ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜 作:ミサ2
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン
アリアハン城内で、四人はいくつかの話を聞いた。
宮廷学者レイラニによると、ナジミの塔へは、アリアハン西にある『岬の洞窟』から渡れるらしい。海岸線を歩けば、一日とかからない距離だという。
だが、カミラの耳に最後まで残ったのは、別の話だった。
盗賊の鍵。
あらゆる扉を開くと言われるその鍵は、バコタという盗賊が作ったものらしい。そして、その当人は今もアリアハンの地下牢へ繋がれているという。
同業の末路を見せつけられたようで、カミラは思わずマナを見た。だがマナは特に驚いた様子もなく、静かに頷いているだけだった。
さらに、盗賊の鍵を手に入れた後には、「魔法の玉」というものを探す必要があるらしい。
その玉を使えば、旅の扉を通って世界へ出られる。
かのオルテガもまた、その扉を使ってアリアハンを発ったのだという。
その名が出た時、マナの横顔が、ほんの少しだけ変わった。
城を出ると、午後の日差しが四人を迎えた。
父が使ったという旅の扉。その話を聞いた時のマナの横顔が、カミラの頭に残っていた。何も言わなかった。けれど、いつものんきな顔ではなかった。あの時、何を思っていたのか。カミラには、まだわからなかった。
城下町を歩いている最中、メイリンが不意に足を止めた。
「ちょっと。次にモンスターと戦う前に、決めておきたいことがあるんだけど、いいかしら?」
マナも足を止め、不思議そうに首を傾げる。
「うん。どんなこと?」
カミラも少し意外だった。メイリンは、ここまであまり自分から多くを語る娘ではなかったからだ。
メイリンは引き締まった表情で、三人の顔を順番に見据えた。
「四人のフォーメーションのことよ」
フォーメーション……。
カミラは聞き慣れないその言葉を、頭の中で繰り返した。
「見たところ、この中で速く動けるのは、カミラと私よね?」
「そうね」
マナが同意するように頷く。メイリンは歩きながら、そのまま続けた。
「だから、モンスターが現れた時、まずは私が初手の一撃を加える。その一撃を入れている間に、マナとダリアは攻撃の用意をして。私の攻撃で敵がひるんだところを、二人で左右から叩くの」
「なるほどね」
マナが感心したように声を漏らし、ダリアもまた、黙って頷いた。
そこでカミラは、徐々にメイリンの言うことが分かってきた。
これまで自分たちは、三人で戦う形など一度も決めていなかった。マナが前へ出る。カミラが隙を探す。ダリアがその場で判断する。昨日までは、それでどうにかしようとしていた。
だがメイリンは違う。
加わったばかりの彼女は、もう四人の動きを一つの流れとして考えていた。
「……じゃあ、私は何をしたらいいの?」
カミラが問いを差し挟んだ。前衛で暴れるわけでもなく、重い武器を振るうわけでもない自分に、メイリンは何を期待しているのか。
メイリンはまっすぐにカミラを見た。
「カミラは、二人の攻撃をよく見ていて。仕留め損ねたところを、間髪入れずに叩くの。目が利き、動きの速いカミラだからこそできる役目よ」
カミラは一瞬、言葉を失った。
仕留め損ねた隙を叩く。それは、盗賊として長年泥水の中を這いずりながら培ってきた、他人の弱点を見抜く目そのものだ。メイリンは、カミラの戦う姿を一度も見たことがないのに、その適性を的確に突いてみせた。
「……わかったわ」
「ただし」
メイリンが言葉を継ぎ、四人の歩調が自然と緩んだ。
「これはモンスターが一匹で現れた時の話ね。もし二匹、三匹と同時に現れたなら、このフォーメーションは通用しない。その時は、臨機応変に動くしかない」
メイリンの視線が、再び三人を見回す。その目は、甘い返事を許すものではなかった。
「私が一番強そうな敵をまず叩く。残りの敵については、各々の瞬時の判断に任せるわ。……できそう?」
マナが力強く頷き、ダリアもまた、覚悟を決めたように無言で首を縦に振った。
カミラは、わずかな沈黙のあとで口を開いた。
「臨機応変なら、得意よ」
盗賊として生きてきた年月は、予定通りにいかないことなら、いくらでもあった。
完璧だと思った計画が崩れ、退路を断たれたその場で、次の一手を探り当てる。そうやってカミラは路地裏で生き延びてきた。
メイリンはカミラの答えを聞くと、短く、小さく頷いた。
余計な称賛も、確認の言葉もない。だが、その眼差しは、先ほどまでカミラを見定めていたものとは、少し違っていた。
「それで行きましょ」
カミラは腰のナイフの重さをベルトに感じながら、どこか誇らしい気分で足を踏み出せた。
話がまとまり、城下の門へ向かおうとしていた三人にメイリンが声をかけた。
「待って。今日はまだ、出発しないほうがいい」
「えっ、なんで?」
先に門の方へ向きかけていたマナが振り返る。ダリアも荷物の紐を直しかけた手を止めた。メイリンの視線は、カミラとダリアの足元や肩に、鋭く注がれていた。
「カミラ、それにダリア。あなたたち、昨日の傷がまだ癒えきっていないでしょう。その状態で、初めての洞窟や塔に入るのは、無茶というもの」
指摘され、カミラは思わず肩をすくめた。昨日の乱戦で負った切り傷が、歩くたびにじわりと疼く。隠していたつもりだったが、武闘家の目は誤魔化せなかったらしい。
「それにもう、昼を過ぎているわ。今から出れば、ナジミの塔に着く頃には日が落ちる。不慣れな場所での夜戦は、避けたほうがいいと思う」
カミラは何も言い返せなかった。メイリンは少しだけ表情を和らげ、続ける。
「二人なら、今日のうちに薬草を使い、一晩しっかり休めば明日には全快しているはず。万全を期すべきだわ」
「うん、わかった。メイリンがそう言うなら、今日は休もう」
マナは素直に頷き、肩をポンと叩いた。
「じゃあ、メイリン。今夜はうちに泊まったら? 部屋なら余ってるし」
「え……オルテガ様のお宅に…っ!?」
「うん」
「それは……」
珍しく、メイリンが言葉を探すように視線を伏せる。瞳がわずかに左右に揺れた。
「さすがに、畏れ多いわ」
「そんな大した家じゃないって」
マナは気軽に笑い、メイリンの背を押す。
「……なら、お言葉に甘えます……」
そんな二人を見送って、ダリアがくすりと笑い、カミラに向き直った。
「じゃあカミラ、あなたは私の宿に来ない? 幸い、隣の部屋は空いているはずよ。薬草のちゃんとした使い方ぐらい教えてあげるわ」
「……薬草の使い方? 塗って終わりじゃないの?」
「ふふ、そんな雑な使い方じゃ、もったいないって。さあ、行きましょう。明日は長丁場になるんだから」
カミラは小さく息を吐き、
「……世話になるわ」
とだけ答えた。
傾きだした太陽が、四人それぞれの影を石畳に長く落としていた。
今日加わったばかりのメイリンが、戦い方を示し、休むことを促した。
四人の旅は、その日から少しだけ形を持ち始めた。