ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜   作:ミサ2

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【勇者】マナ
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア


【第10話】男勝りの武闘家

 細身の体躯だった。だが、その細さは華奢な令嬢のそれとは根本的に異なる。贅肉を極限まで削ぎ落とし、鋼のようなしなやかさを備えた、鍛え抜かれた細さだ。日焼けした肌に、アーモンド型の切れ長の瞳。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その瞳が、三人の姿を順番に捉えた。相手を見定めるような、だが落ち着いた眼差しだった。

 誰も、口を開かなかった。

 女もまた、何も語らない。

 顎の先から汗が一粒、熱を帯びた砂の上に音もなく吸い込まれていった。

 

 先に沈黙を破ったのは、女の方だった。

「どちら様?」

 拒絶の色はない。ただ、真っ直ぐに問うてきた。

「マナと言います」

 マナが一歩前に出て、相手の目を見据えた。

「メイリンさん、よね?」

 女――メイリンは、マナの顔をしばらく無言で見つめていた。

「……そうだけど」

「よかった〜」

 マナはいつもの、のんきな顔で微笑んだ。

「話を聞いてほしいことがあって、来たの」

 メイリンの視線がマナから離れ、カミラ、そしてダリアへと移った。三人それぞれの佇まいを確認し、またマナへと戻ってくる。

「あなたたち、怪我をしてるわね」

 カミラは思わず自分の腕に触れた。昨日の戦いで負った掠り傷だ。包帯を巻き、上着で隠していたつもりだった。だが、メイリンには怪我をしていることまで見抜かれていたらしい。

「少しね」

 カミラが短く答えると、メイリンは「少し、ね」と、その言葉をなぞるように繰り返した。それ以上、追及するようなことはしなかった。

 ふたたび、静寂が訪れる。

 マナはその沈黙を苦にする様子もなく、メイリンを真っ直ぐに見つめ続けていた。

「旅をしているの」と、マナが切り出した。「仲間を探してる」

 メイリンは特に驚く素振りも見せず、手ぬぐいで首筋の汗を拭いながら聞いていた。

「どんな旅?」

「バラモス討伐」

 メイリンの手が、止まった。

 ほんの一瞬。瞬きほどの短い時間だ。彼女はすぐに、また淡々と汗を拭う動作に戻った。

「……魔王を倒しに行くってこと?」

「そう」

「あなたたち三人で?」

「今は三人。あなたを入れて、四人にしたいの」

 メイリンはカミラとダリアを、もう一度見つめた。カミラはその視線を真正面から受け止めた。隣のダリアは腕を組み、どこか涼しい顔で事の成り行きを眺めている。

「強いの?」

 メイリンがカミラに聞いた。あまりに直接的な問いだった。

 カミラは答えに詰まった。見栄を張るべきか、現実を語るべきか。

「昨日、ぼこぼこにされたわ」

 結局、口から出たのはそれだった。

「モンスター相手にね」

 メイリンの口の端が、微かに、本当に僅かだけ動いた。それが笑みだったのか、呆れだったのかは判別できない。

「正直ね」

「嘘をついても、死ぬ時に後悔するだけだから」

 メイリンはしばらくの間、三人を交互に見回していた。やがて、彼女は静かに口を開く。

「……何のために、魔王を?」

「世界を守るため」

 マナの答えは即座だった。

「綺麗事ね」

 メイリンの突き放すような言葉にも、マナは傷ついた様子を見せなかった。

「そうかもしれない。でも、魔王がいる世の中のほうがいいと思う?」

 メイリンは少しの間、沈黙した。

「……思わないけど」

「じゃあ、同じじゃない」

 メイリンの瞳が、ふたたびマナからカミラ、そしてダリアへと動いた。

「あなたたちは? 何のために行くの」

「お金よ」

 取り繕う理由もなかった。

「私も、似たようなものね」

 ダリアも肩をすくめて同意する。

 メイリンはその答えを噛み締めるように、深く腕を組んだ。

「人間が弱いのは、平和ボケしてるからでしょ」

 独り言のような、冷ややかな響きだった。

「魔王が現れて、みんなが戦わざるを得なくなって、それで初めて本気になる。それではもう、遅いのよ」

 誰も、何も言い返せなかった。

 メイリンは腕を解き、背後の道場へと歩き出した。

「入って」

 その背中が、三人を奥へと促していた。マナたち三人はメイリンの後に続いて道場の中へ入っていった。

 

