ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜 作:ミサ2
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン
「だけどさ、また、さっきのまほうつかいが現れたら、どう戦う?」
カミラは、火花のように飛んできた火球を思い返しながら尋ねた。
これまであんな攻撃魔法を使って攻めてくる敵はいなかった。それに、メイリンを失えば終わる。
そのくらい、今の一行にとって彼女の存在は大きかった。
「うん……戦い方はあると思う」
メイリンは右肩を軽く回し、暗い通路の先を見据えた。
「まず私が前に出る。あいつに火球を撃たせるから、それを避ける。その隙に、マナが仕留めて」
「撃たせてから避けるの?」
マナが目を丸くする。
あの火球⸻メラは、一瞬で飛んできた。避ける前提で話していること自体、正気とは思えない。
「うん。私は囮だから。攻撃しようとせず避けることだけに集中すれば、大丈夫。たぶん避けられる」
メイリンは静かに続けた。
「それに、あの魔法メラ……連続では撃てないと思う」
「どうして?」
「撃った直後に隙ができてたから。たぶん、かなり消耗する」
あんな一瞬で痛みに耐えながらも、メイリンは敵を見ていたのだ。
「もし連射ができたら?」
「その時は、マナの盾で受けて」
「う、うん……!」
マナが緊張した顔で頷く。
「それで接近できれば、たぶん勝てる。ああいう遠間から撃ってくる敵って、近づかれるの苦手だから」
「私たちも援護するわ」
ダリアがマナの背を軽く叩いた。
カミラは腕を組んだまま、黙ってメイリンを見ていた。
「……本当に避けられるの? 素手で」
低く問うと、メイリンは少しだけ笑った。
「うん。たぶん」
だが直後、視線を逸らしながら小さく付け足す。
「……でも、お鍋のフタぐらいは欲しかったかも」
一瞬、沈黙が落ちた。
次の瞬間、ダリアが吹き出す。
「なによそれ」
カミラも思わず口元を押さえた。
武闘家としての自信と、メラへの率直な恐怖。その両方が混じった素直な一言だった。
命のやり取りの中、その妙な正直さに、張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。
塔内を先へ進むと、再び空気がぴりりと震えた。
「来るわよ……!」
メイリンの声と同時に、闇の中から二つの影が浮かび上がる。
黒いローブ。
まほうつかいだ。しかも二体。
「マナ! ダリア! 一体を先に仕留める!
カミラ、もう一体お願い!」
指示を飛ばしながら、メイリンはすでに床を蹴っていた。
予想通り、まほうつかいの指先が赤く光る。
(メラ──!)
火球が放たれる。
メイリンは紙一重で身を捻り、その脇を炎が掠めた。
同時にマナが踏み込む。
ロングソードが振り下ろされるが、まほうつかいは杖で辛うじて受け止めた。
「っ……!」
だが、その横からダリアの大型ナイフが走る。
胴を深く裂き、そのまま首元へ。
まほうつかいが崩れ落ちた。
(まず一体──)
そう思った瞬間だった。
もう一体の指先が、ダリアへ向く。
「ダリア!!」
メラが放たれた。
間に合わない。
そう理解した時には、カミラの身体は勝手に動いていた。
左手で、火球を叩き落とす。
「あっっつ……!!」
痛みと熱さが左腕から全身を駆け抜ける。
その刹那、メイリンの飛び蹴りがまほうつかいの顔面へ突き刺さる。
さらに肘打ち。追撃の突き。
反撃する暇もなく、まほうつかいは床へ沈んだ。
「カミラ!」
マナが駆け寄る。
左手袋は焼け焦げ、その下の皮膚は赤黒く爛れていた。
「いっ……た……」
さっきまでの勢いは消え失せ、カミラは涙目で手を押さえる。
「ちょ、ちょっと待って……今ホイミするから……!」
マナの震える手が、カミラの火傷を包み込んだ。
柔らかな淡い光に包まれる。焼けた皮膚が、みるまに元へ戻っていく。
「……ありがと」
まだ残る熱を振り払いながら、カミラは小さく息を吐いた。
「無茶しすぎよ……」
ダリアが呆れたように眉を寄せる。
カミラは治った左手を見つめ、少しだけ笑った。
「間に合わないと思ったからね」
カミラは視線を逸らしながら、小さく付け足した。
「……まあ、マナのホイミがあるし」
痛みが引いた左手は、まるで最初から傷などなかったかのように滑らかだった。
カミラは何度か拳を握ったり開いたりして、その感触を確かめる。マナのホイミは、火傷だけではなく、喉の奥へ張り付いていた焦りまで洗い流してくれた気がした。
「……助かったわ」
小さく呟くと、マナはようやく緊張を解いたように息を吐いた。
「よかった……。でも、あんな素手で魔法を止めるなんて、やっちゃダメだからね。もしホイミ使えなかったらって思うと……」
「そうよ」
ダリアも眉を寄せる。
「カミラがいなくなったら、誰がこの塔の道を読むのよ」
ぶっきらぼうな口調だったが、本気で心配しているのは明らかだった。
カミラは苦笑しながら、焼け焦げた左手袋を脱ぎ捨てる。
「わかってる。次はもっと上手くやるわ」
そのやり取りを、メイリンは黙って聞いていた。彼女の視線は、すでに上階へ続く階段へ向いている。
その背中には、先ほど不覚を取った自分への苛立ちと、仲間を守りきれなかった悔しさが、微かな熱を帯びて漂っているようにカミラには見えた。
「行きましょう。立ち止まってると、また寄って来る」
静かにそう言って、メイリンは歩き出した。カミラも後を追う。
指先で壁の古い彫刻をなぞると、石の冷たさがじわりと伝わってきた。
マナのホイミは回数には限りがある。もし、この先でまほうつかいが群れで現れたら──。
カミラは短剣の柄を握る手へ、そっと力を込めた。
一段、また一段。
階段を上るたびに、空気はより希薄に、そして研ぎ澄まされたものへと変わっていく。塔の上層から吹き下ろしてくる風には、どこか古い紙が焼けたような、奇妙な魔力の残滓が混じっている気がした。