ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜   作:ミサ2

2 / 8
【勇者】マナ
【盗賊】カミラ


【第2話】盗賊の稼業

「なんで私なの…?」

 カミラは自分でも驚いていた。口から出た言葉の響きに、苦い後悔が混じる。

 聞くんじゃなかった。この手の話は、一度懐に入れてしまえば最後だ。

マナは少しだけ首を傾けた。

「盗賊でしょ、あなた」

「……あんた、見かけによらず、穏やかじゃないわね…」

 カミラは表情一つ動かさなかった。だが、その内側では鋭い驚愕が走っていた。

 自分では、完璧に気配を殺し、正体を伏せているつもりだった。鍵束は上着の内ポケットに収め、ナイフは背中側のベルトに差し、上着の裾で隠してある。唯一、指先の切れた手袋だけは出ていたが、それだけを根拠に「盗賊」と断じるのは、並の観察眼ではない。

 

「……どこを見て、そう思ったの?」

「目つきと、座り方」

 マナは迷いなく答えた。

「入り口から一番遠い隅の席に腰を下ろして、ずっと部屋全体を見ていたから」

 カミラは、わずかに言葉を飲み込んだ。

「……よく見てたのね」

「見ればわかるわ」

 マナはあっさりと言ってのけた。その目は、獲物を値踏みするような厭らしさではなく、ただ事実を確認するような、淡々とした眼差しだった。さらに、追撃するように言葉を継ぐ。

「これまで何度か街であなたを見かけていたから。こうして近くで話してみて、確信したの」

 カミラは静止したまま、石のように表情を固めていた。

 が、冷たい汗が背筋を伝う。

 何度も見られていた。それも、裏の稼業を見抜かれた状態でだ。迂闊だった、とカミラは己の未熟を呪った。こんな年若い娘に、いとも容易く本性を見透かされていたとは。そして何より、同じ酒場に何度も顔を出すという、盗賊としてあるまじき「習慣」を読まれていたことが、何よりも屈辱であり、恐怖だった。

 ただ、この子が衛兵の回し者であるとも思えなかった。

 

 カミラは椅子の背もたれに体を預け、強く腕を組んだ。

「私は南欧――遠い異国から流れてここまで来た。アリアハンに義理はないし、世界を救う理由もない。あなたのお父上とも、何の縁もないわ」

 マナは反論せず、黙ってカミラの話を聞いていた。

「なんで私が、魔王討伐なんかに付き合わないといけないの」

 沈黙が落ちた。酒場の喧騒だけが、二人の間の隙間を埋めていく。

マナはしばらく考えるような仕草を見せ、それから、ごく真剣な表情をカミラに向けた。

「……わからない」

「は?」

「なんで、って言われたら、わからない。あなたには付き合う義務はないし」

 カミラは拍子抜けして、思わず身体の力を抜いた。

「じゃあ――」

「でも」

 マナは言葉を継いだ。

「私はあなたに来てほしいと思ってる」

 予想外な答えに、カミラは毒気を抜かれた気がした。

 

「――それで、なんで私なの?」

 もう一度、カミラは同じ質問をした。

 マナは少し考える素振りを見せてから、静かに口を開いた。

「私には、できないことだから」

「できないこと?」

「盗賊として生きること」

 マナの瞳は、どこまでも澄んでいた。

「私には無理だと思う。隠れて、騙して、奪って……そうやって死線を潜り抜けてきた人は、私とは全然生き方が違う。所作も違う。さっきあなたがこの酒場のすべてを観察していた、あの目。私には、ああいう目はできないの」

「……私の稼業を馬鹿にしてるの?」

 カミラの声に、わずかに棘が混じる。

 マナはふたたび首を傾けた。

「してない」

 間髪入れぬ返答だった。言い訳でも、取り繕った謝罪でもない。ただ、事実を事実として差し出しただけ。

 カミラはマナの瞳をじっと覗き込んだ。そこには蔑みの色も、軽蔑の影も、どこにもなかった。嘘をついている様子もない。

 この娘は、本気で、心からそう思っているのだ。

「もし、私には到底生きられないような絶望的な状況になったとしても、あなたなら、きっと生きていける。きっと帰ってこれる。父とは違ってね…」 マナは一瞬、視線を宙に漂わせて続けた。

「そういう人が、この旅にはどうしても必要だと思ったから」

 カミラは返す言葉を失った。

 馬鹿にされたわけではない。安っぽい同情を向けられたわけでもない。

ただ、自分がこれまで泥水を啜りながら生き抜いてきた「時間」そのものを、飾らない言葉で肯定された。ただ、それだけだった。それだけのことなのに、カミラは喉の奥が詰まったような感覚に陥り、視線を逸らした。

 手元のビールを一口、喉に流し込む。

 ひどくぬるかった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……正気とも思えない旅ね」

 ようやく絞り出したカミラの言葉に、マナは屈託なくにっと笑った。

「よく言われる」

 

「……なんでそんな旅に出ようと思うの?」

 嫌味のつもりだった。そんな無謀な話に誰が乗るのか、正気なのか。そういう響きを滲ませたつもりだ。

 しかしマナは、責められたとも思わなかったようで、ふっと視線を斜め上へと泳がせた。その瞬間、店内の怒鳴り声や食器の触れ合う騒音が、カミラの耳から遠のいた気がした。

「父が行ったから」

 静かな声だった。

 カミラは、次に繋げるべき否定の言葉を失った。

「私が生まれてすぐ、旅立ったの。魔王を倒しに。そのまま……戦いの最中に火山に落ちて死んだって」

「……」

「会ったことも、ない。顔も知らない。声も知らない」

 マナはそこで一度言葉を切ると、ふたたびカミラに顔を向けた。それは無理に作った笑顔ではなく、ごく自然に、いつもの「のんき」な彼女に戻ったような顔だ。

「でも、行かなきゃと思った。なんでかはうまく言えないけど」

 カミラは黙って、マナの瞳を見つめた。

 会ったことも、ない。

 その言葉が、胸の奥の、自分でも忘れていた場所に刺さった。

 自分には関係のない話だ。そう言い聞かせたはずなのに、カミラの脳裏には、一度も見たことのない自分の父親の輪郭がかすかに浮かんでいた。

 自分も父を知らない。母は何も話さなかったし、カミラも聞かなかった。

 いや。

 カミラは頭を振って、余計な感傷を振り払った。今それを考える必要はない。

「……条件がある」

 自分でも唐突だとは思ったが、他にこの沈黙を破る言葉が見つからなかった。

 マナが、不思議そうに目を瞬かせる。

「条件?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。