね」

 

 それはそうだ。お互い同性の友人に留まり、人付き合い自体が狭いような人種なのだから。

 確率は極めて低いだろうけど、こいつに彼女が出来たとしても間違いなく私はコイツを祝福できるし、むしろこんな奴を気に入ってしまった彼女の方が心配になる。

 

「俺だってお前にくっつく奴がよっぽど性根腐ってなけりゃ余計な事は言わねぇよ」

 

 言葉にしてみれば、そんな風に返された。

 きっと、お互いに彼氏彼女が出来たとしてもこの関係が続くんだろう。そう思えるような、何と形容すればいいのか分からない友情めいたものが私と俵の間には有った。

 

『男の子と女の子の関係って難しいよね~。やっぱり、どう時代が変わったって性別の差は立場とか考え方が大きく違ってくるものだからさ。でも、時には関係性を区切る事それ自体がナンセンスなこともあるんじゃないかなーって、ヤッチョは思うのです』

「面白れぇ事言うじゃん、月見ヤチヨ」

 

 そうだろう、私の推しなんだから。やらんぞ。

 BGM代わりに点けていたヤチヨの配信では、随分とタイムリーな話を扱っていた。

 ただ、面白いなんて言う割にはやはり表情が憂鬱に沈んでいる。何か痛ましいものを見るような、それでいて視線の先に誰も居ないような。

 

 だからだろうか。いつもならそこで止めるはずの会話が、簡単に続いてしまったのは。

 

「俵のお母さんってさ」

「おう」

「再婚……だったり、する?」

 

 我ながらデリケートな話題に突っ込んでしまう。でも、今みたいな空気でもなければ一生聞く機会が無いような気がした。

 

「何ていうか。あんたはお母さんがあんたのこと死ぬほど嫌ってるみたいな言い方したけどさ。その割にはあんたは愛されてたし、お父さんとの関係も悪くないような気がした」

「随分鋭いじゃねぇの。ただまあ、大甘で30点ってとこだな」

 

 正真正銘今の親父が初めての結婚相手だと俵は続けた。厳密には結婚ですらない、とも。

 

「俺の血縁上のクソ野郎は、母さんを捨てた。そんで一人親になった母さんを見かねて連れ帰って、共同戦線張ったのが今の親父だ。婚姻届も出してねぇ、戸籍上は赤の他人だよ」

「……ごめん。軽々しく聞いていい話じゃなかった」

「別に、もう踏ん切りはつけてるからな。気にしてねぇよ」

 

 そう言いながら、また髪結い紐を解いて見つめていた。

 赤くて、黒と銀の糸が編みこまれて煌めく紐。何をどう考えたって、間違いなくずっと大事にしている物。

 積み重ねた時間の分くすんでいるけれど、それでも鮮やかさを失っていない。あまりに濃いから不吉さすら纏うけれど、それすらも跳ね除けて輝くような、そんな赤色だった。

 

「愛されてたかどうかは、どうだろうな。少なくとも俺は愛されてたと思ってるが、世間一般に通じるようなそれかは正直分かんねぇ。環境が環境だったからな」

 

 困ったように、惑うように。まさしく困惑という文字を体現したような顔で、あいつは笑っていた。

 曰く、集落全体で世話をされて育てられた。

 曰く、山奥の限界集落とは名ばかりの姥捨て山。

 曰く、周りの大人は真似しちゃいけないとこだらけのロクデナシ。

 曰く、優しさはあるが倫理が無い、根っこがDVの魔人の巣窟、反面教師の見本市……いや思ってたよりボロボロに言うな。案外不満自体はあったのかこいつ?

 

「まぁ、何だ。社会に出したらダメだなこいつらって思うことの方が多かったし、社会から爪弾きされてあんな場所にいるのも良く分かるような、そんなとこだった」

「あんたよくその性格で済んだな」

「うっせぇ親のしつけが良かったと思っとけ!」

 

 割とこいつもロクデナシの気配は滲んでるけど、真面目不真面目なんて指標を出すように、やっぱり節々で()()()だった。

 ズル休みはするけど出席日数は計算してるし、休んだ分は自分で勉強してテストで取り戻す。かぐやのことだって、甘やかしてるように見えて締めるところはキッチリ締めている。

 もしかしたらかぐやを頑なに山に連れていかないのは、万が一にもこいつ曰くのロクデナシの大人たちと会わせないためなのかもしれない。

 

 進路が白紙なのは……まさしく()()()()()()()()なんだろう。卒業したら実家に戻るつもりなのかもしれない。こいつの知識量を考えれば、きっとそれでも生きていけるんだろう。

 それこそ、親がそれを認めなくても。その僅かな自由さだけは、ほんの少し羨ましかった。

 