『人間が弱いのは、平和ボケしてるから』

 平和ボケ、か……。

 カミラは奥歯を噛み締めた。そんなもの、自分には縁がなかった。ロマとして生まれ、明日をも知れぬ盗賊として泥を這うように生きてきた。それでも、その一言は無視できない棘となって胸に刺さった。

 隣ではダリアも腕を組み、口をへの字に曲げている。明らかに不愉快だという色が隠せていない。だが、肝心のマナだけは、波立つこともなく平然としていた。彼女はただ真っ直ぐにメイリンを見据えている。反論も同意もせず、ただそこに在る。その強固な静けさに、カミラは一瞬、言葉を失った。

 

 その時、道場の奥から重みのある足音が響いた。

 引き戸が静かに開き、一人の男が姿を現した。五十を過ぎたあたりだろうか。白髪の混じった短髪に、深く陽に焼けた肌。大柄な体躯には無駄な肉がなく、一歩一歩の動きに練達の士特有の静かな凄みが宿っている。

 

「メイリン、朝からご客人か?」

 響いたのは、意外なほど穏やかな声だった。

「はじめまして」

 マナが一歩前に出る。

「マナと言います」

 男の目が、マナを捉えた。その刹那、彼の動きは凍りついたように止まった。

「マナ……!?」

 男の視線は、吸い寄せられるようにマナの身なりを追った。鮮やかな赤いマント、腰に提げた剣、そして背負った盾。

「そのマントと盾は……オルテガ様の……!?」

 カミラは思わずマナを振り返った。メイリンもまた、弾かれたようにマナへと視線を向ける。

「はい」

 マナの声は、どこまでも澄んでいた。

 

「父オルテガの一人娘、マナです」

 男はしばらくの間、彫像のように動かなかった。その瞳は目の前の少女を見ているようでいて、もっと遠い、記憶の澱の中から何かを手繰り寄せようとしているようだった。やがて、彼は肺のすべてを空にするような深い溜息を吐いた。

「そうか……オルテガ様の御息女が……」

 

 男はゆっくりと語り始めた。かつてオルテガがバラモス討伐へ旅立つ際、自分もお供する約束をしていたこと。しかし、その時すでに妻が子を身籠っていたこと。それを知ったオルテガは、頑として同行を許さなかった。「子が生まれるなら、そちらの方が大事だ」と。だから自分は、この地に残った。

 なんとその時、妻の腹の中にいたのが、メイリンだったと言う。

 

「オルテガ様は……不幸にも火山へ落ち、志半ばで逝かれたと聞いている」

 男の声が、わずかに沈んだ。道場を沈黙が支配する。外で木々が風に揺れる音だけが、やけに大きく聞こえた。

 

 やがて、男はメイリンへ落ち着いた瞳を向けた。

「メイリン。私の代わりに、マナ殿に助力してくれぬか」

 メイリンは何も答えず、ただ黙っていた。男は諭すように言葉を重ねる。

「本来なら、私自身がマナ殿にお供すべきところだ。しかし、なにぶんこんな体になってしまってな」

 男はゆっくりと左足の裾をまくり上げた。

 膝の下は、鈍い光を放つ義足だった。

 カミラは息を呑んだ。いつ、どこで、どんな修羅場をくぐってそうなったのか。問うことなどできなかった。そんなことを許さぬ、重厚な沈黙がそこにはあった。

「足手まといにしかなりそうもない」

 男は静かに裾を下ろした。

 

「しかしマナ殿、この娘、技量は未熟なれど、必ずやあなたの役に立つ。私が毎日、骨身を惜しまず仕込んでおるからな」

 メイリンはその言葉を、伏せ目がちに聞いていた。そして決然と顔を上げて黙ってマナを見ていた。

 

「……はい。承知しました、父上」

 メイリンは父に向かって深く頭を下げた。

 やがて顔を上げると、その姿はもう、道場で父の教えを受ける娘のものではなかった。これから父のもとを離れ、マナの隣に立つ者の顔だった。

 男は娘を見つめ、それからマナへと向き直る。

「しかし、無理は禁物だぞ。かのオルテガ様でさえ……あのようなことになられたのだ」

「はい。わかりました」

 マナの返事を聞くと、男は一度奥へ下がり、すぐに戻ってきた。その手には、キメラの翼と薬草が握られていた。

「私からの、ささやかな餞別だ」

 メイリンはそれを両手で受け取り、深く頭を下げた。男はそれを見届けると、マナに向かってわずかに口元を緩めた。

「ちょっと負けん気が強くて、男勝りな娘だがな」

 その瞳には、父親としての苦笑いと、誇らしさが入り混じった色が浮かんでいた。

「マナ殿、娘を……メイリンを頼みますぞ」

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