今は昔、竹取の翁といふもの有りける   作:何もかんもダルい

8 / 13
リアルご友人から「お前の文全体的に湿気っぽいよな」と突っ込まれましたが私は元気でしてよ()
ギャグ調で全体を纏めるのが苦手なのでそういう書き方できる人は尊敬してますの。

それはそうとかぐやの誕生日修正、被害甚大だけどそれ以上のバイタリティ見せつけられてめちゃくちゃ笑ってましたわ。富士山登頂は凄い。


翁の大岡裁き

『どうどう、すっごいでしょツクヨミの街並み!』

『すげぇよ、散歩してりゃ1日潰せそうだ』

『えっへへへ、ヤッチョも鼻が高いのです』

 

 人は言った。傍観は罪だと。

 

 たとえそうするしかなくとも、ただ見ているだけで何もしないことは悪なのだと。

 

『そうそう、君の五感機能なんだけどね、あれ実はバグなのです』

『はぁ? 冷てぇのもあったけぇのもか』

『なんでかたまーに味覚や触覚が出ちゃう人がいるみたいでー……錯覚の一種だとは思うんだけど、原因不明で対処できないんだよねぇ、ごみん』

『別にいいって、今んとこ実害らしい実害……まぁ、無ぇし。こんだけデケェもん管理してんだから分からん事の2つや3つ生えてくんだろ』

 

 では、干渉することこそが加害となりうる状況で、消去法で傍観を選ぶしかなかったとき。それは罪で、悪なのだろうか。

 干渉することそのものが不可能であり、選べる選択肢が傍観しか存在していないとき。これは罪で、悪となるのだろうか。

 

 私はこれを、悪だと規定した。

 私は私の行いを、罪だと断じた。

 

『それでなんだけど、何か違和感が悪化したりしたらヤチヨに真っ先に教えて欲しいのです。あんまり公になると余分な不安まで煽っちゃうかもしれないから、できるだけバグの事はご内密に……』

『まぁ体質によるとしたらどうしようもねぇだろうしな。仕方ねぇさ』

『うぅ、感謝感激なのです。不甲斐なさでしょんぼり逆さまてるてる坊主……』

『その訳の分からん口癖何なんだよ』

 

 あの人の涙を、笑顔を、漂流を、放浪を。苦悩を、諦観を、押し込めたものを。

 その全てを、見つめ続けること。

 

『あ、でも、リアルに障害が出たりしたら絶対隠さないでね、それで悲しむのはキミの周りの人なんだから』

『そうなったら流石に白状するわ。その分、あんたには迷惑かけちまうだろうけどな』

『もとよりこっちの落ち度なのに無理言ってるようなものなので……一応確認したいんだけど、今は大丈夫かな?』

『あー、まぁ大丈夫って範疇だろ。興奮し過ぎたりイライラすると強くなるような感覚はあるが、それだってよっぽどじゃなきゃ起きねぇし』

『ふんふん、やっぱり共感覚とかよりリアルな視覚聴覚が原因の過剰な錯覚に近いのかなぁ……?』

 

 それはきっと、私に生まれついて与えられた悪。後に調べた知識によって語るのなら、原罪。

 私は、悪になるために生まれ、そして罪を償うために此処に在るのだろう。

 

「あまねく時間のただ中で」 

 

 私にとって最善で、あなたにとって最低の選択がそうなのだとしても。

 私にとって最悪で、あなたにとって最良の選択がそうであったとしても。

 

「私は、あなたを見つめている」 

 

 でも、どうか。

 あなたに見えない場所で、呟くから。

 

『頑張れよ、月見ヤチヨ』

『――――うん!』

 

「……おとうさん」

 

 そう溢さずにはいられないことだけは、許して欲しい。

 

 

 

「主文後回し」

「終身刑!」

「上告しまーす」

 

 此処が最高裁だ。

 こいつはよりにもよって侵すべからざる大罪を犯したのだ。幾ら寛容に一家言あるこの酒寄彩葉とて今回は許さん。

 

「なぁーーーーんでヤチヨと遊んでかぐやとは遊ばないのぉーーーー!!!!」

「耳元で叫ぶな鼓膜イカレるわ!!」

 