「んで、お前はお前でどうなんだよ。東大行くんだろ? 理由とかあんのか」

「……何さ、いきなり」

「先に踏み込んできたのお前だろ。等価交換とでも思って答えてみろって」

 

 髪を結び直しながら、いつもの調子で笑ってそう言ってくる。分かりやすく空元気じみていて、それが月明かりに照らされている。何の苦もなくそんな弱い光で勉強が出来るのは、それだけそういう環境に慣れているんだろうか。

 でも、そう。理由。理由、は……

 

「……お母さん、そうでもしないと……認めてくれなそうだから」

 

 不思議なくらいに、ぽつりと言葉は零れていた。

 なるほどね、なんて俵も一言だけ呟いて、それ以上は何も言わなかった。

 

 シャーペンが走る音と、紙を弄る音だけが響く室内。ふと思い出したように、俵は再び口を開く。

 

「かぐやがバカでけぇ声で宣戦布告した時だがよ。多分、あれお前へのヤキモチもあるぞ」

「はぁ?」

 

 思わぬ話題に驚いて、変にドスの効いた声が出てしまった。ちょっと予想外だ。

 

 ライブが始まる直前、俵が肩車をする前にヤチヨに釘付けになっていた私を揺さぶったりしていたらしい。全然気づかなかった。

 

「ヤチヨが歌ってる間は流石にそっち見てたけどよ、終わってからはずーっとお前の事見てたぞ。そんで、お前がメロメロになった途端に分かりやすく頬膨らませてた」

 

 ありゃ傑作だったと笑う俵。大声に怒ってはいたけれど、あれはまさか本当に人の頭上で絶叫するとは思ってなかったかららしい。

 

「結局んトコまだまだガキンチョなんだろうな。何のかんの言って捨てずに置いてくれてたお前に色々思うとこあるんだろ。お前の事が好きで好きでたまらないし、お前が構ってくれないと寂しくてつまらない、だから機嫌だって悪くなる。甘えたくなるし楽しいと思ったことは一緒にやりたくなる」

 

 かぐやと遊んでって駄々こねてたろ、なんて。

 分かってるよ、そんなこと。

 でも、私は母を追いかけないと、そうじゃないと、認めてもらえないんだから。

 

「でも、ダメ。私は私で、やらなきゃいけないこと沢山あるんだから」

「真面目だねぇ」

「文句あんの」

「べっつにぃ?」

 

 揶揄うような声色はやっぱりムカつく。けれど、そういうムカつく言い方に不思議な安心を覚えている自分が居るのも事実で。

 

「俺はそういうやらんきゃいけねぇ事って、無いからよ」

 

 その言葉に、ペンが止まった。

 

「わざわざあくせく頑張って金稼いで物買わなくたって、あの集落に戻ればほとんど自給自足で生きていける。米も肉も野菜も、ちっとばっか頑張れば服だってそうだ。時間は掛かるが道具もできる。無いのは病院ぐらいだ。あそこは全部自前で作って食って売って金に出来る……外に出る理由、ねぇんだよ」

 

 取り残されても生きていける。誰かに見捨てられても生きていけてしまう。

 世界から切り離されても、そこにいる限りは完結して生存できる。

 

 だからこいつは、私と同じ立場でも慌てたりしなかったんだ。()()()()()()()()っていう確証があったから。学歴とか、賃金とか、そういうことを考えなくても生きることのできる場所に生まれてしまったから。

 自分が悪かったって、諦めて帰れば――――それができないからここにいるんだろうけど――――自分だけで生きていく方法を、教えてもらえるから。

 

「だからお前の事は気に入ったんだ。俺みたいに切り離された場所に戻らなくたって、こんな荒波みたいな世界で生きていける真面目さがある……()()()()()()

 

 思わず、消しゴムを握り締めていた。

 羨ましい、なんて。

 

「かぐやが好きなのはお前だよ、酒寄。俺は紛れ込んだだけのおまけ。居ても居なくても変わらない」

 

 ――――いつの間にか、どこかに消えてしまいそう

 芦花と真実のその感想が、時間を超えてもう一度刺さる。

 

 こいつはきっと消えてしまう。

 切り離された場所へと帰ってしまう。

 

 憂鬱そうな、迷うようなその表情は。いつこの関係を切ってしまうかを、悩んでいたんだろう。

 

()()。一人で生きられるっていうのは、そういう事なんだ。一方的に全部ぶった切って、自由になれちまう。けど、お前そうじゃねぇだろ。脇は甘ぇし、何だかんだ頼まれたら断れねぇし、ほっとけばバカみてぇな無茶して意地張るし。お前に此処に居てほしい、ほっとけねぇってヤツが大勢いて、ついついお前はそれに応えちまう」

