ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜 作:ミサ2
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン
「左前方――いっかくうさぎ!」
カミラが叫ぶと同時に、白い影が闇を裂いた。
草原で見れば愛嬌すら感じるその姿も、この閉鎖空間では別物だ。額の一角がわずかな光を反射し、暗闇の中で冷たく閃く。
「――っ!」
メイリンの拳が一匹の腹を撃ち抜く。だが後続の二匹が壁を蹴り、頭上から飛びかかった。
「マナ、低く!」
反射的にマナが身を沈める。その頭上を、カミラの短剣が一直線に走った。鈍い手応え。いっかくうさぎが岩壁へ叩きつけられる。
「ダリア、右!」
「ああもう!狭いのよ、ここは!」
ダリアの太いナイフが岩壁をかすめ、火花を散らした。
暗闇では距離感が狂う。オオカラスの羽音の反響は方向感覚を乱し、オオアリクイの長い舌は闇のどこから伸びてくるかわからない。
草原とは別の戦場だった。
(……落ち着け)
メイリンが敵を捉え、カミラが地形を見る。
その連携だけが、辛うじて四人を崩壊から繋ぎ止めていた。
神経を削る戦闘を幾度も繰り返した末――
「……あ」
不意にマナが顔を上げた。
闇の奥に、針の先ほどの白い光が見える。
出口だ。
針の先ほどの光が、一歩進むごとに少しずつ輪郭を広げていく。
「……やっと、出られる…」
マナが安堵の息を漏らしたが、それはカミラとて同じ気持ちだ。
出口が近づくにつれ、湿った土の匂いに混じって、草いきれを含んだ風が流れ込んでくる。カミラは短剣を握ったまま、慎重に光へ近づいた。
洞窟を抜けた瞬間、視界が白く弾けた。
「っ……」
暗闇に慣れきった目に、午後の日差しは鋭すぎた。カミラは思わず腕で顔を覆う。細めた瞼の裏で、光の残像がちかちかと揺れた。
「ふぅ……やっぱり、お天道様の下の方が落ち着くわ」
隣でダリアが大きく息を吐き、太いナイフを肩へ担ぎ直した。
やがて視界が落ち着き、島の全景が姿を現す。
背後には、今しがた抜けてきた洞窟の黒い口。そしてその先――午後の光を浴びながら、ナジミの塔が天を突くようにそびえ立っていた。
「メイリン、怪我は?」
振り返ると、メイリンは乱れた髪をかき上げながら静かに頷いた。だが、その拳の指関節からは血が滲んでいる。
マナもまた、左肩を押さえて顔をしかめていた。裂けた布地の下で、赤黒い血がじわりと滲んでいる。
「マナ、見せて」
駆け寄ろうとしたカミラ自身も、脇腹に走った痛みに思わず息を止めた。暗闇で無理な姿勢のまま短剣を振るった代償だった。
「……ったく、散々な目にあわされたわね」
ダリアが荒く息を吐く。太ももには、オオカラスに裂かれた傷が痛々しく残っていた。
無傷で抜けられるほど、この洞窟は甘くなかった。
カミラは塔を見上げた。
湿った闇を抜けたばかりだというのに、さらなる試練が実感された。
日没までは、まだいくらか時間があった。
岬の洞窟での戦いは、四人の体力を確実に削っていた。だが、薬草はまだ残っている。
ここでキメラの翼を使えば、一瞬でアリアハン城下へ戻れる。柔らかなベッドで眠り、明日の朝に改めて挑むこともできる。
だが――せっかくあの洞窟を抜けてきたのだ。
いまさら振り出しへ戻るような真似はしたくなかった。
「ここで少し休んだあと、塔の中を見てみましょう」
仲間を見回しながら、マナが静かに言った。
「いざとなったら撤退する。でも、何も見ないまま帰るのは嫌だから」
誰も反対しなかった。
四人は薬草を分け合い、それぞれの傷へ貼り付ける。青臭い匂いが風に混じった。
休息は短く済ませた。日が落ちれば、ここもまた洞窟と同じ闇になる。
「行こう。四階建て……ってところかしら」
マナが長剣を握り直し、先頭へ立つ。
重厚な門を押し開けると、塔の内部は昼間だというのに薄暗かった。通路は複雑に枝分かれし、ところどころに固く閉ざされた扉が並んでいる。
マナたちは一つずつ慎重に確認しながら進んだ。
やがて、ある部屋の隅で地下へ続く石階段を見つける。一段降りるごとに、空気が変わっていった。
塔特有の冷えた石の匂いに混じり、どこか人の生活を思わせる暖かな匂いが漂ってくる。
最下段へ足をつけた瞬間だった。
「お! 久しぶりにお客さんだね」
陽気な声が響く。
カミラは反射的に短剣へ手を掛けた。だが、そこにいたのは魔物ではなかった。
使い古された木製カウンター。壁に吊られた古びたランプ。そして、妙に人懐こい笑みを浮かべた男。
「旅人の宿屋へようこそ。一晩、お泊まりになりますか?」
(……は?)
カミラの脳内で、警戒心が一気に跳ね上がる。
こんな塔の地下に宿屋。
どう考えても怪しい。
旅人を油断させる魔物の罠か。それとも幻覚か。
だが一方で、カウンター奥に見える簡素な寝床と、洗いざらしのシーツの匂いが、疲れ切った身体には致命的なほど魅力的だった。
もし本物なら――これ以上ありがたい場所はない。
カミラは男から視線を外さぬまま、背後の仲間たちの気配を探った。