 諦めろ2対1だぞ。ここ最近のかぐやは俵関連だとだいたい味方に付いてくれるので大変頼もしい。

 しかし私だけでなく時には芦花や真実でさえ怯むぶっちきり美少女に抱き付かれてなお揺るがないのは流石か。やっぱり本格的にこいつにはかぐやがちびっ子に見えているらしい。

 

「俵、私は一般常識の話をしてるの」

「極貧生活漬けで一児(一時)の母やってのけたイレギュラーが常識説くとか世も末だろ」

「彩葉おかしいよねやっぱり」

 

 おのれ減らず口を。というかあんたが言うのかいかぐや。自分で言うのはなんかあれだけどあんたを電柱から取り上げたのは私だぞ。あんたの生まれの方がよっぽどおかしいんだぞちくしょうめ。

 いかんいかん、話が逸れた。私は今過去最高にキレているのです。

 

「ヤチヨはね、神様なの」

「宗教勧誘なら帰っていいか?」

「かぐやのビーフシチュー食べたくないの……?」

 

 潤んだ瞳で見つめられた瞬間黙って座った。かぐやは奴の視界の外でガッツポーズ。言いたいことは色々あるがこいつも結局かぐやに胃袋握られてんのね。

 

 まあそこはいい。

 

 肝心なのはこいつが、そう、こいつが! ツクヨミを知らず配信にも疎く、それでいてヤチヨのことを見た目は好みだなんて抜かしていやがったこの野郎が!

 ヤチヨ自らの案内でツクヨミの名所を見て回ったという事実!!

 

「対面で人生相談なんて握手券と同等の価値だしツクヨミ観光ツアーなんて万札払うレベルなの!」

「でもアイツ無料(タダ)でいいっつってたぞ」

「次アイツとか言ったら首絞めるから」

 

 嫉妬で狂いそう。今の私ならKASSENで絞殺フィニッシャーも出せる。

 

「大丈夫だよ彩葉、次はないから」

「かぐや?」

 

 なにやら確信を持った表情でかぐやが俵の背中から腕を絡ませる。お揃いの金髪は並ぶと本当に兄妹のようで、街中を出歩いても多分違和感を持たれないだろう。

 

 あの日盛大に怒られてからというものの、かぐやが出先で無茶苦茶やるということはなくなった。

 ただし、一人で飛び出したりしないというだけで誰かを巻き込んだり私を引き摺って行くといった事は全然やる。あくまでもかぐやなりに俵へ心配を掛けないよう配慮してる感じだ。

 

 そんなかぐやだが、ここ最近は俵が他のライバーに目移り(?)していると露骨に不機嫌になってぶーたれる。自分(かぐや)のことだけ見ていて欲しいとのことだが、晴天みたいな笑顔から急転直下で土砂降りの夕立になるのでギャップで風邪を引きそうになる。

 俵の事が好き……では、あるのだろうけど。方向性としてはまさしく兄を取られて拗ねている妹、くらいなのでそっち方面の心配はしていない。

 

 何故分かるのかは黙秘権を行使させていただく。

 

「わらDが一緒にツクヨミ歩いていいのはかぐやだけだもんね。ねー?」

「記憶にございませんねンな約束」

「彩葉が言ったんだもんねー?」

「言ったっけそんなの」

 

 土砂降りどころか皆既日食が始まった。暗闇に遮られた分鮮明でギラギラした光が狼を焼き焦がさんとばかりに見つめ、かと思いきやこっちをぶち抜いてきた。

 それにしても私が約束……? そんなことしたっけ。例の第四項の事言ってるんだとしたら、あれはあくまでもかぐやが一人で好き放題するのを抑止するためであって俵を縛るためでは――――

 

「彩葉ぁ?」

「あんたこの子に何したの」

鏡に話しかけるのに忙しいらしいなオイ(自分の胸に聞けや)

 

 京都人(わたし)より京都人(じもと)らしい返しすんなこの野郎。

 いやそこじゃない。皆既日食なのに直射日光より焦げるとはシャレになってない。さっきから熱量がとんでもない事になってる。視線がもう痛い。

 

 焼き殺される前に全力でターゲットを俵へと引き戻しにかかる。かぐや姫()なのに太陽より痛い光とはこれ如何に。

 

