ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜   作:ミサ2

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【勇者】マナ
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン


【第11話】スネに傷持つ

 道場の門を出ると、鋭い朝の光が四人の行く先を白く照らし出した。

 カミラはふと気になって足を止め、背後を振り返った。道場の入り口には、先ほど言葉を交わしたメイリンの父が、微動だにせず立ち尽くしている。彼は何も言わなかった。ただ、その瞳は愛娘を追っているようでいて、もっと遠く——もはや自分では届かぬ場所に思いを馳せているような、深い色を湛えていた。

 カミラは静かに前を向き、再び歩みを揃えた。

 

「バラモスは、どこにいるの?」

 沈黙を破ったのはメイリンだった。合流して間もない彼女の問いは、この旅の根幹を突くものだった。

「それは、まだわからない」

 マナの返答に、メイリンは怪訝そうに眉を寄せた。

「わからない? なのに、どうやって討伐するというの」

「バラモスの居場所を突き止めるために、まずは世界を巡るの。手がかりを探しながらね」

 メイリンは少しの間、沈黙した。

 

「……随分と、気の長い話だね」

「それに」とマナは言葉を継いだ。「たとえ今すぐ居場所がわかったとしても、今の私たちがバラモスの元へ乗り込んで勝てるとは思えない。力も装備も、何もかもが全然足りていないもの。だから、もっと強くならなきゃ」

「まずは修行の旅、というわけ?」

「そう思ってくれても構わないよ。私の父でさえ果たせなかったことを、成し遂げようとしているんだから」

 その言葉に、メイリンの足取りが一瞬だけ緩んだ。

 

「マナのお父上……オルテガ様は、私の父と同い年くらいかしら」

「そうね。生きていれば、たぶん同じくらいだと思う。私が生まれてすぐに旅立ったから。その頃、父は三十歳くらいだったはずよ」

「そう、か……」

 メイリンはそれきり押し黙った。何かを深く考え込んでいるのか、それともただ無心に歩いているのか。カミラにはまだ、彼女の横顔から心情を読み取ることができなかった。

 

「自己紹介がまだだったわね。私は商人のダーリヤ・ヤズディ。ダリアでいいわ」

「……私はカミラ」

「陳梅琳。メイリンでいいわ」

 

 しばらくして、メイリンが再び口を開いた。

「ところで。当面の目的地はどこなの?」

「ナジミの塔よ」

「ああ、西の海岸から見える、あの塔ね」

 マナが意外そうに目を丸くした。

「知っているの……?」

「以前、一度だけ見たことがある。父たちと一緒に、海岸から」

「じゃあ、あそこへ行く方法もわかる?」

「それは……わからない」メイリンは首を振った。「海岸からかなり離れた島でしょう? 普通に考えれば船でしょうけど」

「そうなのよね。でも、西の海岸には港なんてなかったわよねー」

 マナが困ったように眉を下げると、ダリアが加えた。

「泳いで渡れるような距離でもないよ、あれは」

「もう一度、みんなでお城へ行って聞いてみましょう」

 マナのあっさりとした提案に、カミラは思わず素っ頓狂な声を上げた。

「えっ、お城の中へ!?」

「そうよ」

「王様から招かれたわけでもないのに、そんな簡単に入れるの?」

 ダリアが疑わしげな視線を向けると、マナは当然だと言わんばかりに胸を張った。

「だって、魔王討伐を私に命じたのは王様だもの」

 カミラは思わず隣のダリアと顔を見合わせた。ダリアは「やれやれ」といった様子で大袈裟に肩をすくめてみせる。

 またあの、物々しい衛兵たちの前に立たされることになるのか。カミラは胃のあたりが重くなるのを感じた。身元の怪しい自分にとって、城という場所はどれだけ正当な理由があろうと落ち着かない場所に変わりはない。

 だが、マナはそんなカミラの懸念など露ほども知らない様子で、すでに城の方角へと歩き始めていた。カミラの気の重さなど、まるで置き去りにするように。

 

 カミラは小さく息を吐き、諦めたようにマナの後を追った。

 

ーーーーーー

 

 城門の前に立つと、二人の衛兵がマナの姿を認めるなり、恭しく会釈を交わした。

 その光景を目にし、カミラは反射的に肩に力が入った。衛兵から敬意を払われる側に立つなど、これまでの人生で一度としてなかった経験だ。いつもなら物陰に身を潜め、彼らの視線からいかに逃れるかだけを考えてきた。

 居心地の悪さを抱えたまま、跳ね橋を渡り、巨大な門をくぐる。

 

 城内に入ると、ひんやりとした空気が漂う石造りの廊下が奥へと続いていた。高くそびえる天井、壁に掲げられた王家の紋章入りの旗。カミラは無意識のうちに足音を殺そうとしていた。染み付いた盗賊の習慣だ。だが、この場でそれをやればかえって怪しまれる。彼女は必死に意識を逸らし、努めて「普通」に歩こうと試みた。

 ただ普通に歩くということが、これほどまでに困難だとは思わなかった。

 

