ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜 作:ミサ2
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン
目が覚めたとき、カミラは自分のいる場所が一瞬わからなかった。視界に入った天井の木目が、いつもの薄暗い安宿のものとはまるで違っていたからだ。
「……そうか」
意識がはっきりするにつれ、昨日の記憶が蘇る。ダリアに半ば強引に腕を引かれ、城下でも値の張る宿へ連れてこられたのだった。
『どうせ旅に出るなら、最後の夜くらいちゃんと寝なさい。傷も残るわよ』
そう言い残し、ダリアは隣の部屋へ消えていった。もっとも、宿代はきっちり折半だったが。
カミラはゆっくりと身を起こした。
その時、自分の体の異変に気づく。
軽い。
昨日まで全身にまとわりついていた鉛のような倦怠感が消えている。一昨日の戦闘で負った切り傷も、ほとんど痛まなかった。
(……あいつ、本当に商人なのかしら)
昨夜、ダリアは慣れた手つきで薬草を煎じながら、当然のように言っていた。
『薬草は温めて蒸気ごと当てるの。そうすれば効きが全然違うわ』
久しぶりに、心の底から眠れた気がした。
カミラは窓を開けた。朝露に濡れた石畳が、昇り始めた陽光を受けて静かに輝いている。
身支度を整え、ベルトに吊したナイフとポーチの重さを確かめる。部屋を出ると、隣の扉を軽く叩いた。
「ダリア、起きてる?」
「とっくに」
いつもの凛とした声が、すぐ向こうから返ってきた。
二人で宿を出て、まだ人影もまばらな城門へ向かう。
マナとメイリンは、すでに到着していた。
マナはいつもの赤いマントを羽織り、変わらぬ笑顔でこちらへ手を振る。メイリンは拳当てを巻き終えたところだった。
「おはよう」
「おはよう、カミラ!」
マナがこちらを見つけて、ぱっと顔を明るくした。
その横で、メイリンがカミラたちを一瞥した。
「だいぶ良いみたいね。足運びが昨日とは違う」
武闘家らしい観察眼だ。
「まあね。……おかげさまで」
カミラは隣のダリアへ視線を向けた。ダリアは「当然でしょ」とでも言いたげに肩をすくめる。
城門をくぐると、朝の光が四人を正面から迎えた。
一昨日、この門を出た時は三人だった。草原へ飛び出し、モンスターに散々やられ、薬草を使い果たし、最後はキメラの翼で命からがら逃げ帰った。
失意の帰還――いや、要するに惨敗だ。
だが、今日は四人だ。
カミラは、門の先へ続く草原の道を見つめた。
その先には海があり、西の岬の洞窟を越えれば、ナジミの塔がある。
(……一昨日とは、違うわね)
体の軽さだけじゃない。
背中のナイフの重みも、隣を歩く仲間たちの足音も。
いろいろなものが少しずつ違って感じられた。
ーーーーーー
海岸線に出ると、塩気を含んだ風が四人を包み込んだ。
街道を外れ、岩混じりの海岸沿いを西へと進む。左手にはどこまでも青い海が広がり、右手には緩やかな草原が続いている。雲一つない晴天の下、視界は驚くほど開けていた。悪くない旅立ちだ、とカミラは心の中で呟いた。
だが、平穏は長くは続かなかった。モンスターの出現は、予想していたよりも早かった。
「来るわよ」 メイリンが短く告げ、構えて前に出た。
最初はスライムの群れだった。草むらから、あの特有の粘り気のある体躯がぷるぷると湧き出てくる。
メイリンが一気に間合いを詰め、先頭のスライムの真ん中へ右拳を叩き込んだ。衝撃に敵がひるんだ刹那、マナの剣が空を切り、続いてダリアのナイフが鋭く突き刺さった。カミラは二人の攻撃を目で追いながら、弾き飛ばされて仕留め損ねた一匹の眉間へ、滑らせるように短剣を走らせた。
戦闘は、あっという間に終わった。
次に現れたのは、オオカラスが二羽。メイリンが空から飛びかかってきた一羽の羽を手刀でへし折り、地に落ちたところをマナとダリアが仕留める。もう一羽が逃げ出そうとした背後には、すでにカミラが回り込んでいた。短剣を一閃させ、それで終わりだ。
「……一昨日より、だいぶいい感じじゃない?」
マナが剣を払って言う。
「一昨日が酷すぎたのよ」とダリアが即座に返した。
戦いを重ねるたびに、四人の歯車が少しずつ、だが確実に噛み合っていくのが肌で感じられた。
陽が天高く昇り、昼前に近づいた頃、三匹のオオアリクイの群れに行き当たった。以前の三人なら、それだけで互いの顔を見合わせ、緊張を走らせていたはずの相手だ。
だが、今日は違った。メイリンが一番体格のいい一匹へ真っ直ぐに突っ込んでいく。マナとダリアが左右から流れるように挟み撃ちにし、カミラは三匹すべての動きを同時に視界に収めながら、生じた隙に容赦なくナイフをねじ込んだ。
結果、誰一人として掠り傷さえ負うことなく、三匹を仕留め伏せた。
「……すご」
マナがぽつりと漏らした。
「うん、戦えてる」
カミラが息を整えながら言うと、メイリンが短く頷いた。
メイリンという戦力が加わったからといって、劇的に火力が上がったわけではない。何より良くなったのは、この四人での戦い方が「感覚」として体に染み込んできたことだ。
誰が何をするか、いちいち言葉で確認する必要はない。互いの動きを目の端で捉え、預け、自分の役割を全うする。それだけで、戦いの質が根底から変わっていた。
昼の光が少し傾きだした。周囲には切り立った岩場が増えてきた。潮騒の音が一段と大きく響くようになる。
足元を慎重に確かめながら進んでいくと、やがて岩壁にぽっかりと開いた、巨大な口が姿を現した。
洞窟だ。
暗く、深く、底知れない闇の中から、冷たい空気が這い出すように漏れてくる。カミラは入り口の前に立ち、その深淵をじっと見つめた。
ナジミの塔へ至る道は、この先にある。