「というかそもそも、あんたいつの間にヤチヨとお知り合いになったわけ?」

「だぁから知るかっつうの。ヤチヨってのはAIなんだろ? あのくらいユーザー全員にやってんじゃねぇのかよ。ほら、ライブのあと態々(わざわざ)分裂していろんな奴のトコ行ってたじゃねぇか、こっちにだって来たし」

「ぬ……」

 

 まだ弁明するかと思いながらも、少しだけ思考が冷静になる。こいつは現代文明に妙に疎い所があるし、8000歳はともかくAIであるという自己紹介を事実として信じていてもおかしくないのか。

 いやまあヤチヨは本物のAIライバーですけどね? でも流石に運営まで全てを熟せるとは……いや、出来るか、ヤチヨだし。

 

 冷静になったとしてもこのドス黒い嫉妬の炎が消えるわけではない。ふっつーにクッソ羨ましいので今もまだキレそうですが何か。

 

「ヤチヨが特別なだけで現代のAIはそこまで進歩してません。ツクヨミ運営に多忙なはずなのに、本人がわざわざ案内に出てくるなんてそうそうあり得ないんだから」

「俺からしたらヤチヨもスマコンも似たり寄ったりなんだがなぁ」

 

 分かんねぇよ最新技術、なんてぼやきながら俵は頭を掻く。

 こいつの実家ではいまだに設置型の電話か、下手をすれば直接家を訪ねて話をしたり回覧板を使う方が早い事すらあるらしく。スマホも満足に使えるようになったのは家を出る少し前くらいだと愚痴る。

 

 いかん、現実とこいつの背景に引っ張られて思考が落ち着いてきた。嫉妬は燃えてるのに審議する熱量まで維持できてない。もうとりあえず終身刑でいいかな。

 そんな私と打って変わって、かぐやは自分よりヤチヨと遊んでいたという事実が極めて納得がいかないらしい。焦げるほどの熱量こそ鳴りを潜めたが拗ね甘えモードは継続中、むしろ悪化傾向であった。

 

「かぐやよりヤチヨのほうがいいんだ」

「そうは言ってねぇって」

「でも海来なかった」

「女子連中ど真ん中に放り込むとか普通に勘弁してくれっつの」

「ツクヨミで遊んだことない」

「予定合わねぇだけでリアルじゃいろいろやってんだろ、ただでさえ配信漬けなんだからお前」

「んん゛~~~~!!」

「そんなに頭擦るとハゲるぞー」

「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!!!」

 

 床で転げまわる代わりに頭を奴の背中にごりごり擦り付けて全力の不満表明。なんだろう、この身に覚えのない既視感。経験はないのに、触媒みたいに眼前の光景に頭が反応して褪せた思い出が勝手に駆け抜けていく。

 

 そんなだから、ああもう。

 いつも甘やかさないでって言う割に、自分でも分かるくらいかぐやに甘くなってしまう。お前のせいだぞこの野郎。かぐやに振り回されてもけろっとした顔しやがって。可愛い妹分にじゃれつかれてるんだから少しくらい動揺しやがれ。

 あとやっぱりヤチヨにツクヨミ案内してもらってるのは羨ましすぎる。何度だって蒸し返すぞ私は。

 

「やっぱ一旦死刑にするか」

「おうコラ気分で求刑すんな」

「無期懲役の方が良いと思うなー」

「司法制度が気分次第とは恐れ入ったよこの野郎」

「んにゃあ゛あ゛あ゛あ゛!!?」

 

 蛇みたいな腕の動きでかぐやの首を絡めとり、そのまま拳骨をぐりぐり。見てるだけで分かる、あれは普通に痛いやつだ。でもなんかちょっと嬉しそう。どんだけ構って欲しかったのよあんた。

 

 

 

 急な友達自慢にはなるが、芦花と真実はツクヨミで万単位のフォロワーを抱えるインフルエンサーだ。

 友人関係に恵まれてそんな二人とコラボしたかぐやの注目度は留まるところを知らず。それにテンションもブチ上がってかハイペースでいろんなことに手を出していた。

 激辛食品の実食、恵方巻食べきりチャレンジ、ペットボトルバズーカ試射……なんか趣旨のよく分からん変な事も、面白そうと思えば一直線。

 画面外に私が居たり、画面端で菅笠狼面が常に正座でハリセン佩いてたりするのが妙にウケているらしい。

 