 廊下を進むうちに、前方から大柄な男が歩いてきた。重厚な鎧を身に纏った、四十がらみの兵士だ。

 男はマナの姿を捉えた瞬間、その厳つい顔をぱっと明るく崩した。

「おお、マナ殿! お久しぶりですな」

「ご無沙汰しています、ケリー兵長」

 マナが親しげに応じる。どうやら見知った顔のようだ。

「ついにバラモス討伐へ立たれたと伺いましたぞ」

「はい。そうなのですが、まだ全然実力が足りなくて……」

「何を仰いますか」ケリー兵長は豪快に笑った。「あのオルテガ様の御息女ともあろうお方が」

「本当なんです。まったく、まだまだで」

 

 少し後ろを歩いていたカミラは、マナのその言葉を複雑な思いで聞いていた。卑下でも謙遜でもない。彼女は本気で、自分たちの未熟さを痛感している。昨日の草原での無様な立ち回りを思い返し、カミラは黙った。

 

「して、本日はどのような御用で?」

「はい。ナジミの塔を目指しているのですが、どうしても行き方がわからなくて」

「あそこかぁ……」

 ケリー兵長はしばらく腕を組み、唸るように考え込んだ。

「城内にもあの塔に詳しい者が何人かはおると思うが……宮廷学者にお尋ねになってはいかがかな」

「宮廷学者さん……?」

「そう、レイラニと申す女性だ。一階の西側の部屋におるはずだ。もしいなければ侍女に聞くといい。私からの紹介だと言えば話が早い」

「助かります。ありがとうございます」

 マナが丁寧に頭を下げると、兵長は満足げに頷いた。

 

 しかし、その視線がふとマナの背後へと動く。

 そして、カミラの前でぴたりと止まった。

「……ところで、そちらの方は?」

 兵長の目が、検分するように細められた。何かを思い出そうとしているのか、あるいは疑念を確かめようとしているのか。

「どこかで見覚えが…。手配書が回ってきていたような……?」

 呟くような、低い声だった。

 カミラは一滴の感情も漏らさぬよう、仮面のような無表情を貫いた。だが、その内側では、心臓が爆ぜんばかりに跳ね上がっていた。

 

「人違いでは? 私はビアンキと申します」

 カミラは即答した。声が震えないよう、カミラは意識して息を押し殺した。

「私の仲間です」

 すかさず、マナが言葉を被せた。その声には一点の迷いも、取り繕うような気配もなかった。

「バラモス討伐に、どうしても必要な、かけがえのない人材なんです」

 カミラは一瞬、隣のマナを見た。

「かけがえのない人材」——自分のようなコソ泥を、この娘は事も無げにそう言い切った。マナの瞳には、兵長に対する敵意もなければ、カミラを庇っているという悲壮感もない。ただ、絶対の事実を述べているだけの、澄み切った強さがあった。

 ケリー兵長は、しばらくの間、腕を組んだまま黙り込んだ。

 彼の鋭い視線が、カミラの顔をゆっくりとなぞる。廊下の喧騒が遠のき、耳元で自分の鼓動だけがやけに大きく響いた。

「……ふむ……」

 

 永遠にも思える沈黙のあと、兵長はゆっくりと目を細めた。

「それは失礼した、シニョリーナ・ビアンキ。……マナ殿がそうおっしゃるならそういうことだと拝察します。マナ殿、くれぐれもお願い致します」

 兵長の口角が一瞬だけ上がった気がした。

「では、皆様にご武運があらんことを」

 

 兵長はそれだけを言うと、仰々しく道を譲り、それ以上の追及を自ら断ち切った。

「ありがとうございます、ケリー兵長! 行きましょう、みんな」

 マナは明るく手を振り、何事もなかったように歩き出す。

 カミラは兵長の横を通り過ぎる際、その視線が自分の背中に突き刺さるのを感じた。

(……助かった、のか?)

 

 ケリー兵長の姿が廊下の角に消え、ようやく刺すような視線から解放された。

 カミラは無意識に止めていた息を吐き出したが、肺の奥にはまだ緊張の残滓がこびりついている。

「……さっきは、かなり危なかったんじゃないの?」

 隣を歩くダリアが、声を潜めて言った。横目でこちらを見る彼女の顔は、呆れを隠していなかった。

「……まあ……ね」

 カミラは短く応じるのが精一杯だった。盗賊にとって、城内で兵長クラスに目をつけられるのは、死刑宣告に等しい。

「よくあんな秒速で嘘が言えるものだわ。シニョリーナ・ビアンキ、だったかしら?」

 ダリアの皮肉めいた言葉に、カミラは沈黙した。

 咄嗟に口をついて出た偽名。この城に入ると決まった時から、この状況は考えていた。自分にとっては呼吸と同じくらい当たり前の「汚れ仕事」だった。

 だが、その沈黙を破ったのは、前を歩くマナの迷いのない声だった。

「私は、決して嘘は言ってないから」

 マナは前を向いたまま、いつもの調子で言い切った。

 

「たぶん、兵長さんには気づかれてたけどね…」

 メイリンがぽつりと呟く。

 カミラは思わず足を止めかけた。

「……やっぱり?」

「たぶん」

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