「……」

「そういうとこが真面目だって言ったんだ。誰より真面目で、真剣だ」

 

 ほんの少しだけ、コイツに苛立つ理由が分かった気がした。

 お前が言うなよって、叫びたかった。

 

 ほっとけないからって弁当押し付けたの、どこのどいつだよ。

 かぐやを拾った時に、事情も何も聞かずに飛んできて真剣に向き合ったの、お前じゃんか。

 かぐやのお願いに屈してわざわざチャンネル統合したのもお前。

 寂しがってつまんないなんていうかぐやと一緒に居るためにズル休み使って、事あるごとに一緒に遊んだのも俵だろ。

 

 全部全部棚に上げてそういうこと言うなよ、って。

 そう言えたら、どれだけ楽だったんだろう。

 

「俵が居なくなったら、かぐや、寂しがるよ」

「お前が居れば大丈夫だって」

「そういう問題じゃないでしょ」

 

 気が付けば、星月夜みたいな目を真正面から覗き込んでいた。

 無駄に綺麗で、だからこそ全てを透過してしまう、そんな諦めの滲んだ瞳だった。

 

「安心しろよ、少なくともかぐやが月に帰るまでは真面目に面倒見るさ」

「その後はどうするの」

「そりゃお前もだろ」

 

 かぐやがこの関係の鎹なのは、薄々気付いていた。月からお迎えが来たところで大人しく帰る様なんて想像できないけど、それでも帰ってしまえばそれでおしまい。

 そうなったら、こいつはきっと――――

 

「学校、辞めるの」

「卒業まではやるさ。無理言って、大喧嘩までして出てきたんだ。途中で帰んのはダセェだろ」

 

 やっぱり、と。そういう所は変に真面目だから予想が付いた。

 でも、その後は。

 

「卒業したら、帰るんでしょ」

「やりたいこともねぇしな」

「ツクヨミは……どうするの」

「電波ギリだから、まぁほぼ入れんだろ。わざわざ潜る理由も無くなる」

 

 これも想定内。

 きっと俵は消えてしまう。

 

 あの日に出会って弁当を押し付けられていなければ、もっと早く消えてしまっていたのかもしれない。

 卒業するまでと口に出しているから、そこをゴールにしている。そんな有様で。私よりももっと惰性で何とか動いている状態だった。

 

 合金みたいに重くて、刀みたいに鋭く研がれた思想。KASSENで見せる抜刀みたいに、縁や関係を全て切り裂いてしまう。そんな事が俵にはきっと出来る。

 いい思い出だったって全てをすっぱり断って、何もかもを捨てられる。

 

「……こっちに居なよ」

「はぁ?」

 

 それがムカつく、なんて思った時にはもう遅くて。

 言葉は口から零れ落ちていた。

 

「かぐやの迎えだって、私達が卒業してからかもしんないし。私が大学行ったら、かぐやが一人の時間も……多分、増えるし。俵が居れば無茶苦茶な事はしないだろうし」

「……」

「だから……わざわざ帰らなくても、いいじゃん。こっちに居れば」

 

 頭を通り過ぎた幾つもの思い出。

 懐かしさ、苦しさ、切なさ。実家で感じた全てと、こっちで感じた全てを無理やり一つにまとめ上げて吐き出された言葉は、我が事ながらまるで拗ねた子供みたいだった。

 

「……冗談キツいっつの」

「割と本気」

「今のアパート3年で契約しちまってんだけど」

「あんたと私で折半すれば多少いいとこには移れるでしょ。どうせかぐやも付いてくるし、最悪かぐやにも払わせる」

「正気かよ」

「至って正気ですとも」

 

 不思議な話だけれど。自分でこんなことを言っておきながら、こいつが好きとかそういう感情は一切なかった。

 

 友達とか。

 男女とか。

 家族とか。

 進路とか。

 この世の関係性に付くだろう名前を全部まとめてぶった切って取っ払ったように、ぽつりと残った感情(もの)

 

「私の事、気に入ってるけど気に食わないんでしょ」

「もう随分昔の事みてぇに思えるな、それ」

「私もあんたの事一言一句ムカつくし気に食わない」

「おいコラ」

 

 これにどんな名前を付ければ良いのか、分からない。

 けれど、たった一つ言えるのは。

 

「気に入ったんなら、一生近くで眺めとけば?」

「――――」

「気に食わないとこがあれば、間近で修正できるよ……どうする?」

 

 こいつとの縁を、何としても手放したくない。

 そんな、鋭すぎる刃への対抗心だった。




超かぐや姫の超担当なので何かきっかけがあればスパダリ覚醒は絶対するという謎の期待があるんですわよね。
覚醒前もそうですけど覚醒後は絶対堕とす人数爆増させてますわよあの子。
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