 歌枠とか普通にやらないのかなと思いはするものの、それは口に出せば最後だ。間違いなくいつもの調子でおねだりからの伴奏に引っ張り出される。

 なお引っ張り出されなくても晩御飯を餌に一本釣りされる。おのれ、日本人が絶対に拒否できない手を的確に覚えおって。こんな陽キャな宇宙人もかぐや姫もいてたまるか。地球に馴染み過ぎだろう。

 

「みんなー、今日の歌枠は久しぶりにいろPが伴奏してくれるよ! ヴァイヴス高まったらワンチャン着ぐるみ脱ぐかもだから、ばっちり盛り上げてってね!」

 

 絶対脱がねーよ。あとヴァイヴスって何だ。

 ……まあ、かぐやの歌に合わせて演奏するのは結構楽しいのだけれど。それでも私にはエンターテイメントは似合わない。こうやって裏方やってるほうがいい。

 

「みんなー! かぐやのこと好きー!?」

 

 本当に、かぐやはアイドルが天職だと思う。

 キラキラしていて、煌びやかなツクヨミでも一層輝いて見る人を虜にしていく。何の打算もなく面白い事全部やるとばかりに陰ることを知らないその姿は、何よりも眩しくて。

 

「彩葉、今日何食べたい?」

 

 ――――なんて、そんな風に思っていれば、急にこっちと目が合って。間奏の入りミスっても逆に神回かも、なんて笑って。

 ずるいなぁ、ほんと。

 

 

 芦花と真実はかぐやと集まるとゲーム配信なんかをやったりする。

 幾らかのプレイを経た後、何やら求婚コメントに対して私に勝ったら良いよなどと抜かして連戦する羽目になったりもしたけれど。ちゃんと全部ブッ飛ばしました。

 

 どこから呼びつけたのか俵や俵の友人たちと共にKASSENの7対7のバトルロワイヤルモードで戦いを繰り広げた事もあった。ちなみに私も巻き込まれたのだが……

 

「はっはっは、かぐやちゃん筋がいいのォ! けどなぁ――――」

「おわっ!?」 

 

 言った直後、かぐやと同じ大型ハンマー使いの道坂(みちさか)――――アバター名『ミチ』が片手をポケットに突っ込んだまま相手へ飛び蹴り。

 同時にかぐやを庇うように陣取って、よろけからの復帰は許さんとばかりに追撃の踵堕とし、そしてヤクザキック。

 

「ハンマーっちゅうんは大振りで分かりやすいんや。手なんて簡単に塞がっちまうんやから、足もちゃんと使わにゃあ、アカンでぇ!!」

「うわすっご……」

 

 トドメにいつの間にかチャージしていたハンマーのジェット噴射を起動、そのままよろけから復帰できない相手を連続で殴り飛ばして一方勝ち。いやつっよ。

 知名度とか一切関係のない容赦のなさは明らかにKASSEN慣れしている。

 

「もっと機動力活かしていいと思いますよ、筋は良いですから」

「はい!」

「女子相手にカッコつけんなトワー、彼女欲しさバレバレやでー」

「やかましいわグラサンヤクザ!!」

 

 どちらかといえば私に近い双剣使いの久遠――――アバター名『トワ』は回避を主軸にしつつ一瞬でも隙が出来れば迎撃不可能の高速連撃で仕留めていた。

 私はワイヤーや斬撃で中遠距離にも対応してるけど、トワはいっそ清々しいほどに近接に尖っている。遠距離主体の相手にも射撃を剣で叩き落すという荒業で急接近して一本をもぎ取る。

 仕込まれた射撃武器も射程の短いショットガンで、フィニッシャー代わりに超至近距離で連射して抵抗の余地なくHPを削り落とす。

 

 ちなみに推しは月見ヤチヨだそうだ。負けてたまるか。とりあえず一人落とした。

 というかこの人前にかぐやに求婚チャレンジしてた人じゃん。しぶといな。しかもちゃんと強くなってるし。 

 

「……」

「あっ私の高跳び!」

「すご、初めてなのに戦いやすいね」

「いや喋れや」

「配信舐めてんのかテメー」

 

 俵はといえば、この中ではプレイスキルが高くない(それでも中堅以上は絶対ある)芦花と真実をサポートするように立ち回ったかと思えば、要所要所で二人の戦い方を模倣して組み込むという曲芸を見せていた。

 納刀した大太刀を支点に高く跳び上がって振り下ろすのは真実の槍による機動のアレンジだし、芦花が飛ばす爪型武器には時には足場にし、時には彼女のサポートという形で立ち回る。

 そして隙が出来れば居合一閃。武器の形状としては大太刀そのままなのだが、仕込み武器という枠にしてあるらしくちゃんと鞘にも打撃の当たり判定が存在している。

 

「俵、大丈夫?」

「あ? 何がだ」

「なんか妙に疲れてる気がして」

「関係ねぇだろ。集中しろ」

 

 KASSEN中と終了直後はいつもより気が立っているようで、語気も荒い。

 ただ本人は無自覚らしく、喋り方はともかく根っこの部分まで変わってるわけじゃないから慣れれば話しかけるのに躊躇いもなくなっていった。

 

「おうおう、ピリついとるやん!」

「昂りと口調直結するタイプか? 沸騰すんなよ」

「……うっせぇな、分かってる」

「ほいほい、いっぺん深呼吸せぇよ、従妹ちゃん怖がるで?」

 

 私達は見慣れない姿だけど、俵の友達にとってはそう珍しい姿でもないのか。手馴れたように宥めて、いつもの調子へと引き戻していた。

 

『悪友感ある』

『わらD案外ヤンチャなのか』

 

「あー……まぁ、ヤンチャにならざるを得んかったっちゅうか、なぁ……」

「これで結構苦労人なんだ。あんまり突っ込まないでやってくれ」

 

『見た目と口調のギャップで風邪ひく』

『さっきまでヤクザキック連発してたとは思えない優しさ』

 

「いや蹴りは関係ないやろ」

「やっぱあれラフプレー寄りなんじゃねぇの」

「言うてハンマーで両手塞がるんやから蹴り以外ないやろ」

 

 ライバーではないとはいえ男性プレイヤーを交えての配信という事もあって少し気を揉んでいたのだが、視聴者からの反応は案外良好だった。まあそもそも配信者として始めた時から兄らしき人物がずっと映り込んでいれば自然と耐性も付くか。

 いやそれにしても三人並ぶと画面の圧すごいな。甚平にド派手な羽織、スーツっぽい改造和服、そして菅笠狼面の旅装。女性陣の横に並ばれると温度差で本当に風邪を引きそうになる。

 

「二人は配信とかしないの?」

「あんま興味ないなぁ。配信しとるからって強うなれるわけでもないし、ごめんなぁ」

「まあ、戦力が必要なら呼んでくれ。なるべく力にはなる」

 

 とはいえそれは単なる見た目の話。二人の言動自体はどこか真面目さを感じさせることも多かった。試合終了直後に軽くミーティングをして相手や自分の動きを分析したり、次に試してみることを纏めていたりと、楽しむことと上達することを上手く両立させている。

 それでいて距離を取りがちな俵にそれとなく水を向けたりして離れ過ぎないよう、反対に近づきすぎてストレスを与えないよう制御している。そういう器用な面があるからこそ、俵の友人としてうまくやって来れたのかもしれない。

 

「俵ぁ、俺らでいっぺんSENGOKU潜らへん? ちっと検証したい事あるんやけど」

「マッチで他人入れるのも大概気まずいんだよ」

「別にいいぜ、今日は暇だし」

「ちょっと待ちなよ、勉強は?」

「「「終わってます」」」

「あ、やば、宿題」

「私もやらなきゃ……!」

 

 おのれ小器用どもめ……。

 

 ちなみにこのミーティングや終わりの会話も配信に乗っていたらしく。見た目の派手さと対を成すような真面目な学生らしさは意外と受け入れられたようで、フォロワーの伸びにも貢献していた。

 また二人が参加したKASSENを見たいというコメントもあったようで、かぐやだけでなく俵も少しだけ嬉しそうにしていた。 

 

 

 沢山の人の心を動かせばふじゅ~はそれだけ支払われる。こと人をポジティブにさせることにおいて凄まじい才覚を発揮するこの宇宙人は、この短期間でそれはもう凄まじい額を稼ぐ大黒柱と化していた。

 分かりやすく調子に乗って喜んではいるが、それも目に見える成果だからというのが大きいんだろう。額そのものに頓着する節はあまりなく、今日も今日とてやりたい事へ一直線。

 

「……本当に私も行くの?」

 

 そうして迎えた初めてのソロライブ。いつもの歌枠や路上ライブではない、ツクヨミ内で人や場所を集めて行う本物の舞台。

 自分がこんなところに居ていいんだろうかなんて思う度、かぐやは彩葉じゃなきゃなんて言って連れていく。俵の奴は音楽方面の才は無いとばかりに今回はノータッチだ。

 

「来て、い・ろ・は!」

 

 ピースからの、チョッキンからの、こん、なんて。気恥ずかしい“仲良しのヤツ”をやると、すこしだけ緊張もマシになる。

 敵わないなと思うし、眩しいなと思う。けれど、やっぱりかぐやの歌に合わせる演奏は楽しくて。

 

 ふと、着ぐるみ越しに見た観客席。

 

 菅笠も狼面も取って、星月夜が笑っていて。

 思わず指差した方向をかぐやも見て、花が咲いたみたいに笑っていた。

 

『俺たちといても、あんな風には笑えないんすよ、アイツ。無駄に俺らに気ィ遣っちまうんで』

 

 背筋も凍る刃物みたいな俵と、かぐやの本当の兄みたいに振る舞う俵。

 どっちもあいつなんだろうけれど、でも。

 

『ようやく肩の力抜いて笑える友達できたんですわ。酒寄さんさえよければ、どうか頼んます』

 

 できれば、いつも笑っていて欲しい。

 あいつの安心した笑顔をみて、ようやくそう思えた。

 

 

 

 気が付いたら、布団の中だった。

 かぐやが買い物をしたいと外出して、その買い物というのがまさかの物件で。

 家賃35万とかいうえらい数字にぶったまげて、それから……そうだ。立ってられなくなって、しゃがみこんで。そこから記憶が無い。

 

 もしかしてあの暑さの中運んできてくれたんだろうか。今のかぐやは金持ちだし、タクシーを使ってくれたのかもしれない。

 どうにか首を回して見たかぐやの後姿。髪がお尻くらいまで伸びていて、色も三連休のあの時みたいな少し地味めの色に戻っていて……

 

「ヤバ――――」

「寝てろ」

 

 身体を起こそうとして、冷たいタオルで視界ごと妨害された。熱があるのか、ただの水で冷やしただけのそれがひどく気持ちいい。

 酷く低く、短い俵の声。それに反応したのか、何か料理をしていたかぐやも駆け寄って来る。

 

「かぐやがバイト休む連絡入れた。黙って休んどけ」

「え……」

「あと、いっぱいふかふか置いといたから、いっぱいふかふかしてね!」

 

 タオルを額の上に動かしてスマホを見れば、確かに自分で打った覚えのないメッセージと店長からの返事。すこし周囲を見回せば、配信用に買った物の中でも柔らかいクッションやぬいぐるみがこれでもかと敷き詰めてあった。

 曇りガラスみたいな視界の中で人形の一つを抱き締めて、さっきの低い声の主の方を向く。

 

「俵……」

「……」

 

 俯いて、一言も発さない。疲れきったその姿は戦場帰りという言葉がよく似合う。

 もしかしなくとも、運んできてくれたのは俵だったんだろうか。だとすれば相当な迷惑を掛けてしまった。せめてこれが風邪ではないことと、こいつに移っていないことを願いたい。流石にそれは面目なさすぎる。

 

「ごめ――――」

「引っ越せ」

「え?」

 

 謝ろうとした言葉を遮るように出てきた言葉はやっぱり短くて、そして今までのどんな時よりも切羽詰まっていた。

 ようやく合った視線は、冷たさすら欠けている。

 

「ぶっ倒れるくらいなら引っ越せ。それぞれの部屋持てるようなとこ行って、そんで良いベッドでも買って、ちゃんと休め。金が無ぇなら俺も出す。これでも使ってねぇ分でそこそこに貯めてる。月35万くらいかぐやと俺で折半でもすりゃ何とでも出来る」

「でも、そんな」

「でももクソもねぇだろ。お前かぐやが何とかしてくれなかったらあのまま路上でぶっ倒れてくたばってもおかしくなかったんだぞ」

 

 咎めるような視線には力が無くて。

 あの日にかぐやを咎めた憔悴すらもが抜けるほどに疲弊していた。

 

 続けるように口を開いたかぐやが、病院に行こうと言ってくる。

 でも、この熱で入院したら学校は? 何日も休んだら、勉強もついていけなくなる。そうしたら奨学金も止まってしまうかも、そうなったら学費だって……

 悪い予想がとめどなく溢れ出して、人形に爪が食い込む。体だけじゃなくて目元まで熱くなってきて、喉が詰まって苦しい。

 

 それにつられたのか、かぐやまで死んじゃ嫌だと泣き出す。

 どうして一人で頑張らないといけないの、自分が色々無理言ったからか、なんて言いながら、映画だと人はすぐ死ぬじゃんとか言い出して暴れ出す。

 かぐや的には本気なんだろうけれど、私からするとなんだか気の抜ける光景で。なんだ、ちゃんと反省してたんだってちょっとだけ安心してしまった。

 

 けれど、それが良くなかったんだろう。次いで口を開いた声は、酷く覚悟を決めてしまっていた。

 

「金がありゃ良いんだな」

「な、にを」

「かぐやが居りゃどうにかなるだろうが、最悪綾紬と諌山にも頭下げて金貸してもらう。勉強は……ちと不安か。そっちは道坂と久遠もかき集めりゃ何とかなるだろ」

「そんな、迷惑かけたら……」

「テメェに死なれる方が迷惑だ」

 

 かぐやみたいなことを言い出した俵。

 あらゆる感情が抜け落ちたその姿が精神的に極限の状態なんだと、そこでようやく気が付いた。気が付いてしまった。

 

「保証人……要るな。親父に聞いてくる」

「ま、待ってよ」

「ンだよ、お前の提案乗ってやるっつってんだ、喜んどけよ」

 

 理由まで分からなくても、私が追い詰めてしまったんだと気が付いてしまえばもうダメだった。こんな形でこいつの力を借りたくない。あの二人にも託されたのに、こんな不甲斐ない様じゃ、申し訳が――――

 

「……なんで、そこまでするの」

 

 零れ落ちた言葉は、それが精いっぱいだった。

 思えば、あの日からだ。ばったり会ったからって弁当渡してきて、かぐやを拾った事を電話すればすぐに駆け付けて。

 それが平常運転なのかと思えば、道坂と久遠曰くもっといつもは張り詰めていて。

 でも、かぐやと一緒の時は笑っていて、私とは何の気負いもないような煽り合いばっかしてて。

 

 こいつの事が、分からない。

 実家に居たら死んでしまうとはどういう意味なのか。

 なんでかぐやだけじゃなくて、私や芦花、真実にすら過保護になりそうになるのか。

 

「――――俺の母親は、今年で34だ」

 

 34。

 俵は私と同い年で、17。

 

 差は――――17。

 

 全ての答えになりうる、あまりにも惨い2桁の数字が、そこに横たわっていた。




・道坂
 関西から上京してきた。髪色を指摘され怒り狂った俵を見て「コイツを一人にしてはダメだ」と無理やりにでも絡みに行った。俵の家庭事情について本人から聞いているが、余程でなければ口を開かない。
 最近になってようやく肩の力を抜いた笑い方をするようになって安心していた。

・久遠
 道坂経由で俵と友人になった。俵のことは面倒臭いけど悪い奴ではないと思っているし、普通に気に入っている。道坂経由で俵の家庭事情について知っているが、余程でなければ口を開かない。
 かぐやが親戚の子という話を疑っているが、わざわざ指摘するほどでもないとも思っているし、本人さえ良ければ彩葉共々俵と一緒に居てやって欲しいと思っている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。